本の紹介ー北方領土はなぜ還ってこないのか2019年11月05日

  
名越健郎/著『北方領土はなぜ還ってこないのか-安倍・プーチン日露外交の誤算』海竜社 (2019/10)
  
 1956年の日ソ共同宣言以降、日本の北方領土要求は四島一括返還論に固執していた。橋本内閣の時に、一括にはこだわらないと方針転換がされたが、四島返還論自体には変更がなかった。安倍内閣では、これに大きな変更が加えられ、事実上の二島返還に変わった。また、安倍内閣以前は、領土問題の解決が経済関係の進展に先んじなくてはならないとの方針(入口論)だったが、安倍内閣では、逆に、経済関係の深化が領土問題の解決につながるとの方針(出口論)に変わった。
 
 本書の第一章では、安倍内閣が二島返還に踏み切り、出口論に方針転換した経緯を記す。さらに、一時は領土問題が解決する期待が高まったのに、プーチンの強硬姿勢で解決が遠ざかったと説明している。
 第2章は、ロシアの領土問題に対する、あるいは交渉全般に対する態度の説明。
 第3章は、主に色丹島を取り上げて、北方領土島民の多くが日本への返還に反対であることを記す。
 第4章では、ソ連崩壊期に領土問題が解決した可能性が高いと指摘している。歴史の過去に対して「たら・れば」はいくらでもいうことができるので、こういう議論は一般に役に立たない。
 
 昨今の領土問題の交渉過程や、ロシアの状況を知るうえで本書は有益である。
 
 しかし、本書の記述には理解できない点がある。
 本書では「領土問題」と「経済協力あるいは経済支援」との観点で書かれているが、ロシアが求めているのは経済協力や経済支援ではなくて、経済関係の発展である。日本が領土問題に固執している間に、中国・韓国はロシアとの経済関係を発展させた。安倍外交は総論ではロシアとの経済関係を発展させることを約束したが、具体的な施策が伴っておらず、これでは、領土問題の解決にはつながらない。
 また、プーチン政権は、これまでロシアの領土であったことを日本が認める事を求めているが、本書では、これをロシアの強硬姿勢であるかのように書いている。しかし、これは当たり前のことで、正当なロシアの領土であったことを日本が認めない限り、返還はあり得ない。例えば、色丹島で殺人を犯し、服役中のロシア人がいたとする。色丹島が返還されたら、彼は無罪放免か、このまま懲役か、日本が捜査や裁判をやり直すのか。常識的に考えて、このまま懲役以外にないけれど、そのためには、日本がロシアの正当な統治下にあったことを認めなくてはならない。民事も同じことで、ロシアの施政を正当なものと、日本が認めない限り、混乱なく日本に引き渡しすることは不可能だ。北方領土がロシアの正当な領土であることを日本が認めない中で返還を求めるならば、返還後に刑事や民事などあらゆる分野で混乱を生じさせない具体策を提示しなくてはならないのに、日本はそれをなしえていないのだから、返還交渉が頓挫することは当然である。

本-日本国の正体2019年10月31日

 
孫崎享/著『日本国の正体 「異国の眼」で見た真実の歴史』毎日新聞出版 (2019/9)
 
 巷間には「日本人とは、これこれこういう民族だ」との議論が行われることがある。多くの場合は、日本人による日本人論であるが、本書は、外国人から見た日本人論をいろいろとまとめている。現在の日本人論のほか、日本の歴史に対する内容が多い。

本の紹介―同調圧力2019年10月25日

 
望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー/著『同調圧力』(2019.6) 角川新書
 
 3人の著者による記事と、3人の対談。
 望月衣塑子の記事は記者クラブにおける菅官房長官の情報隠しと、それに同調する記者クラブのようす。産経新聞が質問つぶしを行っていることは、これまでもよく知られていることだ。
 前川喜平は文科省問題、マーティン・ファクラーは日本の報道問題を書いている。

本の紹介―ヘイトスピーチとは何か2019年10月17日

 
法学セミナー編集部/編『ヘイトスピーチとは何か』別冊法学セミナー(2019/9)日本評論社
 
 13人の著者による12件の論文が収められている。著者は学者・弁護士・ジャーナリスト・ヘイトスピーチ被害者など。
本書の内容は、「ヘイトスピーチとは何か」「ヘイトスピーチの実態」「ヘイトスピーチ被害裁判」で、ヘイトスピーチ被害裁判では「京都朝鮮学校襲撃事件」「徳島県教祖襲撃事件」「李信恵さんの2つの裁判」が取り上げられている。「京都朝鮮学校襲撃事件」と「徳島県教祖襲撃事件」は、被害者の執筆もある。
 
 本書は、法律関係雑誌の別冊だが、法律解説ではなく、ヘイトスピーチの実態理解の視点で書かれた内容が多い。このため、法律関係者に限らず、一般読者にも理解しやすい内容になっている。

本の紹介ー愛国という名の亡国2019年10月14日

  
安田浩一/著『愛国という名の亡国』河出書房新社 (2019/7)
  
ヘイトスピーチ関連の著書が多いジャーナリストによる「愛国」問題の話題。
本書は、著者がこれまで週刊誌等で公表した22本の記事をまとめたもの。
  
ヘイトスピーチ、外国人差別、沖縄差別、生活保護などがテーマ。
第4章に、池口恵観のインタビューがあるが、本書の中の位置づけ分からなかった。

本 -日本の海が盗まれる2019年10月03日

 
山田吉彦/著『日本の海が盗まれる』 文藝春秋 (2019/8)
 
 特に読むことを薦めはしない。
 新書本なので一般読者向け啓蒙書なのだろう。事前知識が大してなくても、読みやすく書かれている。
 
 本の内容は、日本近海に韓国・中国・北朝鮮が進出している事に警戒を主張するもの。このほか、北方領土問題に対する記述もある。何事も警戒するに越したことはないのだけれど、本書の内容は興味が持てるものではなかった。
 以前、中国漁船が大挙して尖閣周辺海域に出漁することがあった。本書の著者は、中国漁船が尖閣海域に出漁しているのは、中国政府が紛争を発生させるために漁民に金を払って漁をさせていると書いている。(『日本国境戦争』(2011.7)ソフトバンク新書 P30~31)
 その後、カワハギ漁が不漁になると、中国船は姿を消した。中国政府が紛争を発生させるために漁民に金を払って漁をさせた訳ではなさそうだ。本書でこの件についてどう書いているのかと思ったら、何も書かれていなかった。単に、著者の妄想で危機感を煽っただけだったのだろうか。本書にも、そんな面があるのかな。
 
 「危惧される北朝鮮からの難民渡航」の節で、北朝鮮から難民が大挙して押し寄せてきたときに対処のノウハウを日本は持っていないとしている。確かにその通りだろう。だから、北朝鮮から難民が生まれないようにしなくてはならないのに、そういう話はない。
 
 最終章で、北方領土に関して「北方四島を取り返すためには、計画的に住民社会、経済体制、自然環境などのひとつひとつに目を向け、日本化してゆく必要がある」としている。まあ、そうかもしれないけれど、現実は地元の根室の過疎化が進行していて、日本化どころではないだろう。日本の離島を見ると、対馬などは韓国化されつつあるのが実情だ。日本の周辺地域の過疎化が進んでいる中で、さらに外側を日本化する処方箋があるのだろうか。

本の紹介ーネット右翼の終わり2019年09月30日


古谷経衡/著『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』晶文社 (2015/7)

 右翼系ジャーナリストによるネット右翼の解説。
 文章自体が読みにくいわけではないのだけれど、論旨一貫として書くスタイルではないので、社会問題の解説書としては、ちょっと読みにくい。

 著者はネット右翼の始まりを日韓ワールドカップサッカーに設定し、これを「前期ネット右翼」と呼ぶ。サッカーの判定への不満から嫌韓が起こったとのことだ。前期ネット右翼は保守思想を学んだものと、思想を学ぶことなく表面的な言葉のみを取り上げたものとに分け、保守思想を学んだものを「広義のネット右翼」、思想を学ばなかったものを「狭義のネット右翼」と位置付ける。また、「前期ネット右翼」が「狭義のネット右翼」や「広義のネット右翼」に転化するに果たした役割として「チャンネル桜」の影響を指摘している。
 「狭義のネット右翼」は本を読まず、保守思想を理解することなく、ヘイトスピーチに向かった者である。こういう人たちは低学歴かと思いきや、著者によると、大卒や自営業などで高学歴者やある程度の高収入者が多いとのことである。この「狭義のネット右翼」の推定人口を150万人としている。
 さらに、保守勢力の中で、田母神俊雄らを取り上げて、ネット右翼同様にデマを振りまいている事実を指摘し、保守が「狭義のネット右翼」に迎合している状況を指摘する。そういえなくもないが、そもそも田母神俊雄は元自衛隊員であって歴史学者ではないのだから、歴史の話題では無知によるデマを吹聴するしか能がない人なのではないか。まさに、「狭義のネット右翼」そのものではないだろうか。

 著者は「狭義のネット右翼」の無知について、歴史教育の問題点を指摘した後、結局はネット右翼たちの「知的怠惰の姿勢」こそ問題であると、彼らを糾弾している。
 歴史教育についてはどうか。明治維新、大正デモクラシー、第二次大戦くらいまではまあ頑張ることもあるが、第二次大戦の具体的な戦史についてミッドウェーもガダルカナルもインパールも教えないし、戦後にあってはせいぜい日本国憲法発布とかGHQの三大改革(農地改革、財閥解体、男女普通選挙)くらいで終わって、後は自習の時間かそのまま卒業と相成る。これらの近現代史の事象は、たとえ勉強しなくとも、大学入試センター試験や個別試験の材料として扱われることはほぼ無い。さらに現代に近い部分、冷戦崩壊後の/990年代以降の記述となると、教科書にはほんの数行しか登場していない。
 ・・・ 実は、「狭義のネット右翼」が依拠している「ネットで知った歴史の真実」「ネットで知った日本社会の真実」というものは、このように公教育の中で、特に政治経済の授業や近現代史のそれの中でなおざりにされてきた、そのニッチな間隙を突いたものがほとんどなのである。
 ・・・ つまりは、「狭義のネット右翼」とは、学校教育で網羅しているのみの、乏しい知識体系の外に、突如として湧いてきた真偽不明な情報を「真実」として鵜呑みにする人々のことであり、そしてその原因は、学校教育の不作為である以上に、「学校以外での知的探求」を怠っていた知的怠惰の姿勢にこそ、求められると言わなければならず、この点は手厳しく糾弾しなければならない。
 この記述は事実とは言えない。高校日本史教科書の山川出版・詳説日本史では、戦後史に全体の10%を割いているし、センター試験でも、ほぼ毎回戦後史が出題されているので、著者の言うように学校教育で近現代史が無視されているということはない。ただし、近現代史は、歴史の授業の最後に現れるので、偏差値が低い高校では飛ばされることもあるだろう。高校では勉強せずに漫然と過ごし、推薦で大学に入り、大学ではバイトやサークルに明け暮れ、まともに勉強した経験のない者がネット右翼になり下がったとしても驚くに当たらない。

本の紹介ーロシアを知る。2019年09月29日

  
池上彰、佐藤優/著『ロシアを知る。』 東京堂出版 (2019/6)
 
 ジャーナリストの池上彰と、元外交官の佐藤優の対談。池上が質問して、佐藤が答える部分が大きい。
 二人とも話が分かりやすい人なので、読みやすい。
 序章は、現在の北方領土交渉について。第1章から第4章と第6章はソ連・ロシアの説明。第5章は日本との関係。

本の紹介ー買春する帝国2019年09月24日

 
吉見義明/著『買春する帝国: 日本軍「慰安婦」問題の基底』 岩波書店 (2019/6)
 
 近現代日本史が専門の歴史学者による、明治以降、売春防止法成立までの日本における売春の歴史の解説。一般向けの啓蒙書ではなくて、学術的内容の専門書。参考文献も多い。
  
 日本の男は売買春なしにはいられず、もし売買春がなければ、多くの男が強姦に走るとの考えが日本社会に根強かった。また、女性器を広げて目視検査することにより、性病の蔓延を防げるとの見解も強かった。このため、日本では、明治以降公娼制度が実施されていた。欧米では、女性の意志に反した管理売春を禁止する傾向が強まったのに対して、日本では管理売春を推し進めており、人権意識としては後進国だった。日本の公娼制度では、売春希望女性や甘言により売春を強いている女性に対して、居住の自由を与えず、客の男性を拒否することもできずに、官憲が売春管理人と一体となって、売春を強要していた面がある。
 
 本書では、明治以降の日本の売春制度、特に公娼制度について詳しく書かれている。
 本書は7つの章があり、時代を7つに分けて、各時代ごとに一つの章を当て、それぞれの時代の売春制度について詳述されている。7つの時代区分は、「明治維新から日清戦争まで」「日清戦争以降日露戦争まで」「日露戦争以降シベリア出兵・第一次世界大戦まで」「世界恐慌」「満州事変から日中戦争前」「日中戦争から敗戦まで」「戦後占領」となっている。どの時代区分が特に多いというわけではなく、明治以降の売春制度の全容が理解できる。
 
 このうち、第6章の日中戦争期の売春制度では、朝鮮人従軍慰安婦にも触れられている。ただし、この問題を解明することが本書の主眼ではない。  
 朝鮮人従軍慰安婦問題では、「慰安婦は単なる職業であった」とか、「日本軍により強制されていた朝鮮人弾圧だ」などの見解がある。しかし、朝鮮人従軍慰安婦は日本の公娼制度の延長にあるので、単に職業であるわけではなく、また日本軍による朝鮮人弾圧であるわけでもない。本書を読むと、日本の公娼制度の中で生まれた、軍・警察が関与した公娼であったことが理解できる。

本の紹介ー報道事変2019年09月23日

 
南彰/著『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか』 (朝日新書)(2019/6)
 
 著者は朝日新聞政治部記者。
 安倍・菅コンビによる嘘や強弁により、記者会見では、政権に忖度した質問しかできなくなっている状況を説明している。
 森友問題では、官僚が安倍総理を忖度して公文書をねつ造していた事が明らかにされた。しかし、事実がばれる前の菅官房長官記者会見では嘘を押し通して、さらに事実を明らかにしようとする質問を封じていた事が知られている。

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