本-ウクライナ・ベラルーシ史2023年11月05日

 
中井和夫/著『ウクライナ・ベラルーシ史』山川出版社(2023/5)
 
この地域の歴史書として、以下の本が出版されていた。
伊東孝之・他/編『ポーランド・ウクライナ・バルト史』山川出版社(1998)
本書は、この本のウクライナ・ベラルーシの部分の抜粋で、その後の歴史が追記されている。ざっくり、ウクライナの歴史を知るためには本書は有用だが、それほど詳しいわけではない。

本の紹介-講義 ウクライナの歴史2023年10月29日

 
黛秋津 /編著、他/著『講義 ウクライナの歴史』山川出版社 (2023/9/4)
 
ウクライナの歴史書は、一般的なものでは、これまで、以下の本が出版されていた。
 黒川祐次/著 『物語ウクライナの歴史』中央公論新社(2002)
 伊東孝之・他/編『ポーランド・ウクライナ・バルト史』山川出版社(1998)
しかし、これらの本は、出版年の関係から、ソビエト崩壊以降の記述は少ない。
 
 本書は、ウクライナの歴史のうち、キエフルーシから現代まで、広い範囲を扱う。また、地域・国家の歴史の他に、ユダヤ問題、正教会の分裂、ロシア・ウクライナの歴史認識にも、各一章が割り当てられ、幅広いウクライナ史の観点から、ロシア・ウクライナ戦争を考える材料が提供されている。
 本書は11章に分かれ、それぞれ違った著者が担当している。このため、各専門的な立場での記述で良いともいえるのだけれど、筆者ごとの文体やニュアンスが異なり、少し読みにくい。
 最終章は防衛研究所・山崎博史氏の「ロシア・ウクライナ戦争と歴史的観点」の表題で、現在起こってる戦争を解説する。2023年3月の執筆。このころ、ウクライナ軍の春季大攻勢があるかのように宣伝されていたが、実際には、5月にはバフムトが陥落し、6月になってからウクライナ軍が攻勢をしかけたものの、ほとんど成果はなく、西側供与の装備も、あまり役に立たなかった。今になってみると、本章は、戦況分析能力が低い日本の軍事専門家にありがちな、貧弱な記述になってしまっていて、残念。

本の紹介-プーチンの10年戦争2023年10月26日


  池上彰、佐藤優/著『プーチンの10年戦争』東京堂出版(2035/6)

     池上彰、佐藤優による対談。プーチンのいくつかの重要演説をもとに、ウクライナ・ロシア戦争を解明するもの。話が上手な二人の対談なので、読みやすいが、何となく表面的な説明にとどまる感じがした。対談ではなくて、論文、あるいは解説として執筆した方が理解が深まったような気がする。
   また、ウクライナ近代史、クリミア現代情勢の説明もそれぞれ一章を使っているが、それほど詳しい内容はない。
 
   戦争が長引いている理由を以下のように説明している。ロシア・ウクライナ情報収集の第一人者の見解として傾聴に値する。
 
  佐藤 それから、ロシアの基本的な概念については、プーチンが何度も繰り返し表明しています。「ウクライナ人は同胞である」と。だから攻勢さえ保っていれば、将来の自国民を無理に殺害する必要はない。進軍が遅いのはそういうイデオロギー的制約があるためなんです。
  池上 ところが、西側はその理屈をわかっていない。ロシア軍は兵器や弾薬が足りていないとか、最前線の軍隊の士気が低いとか、聞いて心地のいい理由づけに終始している感じですよね。
  佐藤 状況を冷静に分析すれば、ロシア軍が決して劣勢ではないとわかります。例えば、四州にはもともと二〇一二年時点で、九五〇万人が暮らしていました。二〇一四年からの戦争でドネツク州とルハンスク州からはかなりの人が逃げ出しました。正確な統計はないのですが、現時点でロシアが実効支配する地域に五〇〇万人が残っていると仮定します。一方、二〇二二年九月一二日の時点で、この地域に駐留するロシア軍は推定で三五万人。その大半は戦闘に回るので、地域の治安維持を担うのはせいぜい五万人だと思います。だとすれば、わずか五万人で五〇〇万人を統治できていることになる。これが何を意味するか、健全な常識を働かせればすぐにわかるでしょう。端的にいえば、統治ができている。(P25)

   日本の報道は著しくいい加減だ。佐藤優は次のように言っている。
    佐藤 開戦当初にどういう報道があったか、思い出してみればいいと思います・プーチンは末期がんに冒されているとか、戦場でロシア軍が化学兵雛を使っているとか、東部の都市マリウポリでコレラが発生して一万人が死亡したとか、ロシア国民はどんどん国外に脱出しているとか、二〇二二年六月からウクライナ軍の反転攻勢が始まり、二二年中にロシア軍をウクライナ領から放逐するとか。しかし全部嘘か、もしくは誇張がありました。  また多くの有識者がメディアに登場し、これらの情報をもとにさまざまな分析や見通しを語っていました。しかしそもそもの情報が怪しいので、そういう人たちの見解もたいてい的外れでした。  発信源はウクライナ政府やイギリス国防省など、いずれも公的権力です。アメリカのネオコン系のシンクタンクである戦争研究所の主要な情報源もイギリス国防省を中心とする公的権力と私は見ています。問題は、それをメディアが鵜呑みにして報じていること。公的権力が嘘をつくはずがないという前提に立っているわけです。まるで警察が発表する交通事故の死者数のように。(P271)

 本書、後1/3程度に、プーチンの演説が記載されている。また、ゼレンスキーの演説も少し記載されている。

本-誰も国境を知らない 令和版2023年10月25日

  
西牟田靖/著『誰も国境を知らない 令和版 揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅』清談社 (2023/7)
 
 同名の本が、情報センター出版局から2008年に出版されている。本書は旧版の増補版。
 341ページまでが旧版と同じ内容。342ページ~431ページが、本書で追加された部分。
 追加部分の最初は、吉田夏彦・東海大教授の日本の領土問題の簡単な解説。吉田氏は著書も多く、テレビなどの出演機会も多いので、氏の領土問題の説明を聞いたことのある人は多だろう。本書の説明は、ページ数も少なく、内容的にもいつもの吉田氏の主張なので、特に参考になることも少ない。
 著者の追加部分は、尖閣問題が二章、与那国が一章、それから最終章に領土問題のまとめとして北方領土・沖ノ鳥島・竹島・対馬・小笠原。硫黄島について、少し書かれている。
 旧版は著者が取材した内容を、淡々と事実を書いていて共感が持てた。
 しかし、今回追加された部分は、一面的領土主張が先行していて、客観的な取材記録とは程遠い。ただし、尖閣問題の最初の追加部分は、著者らが尖閣を取材したレポートなので、それなりの読みごたえはあると感じる人もいるだろう。ただし、私は、同じレポートをどこかで読んだような記憶がある。
 今回、増補された、それ以外の章は、一方的な領土主張に基づく、一面的記述のようで、興味が持てない。
 と、言うことで、今回増補された部分には、魅力を感じなかった。

本の紹介-だから知ってほしい「宗教2世」問題2023年10月19日

 
塚田穂高 、鈴木エイト、藤倉善朗/編・著『だから知ってほしい「宗教2世」問題』筑摩書房(2023/9)
 
 宗教2世問題に対して、25章に渡って、多方面から執筆。著者は40人程度にのぼる。宗教2世問題は、新興宗教に限らないが、実際には、統一協会・エホバ・創価学会で被害者が多いので、「カルト2世問題」「新興宗教2世問題」と考えたほうが、素人には理解しやすい。
 本書の第一編は12章に分けられ、各方面の専門家により、宗教2世問題の分析がなされる。多方面にわたっているので、私には、消化不良の感じがした。
 第6章、猪瀬優里氏の「創価学会と2世」では創価学会を取り上げる。また、第12章、信田さよ子氏の「アダルトチルドレンと宗教2世問題」には、次の記述がある。「ACと自認した女性たちのグループカウンセリングを継続実施しているが、そこに参加する女性の中にも、親の信仰によって苦しんだ人たちが多く、そうしたケースのほとんどで、親は創価学会の会員だった」。創価学会員は選挙活動などで、家を空けることが多く、子供のネグレクトにつながっているのだろう。あるいは、子供をネグレクトする親が創価学界に引き寄せられているのかもしれない。いずれにしても、創価学会がこれほどまでにはびこり、悲惨な2世を生んでいるのは、国民のかなりの人が選挙に無関心なため、創価学会票で議席が取れる現実がある。皆が選挙に行けば、悪質カルト問題の解決に近づくのではないだろうか。
 本書第二編は宗教2世の体験談。ここでも、創価学会・エホバ・統一協会が多い。しかし、22章では、お寺を継ぐ問題が書かれている。これも宗教何世問題といえなくもないが、経営者の息子が社長を継ぐ問題と同様であり、いわゆる宗教2世問題とは異なると感じた。最終25章は、いろいろな宗教2世17名により、各自の体験や教団・社会に望むことなどが書かれている。ここには、創価学会・エホバ・統一協会の他に、幸福の科学、真如苑、オウムなどがある。

本-アベノミクスは何を殺したか2023年10月12日

 
原真人/編著『アベノミクスは何を殺したか―日本の知性13人との闘論』 朝日新聞出版 (2023/7)
 
あまり興味ある内容ではなかったので、タイトルだけ記載します。

本-山上徹也と日本の「失われた30年」2023年10月11日

 
五野井郁夫、池田香代子/著『山上徹也と日本の「失われた30年」』集英社インターナショナル (2023/3)
 
 この本を、今読むことを薦めない。
 安倍射殺直後、山上被告が逮捕され、統一協会への怨恨が動機であることが明らかになった。しかし、犯行動機の詳細は今に至るも不明。
 本書は、山上被告がこれまでSNSに投稿した文書を分析することにより、山上被告の心情を解明しようとするもの。山上被告の情報が何も報道されていない状況で、安倍銃撃の理由を知ろうとするならば、これも一つの方法かもしれない。しかし、そのうち裁判が始まれば、もっと情報が増えるので、今の段階で山上被告の心情を推定する必要がどれほどあるのだろうか、そもそも、本書の推定は事実に近いのだろうか、疑問を感じた。
 山上被告は、いわゆるロストジェネレーション世代にあたる。本書では、山上被告の言葉遣いに、この世代が好む表現があることなどから、山上被告がロストジェネレーション世代に共通する世界観があるとの説のようだ。言葉遣いは世代に共通するものがあるのは当然としても、同世代であっても、生い立ちは千差万別なので、世界観や思想、勘定などは個人個人で大きく異なるだろう。それよりも、山上被告は統一協会二世なので、この観点から山上被告の心情を解明した方が現実に近いのではないだろうか。

本-犀の経典を読む2023年10月05日

 
アルボムッレ・スマナサーラ /著『犀の経典を読む』サンガ新社 (2022/11)
 
 上座部仏教長老による経典の解説。犀の経典とは、スッタニパータの中の41偈のこと。本書は、この41偈それぞれを数ページで説明する。
 スッタニパータは岩波文庫から中村元の訳が出ている。中村元の本は、翻訳のみで解説はないが、易しい書き方なので、特に解説が必要とも思えない。もっとも、誤解する人も多いので、上座部仏教長老による解説も意義深いのかもしれない。そうはいっても、冗長に感じた。

本の紹介-日本宗教のクセ2023年10月04日

 
内田樹、釈徹宗/著『日本宗教のクセ』ミシマ社 (2023/8)
 
 思想家で神戸女学院大学名誉教授の内田樹と、浄土宗僧侶・宗教学者で相愛大学学長の釈徹宗による、日本思想・宗教に関する対談。二人とも、話し上手なので、本書は読みやすく、理解しやすい。日本の宗教の根底には神仏習合があるのは、間違いないので、二人の考えに反対するところはないのだけれど。でも、だから何?と思ってしまった。

本の紹介-北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実2023年09月27日

 
有田芳生/著『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』 (2022/6)集英社新書

 今から20年ほど前、北朝鮮拉致被害者5名が帰国し、8名の死亡が報告された。日本政府は、5名から極秘にヒアリングを行い、拉致の状況、北朝鮮での生活の様子、他の拉致被害者など詳細な情報を得て、報告書にまとめたが、極秘となって公開されることはなかった。しかし、その後、内容は漏れ出ることになるが、日本政府は、内容を認めようとはしていない。
 本書のメインはこの極秘文書の内容の話。著者は、この文書を入手しているようだ。拉致被害者の横田めぐみさんは、北朝鮮が病死したと伝えてきたが、両親は病気をしたことがない子だと言って病死を認めなかった。ところが、極秘報告書には、精神疾患で入院していたとの情報が複数の拉致被害者から得られており、北朝鮮の主張を補強する内容となっている。
 その後、横田めぐみさんの元夫から遺骨がもたらされると、科警研と帝京大・吉井富夫講師により、DNA鑑定が行われた。科警研は、鑑定不能との結論を出した。しかし、このときまで火葬遺骨DNA鑑定の経験がなかった吉井氏は、横田めぐみさんと遺骨は別人との鑑定結果を出した。遺骨には、スポンジ状組織があり、そこに、他人の汗などが吸収されるため、吉井氏の鑑定は疑問がもたれるものであったが、日本政府はこれをもとに、横田めぐみさん死亡との北朝鮮の説はウソであると断定し、交渉は行き詰まった。吉井氏はその後、警視庁科捜研に就職し、この時の鑑定をコメントする機会を政府は失わさせた。なお、その後、鑑定精度も上がっており、再鑑定すれば新たな知見が得られるかもしれないが、日本政府は、怪しい吉井鑑定に固執して、めぐみさん死亡との北朝鮮主張を否定している。
 本書著者は横田夫妻に何度も面会しており、夫妻が事実を知りたいと言っていたと、本書に記されている。夫妻の意図は、死んでいるか生きているのか、客観的事実を知りたいとの意味だろうか。それとも、生きていることを前提に、生きていることが真実であるとの情報だけが欲しく、死んだという情報は絶対に虚偽であるとの認識なのだろうか。横田夫妻は、めぐみさんの娘に、ウランバートルで会っているが、その後、会うことはない。会った時に、どのような情報がもたらされたのか。その情報が気に入らなかったのか。このあたりのいきさつは、本書を読んでも、わからなかった。
 政府が認識していなかった拉致被害者二名の生存情報が北朝鮮からもたらされたことがある。しかし、日本政府の行動はなかった。本書には、この件も詳しい。
 拉致問題が膠着した原因の一つに、「救う会」「家族会」の問題がある。本書では、このあたりの記述は少ない。

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