本の紹介ー世親 ― 2026年02月14日
三枝充悳/著『世親』講談社学術文庫(2004/3)
世親は4~5世紀ごろのインドの学僧。無着の弟。
世親の業績には倶舎論・唯識・浄土教の開祖の3つがある。本書では、世親の伝記に触れた後、世親の倶舎論を概説するが、これらは本書のメインではない。本書の中心は、世親の唯識思想で、彼の代表的諸作である「成業論」「唯識二十論」「唯識三十頌」を説明している。このうち、唯識三十頌の解説は文章も読みやすく、かなりわかりやすく書かれているように感じるが、唯識思想自体が難解であり、読んでいても何を言っているのか理解が及ばなかった。
唯識思想は、日本に伝わり、法相宗として興福寺を中心に研究された他、日本仏教思想の基底として重要な位置を占めることとなった。
なお、本書には、浄土教の開祖としての世親の思想には触れられていない。
本の紹介―参政党のヒミツ ― 2026年02月04日
倉山満/著『参政党のヒミツ』ビジネス社(2025/9)
参政党は神谷宗幣が作った政党。本書は、かつて、神谷の協力者だった著者による神谷を中心とした参政党の説明。
怪しげな政党であることは多くの人の認めるところだろうが、本書を読むと「やはり」と頷ける。
ところで、参政党の強みは地方組織があることだが、それの構築にはカネがかかるだろう。神谷はどのようにして地方組織を作ったのか、資金源は何か。本書を読んでもその点はわからなかった。
本の紹介ー仏教の思想 5 絶対の真理<天台> ― 2025年12月14日
田村芳朗、梅原猛/著『仏教の思想 5 絶対の真理<天台>』(1996/6)角川ソフィア文庫
本書は1970年ごろ角川書店から単行本として出版された仏教講座の文庫版。
インド仏教4巻、中国仏教4巻、日本仏教4巻の計12巻のうちの第5巻で、中国天台宗の解説。
新しい本ではないが、仏教思想を理解する上で、最適な12冊だと思う。
本書は3部に別れ、第1部は天台教学者・田村芳朗による天台教学の説明で、本の半分程度を占める。天台教学側の世界観を示すことを目的としているのだろうが、天台教学から見た世界観ではなくて、もう少し、普通の立場で天台教学を俯瞰するような書き方をしてくれた方が理解しやすかったように感じた。
第3部は哲学者・梅原猛による法華経を中心とした解説で、中国天台宗にとどまらずインド仏教から最澄の天台宗までを説明していて、一般読者にも分かりやすい記述になっている。
第2部は、田村芳朗と梅原猛の対談。天台教学・智顗について、簡潔に理解できる内容になっており、読みやすい。
本の紹介-バガヴァッド・ギーター ― 2025年12月07日
佐藤裕之/訳『バガヴァッド・ギーター ヒンドゥー教の聖典』角川 (2022/12)
先日、プーチン大統領がインドを訪問した。この時、モディ首相はプーチンにバガヴァッド・ギーターのロシア語訳本をプレゼントした。バガヴァッド・ギーターはヒンズー教のもっとも有名な聖典。王家の後継者争いに発する戦争の時、王子アルジュナは敵軍に親戚がいたため戦争をためらったが、ビシュヌ神の化身であるクリシュナが躊躇するアルジュナに戦うことを薦めた物語。この中で、クリシュナへの信仰やヒンズー教の道徳を説いている。
本書は、バガヴァッド・ギーターの日本語訳。最近の出版だけあって、文章は読みやすい。
本の紹介-フェイクファシズム 飲み込まれていく日本 ― 2025年10月08日
金子勝/著『フェイクファシズム 飲み込まれていく日本』日刊現代 (2025/7)
内容は日本政府始め、昨今の日本の状況を否定的にとらえる記述。特に、ニセ情報により誘導される輿論の問題点を指摘する。日本の現状認識に対しては、完全に同意するが、既に知られていることでもあり、また読んでいると、日本のあさましい現状を再認識させられることになり、なんだか悲しくなる。現状を変えるため、著者は処方箋を各所で示しているが、必ずしも同意できるものばかりではない。
以下に、目次を示す。
-目次-
第1章 トランプは世界をどう変えるのか
分断とフェイクファシズムを乗り越えてカタストロフの時代を生きるには
第2章 アベノミクスをどう終わらせるか
政治腐敗、経済破綻、フェイクの嵐を解毒する処方箋
第3章 マイナ保険証の失敗の本質
世界に後れを取るIT産業への真の救済策とは
第4章 エネルギー転換はなぜ必要か
間違いだらけの原発政策の呪縛を解く
第5章 崩壊する農業と農村を立て直す道
食料・農業・農村基本法の見直しは「農村破壊法」だ
本の紹介-ミリンダ王の問い ― 2025年08月27日
中村元、早島鏡正/訳『ミリンダ王の問い 1 インドとギリシアの対決』ワイド東洋文庫(2003/5)
本書はミリンダ王と仏教側のナーガセーナ長老との対談で、ミリンダ王が問いナーガセーナが答えるもの。BC130~BC150ごろ、北西インドにあったギリシャ人王権のメナンドロス1世は、ミリンダ王と呼ばれた。ミリンダ王の時代は、大乗仏教以前の部派仏教の時代であるが、ナーガセーナがどの部派だったのかは分からない。
本書は東洋文庫から1963年に出版され、2003年にワイド版が出版された。本書は、全3巻の第1巻で、第1巻の範囲が最初に成立した部分で、第2巻、3巻の範囲は、その後に成立したものと考えられている。本書第1巻の最後には中村元の解説が付き、第3巻の最後には早島鏡正の解説がつく。
ミリンダ王はギリシャ哲学を身に着けていたので、仏教思想に疑問を持っており、それを解明するために、ナーガセーナに質問したもの。ナーガセーナは多くの場合、比喩をもって答えている。
最初に、ナーガセーナはナーガセーナとは単なる名称であって、人格的個体は認められないと説く。名称と実態に関する形而上学的解釈に対する空観の立場とすれば容易に理解できるが、竜樹はもっと後の人。
無我と輪廻について、ミリンダ王は質問している。ギリシャでもキリスト教でも、魂の存在は自明なのだろう。これに対して、仏教は無我説であるから、我としての魂は認められない。しからば、何が輪廻するのかという質問だ。ナーガセーナは火の譬えによって答える。火は燃焼現象なので、新たな薪を足せば火は永続するがだからといって火の実態があるわけではないことは、多くの人が同意するだろう。でも、人間は生理現象のほかに、身体という実態があるのだから、その類推で、魂の実態がどこかにあるような気がする人が多いだろう。このため、火の譬えで、どれだけの人が納得するのか、はなはだ疑問だ。
本書3巻の結びでは、ミリンダ王はナーガセーナの答えに感動して、仏教に帰依している。お話としては、そうなるのだろうが、実際に、たとえ話で説明されただけで、仏教に帰依するか疑問に感じた。
本書はギリシャ哲学側からの古代仏教哲学に対する質問と回答である。しかし、現代人思考の基層はギリシャ哲学的なので、本書は、現代人の古代仏教思想への問と解答のような気がする。
本の紹介-仏教の基礎がよくわかる本 ― 2025年08月25日
アルボムッレ スマナサ-ラ/著『仏教の基礎がよくわかる本 宗教に頼り信仰に縋る弱い自分よ、さらば』(2000/9) 国際語学社
100ページ程度の薄い本で、文字も大きく、文章も平易で読みやすい。
テーラワーダ(上座部仏教)のスマナサ-ラ長老による仏教の基礎解説。日本の大乗仏教は、釈迦の仏教とはだいぶ異なってしまったが、テーラワーダは釈迦の仏教の特色を色濃く残している。本書は、テーラワーダによる仏教初歩の説明で、仏教の基礎は心の修養であると説く。具体的には、五戒を守る事、慈悲の瞑想を行うこと、そのために行うヴィパッサナー瞑想の具体的なやり方が説明されている。
上座部仏教は、心をどう理解するかの知恵と、心をどのように修養するのかということと、そのための修業の実際のやり方が具体的にわかりやすく示されていて、実践的な宗教だ。
本の紹介-仏典を読む2 真理のことば ― 2025年08月21日
中村元『仏典を読む2 真理のことば』岩波書店(2001/5)
写真は2001年発行の初版本。2008年に岩波現代文庫から再版された。
本書は、仏教学者・中村元のラジオ講座を書籍化したもの。全4巻のうちの第2巻で、内容は初期仏教のうちダンマパダ、シンガーラの教えなどを取り上げ、一部の詩句を解説する。なお、第1巻はスッタニパータなどの初期仏典、第3巻・4巻は大乗仏教。
本書や第1巻を読むと、釈迦の仏教がどういうものであるのか、そして、日本の仏教とは大きく異なることがわかる。でも、ダンマパダならば、翻訳はいくつも出ているし、特に中村元の翻訳が岩波文庫にあるし、易しい内容なので、ダンマパダを通しで読んだ方が良いように思う。
日本会議 ― 2025年08月14日
千玄室・裏千家大宗匠が死亡しました。
解脱会、念法眞教、佛所護念会、崇教眞光、大和教団の幹部等とともに、日本会議の代表委員を務めていました。
解脱会、念法眞教、佛所護念会、崇教眞光、大和教団の幹部等とともに、日本会議の代表委員を務めていました。
本の紹介-スマナサーラ長老が道元禅師を読む ― 2025年07月20日
アルボムッレ・スマナサーラ/著『スマナサーラ長老が道元禅師を読む』佼成出版社 (2024/4)
テーラワーダ仏教(上座部仏教(小乗仏教)のスマナサーラ長老による近著。
道元・正法眼蔵のいくつかの句をもとに、これらを解説している。上座部仏教の目指すものと、道元の目指すものが近いため、道元の解説と同時に、テーラワーダ仏教の考え方の説明になっている。
正法眼蔵のなかでも、現成公案の句に関する説明が多い。
本書の中で、著者は道元の思想を「テーラワーダ仏教の僧侶として道元禅師を見ると、仏道をしっかり歩んでいる偉い先輩のお坊さんとして見えるんですね。(P142)」と高く評価している。上座部仏教と、道元の目指すものが近いだけではなく、心の在り方の理解も近いのだろう。上座部仏教は日本の大乗仏教と比較して、釈迦の仏教に近いと考えられるので、日本の宗教家の中で、道元は釈迦の教えをかなり正しく理解していたと言えるのだろう。