本の紹介―幕末維新の異文化交流 外圧をよみとく2017年04月18日

    
洞富雄/著『幕末維新の異文化交流 外圧をよみとく』(有隣堂、1995年)
    
 歴史学者・洞富雄、最晩年の著作。実際には、それまでに書いた論文や著書の内容を再編集したものが多いようだ。出版が古く、入手も困難なので、あえて読む必要がある本とは思えない。
    
内容は以下の3章からなる。
    
 第1章では、最初の節で北方探検時期の国際環境を記載し、「間宮林蔵」「最上徳内」「高橋景保」「伊能忠敬」「シーボルト」をとりあげて、日本の北方探検・北方認識史を記述する。各個人の北方関連伝記であるが、個人を通して日本の北方認識の歴史がわかるようになっている。最後に、北方における日ロの進出を記載する。最上徳内や間宮林蔵のところでロシア人との関連にも触れられているなど、日ロ関係の記述もあるが、多くない。
    
 第2章は伊豆下田におけるプチャーチンとの日ロ交渉、ペリーとの日米交渉が書かれている。それなりにページを割いており、詳しい内容になっている。
    
 第3章は、幕末維新と横浜。

本の紹介-アイヌ・モシリ アイヌ民族から見た「北方領土返還」交渉2017年04月17日

    
アイヌモシリを取り戻す会/編『アイヌ・モシリ アイヌ民族から見た「北方領土返還」交渉』 御茶の水書房 (1992/11)
  
 アイヌ民族の立場から、日本の北方領土要求を批判している。
 現在、日本で北方領土と呼ばれている南千島地域は、もともと、アイヌ民族の住む地であり「日本固有の領土」ではない。
  
 本書は3部構成になっている。第1部前半は、アイヌの人たちを中心とした座談会で、主に、千島や北海道は本来アイヌの大地であったことを主張している。第1部後半はアイヌの昔話や思い出話。
 第2部は、ピースボートでえとろふとう・色丹島を訪問して、現地の人たちと交流したアイヌの話。ロシアは多民族国家なので、先住民の権利意識が高く、先住民としてのアイヌに対しては好意的である。
 第3部は、先住民としてのアイヌに関する新聞・雑誌報道のまとめ。
  
 本書の内容は、アイヌの権利を主張するもので一貫しているが、座談会・旅行の報告・新聞報道と多岐にわたっているため、主題がぼやけた感じがする。解説本にしたほうがわかりやすかったのではないだろうか。
  
 ところで、本書は、アイヌの団体の中でも日本政府に批判的な、アイヌ解放同盟の人たちの考えを中心に執筆されているものと思われる。アイヌの代表的な考えかというと、ちょっと違うかもしれない。
    
    
なるほどと思った記述を参考に記載します。
    
山本一昭
 私たちアイヌ民族は、これまでも結束して、両政府に対し、アイヌモシリの復権とアイヌ民族の領有権を掲げて様々な運動を展開してきた。私の同志、故結城庄司氏(アイヌ解放同盟初代委員長)を中心に十数年前AS協会を結成し、ソ連総領事館(現ロシア札幌総領事館)で副総領事と話し合いをもった。その席で、私たちは日本政府や和人が主張する「北方領返還運動」には絶対反対であり、北方諸島の領有権は元々アイヌ民族にあることを強く主張したところ、副総領事も北方諸島はアイヌ民族の大地であることを認識し自由な往来や漁業権を認めた経緯がある。
 今年五月、「アイヌモシリの自治区を取り戻す会」のメンバーとロシア総領事館を訪問し、アブドゥラザコフ総領事に対し、エリツィン大統領とフョードロフ・サハリン州知事に「アイヌモシリを取り戻す会」からのメッセージ並びに趣意書、さらに小冊子「アイヌモシリ」と「アイヌ民族に関する人権啓発写真集」を送っていただくようお願いした。その話し合いの中でも、アイヌ民族の北方諸島への居住や自由往来、漁業を認めている。北方諸島がアイヌ民族の大地であることは巌然たる事実であり、これらの対応は当然ではあるが、日本政府や北海道庁は依然理不尽極まりない姿勢に終始している。(Pⅱ,ⅲ)
    
チカップ美恵子(アイヌ文様刺しゅう家)
 最近、マスコミの使う言葉で気になるのは、「返還」というのもそうなのですが、日本固有の領土である「北方諸島」を現島民は「不法占拠」をしているという言い方です。しかし、不法占拠をしていると言うなら、和人は、現在、もともと私達の島々であるこのアイヌモシリを不法占拠しているのです。そのことを一体どうするのだ、と私は問い掛けたいのです。この「返還」や「不法占拠」という言葉について、私はアイヌ民族として、良心ある多くの和人に真剣に考えていただきたいと思います。
 また、この頃、ニュースを聞いていますと、旧島民が、登記に関する相談を始めています。冗談じゃないですよね。ずっと不法占拠しっ放しでね、代が変わったから登記の名義変更だなんて。こんなとんでもないことが現在着々と進められています。(P28)
  
石井由治
 さて、旧島民のみなさんは、千島が「日本固有の領土」というキャンペーンを展開していますが、もし本当にそれが「日本固有の領土」なら、何も「返還」してもらうことなどありません。みなさんがそこへ行って住めばよいのです。私達アイヌ民族は、北海道、千島、サハリンから成るアイヌ・モシリを日本政府に売った覚えも、貸した覚えもないのだ、ということは阿寒に住んでいる山本エカシや、静内の葛野エカシ、そして二風谷にいる菅野茂さんなどがいつも主張しています。みなさんが本当に、この北海道が日本の土地だと言うならば、国会へ行って調べてみた方が良いです。アイヌ・モシリは、売った覚えも貸した覚えも無いということを、もう一度主張しておきたいと思います。(P138)

本-返還交渉 沖縄・北方領土の「光と影」2017年04月12日

 
東郷和彦/著『返還交渉 沖縄・北方領土の「光と影」』 PHP研究所 (2017/3)
 
 あまり、興味を持てなかったのですが、読んだことを忘れないように書き留めておきます。
 本の2/3は沖縄返還交渉。東郷文彦と若泉敬との2元外交によって、沖縄返還交渉が行われていた。
 残りの1/3は北方領土返還交渉の歴史。
 2016年12月、山口で、安倍・プーチン会談が行われ、北方領土関連地域での日ロ経済協力が合意された。著者はこの合意に肯定的な評価をしている。

自分で考えよう―北方領土問題2017年04月03日

  
先ずは児童書の紹介。
ペーテル・エクベリ/著、枇谷玲子/訳『自分で考えよう: 世界を知るための哲学入門』晶文社 (2016/10)
  
 小学校高学年程度の人を対象とした哲学の入門書。哲学の入門書と書くと、とっつきにくく面白くない本に感じるが、この本はそういうものではなくて、自分で考えることの重要性と、哲学の意義を平易に説明している。絵が豊富で、絵本のような雰囲気なので、とっつきやすいけれど、文章の内容の割にはページ数が多くて高価な気がする。でも、絵がきれいで、なかなかかわいい本で、読んでみると楽しくなるので、大人でも読んで損はないように思います。
  
 最近、The Huffington Postに、この本の翻訳者と思われる人の北方領土問題学習に関する投稿が掲載されていた。
http://m.huffpost.com/jp/entry/15584794?
http://reikohidani.net/2998/
  
 小学生の子供が、北方領土問題の調べ学習に関連して、「本かネットか」ということと「何が真実か」ということを論じている。
  
 「本かネットか」という視点については、何を問題としているのか、どうもよくわからない。
 本の場合は紙媒体であると同時に、普通100ページ以上あるので細かい議論が展開される。これに対して、ネットの情報は電子媒体であると同時に、書いてある内容が少なく、結論のまとめであることが多い。
 このため、「本かネットか」の問題は、以下の2点を含む。
 ①媒体は紙か、電子か
 ②細かい議論の展開があるか、結論のまとめだけか
①②の問題は、本来全く別のことなので、何を問題としているのかをはっきりさせないと、議論が混乱する。
  
 「何が真実か」。この問題に対する枇谷玲子氏の議論は、先に紹介したページを参照いただくとして、私には、それよりも「真実とは何か」に関心がある。枇谷玲子氏は私が書いた以下のインターネットページを参照している。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm
 このページを作成した最大の目的は「真実とは何か、自分で考えよう」、こういう問いかけを子供たちにしたかったためである。
  
 さて、「真実とは何か」について、大きく分けると、以下の2つの考えがあるだろう。
 a)新興宗教の教祖様や幹部の言説が真実である。
 b)いろいろな考えを理解したうえで判断した、自分の考えが真実である。
  
 a)の変形には、「国家の説明が真実である」というのもあるだろう。戦前の日本は明治に作られた国家神道を信仰することが義務だったので、教育勅語や軍人勅諭が真実の価値基準の中心に置かれた。戦後になると、a)からb)への動きがみられたが、近年では逆戻しの動きがみられるようだ。
  
 子供たちにとって「真実」とは何だろうか。現実的な利益を考えるならば「入試で役に立つ知識」が「真実」だ。
 中学校の国語入試問題では、主人公は道徳的行動をするものとして解答すると、たいてい正解になる。ここでいう道徳とは、小学校の道徳の教科書に書いてあるようなことである。このため、小学生にとってはa)の考えが正しいとも考えられる。しかし、大学入試の国語の問題では、主人公は小学校の道徳教科書のような行動をとるとは限らない。このため、b)が正しい「真実」である。
 世界史入試問題でも、東大や一橋は事項の暗記だけではとても歯が立たない。いろいろな史実を理解し、歴史の流れの中で判断できないと点を取るのは難しい。もっとも、下位大学の入試では暗記だけで十分なので、偏差値が低い大学にしか行けない子供にとって、真実とはa)だろう。数学の問題も同じで、上位大学では論理の構成を問われるのに対して、下位大学では教科書知識を問われる。
 このように考えると、上位大学を目指す子にとって真実とはb)であるが、偏差値が低い子にとってはa)が真実である。
  
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm
このページを作成した最大の目的は「真実とは何か、自分で考えよう」、こういう問いかけを子供たちにしたかったためである、と書いた。このページは、以下のページがもとになっている。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/indexHoppou.htm
ただし、どちらもその後、大きく書き加えているので、関連性がないところもある。
  
 北方領土問題とは何であるのか、まとめようとした時、最初に近所の図書館で、関連する本を10冊ほど借りてきた。いろいろな知見があって、頭が混乱したので、さらに10冊ほど読むと、だんだん論点が整理できた。ホームページに書いたのはそのころである。北方領土問題は、いろいろな事実を含み、いろいろな解釈があるので、最低でも10冊ぐらいは読まないと、それなりの知見は得られないだろう。今まで読んだ本の一覧をまとめてあるので、関心のある人は参考にしてほしい。
http://cccpcamera.photo-web.cc/Ryoudo/HoppouBook/index.shtml
   
 さて、日本政府の説明とわたくしの説明とでは大きく違っているように見える人があるかもしれない。事実の一部を取り出して論を立てるのだから、書き方が違ってくるのは当然のことだ。しかし、私のページも、しょせん国内の文献が中心なので、日本側解釈の一例に過ぎない。悲しいことに、外国語が苦手なので、私の理解はこれ以上進まない。
  
 「別海町役場総合政策課」のページには「北方領土は、私たちの祖先が心血を注いで開拓した、わが国固有の領土」と書かれているそうだ。これを、諸外国の人に理解させようとして、英語で訳すとどうなるのだろう。「心血を注ぐ」をそのまま訳したら、戦って奪い取るとの意味になるのではないだろうか。日本政府の言う「固有の領土」をリトアニアの人が正確に理解するには、英語でどう言えばいいのだろう。



本の紹介―北方領土の謎2016年12月19日

 
名越健郎/著『北方領土の謎』 (2016/11)海竜社
 
 ソ連崩壊の時期、北方領土の現状を解説した本がいくつか出版された。この時、北方領土住民は、国家崩壊の混乱で苦境に陥っていたが、その後のロシアの経済発展に伴って、生活インフラは格段に整備された。現在、北方領土の取材映像が、テレビで時々放映されるので、本の解説を読む必要性は少なくなっているためか、北方領土の現状の解説本は少ない。
 
 本書は、北方領土の現状についての解説。近年では、北方領土の映像を見る機会は多いけれど、映像だけではわからない状況もあるので、本書を読むことは無駄ではない。
 本書は拓殖大学教授の名越健郎氏による執筆。北方領土問題の経緯の解説や国際法の解釈などについては、この点を考慮する必要はあるだろう。

本の紹介―外交交渉回想2016年12月18日

 
枝村純郎/著『外交交渉回想 沖縄返還・福田ドクトリン・北方領土』(2016/10)吉川弘文館
 
もと、駐ロシア日本大使による外交交渉の回想録。著者は、ソ連崩壊時期に駐ソ連・駐ロシア大使を務めた。本書の内容は、著者が携わった外交交渉全般であるが、著者の経歴のため、ソ連・ロシア関連が多い。北方領土問題にも、かなりのページ数が割かれていて、北方領土交渉の経緯を知るうえで重要な書籍となっている。しかし、著者は、学者ではなく、日本側交渉当事者であるので、外交文書などは、外務省に都合の良い解釈なるので、その点は一定の注意が必要だ。

本の紹介―尖閣諸島(釣魚島)問題はどう論じられてきたか2016年10月21日

 
倪志敏/著『尖閣諸島(釣魚島)問題はどう論じられてきたか―日中国交正常化・平和友好条約交渉過程の検証』 アジェンダ・プロジェクト (2016/08)
 
 64ページの薄い本。
 本の2/3は日中両政府は尖閣問題を棚上げ合意したことを示している。この問題は、 『岡田充/著・尖閣諸島問題―領土ナショナリズムの魔力』 『矢吹晋/著・尖閣問題の核心―日中関係はどうなる』『孫崎享/著・日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土』 など、いくつかの著書に詳しい説明がある。
 
 日本政府は、尖閣はどの国の領土でもない無主の地であることを慎重に調査した上で領有したと説明している。
 本の1/3では、この問題を解明している。日本が尖閣は無人島であることを調査したのは1885年10月の一回だけで、このときの調査結果を受けた日本政府は、清国との係争を懸念して日本領土への組み入れをしなかったが、日清戦争で日本の勝利が確定的となった1893年に、尖閣を調査をせずに、領土を日本に組み入れた。この問題は、『村田忠禧/著・史料徹底検証 尖閣領有』に詳しい。
 
 このように、本書には特に目新しい内容があるわけではないが、尖閣問題の棚上げ合意と、日本の尖閣領有のいきさつという尖閣問題を理解するうえで重要な2点について簡潔にまとめられており、一読の価値はある。

尖閣は日本固有の領土ではない2016年09月04日

 
 尖閣は日本固有の領土だろうか。「固有の領土」は日本政府の言うことを信じ込むために使われているだけの用語なので、何をもって「固有の領土」なのか、そんなことは、どうでもよいことである。
 現在、日本政府は「固有の領土」とは一度も外国の領土となったことがない日本の領土、としているようだ。
 
 では、尖閣は日本固有の領土だろうか。
 
 1945年、日本の敗戦により沖縄はアメリカ統治になった。沖縄が外国だったのだから、尖閣も外国だ。一時、外国だった尖閣が、日本政府の説明による「日本の固有の領土」でないことは明らかだろう。
 「沖縄は占領統治になっただけで外国になったわけではない」こんな屁理屈をいう人もいるかもしれない。
 写真は、1953年に那覇から日本に宛てられた年賀はがき。沖縄から見たら、日本は外国だったので「外国年賀」のスタンプが押されている。日本から沖縄宛ての年賀はがきも、同様に「外国年賀」と書かれた。1952年に沖縄と日本の間で、年賀郵便の取り扱いが始まった時から1956年まで「外国年賀」とされ、それ以降は「特別年賀」の名称に変えられた。日本政府が公式に「外国」としていたのに、領土主張の根拠のために歴史を変造するのは良くない。

本‐南シナ海でなにが起きているのか2016年09月03日

 
山本秀也/著 『南シナ海でなにが起きているのか 米中対立とアジア・日本』 (2016/8)岩波ブックレット
 
著者は産経新聞論説委員。本書の内容には、ごく普通に言われている以上の情報はなくて、特に興味は持てなかったけれど、読んだことを忘れないように書いておきます。
 
産経新聞論説委員らしい、以下の記述には苦笑した。
『ここで筆者から質問です。発想を大転換して、九段線で囲まれた中国の南シナ海支配を受容することはできないでしょうか。中国の「主権」を認めた上で、南シナ海で通航の安全を確保し、中国が主導する資源の共同開発にも日本が積極的に参加するという想定です。(P67)』
 南シナ海での問題は、中国を含めた周辺各国の問題であって、日本は紛争当事者ではない。このため、日本が一国に加担しないのは当然のことで、同時に、フィリピンの主張にも加担すべきではない。『中国と対立しないのならば、中国の言うことを全部聞くのか!』と言っているようで、これでは、右翼新聞の論説そのものだ。

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