本の紹介―北方領土の謎2016年12月19日

 
名越健郎/著『北方領土の謎』 (2016/11)海竜社
 
 ソ連崩壊の時期、北方領土の現状を解説した本がいくつか出版された。この時、北方領土住民は、国家崩壊の混乱で苦境に陥っていたが、その後のロシアの経済発展に伴って、生活インフラは格段に整備された。現在、北方領土の取材映像が、テレビで時々放映されるので、本の解説を読む必要性は少なくなっているためか、北方領土の現状の解説本は少ない。
 
 本書は、北方領土の現状についての解説。近年では、北方領土の映像を見る機会は多いけれど、映像だけではわからない状況もあるので、本書を読むことは無駄ではない。
 本書は拓殖大学教授の名越健郎氏による執筆。北方領土問題の経緯の解説や国際法の解釈などについては、この点を考慮する必要はあるだろう。

本の紹介―外交交渉回想2016年12月18日

 
枝村純郎/著『外交交渉回想 沖縄返還・福田ドクトリン・北方領土』(2016/10)吉川弘文館
 
もと、駐ロシア日本大使による外交交渉の回想録。著者は、ソ連崩壊時期に駐ソ連・駐ロシア大使を務めた。本書の内容は、著者が携わった外交交渉全般であるが、著者の経歴のため、ソ連・ロシア関連が多い。北方領土問題にも、かなりのページ数が割かれていて、北方領土交渉の経緯を知るうえで重要な書籍となっている。しかし、著者は、学者ではなく、日本側交渉当事者であるので、外交文書などは、外務省に都合の良い解釈なるので、その点は一定の注意が必要だ。

本の紹介―尖閣諸島(釣魚島)問題はどう論じられてきたか2016年10月21日

 
倪志敏/著『尖閣諸島(釣魚島)問題はどう論じられてきたか―日中国交正常化・平和友好条約交渉過程の検証』 アジェンダ・プロジェクト (2016/08)
 
 64ページの薄い本。
 本の2/3は日中両政府は尖閣問題を棚上げ合意したことを示している。この問題は、 『岡田充/著・尖閣諸島問題―領土ナショナリズムの魔力』 『矢吹晋/著・尖閣問題の核心―日中関係はどうなる』『孫崎享/著・日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土』 など、いくつかの著書に詳しい説明がある。
 
 日本政府は、尖閣はどの国の領土でもない無主の地であることを慎重に調査した上で領有したと説明している。
 本の1/3では、この問題を解明している。日本が尖閣は無人島であることを調査したのは1885年10月の一回だけで、このときの調査結果を受けた日本政府は、清国との係争を懸念して日本領土への組み入れをしなかったが、日清戦争で日本の勝利が確定的となった1893年に、尖閣を調査をせずに、領土を日本に組み入れた。この問題は、『村田忠禧/著・史料徹底検証 尖閣領有』に詳しい。
 
 このように、本書には特に目新しい内容があるわけではないが、尖閣問題の棚上げ合意と、日本の尖閣領有のいきさつという尖閣問題を理解するうえで重要な2点について簡潔にまとめられており、一読の価値はある。

尖閣は日本固有の領土ではない2016年09月04日

 
 尖閣は日本固有の領土だろうか。「固有の領土」は日本政府の言うことを信じ込むために使われているだけの用語なので、何をもって「固有の領土」なのか、そんなことは、どうでもよいことである。
 現在、日本政府は「固有の領土」とは一度も外国の領土となったことがない日本の領土、としているようだ。
 
 では、尖閣は日本固有の領土だろうか。
 
 1945年、日本の敗戦により沖縄はアメリカ統治になった。沖縄が外国だったのだから、尖閣も外国だ。一時、外国だった尖閣が、日本政府の説明による「日本の固有の領土」でないことは明らかだろう。
 「沖縄は占領統治になっただけで外国になったわけではない」こんな屁理屈をいう人もいるかもしれない。
 写真は、1953年に那覇から日本に宛てられた年賀はがき。沖縄から見たら、日本は外国だったので「外国年賀」のスタンプが押されている。日本から沖縄宛ての年賀はがきも、同様に「外国年賀」と書かれた。1952年に沖縄と日本の間で、年賀郵便の取り扱いが始まった時から1956年まで「外国年賀」とされ、それ以降は「特別年賀」の名称に変えられた。日本政府が公式に「外国」としていたのに、領土主張の根拠のために歴史を変造するのは良くない。

本‐南シナ海でなにが起きているのか2016年09月03日

 
山本秀也/著 『南シナ海でなにが起きているのか 米中対立とアジア・日本』 (2016/8)岩波ブックレット
 
著者は産経新聞論説委員。本書の内容には、ごく普通に言われている以上の情報はなくて、特に興味は持てなかったけれど、読んだことを忘れないように書いておきます。
 
産経新聞論説委員らしい、以下の記述には苦笑した。
『ここで筆者から質問です。発想を大転換して、九段線で囲まれた中国の南シナ海支配を受容することはできないでしょうか。中国の「主権」を認めた上で、南シナ海で通航の安全を確保し、中国が主導する資源の共同開発にも日本が積極的に参加するという想定です。(P67)』
 南シナ海での問題は、中国を含めた周辺各国の問題であって、日本は紛争当事者ではない。このため、日本が一国に加担しないのは当然のことで、同時に、フィリピンの主張にも加担すべきではない。『中国と対立しないのならば、中国の言うことを全部聞くのか!』と言っているようで、これでは、右翼新聞の論説そのものだ。

本-北東アジアの「永い平和」2016年08月27日

 
植木千可子・他/著 『北東アジアの「永い平和」 なぜ戦争は回避されたのか』勁草書房 (2012/11)
 
本書は、各章ごとに複数の著者による執筆で、各章はそれぞれ独立している。
特に興味が持てたわけではないが、読んだことを忘れないように書き留めておく。
 
第8章に、天児慧の論文『尖閣諸島をめぐる国家・利益の相克 安定から不安定化への転換の論理』がおさめられて、尖閣問題をテーマとしている。

本の紹介-「見えない壁」に阻まれて2016年08月23日

 
舛田佳弘・他/著・編『「見えない壁」に阻まれて 根室と与那国でボーダーを考える』北海道大学出版会 (2015/7)  
 
国境の町である根室と与那国は政治の問題から海外交流が難しい。本書は与那国と根室について扱っている。
 
 与那国については、台湾との交流をするために町役場の嘱託職員となった研究者の報告。内容は、国境問題や地方自治などではなく、与那国住民との交流や台湾・花蓮市民との交流の話。学者の話なのだから、もう少し学術的内容が多い方が良かったのではないか。この内容ならば、お笑い芸人のレポートの方が面白くて興味が持てる。
 根室の話は根室だけで千島に行っていない。「北方領土問題の視点が強い根室市内の観光案内」と言ったところだろうか。
 本は70ページ余りと薄いにもかかわらず、根室・与那国と直接関係のない2地点を取り上げているため、内容が薄い。
 
 根室・与那国は国境に接する僻地であるため、取り締まりがおろそかになって密貿易などで栄えたことがある。しかし、合法的な活動で繁栄するためには、どちらも地域の規模が小さすぎる。かつてのように、人の移動が鉄道だった時代ならば、国境の町には何らかのメリットがあったかもしれないが、航空機で海外に行く時代にあっては、国境の町であること自体に取り立ててメリットはないだろう。

本の紹介‐<独島・竹島>の日韓史2016年08月15日

 
保坂祐二/著 『<独島・竹島>の日韓史』論創社 (2016/07)
 
韓国・朝鮮から見た、鬱陵島・竹島の19世紀以前の歴史を詳細に解説。
 
6世紀、鬱陵島は新羅に服属し、以降、朝鮮の領土だったが、15世紀には倭寇対策として、空島政策がとられ、居住者はいなくなった。しかし、対馬藩も鬱陵島が朝鮮の領土であることを認識していた。17世紀、鬱陵島で朝鮮人・安龍福が日本人漁民によって捕らえられ、日本に連行されたことがあった。このとき、日本と朝鮮との間で、鬱陵島が朝鮮の領土であることが確認され、日本人漁民が出漁しないことが合意された。
竹島は、鬱陵島から見えるので、鬱陵島とセットでとらえられることが多い。そして、朝鮮でも日本でも、朝鮮と隠岐の島の間には2つの島があることが知られていた。鬱陵島と竹島の領有が異なるとの見解は、日本・朝鮮ともに一度もなかった。
このような理由から、韓国では鬱陵島・竹島ともに歴史的な韓国の領土であると考えている。
 
本書は、これらの点を、歴史資料に基づき詳細に解明している。日韓両国の資料を元にしているが、韓国側の資料の方が多い。豊富な古文書・文献をもとに、6世紀以降19世紀までの韓国・朝鮮でも鬱陵島・竹島の歴史が詳述されているので、竹島が日韓どちらの領土であるとの見解とは別に、歴史事実を正しく理解する上では大いに参考になる本である。
 
本書に従えば、竹島が韓国の領土であることに疑いはないだろう。しかし、19世紀以前の朝鮮における竹島領有は現在の国際法における領土の領有と一致するわけではないので、19世紀以前の竹島が朝鮮の領土であったかどうかについては種々の見解がありうる。

本の紹介―独島・鬱陵島の研究2016年07月25日

 
『独島・鬱陵島の研究―歴史・考古・地理学的考察』洪性徳・ 保坂祐二・他/著 (2015/12) 明石書店  
 
 鬱陵島と竹島に関する次の5件の歴史研究論文が収められている。これらの論文相互には、特に関連はないので、どれから読んでもよい。竹島領有権問題というよりも、竹島問題で重要な歴史的事実や鬱陵島の古代史など、関連する史実の解明に重点が置かれた、学術書である。
 
洪性徳/著『17世紀後半の韓日外交交渉と鬱陵島』
保坂祐二/著『高宗と李奎遠の于山島認識の分析』
朴三憲/著『明治初年太政官文書の歴史的性格』
呉江原/著『古代鬱陵島社会と集団に関するいくつかの問題』
任徳淳/著 『独島の機能、空間価値と所属』
 
『17世紀後半の韓日外交交渉と鬱陵島』は安龍福事件のときの、幕府・朝鮮・鳥取藩・対馬藩・大谷家の利害関係を調べることにより、この時、鬱陵島が朝鮮領土に確定した経緯や安龍福への対応などについて言及している。論文の主眼は鬱陵島交渉であって、竹島問題への言及は少ない。
 
『高宗と李奎遠の于山島認識の分析』は、朝鮮において于山島認識がどのように歴史的変遷をしてきたかを明らかにしている。また、勅令第41号の「石島」が日本でいうところの当時の松島、すなわち現・竹島であるとしている。
 
『古代鬱陵島社会と集団に関するいくつかの問題』は鬱陵島の発掘調査の解説。古代鬱陵島氏に対する研究の現状が理解できる。
 
『独島の機能、空間価値と所属』は竹島が朝鮮の領土であることを説明する論文。竹島が朝鮮の領土であるとする歴史的根拠が簡潔にまとめられている。

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