本の紹介―ドキュメント北方領土問題の内幕2017年07月24日

    
若宮啓文/著『ドキュメント北方領土問題の内幕: クレムリン・東京・ワシントン』 (筑摩選書) 筑摩書房 (2016/8/10)
    
1956年、日ソ共同宣言という名前の条約が成立して、日ソ間で国交が回復した。この条約の中で、平和条約締結後に、歯舞・色丹を日本にひき渡すことが決められた。しかし、その後60年以上たっても、いまだに平和条約は締結されていない。
    
 本書は、朝日新聞論説主幹を務めた若宮啓文による、日ソ共同宣言の交渉経緯の解説。
    
 これまでにも、以下のような図書で交渉の経緯が明らかにされていた。    
・松本俊一/著『モスクワにかける虹:日ソ国交回復秘録』
・久保田正明/著『クレムリンへの使節 北方領土交渉1955-1983』
    
 1992年にソ連が崩壊すると、これまで非公開だったソ連側の資料が公開されることにより、交渉の経緯はより明らかになった。本書では、これらの成果も取り入れられているようで、交渉の経緯解明の集大成ともいうべき内容になっている。このため、簡単に理解しようとする人には、ちょっと詳しすぎるだろう。

本―日露外交 北方領土とインテリジェンス2017年06月14日

 
佐藤優/著 『日露外交 北方領土とインテリジェンス』角川書店 (2017/5)
 
 特に関心を持った本ではないが、読んだことを忘れないために書き留めておきます。
     
 北方領土と日ロ関係を解説した佐藤優の近著。内容は、産経新聞のコラムにこれまで書いた記事の再編集。新聞コラム記事なので、一つのテーマのページ数が少なく、問題に深く立ち入ったものではない。各項目の関連性も乏しいため、北方領土問題や日ロ外交について、多少でも詳しく知りたいと思っている人には、読む価値は少ないだろう。

本の紹介-尖閣諸島と日中外交2017年05月10日

   
塩田純/著『尖閣諸島と日中外交  証言・日中米「秘密交渉」の真相』 講談社 (2017/4)
  
 本書はNHKテレビ番組のための取材をもとにしたもので、著者はNHKプロデューサーのため、読みやすい。
 内容は、バンドン会議での日中接近から、日中国交回復までの日中関係史。尖閣諸島の領有権問題が本書のメインテーマというわけではない。
 バンドン会議の時は高碕達之助に焦点があてられる。
 沖縄返還の時、台湾・中国から尖閣諸島の要求があって、米国は領土問題に関知せずに施政権を日本に返還した。このころは、中国の国連代表権問題があって、政権の正統性と領土問題が密接に関係していた。本書では、このあたりの事情を読みやすく説明していて、事前知識なしに簡単に理解できる。尖閣問題を学習する場合は、本章だけでも読んでおいたほうが良いように思う。
 本の半分は、日中国交回復の話で、大平正芳に焦点が当てられている。本書では、日中国交回復では、尖閣問題を議題にせずに、今後も現状凍結することで両国の合意が得られたが、両国首脳間で何となく合意したのであって、合意文書などを交換したわけではないことが、明確に示されている。
   
 本書は、日本と中華人民共和国の外交関係を解説したものであって、その中で、尖閣問題の位置が明確に示されているので、日中関係としての尖閣のりゅゆう権問題を理解するには好適な本である。ただし、尖閣問題全般を俯瞰する目的で書かれた本ではないので、尖閣問題を理解したい向きには、本書だけでは不十分だ。

ホームページ資料追加2017年04月28日

『北方領土問題関連資料」のページに2つの資料を追加しました
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/HoppouShiryou/HoppouShiryou.htm
     
・国後地方ウプラウレニヤ法令
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/HoppouShiryou/19460012Upuraureniya.htm
   
・北海道附属島嶼復帰懇請根室国民大会の決議
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/HoppouShiryou/19470810Ketsugi.htm
 この資料は、北海道附属島嶼復帰懇請委員会 [編] 『四島を返せ : 択捉・国後・色丹・歯舞群島返還運動史』のなかに、当時の資料の写真が掲載されています。それを見ると、「千島列島の一部を成す択捉島、国後島」となっているので、国後島・択捉島は千島列島に含まれるとの認識がわかります。ところが、浦野起央/編著『資料体系アジア・アフリカ国際関係政治社会史 第2巻 [第5分冊 h] 』では、「千島列島の一部を成す」の文が欠落しています。
 浦野の本では、この決議文の出典がなんであるかがわからないので、信頼性の検証ができない。

本の紹介―幕末維新の異文化交流 外圧をよみとく2017年04月18日

    
洞富雄/著『幕末維新の異文化交流 外圧をよみとく』(有隣堂、1995年)
    
 歴史学者・洞富雄、最晩年の著作。実際には、それまでに書いた論文や著書の内容を再編集したものが多いようだ。出版が古く、入手も困難なので、あえて読む必要がある本とは思えない。
    
内容は以下の3章からなる。
    
 第1章では、最初の節で北方探検時期の国際環境を記載し、「間宮林蔵」「最上徳内」「高橋景保」「伊能忠敬」「シーボルト」をとりあげて、日本の北方探検・北方認識史を記述する。各個人の北方関連伝記であるが、個人を通して日本の北方認識の歴史がわかるようになっている。最後に、北方における日ロの進出を記載する。最上徳内や間宮林蔵のところでロシア人との関連にも触れられているなど、日ロ関係の記述もあるが、多くない。
    
 第2章は伊豆下田におけるプチャーチンとの日ロ交渉、ペリーとの日米交渉が書かれている。それなりにページを割いており、詳しい内容になっている。
    
 第3章は、幕末維新と横浜。

本の紹介-アイヌ・モシリ アイヌ民族から見た「北方領土返還」交渉2017年04月17日

    
アイヌモシリを取り戻す会/編『アイヌ・モシリ アイヌ民族から見た「北方領土返還」交渉』 御茶の水書房 (1992/11)
  
 アイヌ民族の立場から、日本の北方領土要求を批判している。
 現在、日本で北方領土と呼ばれている南千島地域は、もともと、アイヌ民族の住む地であり「日本固有の領土」ではない。
  
 本書は3部構成になっている。第1部前半は、アイヌの人たちを中心とした座談会で、主に、千島や北海道は本来アイヌの大地であったことを主張している。第1部後半はアイヌの昔話や思い出話。
 第2部は、ピースボートでえとろふとう・色丹島を訪問して、現地の人たちと交流したアイヌの話。ロシアは多民族国家なので、先住民の権利意識が高く、先住民としてのアイヌに対しては好意的である。
 第3部は、先住民としてのアイヌに関する新聞・雑誌報道のまとめ。
  
 本書の内容は、アイヌの権利を主張するもので一貫しているが、座談会・旅行の報告・新聞報道と多岐にわたっているため、主題がぼやけた感じがする。解説本にしたほうがわかりやすかったのではないだろうか。
  
 ところで、本書は、アイヌの団体の中でも日本政府に批判的な、アイヌ解放同盟の人たちの考えを中心に執筆されているものと思われる。アイヌの代表的な考えかというと、ちょっと違うかもしれない。
    
    
なるほどと思った記述を参考に記載します。
    
山本一昭
 私たちアイヌ民族は、これまでも結束して、両政府に対し、アイヌモシリの復権とアイヌ民族の領有権を掲げて様々な運動を展開してきた。私の同志、故結城庄司氏(アイヌ解放同盟初代委員長)を中心に十数年前AS協会を結成し、ソ連総領事館(現ロシア札幌総領事館)で副総領事と話し合いをもった。その席で、私たちは日本政府や和人が主張する「北方領返還運動」には絶対反対であり、北方諸島の領有権は元々アイヌ民族にあることを強く主張したところ、副総領事も北方諸島はアイヌ民族の大地であることを認識し自由な往来や漁業権を認めた経緯がある。
 今年五月、「アイヌモシリの自治区を取り戻す会」のメンバーとロシア総領事館を訪問し、アブドゥラザコフ総領事に対し、エリツィン大統領とフョードロフ・サハリン州知事に「アイヌモシリを取り戻す会」からのメッセージ並びに趣意書、さらに小冊子「アイヌモシリ」と「アイヌ民族に関する人権啓発写真集」を送っていただくようお願いした。その話し合いの中でも、アイヌ民族の北方諸島への居住や自由往来、漁業を認めている。北方諸島がアイヌ民族の大地であることは巌然たる事実であり、これらの対応は当然ではあるが、日本政府や北海道庁は依然理不尽極まりない姿勢に終始している。(Pⅱ,ⅲ)
    
チカップ美恵子(アイヌ文様刺しゅう家)
 最近、マスコミの使う言葉で気になるのは、「返還」というのもそうなのですが、日本固有の領土である「北方諸島」を現島民は「不法占拠」をしているという言い方です。しかし、不法占拠をしていると言うなら、和人は、現在、もともと私達の島々であるこのアイヌモシリを不法占拠しているのです。そのことを一体どうするのだ、と私は問い掛けたいのです。この「返還」や「不法占拠」という言葉について、私はアイヌ民族として、良心ある多くの和人に真剣に考えていただきたいと思います。
 また、この頃、ニュースを聞いていますと、旧島民が、登記に関する相談を始めています。冗談じゃないですよね。ずっと不法占拠しっ放しでね、代が変わったから登記の名義変更だなんて。こんなとんでもないことが現在着々と進められています。(P28)
  
石井由治
 さて、旧島民のみなさんは、千島が「日本固有の領土」というキャンペーンを展開していますが、もし本当にそれが「日本固有の領土」なら、何も「返還」してもらうことなどありません。みなさんがそこへ行って住めばよいのです。私達アイヌ民族は、北海道、千島、サハリンから成るアイヌ・モシリを日本政府に売った覚えも、貸した覚えもないのだ、ということは阿寒に住んでいる山本エカシや、静内の葛野エカシ、そして二風谷にいる菅野茂さんなどがいつも主張しています。みなさんが本当に、この北海道が日本の土地だと言うならば、国会へ行って調べてみた方が良いです。アイヌ・モシリは、売った覚えも貸した覚えも無いということを、もう一度主張しておきたいと思います。(P138)

本-返還交渉 沖縄・北方領土の「光と影」2017年04月12日

 
東郷和彦/著『返還交渉 沖縄・北方領土の「光と影」』 PHP研究所 (2017/3)
 
 あまり、興味を持てなかったのですが、読んだことを忘れないように書き留めておきます。
 本の2/3は沖縄返還交渉。東郷文彦と若泉敬との2元外交によって、沖縄返還交渉が行われていた。
 残りの1/3は北方領土返還交渉の歴史。
 2016年12月、山口で、安倍・プーチン会談が行われ、北方領土関連地域での日ロ経済協力が合意された。著者はこの合意に肯定的な評価をしている。

自分で考えよう―北方領土問題2017年04月03日

  
先ずは児童書の紹介。
ペーテル・エクベリ/著、枇谷玲子/訳『自分で考えよう: 世界を知るための哲学入門』晶文社 (2016/10)
  
 小学校高学年程度の人を対象とした哲学の入門書。哲学の入門書と書くと、とっつきにくく面白くない本に感じるが、この本はそういうものではなくて、自分で考えることの重要性と、哲学の意義を平易に説明している。絵が豊富で、絵本のような雰囲気なので、とっつきやすいけれど、文章の内容の割にはページ数が多くて高価な気がする。でも、絵がきれいで、なかなかかわいい本で、読んでみると楽しくなるので、大人でも読んで損はないように思います。
  
 最近、The Huffington Postに、この本の翻訳者と思われる人の北方領土問題学習に関する投稿が掲載されていた。
http://m.huffpost.com/jp/entry/15584794?
http://reikohidani.net/2998/
  
 小学生の子供が、北方領土問題の調べ学習に関連して、「本かネットか」ということと「何が真実か」ということを論じている。
  
 「本かネットか」という視点については、何を問題としているのか、どうもよくわからない。
 本の場合は紙媒体であると同時に、普通100ページ以上あるので細かい議論が展開される。これに対して、ネットの情報は電子媒体であると同時に、書いてある内容が少なく、結論のまとめであることが多い。
 このため、「本かネットか」の問題は、以下の2点を含む。
 ①媒体は紙か、電子か
 ②細かい議論の展開があるか、結論のまとめだけか
①②の問題は、本来全く別のことなので、何を問題としているのかをはっきりさせないと、議論が混乱する。
  
 「何が真実か」。この問題に対する枇谷玲子氏の議論は、先に紹介したページを参照いただくとして、私には、それよりも「真実とは何か」に関心がある。枇谷玲子氏は私が書いた以下のインターネットページを参照している。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm
 このページを作成した最大の目的は「真実とは何か、自分で考えよう」、こういう問いかけを子供たちにしたかったためである。
  
 さて、「真実とは何か」について、大きく分けると、以下の2つの考えがあるだろう。
 a)新興宗教の教祖様や幹部の言説が真実である。
 b)いろいろな考えを理解したうえで判断した、自分の考えが真実である。
  
 a)の変形には、「国家の説明が真実である」というのもあるだろう。戦前の日本は明治に作られた国家神道を信仰することが義務だったので、教育勅語や軍人勅諭が真実の価値基準の中心に置かれた。戦後になると、a)からb)への動きがみられたが、近年では逆戻しの動きがみられるようだ。
  
 子供たちにとって「真実」とは何だろうか。現実的な利益を考えるならば「入試で役に立つ知識」が「真実」だ。
 中学校の国語入試問題では、主人公は道徳的行動をするものとして解答すると、たいてい正解になる。ここでいう道徳とは、小学校の道徳の教科書に書いてあるようなことである。このため、小学生にとってはa)の考えが正しいとも考えられる。しかし、大学入試の国語の問題では、主人公は小学校の道徳教科書のような行動をとるとは限らない。このため、b)が正しい「真実」である。
 世界史入試問題でも、東大や一橋は事項の暗記だけではとても歯が立たない。いろいろな史実を理解し、歴史の流れの中で判断できないと点を取るのは難しい。もっとも、下位大学の入試では暗記だけで十分なので、偏差値が低い大学にしか行けない子供にとって、真実とはa)だろう。数学の問題も同じで、上位大学では論理の構成を問われるのに対して、下位大学では教科書知識を問われる。
 このように考えると、上位大学を目指す子にとって真実とはb)であるが、偏差値が低い子にとってはa)が真実である。
  
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm
このページを作成した最大の目的は「真実とは何か、自分で考えよう」、こういう問いかけを子供たちにしたかったためである、と書いた。このページは、以下のページがもとになっている。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/indexHoppou.htm
ただし、どちらもその後、大きく書き加えているので、関連性がないところもある。
  
 北方領土問題とは何であるのか、まとめようとした時、最初に近所の図書館で、関連する本を10冊ほど借りてきた。いろいろな知見があって、頭が混乱したので、さらに10冊ほど読むと、だんだん論点が整理できた。ホームページに書いたのはそのころである。北方領土問題は、いろいろな事実を含み、いろいろな解釈があるので、最低でも10冊ぐらいは読まないと、それなりの知見は得られないだろう。今まで読んだ本の一覧をまとめてあるので、関心のある人は参考にしてほしい。
http://cccpcamera.photo-web.cc/Ryoudo/HoppouBook/index.shtml
   
 さて、日本政府の説明とわたくしの説明とでは大きく違っているように見える人があるかもしれない。事実の一部を取り出して論を立てるのだから、書き方が違ってくるのは当然のことだ。しかし、私のページも、しょせん国内の文献が中心なので、日本側解釈の一例に過ぎない。悲しいことに、外国語が苦手なので、私の理解はこれ以上進まない。
  
 「別海町役場総合政策課」のページには「北方領土は、私たちの祖先が心血を注いで開拓した、わが国固有の領土」と書かれているそうだ。これを、諸外国の人に理解させようとして、英語で訳すとどうなるのだろう。「心血を注ぐ」をそのまま訳したら、戦って奪い取るとの意味になるのではないだろうか。日本政府の言う「固有の領土」をリトアニアの人が正確に理解するには、英語でどう言えばいいのだろう。



本の紹介―北方領土の謎2016年12月19日

 
名越健郎/著『北方領土の謎』 (2016/11)海竜社
 
 ソ連崩壊の時期、北方領土の現状を解説した本がいくつか出版された。この時、北方領土住民は、国家崩壊の混乱で苦境に陥っていたが、その後のロシアの経済発展に伴って、生活インフラは格段に整備された。現在、北方領土の取材映像が、テレビで時々放映されるので、本の解説を読む必要性は少なくなっているためか、北方領土の現状の解説本は少ない。
 
 本書は、北方領土の現状についての解説。近年では、北方領土の映像を見る機会は多いけれど、映像だけではわからない状況もあるので、本書を読むことは無駄ではない。
 本書は拓殖大学教授の名越健郎氏による執筆。北方領土問題の経緯の解説や国際法の解釈などについては、この点を考慮する必要はあるだろう。

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