本の紹介-樺太における日ソ戦争の終結-知取協定2022年02月01日

 
ニコライ・V.ヴィシネフスキー/著、小山内道子/訳、他『樺太における日ソ戦争の終結-知取協定』御茶の水書房 (2020/8)
 
 著者はサハリンの郷土史家。本の内容は、樺太の日ソ戦が終結した知取協定および関連事項。協定のほか、南樺太における日ソ戦の様子や、協定後の南樺太の様子、関連したソ連将校たちのその後などが書かれている。
 ソ連側資料のほか、樺太新聞、鈴木康生大佐の回顧録など日本側資料も使って、樺太戦の終結の模様を明らかにした専門書なのだと思う。私が軍事的な内容が苦手なのと、今一つ訳文が読みにくいことで、あまり理解できなかった。

本の紹介-東京裁判「神話」の解体2022年02月05日


デイヴィッド・コーエン 、戸谷由麻/著『東京裁判「神話」の解体 パル、レーリンク、ウェブ三判事の相克』筑摩書房 (2018/11)
 
 国際法学者と歴史学者による共著。本書は研究専門書を一般向けに書き下した本のようだが、内容は判決の詳細を裁判実務の立場から評価しており、専門的な内容で、きちんと読むには骨が折れる。
 
 第一章は東京裁判の判決(多数意見)を取り上げる。東京裁判は個々の被告人を裁判したものであるが、多数意見では、個々の被告人の罪状に対する検討が不足していると指摘している。
 
 第二章ではパルの少数意見を取り上げる。日本の一部右翼勢力はパルを高く評価しているが、本書では法律学者の立場からパル意見を判決になっていないと酷評している。
パル意見は厳密さや論理性の体裁を整えているが、その意見をつらぬくのは矛盾や不整合、不明瞭さ、うわべだけの論法、そして、裁判で受理された証拠のうち パルの目的に合致しないものの意図的な回避、である。(P88)
また、パルは『日本人には、連合軍捕虜のみならず自国兵をも虐待することが文化的に内在する』と残虐性は日本民族に内在するものと思っていたようだ。とんでもなく失礼なことだ。
 パルが各国裁判との関係で展開した論によると、国策を作成し部下の行動を指揮あるいは監督した軍司令官や政府高官は、配下にある者がすでに罪に対する償いをしたから 責任を逃れられる、ということになるが、この見解には何らの法的根拠がない。
 それにパル意見には、「俘虜の虐待が各種の方法で行われたことを立証する証拠は圧倒的」と、虐待の組織性を認めるくだりがみられる(『パル判決』下、六二四頁)。 その結果、一方では政府や軍指導者の責任追及を否定しながら、他方ではそのような追及を可能にする事実認定上の基盤を提示する、という自己矛盾に陥っている。
 パル意見を読んだ限りでは、パル自身が右の矛盾を自覚していたのかどうかはわからない。ただし、パルはつづけて被告人のために追加の弁明を提供する。 それは、日本人には、連合軍捕虜のみならず自国兵をも虐待することが文化的に内在する(『パル判決』下・六四二-五頁〉、というものである。 これは、不可解なばかりでなく、法的に見当違いな意見である。パルによると、証拠にみられる組織的虐待行為は、「共同謀議者団の措置ではない」のであって、 それはむしろ「日本人の国民生活と終始一貫したもの」と主張する(『パル判決』下、六四二頁)。(P145,146)
 ところで、パルを評価する日本の右翼勢力は、パルの少数意見を「パル判決」と言うことがある。判決とは裁判所の判断のことであって、裁判官の判断ではないので、「パル判決」とはデタラメな言い方だと思っていた。本書によると、パル自身が「パル判決」と言っていたそうだ。パルは、法律知識が乏しかったのか、それとも、自意識過剰な人だったのだろう。
 戦前のインドはイギリス植民地だったので、独自外交権をインドは持っていなかった。このため、インド代表のパルには、国際司法の知識が乏しかったとしても、仕方のないことだ。

 第三章はレーリンクの少数意見を取り上げる。日本の一部右翼勢力の中には、レーリンクが一部被告人を無罪としたことから、彼を評価する向きもあるが、本書では法律学者の立場からレーリンクの裁判官としての姿勢を酷評している。
 本章での論をまとめると、レーリンクがその反対意見でとってきた立場は、かれの判事や法学者としての名声に不名誉をもたらす内容であったと言わざるをえない。 なぜなら、レーリンクは政治的配慮に流され、判事としての自分の信念をまげた意見を著すに至ったからだ。(P198)
 第四章はウエッブ裁判長の判決書草案を取り上げ、判決として内容を高く評価している。しかし、この草案は判決書に含まれておらず、公表もされなかったもの。もし、ウエッブの判決書草案が評価できるものならば、なぜ、それが多数意見に採用されなかったのか、その点が本書を読んでもわからなかった。

維新はヒトラーを思い起こす(2)2022年02月08日

菅直人が大坂都構想を批判する投稿の中で、『大坂』と書いたところを、大阪維新の会の飯田哲史大阪市議会議員は、「『大阪』ぐらい漢字しっかり書いて下さい」と苦言を呈したそうだ。「大阪」「大坂」どちらでも大した違いはないように思うが。『阪』『岅』は『坂』の異字体なので、本来は同じ文字。

そもそも、「大阪」が定着したのはいつのことだろう。ネットで調べると明治以降は大阪であるとか、明治10年以降大阪が定着したなど、誤った記述が散見される。
   
上写真の左図は、明治7年5月29日の大阪郵便局の郵便印。『大阪』となっている。右図は明治8年10月31日の郵便印で『大坂』。この時代は「大阪」が多い。
   
上写真の左図・右図は、明治9年から12年の郵便印。年号が書かれていないので、正確な年は分からない。『大阪』『大坂』の両方が使われている。明治10年代前半は、どちらも使われており、どちらも珍しくない。
   
上写真は明治19年と明治21年の郵便印。どちらも『大坂』。明治10年代後半から20年代前半は「大坂」が多い。
   
上写真は大阪高麗橋、明治29年の消印で『大阪』。明治20年代の終わりごろになると「大阪」が増え、明治30年代になると、ほとんどすべてが「大阪」になる。ただし、明治33年になっても「大坂」の消印が使われている。
  
このように、明治30年代前半以前は、「大坂」「大阪」ともに使用され、「この字が正しい」などと、大げさなことを言わなかったようだ。人々は、今と違っておおらかに生きていたのだろう。維新の政治家にも、もう少しおおらかさがあってほしい。

維新はヒトラーを思い起こす(3)2022年02月10日

 「大坂」「大阪」の話の続きです。
 先の投稿では、明治10年代後半から20年代前半は「大坂」が多いと書きました。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2022/02/08/9462234
 これは、大坂郵便局の郵便印の話で、別のところでは「大阪郵便局」も使われていました。写真は、返戻郵便物に貼付された付箋。付箋の郵便局表示は「大阪」で、押印された郵便印は「大坂」。
  
 戦後、漢字の簡略化がすすめられ、新字体が定められた。この結果、多くの地名は旧字・俗字を新字に改めた。しかし、大阪は俗字をそのまま使った。なぜ、改めなかったのだろう。しかし「阪」は当用漢字・人名用漢字ではなかったので、名前に付けることはできなかった。「阪」が人名に使えるようになったのは平成16年以降。
 
昭和21年11月5日 当用漢字表・・・「阪」は含まれない
昭和23年1月1日 戸籍法改正により名前に使える漢字が当用漢字に限られた
昭和56年3月23日 常用漢字表・・・「阪」は常用漢字にも人名用漢字にも含まれない
平成12年12月8日 表外漢字字体表・・・常用漢字、人名用漢字以外の文字として「阪」の字体が収録されている
平成16年9月28日 改定人名用漢字表・・・「阪」が人名用漢字に採用され、名前に使えるようになった
平成22年11月30日 改定常用漢字表 ・・・「阪」は常用漢字表に含まれる

やさしい北方領土の話2022年02月13日

やさしい北方領土の話に「国際法を無視して、日本が一方的に設定した排他的経済水域」を追記しました。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm

 2021/5/28、宗谷岬沖で稚内の底曳網漁船「栄宝丸」がロシア国境警備艇に拿捕された。栄宝丸はロシア排他的経済水域内での違法漁業を認め、罰金600万ルーブルを支払い釈放された。しかし、栄宝丸船長は日本の排他的経済水域内で操業していたと説明している。船長が嘘をついていないとするならば、日ロ両国が主張する排他的経済水域が重複している可能性がある。
 排他的経済水域は、『海洋法に関する国際連合条約』第57条により、領海の幅を測定するための基線から200海里を超えてはならないと定められている。日本は、日本が主張する領土および日本が主張する領海の幅を測定するための基線を基準にして、中間線を日本の排他的経済水域としている。領土主張や基線の取り方が違うと、たとえ中間線をとったとしても、国によって主張する排他的経済水域が変わる。このような混乱を避けるためにも、日本は国際法に従った(2国間或いは多国間条約等を締結して)排他的経済水域設定すべきなのに、周辺各国何処とも、このような外交をせずに、国際法を無視して一方的に排他的経済水域を設定している。

ホームページ更新2022年02月17日

尖閣問題の参考書のページに、ここ数年内に読んだ本を追加しました。
http://nippon.nation.jp/Senkaku/book/indexbook.htm
 
尖閣問題の説明はこちら。
http://nippon.nation.jp/Senkaku/index.html

やさしい尖閣問題の説明はこちら。
http://nippon.nation.jp/Senkaku/YasashiiSenkaku/index.htm

竹島問題のホームページ更新2022年02月18日

竹島問題の参考書のページに、ここ数年内に読んだ本を追加しました。
http://nippon.nation.jp/Takeshima/Takeshimabook/index.htm
 
竹島問題の説明はこちら。
http://nippon.nation.jp/Takeshima/index.html

やさしい竹島問題の説明はこちら。
http://nippon.nation.jp/Takeshima/YasashiiTakeshima/index.html

やさしい北方領土の説明はこちら。
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm

Bowenia serrulata2022年02月19日

 
筑波にある国立科学博物館植物園にBowenia serrulataがありました。
「ソテツ類 スタンゲリア科」解説のページにBowenia serrulataを追記しました。
http://nippon.nation.jp/Cycas/Stangeria.htm
  
――――――――――――――――――――
「尖閣にソテツはない」はこちら
http://nippon.nation.jp/Senkaku/ETC/Sotetsu.htm
 
「尖閣諸島問題」のページはこちら
http://nippon.nation.jp/Senkaku/index.htm
 
「やさしい北方領土のはなし」のページはこちら
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Yasashii.htm

ワリエワの違反薬物は極めて微量2022年02月20日

 北京オリンピック、フィギュア女子・ワリエワ選手のドーピング違反が話題になっている。
 
『スポーツ仲裁裁判所の公表では、尿中から検出されたトリメタジジンの濃度は2.1ng/mL。(日本海テレビ)』
『ワリエワ選手の尿サンプルが検出されたトリメタジジンの濃度は1ミリリットルあたり2.1ナノグラムと分析された。これはサンプル汚染と判明した他のスポーツ選手と比較して、およそ200倍にあたる(Yahooニュース)』
  
 このような記事があるので、ワリエワの尿から検出された量は2.1ng/mlなのだろう。サンプル汚染の200倍との報道によって、ものすごく多い量であるかのような言説があるが、これは大間違いだ。理想状態ではサンプル汚染は、ゼロなのだから、この値の何倍であっても、服用量が多いことにはならない。ただし、検出計器の誤作動の可能性は、ほぼないだろう。
 
 では、心臓病等で、トリメタジジンを服用している人と比べたらワリエワの尿中濃度は多いのか少ないのか。
 トリメタジジン(バスタレルF錠)は、1回3㎎を1日3回服用するので、1日の服用量は9㎎である。トリメタジジン(バスタレルF錠)の説明書によると、6mg服用後48時間以内に尿中に排泄される量は平均60%である。多めに見積もって、1日の排出量が60%とする。また、1日の尿量は1リットルとする。1日服用量9㎎の60%が1リットルの尿に排泄させるのだから、尿中の平均濃度は5.4mg/Lであり、単位を変換すると、5400ng/mlとなる。ワリエワの尿中トリメタジジン濃度は、通常服用者の2000分の1以下となる。
 ワリエワがトリメタジジンをいつ服用したのか分からないが、もし、検査の直近だとしたならば、服用量は、通常1日服用量の1/2000程度と推測される。
 
 一般人が尿の薬物検査を受ける機会は少ないが、覚醒剤取締罰則違反容疑で、警察に尿検査をされることがあるかもしれない。尿を提出すると、警察は簡易キットを使って覚醒剤の有無を検査する。簡易キットの検出限界は1mlあたり数百ナノグラムである。簡易検査の結果、陰性ならば通常無罪放免、陽性・偽陰性ならば詳細検査をすることになる。ワリエワの尿から検出されたトリメタジジンの量は、覚醒剤使用で逮捕される量の1/100程度以下ということになるので、極めて微量だ。

 覚醒剤使用で逮捕される薬物量に比べて、極めて微量にもかかわらず問題となるのは、刑法犯とスポーツの違いだろう。刑法犯では「疑わしきは被告人の利益に」との原則があるため、警察もいい加減な検出で逮捕することはできず、十分な証拠が必要となる。これに対してスポーツは所詮、金儲けの興行なので、興行主・スポンサーの利益が最大の目的だ。このため「疑わしきは興行主の利益に」がスポーツの大原則なのだろう。
 
 以上、医薬品についても、スポーツについても、無関係な私が、簡単に考察してみました。間違いがある場合、ご指摘いただければ幸いです。

早稲田理工の数学入試2022年02月21日

   
 早稲田理工の数学入試問題は国立上位大学に比べてかなり易しい。予備校の講評を見ると、問3が「やや難」になっている。教科書の基本問題がなんとかできる程度の勉強では問3(3)はできないだろうが、ちょっと考えれば普通にできるだろう。早稲田理工の数学入試問題のためには、教科書中心の勉強でよいだろう。

問3の解答
(1)ものすごくやさしい初歩的問題。
b(n+1)-7/6={b(n)-7/6}/2と書けるので、
b(n+1)-7/6=(1/2)^n×(r-7/6)   注)^は累乗の意味
よって、 b(n)→7/6
同様に、c(n+1)-5/3=(1/2)^n×(r-5/3)
であるから c(n)→5/3

(2)普通に数学的帰納法で完答できる易しい問題

(3)nが大きい時 [b(n)] [c(n)] はともに1であることに気が付けばよい。
b(n+1)=7/6+(1/2)^n×(r-7/6)であるから、r-7/6≧0の時は、常にb(n+1)>1
また、r-7/6<0の時は-(1/2)^N×(r-7/6)<1/6となるNを考える。
結局、n≧Nのとき、b(n)>1が成り立つ。
同様にして、n≧Mのとき、c(n)<2が成り立つ。
N,Mの大きい方をLとすると、n≧Lのとき、1<b(n)≦a(n)≦c(n)<2となるので、
このとき、[a(n)]=1である。
すなわち、n≧Lのとき、
a(n+1)=1/4+a(n)/4+5/6であるから、
a(n)→13/9

* * * * * *

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