本の紹介-北海道の歴史(下)2022年07月05日

 
関秀志、桑原真人、他/著『北海道の歴史 (下)』北海道新聞社(2006/12)
 
下巻は明治以降。
 
明治政府の初期アイヌ政策について興味の持てる記述があった。

 明治政府は、その成立当初は主としてロシアに対する国防的観点からアイヌ対策を重視していた。たとえば、一八六九(明治二)年五月の上局会議での蝦夷地開拓等の勅問には、これまで日本官史はアイヌの人々を酷使して来たが、外国人(ロシア人)は樺太進出(南下)のため、彼等を味方に付けようといつくしんで来た。その結果アイヌの人々は日本人をうらみ、ロシア入を信頼するようになった。もし、ロシアがアイヌの人々を救うという名目で彼等を扇動するようなことがあれば、その禍はたちまち箱館や松前にまで及ぶだろう、という意味の内容が述べられている(太政官日誌)。しかし、一八七五(明治八)年、樺太・千島交換条約が結ばれ、日ロ間の領土をめぐる対立と緊張が弱まると、国防上の必要からアイヌ政策を論ずることは、ほとんど見られなくなった。(P77)

殺人者には恩赦をあたえ、自民党の政治家へ2022年07月09日

 
 安倍元首相が銃殺された。「なぜ?」「日本で?」多くの人はそう思っただろう。
 
 日本の歴史を振り返ると、井上日召ひきいる血盟団は、1932年、前蔵相・井上準之助、三井財閥・団琢磨を暗殺した。井上日召と実行犯の小沼正、菱沼五郎は無期懲役になるも、6年後に、昭和天皇は恩赦を与えた。
 その後、殺人犯・菱沼五郎は自由民主党の茨城県議会議員、茨城県議会議長となり、自民党の政策に基づき、茨城県に原子力発電所・研究施設を誘致し、補助金の不正取得に尽力した。
 写真は血盟団ゆかりの茨城県大洗町護国寺。殺人犯で自民党県議の菱沼五郎が寺の整備に尽力した。井上日召の銅像が建てられている。

本の紹介-仏菩薩の名前からわかる大乗仏典の成立2022年07月10日

 
田中公明/著『仏菩薩の名前からわかる大乗仏典の成立』春秋社 (2022/1)

 大乗仏教の起こりと、大乗経典の成立順を、「対告衆」の名前を基に、解明しようとする研究書。
 大乗仏典の多くは、初めの部分に、説法の参加者名簿が記されている。比丘・菩薩・天・優婆塞優婆夷の順が多い。これら参加者を対告衆と言う。本書は、対告衆の中の菩薩の名称を基に、大乗経典の成立順を推定する。菩薩の対告衆の中には、経典本文の中で大活躍するものもいれば、出だしの部分に名前が触れられている以外、経典に現れないものもいる。後者は、先行する大乗経典に名前が載っているので、それを拝借したものと考えて、経典成立順を推定している。また、初期大乗経典では、在家の菩薩が先で、出家の菩薩が後であるのに対して、中期以降は在家の菩薩がなくなることを以て、大乗経典は初期に於て、出家信者以外の中から成立したと推定している。
 大乗仏教は上座部系部派仏教僧侶の中から生まれたのだろうとの推定があったが、平川彰氏は出家者の周辺にいた法師(ダルマバーナカ)等によりつくられたとの説を唱えた。近年は、部派仏教僧侶の中から生まれたとする説が有力だそうだ。しかし、本書では、記載された対告衆の順番から、初期大乗経典は、僧侶ではなくて周辺から生まれたとしている。ただし、初期以降は、僧侶の中で作られたのであろうと推定している。
 本書は大乗仏教の起こりと経典の作成に関する研究なので、このような内容に関心のある者にとっては、興味が持てるものであるが、いろいろな大乗経典や対告衆の名称が出てくるので、ある程度、大乗経典を読んでいないと、とてもついて行ける内容ではない。また、経典に記載された対告衆の名称と順序から、著者のような推定は成り立つのだろうか。その点、疑問に感じた。

安倍元首相銃殺2022年07月11日

犯行動機は、統一教会がらみの怨恨だったことが、徐々に明らかになっています。政治、言論、そういうことではなくて、個人的な怨恨。大政治家の最後にしては残念です。
 
故・安倍晋三氏と「統一教会」の結びつきに関連して、2021年9月17日 に全国霊感商法対策弁護士連絡会が公開抗議文を出しています。
https://www.stopreikan.com/kogi_moshiire/shiryo_20210917.htm

安倍元総理と韓鶴子(統一教会のお母さま)2022年07月12日

 
 昨日のNHKクローズアップ現代では安倍元総理が統一教会系集会にビデオメッセージを送っていたことが報道されていた。しかし、ビデオメッセージで、安倍元総理が、韓鶴子に敬意を表した部分の手前で終わっていた。安倍・統一教会の関係に何らかの忖度があったのだろうか。
 ビデオメッセージで安倍元総理は以下の発言をしていたと、当時の赤旗が伝えている。
 「今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」
 なお、ビデオメッセージは、以下にあります。
https://www.youtube-nocookie.com/embed/qtzkP2Pi9tY?iv_load_policy=3&modestbranding=1&rel=0&autohide=1&playsinline=1&autoplay=0
 
 韓鶴子とは統一教会教祖・文鮮明の夫人で、統一教会信者は「お母さま」と言って、尊崇することが義務付けられている。かつて、統一教会は、詐欺商法を繰り返した。信者になると、文鮮明・韓鶴子への絶対服従が強要され、全財産を献金させられ、破産のうえ家族が離散することも多かった。安倍元総理を射殺した犯人も「韓鶴子お母さま」の名前は、自分の母親から聞かされていたことだろう。
 全財産を奪い、家族をメチャメチャにした韓鶴子に敬意を表する安倍元総理の態度に、犯人が反発したことは、当然だ。しかし、だからと言って射殺までするかと言えば、かなり飛躍があるので、その間の動機が何かについては、今後解明されることだろう。
 
 写真は、かつて統一教会系企業が販売していたメッコール。まずかった。今は、売っていないと思う。
 文鮮明のことを、信者でない私は「ブンセンメイ」と言っていたが、信者に近い友人から「サミュエル・ムーン」と呼ぶと聞いたことがある。信者が韓鶴子のことを、どんな名前で呼んでいたのかは忘れた。

安倍元総理・ビデオメッセージのUPFは統一教会関連団体2022年07月13日

 安倍元総理殺害事件に関連して、世界平和統一家庭連合(統一教会)会長は、7月11日に会見を行った。
この中で、安倍元総理と教団の繋がりについて、犯人の臆測とした上で、教団とUPF(天宙平和連合)との区別がついていなかったのではないか、との考えを示した。

 統一教会の霊感詐欺で被害を受けそうな一般人にとっては、とても受け入れがたい発言に思える。一般に、悪質新興宗教は新興宗教の看板を掲げずに、気づかれないように善良な市民に近づき、財産を巻き上げる。大学では宗教とは無関係なサークルを装い勧誘する。以前、私が学生だった頃は、大井町の統一教会が、駅前で英会話研修のような雰囲気で、若者を勧誘していた。暴力団とフロント企業は同一と見て警戒するのと同じで、統一教会関連団体は、たとえ無関係を装っていても、統一教会と一体と思って警戒しないといけない。
 写真は『霊感商法の勝共連合=統一協会 (共産党ブックレット)(1987/10)』に記載されている統一教会関連団体図。ずいぶん以前のものなので、今では名称も組織も大きく変わっている。

安倍総理殺害 自業自得か2022年07月14日

  写真の本は、
いのうえせつこ/著『新宗教の現在地』花伝社(2021/3) 監修/山口広

 本の内容は、現在の日本における新興宗教被害について取材したもの。幾つかの新興宗教を取り上げているが、多くのページを割いているのが統一教会で、本の半分程度になる。
 この本は、昨年読んだのだけれど、内容は、まあそんなものだろうと予測できたことだったので、特に大きな感想はなかった。
 http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2021/07/11/9397030
 今回、統一教会がらみの大事件が起きたので、前半の統一教会部分を再読した。

 著者は、2019年12月23日に、横浜市の公共施設で行われた、統一教会の勧誘活動を取材している。その後、施設の管理責任者に反社会団体に会場を貸さないように申し入れた所、「横浜の市議会議長も家庭連合の会員と近しいのですよ」と言われたそうだ(P24)。
 当時、横浜市議会議長と言えば、自民党青葉区連合支部支部長の横山正人氏だ。 横山正人氏の口利きがあって、統一教会が公共施設を使用したのかどうかは、本書の記述では分からない。公共施設を使用して勧誘すると、知らない人は、勧誘が半ば公的機関のものだと誤解しがちだ。このため、統一教会が、自民党議員の口利きで、公共施設を使用していたならば、自民党が霊感商法の共犯と言っても過言ではないが、事実はどうだったのか分からない。 しかし、本書の記述だけでも、何か感じの悪い予感がすることは確かだろう。
 その後、著者の再三の申し入れが2020年6月の神奈川新聞に取り上げられると、横浜市長定例会見で統一教会に横浜市の公共施設を貸さないことが回答された。

 統一教会と岸信介・安倍晋三政権との結びつきについて以下の記述がある。 
 日本に統一協会が上陸したのは1958年。翌年、「世界基督教一神霊協会」の名前で、すぐに宗教団体として認められた。この「速さ」の背景には、岸信介(当時首相)と、政商・小佐野賢治の存在が大きいとされる。
 文鮮明はさらに、日本の右翼界の大物、笹川良一や児玉誉士夫などとも交流を持ち、岸信介の支援を受けて、1968年4月、「反共産党」を旗印に掲げる「国際勝共連合」を発足する。…
 統一協会信者の若者たちは、保守系議員の選挙を無償で支えている他、議員秘書になったり、地方議員にも進出したりする者もいる。第一次安倍内閣、第二次安倍内閣とも、統一協会による選挙協力はすさまじく、安倍晋三にこびへつらう意味もあって、統一協会に協力する多くの右派政治家たちが、地方議員から国会議員にまで広がり、安倍政権下で徴用されるようになった。(P78~P80)
 本書以外にも、統一教会と自民党政治家との結びつきや、統一教会被害について書かれた本は多い。さらに、統一教会の霊感商法被害に対しては裁判所の判決などでも良く知られていることだ。
 このため、犯人が統一教会や韓鶴子を恨むのは当然だ。韓鶴子にビデオメッセージを送っている安部元自民党総裁や自民党を憎むのも理解できる。しかし、銃撃までするかと言えば、かなり飛躍があって、犯人の行動は理解しがたい。

 安倍元総理が犯罪被害者であることは間違いないが、自業自得の面がなかったのかどうかは、犯人の動機が明確でないので、何とも言えない。今後、裁判の中で、犯人の動機が明らかにされたあとに、考えればよいことだ。
 統一教会の霊感商法や自民党との結びつきが解明される可能性はあるのだろうか。犯人の裁判で、政権への忖度がなされ、この問題が公にならないような訴訟指揮が行われるならば、犯人の動機の解明には至らない。そうなったら、安倍元総理の被害に自業自得の面があったか、なかったか、永遠にわからなくなるかもしれない。

 安倍元総理殺害以降、統一教会被害が連日のように報道され、今でも統一教会被害が続いていることを多くの人が知るところとなった。これが犯人の目的だったのだろうか。もしそうだとすると、安倍元総理はとんだトバッチリと言えなくもないが、悪質新興宗教と近しい関係になるのは考え物なのだろう。

本の紹介ーブッダに学ぶ ほんとうの禅語2022年07月15日


アルボムッレ・スマナサーラ/著『ブッダに学ぶ ほんとうの禅語』アルタープレス(2020/1)
 
 著者はスリランカ上座部仏教の長老。
 本書は、日本や中国の禅宗における禅語を、上座部仏教の立場から解説。平易な文章で、難解な禅語を分かりやすく説明しており、たいへん読みやすい。
 本書では、禅宗が目指すものと釈迦の教えが目指すものが同じであること、しかし、釈迦の教えが分かりやすく語られたのに対して、禅語は聞いた方が意味を自分で考えるように語られていることが違うとしている。このような立場の違いからか、禅語の解説としては、非常にわかりやすい。ただし、禅語の意味不明な所に魅力を感じている人には、不満な内容だろう。
 
 著者によれば、釈迦の教えは誰でもわかりやすいことであり、日本の禅とは異なる。本書「あとがき」にこの点が明確に記されている。
 パーリ経典にあるブッダの言葉と違って、禅語は「説法している」「真理を語っている」ような感じを与えません。禅語を読んだ人は、「え?意味は何?」という気持ちになるのです。要するに、それについて集中して考えるはめになるのです。禅語はいとも簡単に人の興味をかきたてます。
 ブッダの教えは、精密に理論的に流れるものです。…精密な理論に則って語るお釈迦様の言葉を学んでも、誤解は生じません。異論も生じません。聴く人の主観で解釈して、本来の意味ではなく自分好みの意味に捻じ曲げることも成り立ちません。
 禅語には、この安定性がないのです。読んだ人が、しゃべった禅師が思った意味とは全く違った意味で理解してしまう可能性もおおいにあります。また、時間がたつと禅語が別な意味に変わってしまうこともありえるのです。
 言葉に対するお釈迦様の態度はこれとは異なります。意味は決して曖昧であってはならないし、語り手の伝えようとする意義は聞き手に正しく伝えられなくてはならない。ブッダは誤解を認めません。
 禅の師匠たちはあえて曖昧な言葉で語って、「誤解したらお前の問違いだ」という態度で、人々に「覚悟せよ」と迫るのです。両者は全く違う立場に拠っています。しかし、ともに解脱の境地を表現しているのではないかと思います。

本の紹介―霊感商法の勝共連合=統一協会2022年07月16日

 
日本共産党中央委員会出版局/編『霊感商法の勝共連合=統一協会』(1987/10)共産党ブックレット 
 
 35年前の出版。今更こんな本を紹介しても、読む機会はないと思う。
 1970年代、統一教会の勧誘は、大きな社会問題にはなっていなかった。1980年代になると、統一教会の霊感商法が盛んになり、週刊誌等で霊感商法被害が報告されるようになった。統一教会は、岸信介のような右翼政治家や、笹川良一、児玉誉士夫のようなヤクザ系の人たちと一緒になって、勝共連合を組織しており、勝共連合・統一教会は一体となって右翼活動と霊感商法を推し進めた。
 本書は、1987年に、共産党から出版されたもの。共産党なので、勝共連合と自民党政治家の癒着を取り上げた記述が多いが、当時の霊感商法の告発も重要なテーマとなっている。
 
 統一教会の霊感商法は1990年代になると活発になる。私が利用している川口駅でも、統一教会の人が通行人を呼び止めて「手相を見てあげる」と言っては勧誘しようとしたり、ハンカチを売っていたりした。若い人に声をかけていたようだが、当時、若かった私も何回か声を掛けられたことがある。このころ、霊感商法は社会問題となってゆく。また、歌手の桜田淳子が統一教会の合同結婚式で結婚したと報じられると、社会の関心を集めた。
 その後、統一教会への民事訴訟が各地で起こり、2000年代になると刑事事件も現れ、2009年には、警視庁が強制捜査を実施し、教団施設や関連会社が捜索され、幹部らが特定商取引法違反で有罪判決を受けた。
 
 統一教会が日本社会で警戒されるようになってきた1997年、統一教会は名称変更を目論む。しかし、この時は文部科学省が名称変更を拒否した。安倍派の重鎮・下村博文が文部科学大臣に就任すると、2015年に、家庭連合への名称変更が認められ、以後は家庭連合の名前などを使って、霊感商法が継続した。
 なお、日刊ゲンダイによると、下村博文は統一教会系企業から献金を受けている。
 
 本書は1987年の出版であるが、これより前、1985年にジャーナリスト青木慧『パソコン追跡勝共連合』が汐文社から出版されている。1980年代に統一教会の霊感商法を告発した本は少ない。

本ー宗教対立がわかると「世界史」がかわる2022年07月17日

 
島田裕巳/著『宗教対立がわかると「世界史」がかわる』 晶文社 (2022/5)
 
 興味が持てる内容ではなかったので、あまり読んでいないが、つまらなかったことを忘れないようにタイトルのみ書き留めておく。
 
 宗教と政治に関連があることは多い。政治の動機が宗教であることも少なくない。でも、逆もある。この本は、多くを宗教が原因であるかのようにしていて、強引な我田引水に感じる。
 著者は東京女子大教授時代、新興宗教犯罪では新興宗教側を擁護する発言が多かったようだが、オウム事件の時に、オウム擁護をしたため、大学を追われることになり、その後は文筆業をしている。このため著書が多いが、なんだか、骨がないようで、興味が持てないものが多い。
 
これまで読んだ島田裕巳の他の著書。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2021/08/16/9410313
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2021/02/06/9344756
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2020/06/27/9262118
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2020/06/07/9255146
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2020/03/04/9220537
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2019/02/01/9031180
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/11/18/9000279
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/11/14/8998755
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/11/07/8993906
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/10/29/8985273
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/10/28/8985061
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/10/25/8983534
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/10/24/8981001
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2017/03/15/8406387

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