本の紹介ーウクライナ戦争の嘘2023年07月19日


手嶋龍一、佐藤優/著『ウクライナ戦争の嘘-米露中北の打算・野望・本音』 (中公新書ラクレ) (2023/6/8)


 手嶋龍一は元・NHKワシントン支局長、佐藤優は元・外務省主任分析官で駐ロシア大使館勤務の経験がある。
 本書は、二人の対談で、主に国際政治の観点から、ウクライナ・ロシア戦争を説明する。この問題に対する、専門知識が豊富な二人の対談なので、客観的事実を語る部分が多く、好感が持てる。ただし、戦況予測など、突っ込んだ話はない。
 
 日本のマスコミでは、ウクライナ側の謀略宣伝の垂れ流し、アメリカ・イギリスのプロパガンダ、識者のいいかげんな解説が報道されていた。もっとも、2023年6月に、ウクライナが大反攻を行い、大敗北を喫している状況が明らかになると、多少は、事実も伝えられるようになっている。
 アメリカの情報がプロパガンダになっているのは、ネオコンのケーガン夫人が主宰する戦争研究所の情報を使うためである。
 かつて、イギリスからの国際情勢に関する情報は、かなり正確なことが多かった。大英帝国時代からの人脈がものを言っていると思っていた。ところが、今回のウクライナ戦争では、イギリスからの情報劣化が著しい。
 本書、P94~P100にこの理由が記されている。少し長くなるが、一部抜粋する。

佐藤 ウクライナ戦争をめぐるインテリジェンスに関して、私が最も驚き、危惧しているのは、実はイギリスなんです。今回のウクライナの戦いで、世界中のメディアが情報源として頼り切っているのは、アメリカの戦争研究所と英国防省です。いまはアメリカの戦争研究所以上に前のめりになっているのがイギリスです。英国防省とM16(秘密情報部)が毎週やっているブリーフィングは、メディアを介して戦局を左右するほどの影響力を持っています。…
 しかも、その中身は、正義はゼレンスキーに、不正義はプーチンにという"二項対立"のイデオロギーをベースにした大本営発表です。…
 世界に冠たる英国秘密情報部の様子が今回は実におかしい。ひとことで言えば、「インテリジェンス」と「プロパガンダ」が一体になってしまっている。
手嶋 この二つが一つになってしまえば、情報活動そのものが成立しません。秘密の情報活動で得た貴重なインテリジェンスを国家の舵取りに資するのではなく、相手国を惑わしたり、誘導したりする手段に使うのは邪道といわざるをえませんね。
佐藤 伝統あるインテリジェンス大国のイギリスでは、情報と宣伝は峻別されてきました。ですから、様々な戦争のさなかでも、BBCはおおむね公正な報道を行ってきました。にもかかわらず、今回のウクライナ報道では、明らかに当局の情報操作が入っていて、冷静な分析には役立ちません。
 昨年、ある雑誌の鼎談でエマニュエル・トッド氏に会ったのですが、彼も英国防省の発表のほとんどは根拠に乏しいプロパガンダだと断じていました。

佐藤 トッド氏は、BBCもさることながら、高級紙「ガーディアン」の報道がひどくなっているとショックを受けているようでした。そこに反映されているのは、エリートが劣化したイギリスの危機なのだ、と。
手嶋 英国エリート層の劣化は、情報活動の在り方にも大きな影響を与えていますが、どうしてこんなことが起きてしまったのでしょう。
佐藤 トッド氏にいわせれば、「長い目で見れば、まさにサッチャi改革の]つの帰結ではないか」と。サッチャーの時代、すべての価値判断を市場に委ねかねない新自由主義の流れが、イギリスに一気に流れ込んできた。そうした環境下で高等教育を受けた人たちが、社会の第一線に立つようになった。…
 分かりやすく言えば、すべてを金に還元することはできない、というヨーロッパ的なエリート主義の崩壊です。…ところが、アメリカとの違いがなくなって、結局ゲームに勝利したものが総取りしてかまわないという社会になってしまった。大げさではなく、イギリスからヨーロッパ的価値観が消えつつあるのです。 

 日本の専門家の解説はひどいものだ。ロシア・ウクライナ問題の知識は乏しいが、日本政府の方針に都合の良い解説をする人をテレビ局が呼んでいるためだと思う。本書、P138,P139には、以下のように記載されている。
佐藤 でも日本の現状を見ていると、プラモデルが好きで軍事評論家になったひと、アゼルバイジャンの地域研究者で、ロシアやウクライナを専門としない学者、極秘の公電に接触できない防衛研究所の研究者の論評が大半で、後世の評価に耐えるものは極めて少ないですね。
手嶋 その結果、ロシアがウクライナに侵攻した際には、驚くべきことが起こりました。欧米でも日本でも、「プーチンはほとんど狂っている」「病気でまともな判断ができなくなっている」という観測がメディアでまことしやかに流されたのです。
佐藤 「狂っている」というのは、分析の放棄以外の何ものでもありません。
 「プラモデルが好きで軍事評論家になった」のは東大・小泉悠先生。「アゼルバイジャンの地域研究者で、ロシアやウクライナを専門としない学者」は慶応大学・廣瀬陽子先生。廣瀬先生は静岡大学准教授時代には、アゼルバイジャン民俗の優れた論文を書いていたと思うが、慶応に来てからどうしたのだろう。
 それから、本書にはないが、東野篤子・中村逸郎の二人の筑波大学の先生もテレビで解説している。かつて、筑波大学学長は、統一教会・勝共連合の中心人物の一人だったので、統一教会の息がかかっているのならば、プロパガンダになるのは当然だろう。


以下に目次を記す。
第1章 アメリカはウクライナ戦争の“管理人”
第2章 ロシアが侵攻に踏み切った真の理由
第3章 ウクライナという国 ゼレンスキーという人物
第4章 プーチン大統領はご乱心なのか
第5章 ロシアが核を使うとき
第6章 ウクライナ戦争と連動する台湾危機
第7章 戦争終結の処方箋 日本のなすべきこと

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

* * * * * *

<< 2023/07 >>
01
02 03 04 05 06 07 08
09 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

RSS