本の紹介-ブッダが説いたこと2024年03月27日

 
ワールポラ・ラーフラ/著, 今枝由郎/訳『ブッダが説いたこと 』(岩波文庫) 2016/2
 
元の本は、1950年代に、スリランカの上座部仏教学者がヨーロッパ向けに、釈迦の仏教を説明する多恵、英語で出版されたもの。2016年に、岩波文庫から日本語訳が出版された。
 
 本書の内容は、釈迦の仏教の概要を説明するもので、具体的には、四諦の説明が全体の半分ほど。他に、釈迦の仏教でいるところの無我、および、心の修養の説明がある。四諦とは苦集滅道の4つの教えのことで、本書では『苦』と訳さずに、原語のまま『ドゥッカ』としている。釈迦の仏教の説明書はいくつもあり、多くは四諦に触れられているが、本書は、四諦の説明が詳しく分かりやすい。
 本書は、キリスト教圏の人向けに、仏教とはどのようなものであるかを説明している。日本人は、大乗仏教になじんでいるので、本書を読んだだけでは説明に違和感を覚える人もいるだろう。これは、本書に、仏教史の説明がないためである。本書で解く仏教は、釈迦の仏教に近いものであるが、日本で信仰されている大乗仏教は、後代になって著しく変質を受けたものなので、両者は大きく異なる。

イワノスケ陥落2024年03月24日

 昨年5月、ロシア軍はバフムト(アルテモフスク)をウクライナから解放した。その後、ウクライナ軍はバフムトの西10㎞にあるチャソフヤールに2~3万の兵力を置いた。バフムトとチャソフヤールの中間地点がイワノスケ(クラスノエ)で、ウクライナ軍はここを前線基地としていた。
 今年2月17日にアブテエフカが陥落すると、その後、イワノスケでの戦闘が激化した。2月末にはイワノスケはほぼ陥落したが、今年は例年にない暖冬で、最低気温がプラスになると、ロシア軍の行動が制限され、ウクライナの反撃が強まった。しかし、ここ数日前から、イワノスケをロシア軍が完全支配しているとの情報が数多くある。また、チャソフヤールへの、ミサイル・ドローン攻撃が激化している模様。
 
 ドネツク北西のアブテエフカが2月17日に陥落すると、急遽ウクライナ軍はベルディチ・オルロフカ・トネンコエを結ぶラインに防衛線を引いたが、2月末には、ロシア軍の攻勢により多くがロシアの支配になった。しかし、気温の上昇とともに、ウクライナ軍の反転攻勢があり、これら地区の一部は、再びウクライナの支配になった。しかし、3月下旬になると、ベルディチ・オルロフカ・トネンコエのうち、ベルディチの一部を除いて、ロシア軍が支配している模様。
 ベルディチ・オルロフカの先には、セメノフカ村があり、ウクライナ軍が支配している。途中に川があるのでロシア軍が正面から攻略することは、この季節では難しい。このため、セメノフカ村を避けるか、側面から攻撃するのか、いずれかになるだろう。

本-ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景2024年03月21日

 
国末憲人/著『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』岩波書店 (2023/10)
 
 読むことをすすめるわけではないが、この本があることを忘れないように書き留めておく。
 著者は、朝日新聞の記者のようだ。本書は、ロシア・ウクライナ戦争中に、ウクライナ各地を取材し、現地人の声を聴いた取材記。一般に、平時の現地取材記はそれなりに真実を言っていることが多いはずだが、戦争中のものはあまり真実でないことが多い。戦争中、住民は危険にさらされ、さらに将来、どちらが支配者になるのかわからないので、よほど信頼の置ける友人以外に、本音を話すとは限らない。著者は、西側国の取材者なので、本書が、住民への取材を客観的にまとめたものだとしても、西側国に都合の良い話がメインだったと想像される。さらに、ウクライナの取材なので、ウクライナ政府の便宜を受けていたはずなので、当然ながら、ウクライナ擁護の取材になることは容易に想像できる。
 このため、本書は、あくまで、ウクライナ政府側の取材であって、客観的立場ではないことを理解する必要があるだろう。また、本書は、2023年の夏ごろの執筆のようだ。このころ、日本では、ウクライナが反転大攻勢をかけるとの虚偽情報がはびこっていた。このため、そのような虚偽情報に惑わされた執筆になっていないかも考慮する必要があるだろう。
 いずれにしても、戦争が終結して、ウクライナが落ち着いてから、種々の情報を冷静に判断する必要があるだろう。

本の紹介-香害入門: 日用品に含まれる化学物質による新たな公害2024年03月19日

 
深谷桂子/著『香害入門: 日用品に含まれる化学物質による新たな公害』緑風出版 (2022/12)
 
 洗っただけで衣服に香りがついて、それが持続することを謳った洗剤がある。私は、こんな気持ちの悪いものは嫌いだが、特に女性に受けているようだ。臭いを付けることと、化粧とは近いものがあるので、女性に好まれるのだろう。
 衣服についた臭いが持続するのは、香料をマイクロカプセルに封じ込めているからであって、香料成分以外にマイクロカプセルも環境汚染につながる。
 本書は、過剰に香料を使うことに、警鐘を鳴らすもの。
 私も、女性のファンデーションの一部にアレルギーがあるようなので、臭いがきついのは嫌いだけれど、女性の厚化粧と、きつい臭いは、仕方のないことのように思う。

本-ウクライナ戦争とヨーロッパ2024年03月18日

 
細谷雄一/編『ウクライナ戦争とヨーロッパ』東京大学出版会 (2023/12)

今は読むことを薦めないが、こういう本があったことを忘れないために書き留めておく。

 ロシア・ウクライナ戦争がはじまると、TVに一部の学者が出演して、戦争の解説をしていたが、今となってみると、多くが誤りであることが明らかとなっている。解説陣には、東野篤子・廣瀬陽子などの名前が思い出される。
 本書は、2003年秋ごろまでの執筆のようだ。このころは、まだ、ウクライナの反転大攻勢があるかのごとき言説がまかり通っていた。これらの言説が、誤りであることがはっきりしてきた現在、本書を読むことにどれほどの意義があるのか疑問だ。
 もう少し、時間がたって、情報が整理された後の論文を読んだ方が良いような気がする。

 以下、章ごとの、執筆者と、タイトルを記す。
序(細谷雄一) ウクライナ戦争はヨーロッパをどう変えたのか
I(東野篤子) ウクライナ戦争が変えたヨーロッパ…ロシアによるウクライナ侵略がEU拡大に及ぼした変化
2(鶴岡路人) NATOはどう変わったのか…新たな対露・対中戦略
3(岡部みどり)ウクライナ「難民」危機とEU…難民保護のための国際協力は変わるのか?
4(小川浩之) ウクライナ戦争とイギリス…「三つの衝撃」の間の相互作用と国内政治との連関
5(宮下雄一郎)ロシア・ウクライナ戦争とフランス
6(板橋拓己 ドイツにとってのロシア・ウクライナ戦争…時代の転換をめぐって
7(廣瀬陽子) ウクライナ戦争とロシア人
8(合六 強) ロシア・ウクライナ戦争とウクライナの人々…世論調査から見る抵抗の意思
9(広瀬佳一) NATOの東翼の結束と分裂

本の紹介-南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々2024年03月16日

 
樋口英明/著『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々』旬報社 (2023/7)
 
読むことを薦めるわけではない。

 著者は、大飯原発の運転差し止め判決、高浜原発の運転差し止め仮処分決定をした元裁判官。
 本書の内容は、四国電力・伊方原発では、南海トラフ地震が起きても、最大181ガルの地震動しか来ないとの前提で、安全審査がなされているため、現実的でなく、安全とは言えないと説明している。181ガルとは、震度5強程度の為、これよりはるかに大きな地震は珍しくない。著者の指摘が事実ならば、伊方原発の安全審査には由々しき問題があることは明らかだ。
 著者は、元裁判官なので、普通に考えたら、証拠に基づく双方の主張を客観的に分析して、考察しているものと推測する人が多いだろう。しかし、本書P150で「ロシアがザポリージャ原発を攻撃目標とした事実です」と記載している。ザポリージャ原発攻撃に対しては、ロシアによるものとの見解と、ウクライナによるものとの見解があるが、戦争中の情報には、一般に謀略情報が多くて、真偽のほどは確定できないのが現状である。もし仮に、著者が、プーチンやゼレンスキーと頻繁に会合するる特別な外交官ならば、特別な情報チャンネルを持っている可能性もあるが、著者の経歴を見る限りそのような可能性は低い。結局、この部分に関しては、一方の謀略情報を真に受けて、自分に都合よく解釈して、結論をこねくり回しているだけの見解に感じる。
 だとすると、伊方原発の記述も、一方の謀略情報を真に受けて、自分に都合よく解釈している可能性が否定できないように感じる。著者の見解が事実なのかどうか、精査することなしに、本書を信じることは危険であると感じた。

本の紹介-ロシア・ウクライナ戦争 歴史・民族・政治から考える2024年03月13日

  
塩川伸明/編・著。他/著『ロシア・ウクライナ戦争 歴史・民族・政治から考える』東京堂出版 (2023/9)
 
 ロシア・ウクライナ戦争では、事実を理解せずに、ロシアを一方的に非難する言動がマスコミ等で横行していた。非難はともかく、「プーチンは癌で死にそうだ」「ロシアは弾薬が枯渇した」「ウクライナは2003年春以降、大攻勢をかけてクリミアを奪還する」などの、虚偽宣伝が、まことしやかに語られた。筑波大学・中村氏・東野氏、東大・小泉氏、慶応大・廣瀬氏、防衛研・兵頭氏などの名前が思い浮かぶ。
 
 こうした中、本書は、ウクライナ地域の歴史、ウクライナの政治、ウクライナにおけるナチスの評価など、客観的で正しい知識を得るために最適である。著者の一人、塩川伸明氏は旧ソ連地域の歴史・政治研究の大御所だけあって、他の執筆陣もしっかりしており、TVでいい加減な解説をしていた人たちとは大違い。 
 本書の各章のタイトルと著者を記す。
 
塩川伸明/著『第1章 総論―背景と展開』
松里公孝/著『第2章 ルーシの歴史とウクライナ』
大串敦/著『第3章 現代ウクライナの政治―脆弱な中央政府・強靭な地方政府』
浜由樹子/著『第4章 「歴史」をめぐる相克―ロシア・ウクライナ戦争の一側面』
遠藤誠治/著『第5章 自由主義的国際秩序とロシア・ウクライナ戦争―正義と邪悪の二分法を超えて』

イワノスケ 未解放2024年03月04日

 2月末に、ロシア軍の攻勢で、イワノスケが陥落したとの情報があった。しかし、その後、ウクライナ軍が盛り返したようだ。現在、支配地域は、両軍半々程度。アブデエフカ方面でも、ベルディチは両軍半々程度の支配と、3月に入って、ウクライナ軍が若干盛り返した。
 今年は、歴史的な暖冬だが、この地域でも、2月末ごろから、氷点下にならない日が続いた。このため、地面の状態が悪く、戦車などの機械戦力中心のロシア軍は機動力がそがれ、人海戦術のウクライナ軍が盛り返したものだ。今週後半は気温低下が予想されているので、ロシア軍が多少優勢になるだろう。しかし、この後、春季になると、地面は泥濘状態になり、両軍ともに進軍は停止する。戦闘再開は5月以降だ。この時までに、西側の大規模軍事援助がなければ、ウクライナの敗北は確定的。

イワノスケ陥落か2024年03月01日

 
 昨年5月、ロシア軍はバフムト(アルテモフスク)をウクライナから解放した。その後、ウクライナ軍はバフムトの西10㎞にあるチャソフヤールに2~3万の兵力を置いた。バフムトとチャソフヤールの中間地点がイワノスケで、ウクライナ軍はここを前線基地としていた。
 昨年末以降、全線にわたって、ロシア軍の圧力が強まり、2月17日にはアブテエフカが陥落し、その後、イワノスケでの戦闘が激化していた。現地時間、昨夜の段階で、イワノスケが陥落したとの情報と、南西部はまだウクライナ軍が支配しているとの情報がある。いずれにしても、ロシア軍による完全解放は時間の問題だろう。
 イワノスケが陥落すると、戦線はチャソフヤールに移る。ここは、南北に川が流れており、川にかかる4つの橋は、すでに落とされているとの情報があるため、チャソフヤールの解放は短期間では済まないだろう。しかし、チャソフヤールが陥落すると、もう、西側にはウクライナ軍の防衛拠点はない。

 2月17日にはアブテエフカが陥落すると、急遽ウクライナ軍はベルディチ・オルロフカ・トネンコエを結ぶラインに防衛線を引いた。しかし、現地時間2月29日夜の段階で、すべてロシア軍の支配に入っている模様。

本の紹介-分断と凋落の日本2024年02月27日

 
古賀茂明/著『分断と凋落の日本』講談社(2023/4)
 
 著者は元経済官僚。本書は、安倍政権下で、日本が停滞して、世界の発展から大きく取り残された状況について説明している。安倍政権全般について記載しているが、経済的観点が多い。本書の内容の多くは、すでによく知られたことと思われる。
 
 安倍晋三は成績優秀な家系のなかで、相当な落ちこぼれだった。こういうコンプレックスの塊みたいな人を国のトップに据えたのが誤りだったのだろう。

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