本の紹介 ― 2026年05月04日
青木美希/著『それでも日本に原発は必要なのか? 潰される再生可能エネルギー』(2026/2)文春新書
著者は、朝日新聞社の社員らしい。
本の内容は原発に反対する立場から、原発の問題を明らかにするもの。原発問題に関心のある人には、特に目新しい内容は少ないようだが、事実が客観的に、わかりやすく書かれており一読の価値はある。
著者の所属する大手新聞社は、本書の出版に圧力をかけているようで、著者がこのまま社員でいられるのかどうか疑問とする向きもあるようだ。かつて、朝日新聞社はリベラルの論調だったが、安倍政権によって朝日新聞が批判されると、急に右傾化した。本書は文春新書からの出版。かつての朝日新聞社ならば、関連会社から出版されていたことだろう。
本の紹介-廃仏毀釈はなぜ起きたのか ― 2026年04月30日
栗林文夫/著『廃仏毀釈はなぜ起きたのか』山川出版社(2026/3)
著者は、鹿児島県の郷土史家。明治初期の廃仏毀釈は、各地方で濃淡があったが、その中で、鹿児島県は最も徹底的に廃仏毀釈が行われた。本書は、鹿児島県の廃仏毀釈を詳述している。一次資料の引用も多いが、本の文章はおおむね読みやすい。
幕末、薩摩藩は赤字財政を立て直すため、天保通宝の贋造に手を染めた。その時の中心人物が、市来四郎で、贋造天保通宝は1億枚にのぼったようだ。現在、天保通宝の中で、薩摩銭は本座銭に次いで安価に入手できる。天保通宝贋造には銅が必要であり、このため市来四郎は寺から梵鐘や仏具を強制徴収したと言われている。本書には琉球通宝の鋳造については書かれているが、膨大な天保薩摩銭の贋造については触れられていない。
本書では、廃仏毀釈の原因について次の1から9を挙げている。
-----------------------------------------------------------------
1 江戸時代には僧侶自身も宗門改の役人の改めを受け、その職能も他藩の僧侶より狭く、社会的地位もさほど高くなかった。
2 民衆のほとんどがかくれ念仏の信徒で、表面だけ各宗旨の檀那寺についていた。
3 寺請制度が薩摩藩にはなく、寺院と民衆との直接的関係が見いだしにくい 。
4 廃寺によって職を失った僧侶に食料を給与し、希望者は兵士・教員・巡査・官公吏に採用するな ど、その生活を保障したから。
5 鋳銭事業を契機とした梵鐘鋳つぶし論が、廃仏毀釈のハードルを低くした。 またこれより先、島津斉彬が梵鐘を集め置いたことは、後人に彼の遺志が廃仏にあったと思わせる効果があった。
6 薩摩藩の地理的位置が九州の最南端にあり、外からの情報が入りにくかった。
7 薩摩藩は当時、幕末の混乱した政局の真っ只中にあり、戊辰戦争を遂行する必要から、多額の金 銭が必要であったという経済的理由(途中省略)。まさに「背に腹は代えられない」ということである。
8 古くからいわれていることであるが、国学が流行するなどして、藩士らのなかに廃仏的世風が一定程度広がっていたこと。
9 市来四郎が談話で強調したのは、「世の形勢」「時勢」という言葉であった。いずれも「世のなかのありさま、世のなりゆき」のような意味で使用されている。もちろん、突然 廃仏的な世の形勢や時勢が生ずるのではなく、そのようになるには右の1から8までのいくつかが前提となってのことだと思われる。しかし、一度、世の形勢や時勢が動き出すとそれを止める ことはなかなか困難になる。
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1~4は廃仏毀釈がスムースに進んだ要因であって、廃仏毀釈の原因ではない。6は何を言っているのか私にはわからない。市来が強力に廃仏毀釈を推し進めたのは、5,7の経済的要因と考えるのが妥当だと思う。
著者は、鹿児島県の郷土史家。明治初期の廃仏毀釈は、各地方で濃淡があったが、その中で、鹿児島県は最も徹底的に廃仏毀釈が行われた。本書は、鹿児島県の廃仏毀釈を詳述している。一次資料の引用も多いが、本の文章はおおむね読みやすい。
幕末、薩摩藩は赤字財政を立て直すため、天保通宝の贋造に手を染めた。その時の中心人物が、市来四郎で、贋造天保通宝は1億枚にのぼったようだ。現在、天保通宝の中で、薩摩銭は本座銭に次いで安価に入手できる。天保通宝贋造には銅が必要であり、このため市来四郎は寺から梵鐘や仏具を強制徴収したと言われている。本書には琉球通宝の鋳造については書かれているが、膨大な天保薩摩銭の贋造については触れられていない。
本書では、廃仏毀釈の原因について次の1から9を挙げている。
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1 江戸時代には僧侶自身も宗門改の役人の改めを受け、その職能も他藩の僧侶より狭く、社会的地位もさほど高くなかった。
2 民衆のほとんどがかくれ念仏の信徒で、表面だけ各宗旨の檀那寺についていた。
3 寺請制度が薩摩藩にはなく、寺院と民衆との直接的関係が見いだしにくい 。
4 廃寺によって職を失った僧侶に食料を給与し、希望者は兵士・教員・巡査・官公吏に採用するな ど、その生活を保障したから。
5 鋳銭事業を契機とした梵鐘鋳つぶし論が、廃仏毀釈のハードルを低くした。 またこれより先、島津斉彬が梵鐘を集め置いたことは、後人に彼の遺志が廃仏にあったと思わせる効果があった。
6 薩摩藩の地理的位置が九州の最南端にあり、外からの情報が入りにくかった。
7 薩摩藩は当時、幕末の混乱した政局の真っ只中にあり、戊辰戦争を遂行する必要から、多額の金 銭が必要であったという経済的理由(途中省略)。まさに「背に腹は代えられない」ということである。
8 古くからいわれていることであるが、国学が流行するなどして、藩士らのなかに廃仏的世風が一定程度広がっていたこと。
9 市来四郎が談話で強調したのは、「世の形勢」「時勢」という言葉であった。いずれも「世のなかのありさま、世のなりゆき」のような意味で使用されている。もちろん、突然 廃仏的な世の形勢や時勢が生ずるのではなく、そのようになるには右の1から8までのいくつかが前提となってのことだと思われる。しかし、一度、世の形勢や時勢が動き出すとそれを止める ことはなかなか困難になる。
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1~4は廃仏毀釈がスムースに進んだ要因であって、廃仏毀釈の原因ではない。6は何を言っているのか私にはわからない。市来が強力に廃仏毀釈を推し進めたのは、5,7の経済的要因と考えるのが妥当だと思う。
本の紹介ー大乗仏典 8 十地経 ― 2026年03月21日
荒牧典俊/訳『大乗仏典 8 十地経 新訂版』中央公論社(1980.8)
1974年に出版された本の改定新版。2003年に中公文庫から出版されている。
十地経とは華厳経の中の十地品のこと。華厳経は奈良時代に伝わり、東大寺を中心に研究され、日本仏教に多大な影響を与えた。
本書は十地経の口語訳。漢文は無い。文章は平易に書かれているけれど、何となくすっきりしない。
十地経は菩薩の段階を十段階に分けて、それぞれの内容を説明するもので、特に第6地では、唯識につながる大乗仏教の世界観が示されている。本書P400の解説には、十地のそれぞれの内容を以下のように説明している。
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十地の「菩薩道」はどのような構造をもつようになっているか。『十地経』自身が、その「菩薩道」の中心ともいうべき第七地において、つぎのようにうたっている。
第一地において、「あらゆる誓願を成就する」
第二地において、十種の善なる実践道をふみ行なうことによって「心の垢れがなくなる」
第三地において、すべてを喜捨して一句の法を聴聞し、禅定に深まり、神通をあらわすことによって,「真理の現前を体得する」
第四地において、三十七種の菩提にみちびく「修行道を体得する」
第五地において、さらに向上して、それらの修行道を実践するとともに、「世闘のもろもろの活動にしたがって生きていく」
第六地において、さまざまな条件に条件づけられて生成するという「もっとも奥ぶかい真理の種々なる道を体得する」
第七地において、「あらゆる仏の不思議なる存在が、いまここに現前する」
もし同様につづけるとするならば、
第八地において、あらゆる存在は生じないというさとりをさとって、無量無辺なごとごとについての知がある。
第九地において、無璽無辺なことことについての知がさらにきわまって、四種の無擬自在な説法力をはたらかせ、仏法のエッセンスを体得して、無磯自在に説法する。
第十地において、「すべてを知る知者のすぐれた知をさとるであろうとの灌頂を授けられる」三昧が現前し、無量無辺なごとごとについての知がいよいよ円満になって、「かぎりない法の雲」のごとくである。
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本の紹介ー日本政治と宗教団体 ― 2026年03月18日
中北浩爾、蔵前勝久/著『日本政治と宗教団体 その実像と歴史的変遷』 (2025/11) 朝日新書
本書は、創価学会、統一協会、神社と日本会議、立正佼成会の4つと、政治との関わり合いの歴史を説明するもの。文章は読みやすい。
統一協会は極めて熱心に選挙活動をし、創価学会もかなり熱心であるが、後の2つは、信者が特定候補の選挙運動をすることはないようだ。統一協会が自民党と深くかかわることができたのは、信者のパワーなのだろう。
統一教会擁護の自民党有力政治家としては、古くは岸信介、最近は安倍晋三が有名だが、一時期は、中曽根康弘も深い関係があった。本書では数ページにわたって中曽根康弘と統一協会の関係に触れる。この中で、87/7/10参議院本会議で霊感商法の統一協会との関係を断つように質問された中曽根は、これを激しく拒絶したことが記されている。
立正佼成会は政治とかかわりのなかで、むしろ政治に翻弄されているとのことだ。統一協会・創価学会と立正佼成会・神社を比べると、教団と信者の関係が大きく異なるので、教団と政治との関係も、各教団によって大きく異なるのだろう。
本の紹介ー陰謀論と排外主義 ― 2026年03月02日
藤倉善郎・他/著『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』 (扶桑社新書) 2025/11
著者は以下の7人で、各自が一章を執筆している。このほか、藤倉が前書きを、菅野が後書きを担当。
黒猫ドラネコ、山崎リュウキチ、古谷経衡、藤倉善郎、選挙ウォッチャーちだい、清義明、菅野完
川口市では、2月に市長選があった。この中で、排外主義を主張する2名が合計で20%程度の得票を得ていた。まったく市長にふさわしくない者だったので、単純に排外主義の得票とみて間違いないだろう。選挙前、川口駅前では、坊主頭でサングラスの暴力団員風男が、日の丸の小旗を配っていた。20年前も在特会を名乗る候補が日の丸を振っていたし、50年以上前から暴力団風右翼団体構成員が日の丸を掲げて街宣していたので、排外主義者の運動自体は昔からのことだが、かつては選挙に出ても、すべて泡沫候補で。当選などはあり得なかった。
ところが、川口の隣で、戸田市議に河合ゆうすけがトップ当選するなど、各地で、ヘイト系候補の地方議員が誕生しているようだ。
本書は、7名のライター等により、ヘイト系候補やそれら言説が一定の支持を得られている現状を報告するもの。
私は川口市に住んでいるので、ネットで騒がれているクルド人に対するヘイトスピーチが、全く根拠のないデマであることは良く分かる。本書を読むと、ヘイトスピーチが国民の間で、一定の賛同を得ている状況がわかるが、なぜ、そのようになってしまったのか、本書を読んでも、良く分からなかった。
今日、交通も通信も十分に発達しているのだから、川口のクルド人問題が、排外主義者のデマであることなど、容易にわかるはずなのに。
本の紹介ー死なないと帰れない島 ― 2026年03月01日
酒井聡平/著『死なないと帰れない島』講談社(2025/7)
大戦間の一時期、日本はコカを栽培していた。
コカ栽培は、台湾や沖縄でも行われていたが、最大の生産地・集積地は硫黄島だった。
本書の中で、数ページにわたって、硫黄島コカ栽培について記されている。本書では、住民は医薬品の原料と思っていたと書かれているが、間抜けな住民はそのような言説を信じたかもしれないが、麻薬のコカインの原料であることを知っていたものもいただろう。本書では、栽培されたコカはコカインとなって、ナチスドイツに密輸されたと書かれているが、インドへ密輸されたとの話も聞いたことがある。麻薬の密輸先など、カネになれば、どこにでもするものだから、ナチスドイツに限ったことではないだろう。
本の紹介ー世親 ― 2026年02月14日
三枝充悳/著『世親』講談社学術文庫(2004/3)
世親は4~5世紀ごろのインドの学僧。無着の弟。
世親の業績には倶舎論・唯識・浄土教の開祖の3つがある。本書では、世親の伝記に触れた後、世親の倶舎論を概説するが、これらは本書のメインではない。本書の中心は、世親の唯識思想で、彼の代表的諸作である「成業論」「唯識二十論」「唯識三十頌」を説明している。このうち、唯識三十頌の解説は文章も読みやすく、かなりわかりやすく書かれているように感じるが、唯識思想自体が難解であり、読んでいても何を言っているのか理解が及ばなかった。
唯識思想は、日本に伝わり、法相宗として興福寺を中心に研究された他、日本仏教思想の基底として重要な位置を占めることとなった。
なお、本書には、浄土教の開祖としての世親の思想には触れられていない。
本の紹介-終わらないPFOA汚染 ― 2026年02月06日
中川七海/著『終わらないPFOA汚染―公害温存システムのある国で』(2024/10) 旬報社
PFASのなかでも毒性が強いPFOAをダイキン工業淀川工場が垂れ流していた。実際は、活性炭で回収した後に未回収部分を垂れ流していたのかもしれないが、摂津市を中心とした下流域では広範囲に汚染が広がった。ダイキンが活性炭で回収したPFOAは岡山県に無造作に放置されたため、吉備中央町では、大きな健康被害が起こったらしい。本書には、岡山の健康被害の話はあるが、ダイキンとの関係は書かれていない。
本書は、ダイキンPFOA汚染とそれに対するダイキンの無責任対応、市長のずさん対応、国の無責任対応、マスコミのダイキン配慮などが詳細に示される。
本の紹介―参政党のヒミツ ― 2026年02月04日
倉山満/著『参政党のヒミツ』ビジネス社(2025/9)
参政党は神谷宗幣が作った政党。本書は、かつて、神谷の協力者だった著者による神谷を中心とした参政党の説明。
怪しげな政党であることは多くの人の認めるところだろうが、本書を読むと「やはり」と頷ける。
ところで、参政党の強みは地方組織があることだが、それの構築にはカネがかかるだろう。神谷はどのようにして地方組織を作ったのか、資金源は何か。本書を読んでもその点はわからなかった。
本の紹介ー西洋の敗北 ― 2026年02月02日
エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』文藝春秋(2024/11)
本書は著者が主に2023年7月から9月に書いた内容の日本語訳。
同年6月、ウクライナ軍はロシアに大攻勢を仕掛けた。日本のマスコミ報道では、西側の高性能戦車などにより武装したウクライナ軍の圧勝で終わるとの予想を連日立てていたが、実際は、ウクライナ軍の大攻勢は、ことごとく、失敗した。また、日本のマスコミ報道では、ロシアは一年以内に経済的に破綻するとの予想が語られた。
本書において、著者は、ウクライナ軍大攻勢の失敗と、西側兵器が役に立たないこと、ロシア経済が安泰なことを予言している。日本でテレビに出演していた学者たちの予想が、ことごとく外れていたのに対して、著者の予想は当たっている。
本書では、第1章から第3章で、旧ソ連圏の現状を分析する。それらのまとめとして、以下のように記している。これが、ロシア・ウクライナ戦争を正しく見るために重要な視点だろう。
『旧ソ連圏を振り返ることで、ロシアはその安定性に加えて、ある種の経済ダイナミズムも見出していたことがわかった。ロシアは、出生率が低下している人口動態により、いかなる領土の拡大も望めないことも確認できた。今の世界が直面している混乱の原因がロシアにはないことは明らかである。
国家として崩壊しつつあるウクライナを検討することで、混乱の原因はより明白になった。とはいえ、ウクライナ程度の規模の国が一国で世界中を大混乱に陥らせることもまた不可能だろう。私はバルト三国を含めた東ヨーロッパの旧社会主義諸国についても検討した。そこで明らかになったのは、これらの国は長い歴史を通してロシアではなくむしろ西洋に翻弄されてきたということである。』
第4章~第7章で、西欧・北欧を取り上げる。西欧はドイツ・フランス・イギリスが記述の中心。著者は、この章について、簡単に以下のようにまとめている。
『ヨーロッパの自立という夢の挫折、イギリスの国民国家としての衰弱、スカンジナビアの逸脱』
第8章から第10章はアメリカを取り上げる。ここでは、(宗教的意味を含めた)アメリカの衰退について記述している。本書は、第二次トランプ政権誕生以前に出版されたものなので、昨今のトランプ政権の国際対応の横暴と、西欧の対立について、これほど急激に起こるとは予測していない。著者の予測以上に急激にアメリカが衰退しているのだろう。
第11章では、日韓以外のアジア諸国などが西欧・アメリカに追随しなかった状況を記す。
本書は、著者の国際関係の認識と、執筆当時の近未来の予想であるが、その後の国際情勢は著者の説の正しさを裏付けているように思う。