日本漁船の不法操業事件2006年08月19日

 8月16日、歯舞沖で密漁中していた日本漁船が、ロシア警備隊から銃撃を受け、漁船員1名が死亡する事件がありました。

 ロシアは、これまで経済不振のため、沿岸警備艇の燃料も、ままならない状態にありました。北方4島周辺海域の密漁船対策も、おろそかになっていました。経済の好調に伴って、ようやく、密漁船対策が取られてきたようです。北方4島周辺海域は、領土問題があるので、日ロ双方の主張が異なるところですが、密漁船対策と資源保護は、日ロ双方共に、きちんと対処して欲しいものです。

 今回、密漁が行われた海域は、北海道の規制でカニ漁が禁止されています。このため、今回の密漁船は、日本の国内法の違反でもあるわけで、そういう意味では、責任のすべては、密漁船、特に船長に有ります。しかし、北海道規制を守らせることができなかった、日本の警備当局にも落ち度が無かったとはいえません。本当は、お盆で、日本の警備が手薄なときを見計らって、密漁に出たのでしょう。

 この海域には、かつてレポ船と呼ばれる漁船がありました。レポ船とは要するにスパイ船です。日本の情報をソ連に渡す代わりに、不法操業をお目こぼし、してもらう船です。日本の情報ではなくて賄賂の場合もありました。レポ船は用済みになると拿捕されることが有りました。レポ船は、次第にソ連が必要としなくなり、姿を消してゆきます。
 そのうち、特攻船といわれる漁船が現われました。高速エンジンを積んで、見つかると、高速で逃げ切る船です。特攻船は、資源破壊につながり、日ロ双方が手を焼く、犯罪船です。特攻船の場合も、ロシア側は、かなり正確に情報をつかんでいたそうです。
 日ロ貿易が盛んになると、これらの船の話もあまり聞かなくなります。

 レポ船や特攻船の船主は、地元では「やくざ」だったことがあったそうです。陸では「やくざ」、海では「犯罪船」。今回の密漁船長がどのような人だったのかは、今のところ情報がないので分かりません。
 北の漁師のごく一部には、密漁(国内法違反)で大もうけしている不心得者がいることは確かです。しかし、圧倒的大多数の漁師は、法を遵守して、まじめに漁をしています。密漁は、漁業資源に悪い影響を与えるので、まじめな漁師にとっては迷惑な行為です。


日本の法律は、北方領土に及ぶか:
 今回の密漁事件に対して、「北方領土は日本の領土なので、日本の法律で裁くべきであった」との意見があります。この問題に対しては、1966年の北島丸事件が参考になります。

 1966年8月21日、北島丸は、クナシリ沖に於いて、ホタテの密漁をしたため、日本の警備当局に逮捕されました。この1審判決が、1968年3月29日、釧路地裁で言い渡されています。現実に統治権の及ばない南千島海域での行為は、日本の法律を適用できないとの判断で、被告全員に対して無罪判決が言い渡されました。
 北島丸事件は、その後、札幌高裁の控訴審で、「漁業法は資源保護の立場から無許可の操業を禁じており、わが国の統治する海域に限られるべきではない」との理由で、逆転有罪となり、この判決が確定しています。控訴審判決は、現実に統治権の及ばない海域での行為に、日本の法律が適用できるか否かの判断を避けています。

 今回の密漁は、北島丸事件の控訴審判例によれば、日本の法律(漁業法)で裁けると言うことになりますが、現実に統治権の及ばない海域での行為であっても、日本の法律が適用できるとの判断がない以上、「日本の法律で裁くべき」問題とは言えないでしょう。

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