防空識別圏(ADIZ)2014年09月03日

 
 昨年、中国が尖閣周辺空域をADIZに含めたことが報道されると、日本では、これを「危険な暴挙に他ならない」と批判する論調が多かった。でもね、この問題は、1972年に、すでに議論されていて、問題ないとの判断があって、日本は尖閣上空空域をADIZに設定した経緯があります。
 
 
昭和47年03月21日 衆議院予算委員会第二分科会
 
○楢崎弥之助分科員 中国側が尖閣列島の領有権を主張する、もしそこに日本の飛行機がADIZで飛んでいく、そうすると、中国側が自分の領土に飛んできたということで、スクランブルをかけないという確信があなた、ありますか。
 
○久保政府委員(防衛庁防衛局長) 共産圏のADIZがわからないのでありますが、極端な例を申しますれば、わがほうのADIZと共産圏側のADIZが交錯をしている、たとえば尖閣列島を互いに取り込んでおるということでも、格別それが不都合ということにはならないというふうに私は思います。また事実上の問題としましては、尖閣列島の上空を飛んでいる場合に、わがほうが間に合うというわけにはまいりません。

本の紹介-領土という病2014年09月04日


岩下明裕/編著「領土という病」 北海道大学出版会(2014.7)  

 日本の領土問題について、複数の人の講演や対談がまとめられている。内容は一般的解説ではなく、研究者の講演・対談集。
 領土問題の考え方、竹島問題、北方領土問題、尖閣問題、領土問題と政治の関連、領土問題と世論、等、幅広い内容。逆に言うと、個々の問題に対する深い解説は無い。このため、日本の領土問題にあまり詳しくない人が読んでも、話が散漫になっているように感じるだろう。しかし、ある程度、日本の領土問題を学んだ人ならば、領土問題に対して、どのような視点を持つべきかのヒントが得られるように思う。
 10人の研究者が、各自、いろいろな立場で解説しており、参考になる内容は多いので、日本の領土問題に関心のある人には、一読の価値があるだろう。

本-地図と年表で見る日本の領土問題2014年09月06日

 
地図と年表で見る日本の領土問題 浦野起央/著 三和書籍 (2014/8)
 
読むことを勧めない
 
一般大衆向けに、おおざっぱな知識を得るために書かれた本なので、詳細内容が無いのは仕方ないが、この本は、記述がずさんすぎるように感じる。
 
 本の内容は、日本の領土問題である「尖閣」「竹島」「北方領土」の説明の他に、領土の一般論と、領土境界防衛について記されており、全部で5章になっている。イラストや表が多くて、視覚的に捕らえやすいが、そのぶん、詳しい内容はない。領土問題の解説はおおむね日本政府の主張に沿っている。
 北方領土問題は、76ページから95ページまでの合計20ページ。
 
 最初の76ページからおかしなことが書いてある。
 「日本は、この北方4島を本来の領土であるとして返還を要求しており、たとえ未返還であっても、根室市に属するとしている。」
 これは、アヤマリでしょう。根室市役所のホームページを見ると、平成25年度の根室市の面積は512.73㎞2(面積は歯舞群島の面積を含む)となっているので、根室市に、色丹島・国後島・択捉島は含まれていない。北方領土に、本籍を登録することが出来るが、この事務処理を根室市が代行しているので、このことと混同したのだろうか。
 
 次の78ページは、江戸時代のこの地域の歴史が書かれている。
 「徳川家康から北海道の統治を委ねられていた松前藩」と書いている。慶長9年徳川家康の松前慶広宛黒印状では、アイヌはどこへ行くにも勝手とされていたので、松前藩が北海道統治を委ねられていたのではない。日本人が、アイヌと交易するときの管理を委ねられていたのでにすぎない。
 
 さらに、80ページには、日ソ領土交渉について書かれている。ここも、何を書いているのか。
 「ロシア政府の公式見解は、日ソ共同宣言に基づいた平和条約締結後、歯舞・色丹の2島だけを引き渡す2島譲渡論(返還ではない)である。」
 確かにソウなのだけれど、日ソ共同宣言で、「引き渡す」となっているのだから、実際の領土交渉では「引き渡す」であって、日本政府が国民向けに宣伝している「返還」の用語が使われることは期待できないだろう。日ソ共同宣言の用語が使われることに、何か、問題でもあるというのだろうか。
 
 北方領土問題以外も、もう少し、内容を吟味欲しい。
 以前、日本政府は、竹島と鬱陵島の距離を92kmとしていたが、1年前には、88kmに修正された。この本は、昔の92kmになっている(P59)。本の表紙に「緊急出版」と書くならば、最新の知識を使って欲しいものだ。
 
 尖閣問題でも、もう少し、正確な記述をして欲しかった。
 何箇所か、中国船の領海侵犯と書かれている(P46など)。領海は、領土や領空と異なって、無害通航権があるので、進入したからといって、侵犯になるわけではない。最近のニュース報道でも、ほとんど領海侵入と言っているので、せめて、ニュース報道程度の正確さで書いて欲しかった。

本の紹介-ワケありな日本の領土2014年09月07日

 
沢辺有司/著「ワケありな日本の領土」彩図社 (2014/7) 
 
 日本の領土問題である「尖閣」「竹島」「北方領土」をほぼ均等に解説。一般向け解説書であって、専門的内容は無いが、読みやすい。
 本の内容は、日本政府の主張が中心のように感じる部分もあるが、それだけではなく、日本で、いろいろ言われていることを、そつなくまとめたような解説。このため、これでよいのか疑問に感じる点も多々ある。
 
 一例をあげると、尖閣問題で、P26に「台湾併合とセットで捉えられやすい」との項があって、ここで、台湾併合は下関条約であって、尖閣領有はそれより3ヶ月前であるので、「台湾と尖閣は日本が力で奪った」との中国側主張を誤りであると書いている。
 しかし、日本が尖閣を領有決定したのは、日清戦争の最中だったので、尖閣に対して清国が何らかの権利を有するならば、尖閣領有は、戦争中の他国領土の軍事占領となる。戦争中の軍事占領は、講和条約によって合法化されるので、もし、下関条約以前の日清戦争の最中に、清国に権利のある領土を、日本が領土編入したのなら、まさに、暴虐・貪欲による窃取になってしまう。
 
 著者の説明は、読みやすいので、大雑把に読むならこれで良いように感じるが、きちんと読むと、論理の詰めが甘い。

本-領土喪失の悪夢: 尖閣・沖縄を売り渡すのは誰か2014年09月09日

 
『領土喪失の悪夢: 尖閣・沖縄を売り渡すのは誰か (新潮新書)』小川聡/著、大木聖馬/著 新潮社 (2014/7)  
 
読むことを勧めない。
 
本のカバーに次のように記されている。
 『日本人が知らない危険な真実! 「尖閣問題は、先人の知恵にならい棚上げするのが平和への道だ」と説く総理経験者、大物政治家、元外交官。一見、もっともらしい言説には驚きの詐術が隠されていた。 』
 
 本書の目的は、尖閣にたいして、日中間で棚上げ合意があったとする見解を否定し、さらに、これらの研究成果を中国に領土を売り渡す詐術であるとするものだ。本書の半分ぐらいで、尖閣棚上げを論じているが、論拠があまりにも、牽強付会な解釈で、読んでいて参考にならず、読むに堪えないと感じた。
 
 日中国交回復のときに尖閣が棚上げされたことは、幾人もの論者の見解であり、このうち、『矢吹晋/著 尖閣問題の核心―日中関係はどうなる  (2013/01) 花伝社』は綿密な取材に基づき、詳しい論拠を明らかにしている。一方、孫崎享氏は『日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (2011/5/11) ちくま新書』の中で、尖閣が棚上げされたと説明しているが、孫崎氏の本は、日本の領土問題全般を扱った新書版なので、論拠の詳しいことが省略され、そのエッセンスのみが記載されている。
 
 本書は、詳細な矢吹晋の本ではなく、詳しい記述が省略された孫崎氏の本の、記述順序を問題として取り上げ、あたかも尖閣の棚上げ合意がなかったかのような説を繰り広げているが、稚拙な論拠に感じる。
 
 孫崎氏の本では、周恩来と田中総理が「大同を求め小異を克服する」ことに合意したとの記述の直後に、尖閣の話題が書かれている。
 本書では、周・田中が「大同を求め小異を克服する」ことに合意したのは、9月25,26日会談の話で、尖閣の話題は9月27日であること、および『小異』の話は、戦争状態終結問題の会談で出てきたため、尖閣は『小異』に含まれないとの説明をしている。
 いくらなんでも、おかしな説明だ。戦争状態終結問題の会談中に、「大同を求め小異を克服する」ことに合意したのだから、小異に戦争状態終結問題が含まれることは確かだ。しかし、だからと言って『小異』が戦争状態終結問題だけであると考えるのは、いくらなんでも、無理がある。戦争状態終結問題の会談で、日中間で、小異があることが明らかになったので、「大同を求め小異を克服する」ことになったのだから、その後の会談で現れる『小異』についても、大同を求め克服することが合意されている。もし、『小異』に尖閣問題が含まれないと主張するなら、9月25,26日会談で、小異が戦争終結問題に限っていることが合意されていたのか、27日会談で、尖閣問題に対して日中間で見解に相違がないことが確認されたのか、こういうことを示す必要がある。
 
 第2章は「沖縄独立論の陰に中国の存在」とのタイトルで、中国の脅威をあおっているが、そもそも、沖縄独立論など、まったく政治日程に登っていないマイナーな話題。沖縄独立運動が統一的な政治勢力になっていないので、沖縄独立論を唱える人の中には、中国と関係の深い人がいてもおかしくないが、そのことと、中国脅威とは異なる。
 さらに、ロシアも中国を警戒しているとの主張もある。ロシアは長い国境があるのだから、国境警備をするのは当たり前で、警戒を怠らないのは軍人の務めだ。
 
 第3章は著者の妄想だろうか。「尖閣で犯した米国の過ち」との項で、米国が尖閣領有権問題に対して中立的立場をとっていることを批判している。そもそも、国境線の画定は、関係当時国間で行うものであって、米国が決めることではないので、米国が中立的立場をとるのは、自然なことだ。米国の政治は米国の国益のために行われるのであるから、米国の態度は、国際法と米国利益に従っており、本書の著者の理論のために行われるのではない。
 
 第4章は「中国こそ昭和史に学べ」とのタイトルで、日本に都合のよい歴史観を展開しているが、それはそれとして、中国が日本のA級戦犯の顕彰を批判にしていることに関連して、非常に奇妙な記述がある。
 
 『中国が自分たちの撒いたプロパガンダを信じ込み、日本を戦争の道に引きずり込んだのが、極東軍事裁判で死刑判決を受けた東条英機・元首相ら7人・・・だけの仕業だなどと本気で思っているのだとしたら、それは愚かとしか言いようがない。・・・少しでも昭和史の書物を手にとれば、A級戦犯だけに戦争責任を押し付けることなどできないことはすぐわかる(P167)。』
 
 これ、本気で書いているのだろうか。戦争にはいろいろな局面があるので、厳密に戦争犯罪を問うならば、かなり広範囲にわたってしまう。特に、最高指導者である、昭和天皇・裕仁は、ヒットラー・ムッソリーニと並び、犯罪者として断罪される可能性もあった。歴史の事実を言うならば、昭和天皇・裕仁が犯罪者であるとの見解に至るだろうし、A級戦犯以外に、戦争犯罪者が多数いることになるだろうが、それでは、日本の国家が存立しえなくなるので、中国を含む国際社会はA級戦犯以外の戦争犯罪は、原則として不問にしている。著者の書くように、中国がA級戦犯だけに戦争責任があると思っているわけではない。

本の紹介-敗戦・沖縄・天皇 尖閣衝突の遠景2014年09月16日


矢吹晋/著 「敗戦・沖縄・天皇 尖閣衝突の遠景」 花伝社 (2014/8)

 尖閣問題の本として読むと、面白くない。
 本書著者はこれまで、「尖閣問題の核心―日中関係はどうなる(2013.1)」「尖閣衝突は沖縄返還に始まる―日米中三角関係の頂点としての尖閣(2013.8)」と尖閣問題関連の著書を出版してきたが、だんだん面白くなくなってきた。

 著者は、前書において、尖閣問題の出発点を沖縄返還と捉える論を展開した。本書では、出発点をサンフランシスコ条約としている。尖閣問題の出発点はどこにすべきかということはなくて、その人のその論で、どの時点から問題を考えるかということなので、本書のようにサンフランシスコにしても良いし、沖縄返還にしても良いだろう。

 本書は2部構成で、このうちの第1部で、サンフランシスコ条約と天皇の役割を考察し、尖閣問題にも言及している。内容は、サンフランシスコ条約と天皇発言の概要を説明したのちに、豊下楢彦氏の著書の批判している。尖閣問題については豊下批判のみ。豊下説に関心が高い人が、豊下論文を検討するために本書を読むのは良いかもしれないが、そうでない人にとって、本書がどれほど有益なのか、疑問だ。
 第2部は、朝河寛一の天皇制議論の解説で、領土問題とは関係ない。

 以下、第一部について。
 本書、第一部では、多くのページを豊下楢彦氏の著書の批判にあてている。
 豊下説について、私も疑問を感じた点はあったが、本書によって、それがすっきりした感じはしなかった。特定の学説を批判するならば、もう少し、詳しい論を展開するか、参考文献を掲載してくれないと、言葉尻をとらえた議論のように感じ、素人の私には、どちらが正しいのか判断できない。

 1947年9月、昭和天皇・裕仁は、GHQに対して、米軍が沖縄の軍事占領を続けるにすることを求めた。裕仁の要望に対して、W.J.シーボルトは、以下のコメントをしている。
 It will be noted that the Emperor of Japan hopes that the United States will continue the military occupation of Okinawa and other islands of the Ryukyus, a hope which undoubtedly is largely based upon self-interest.  (日本の天皇は、米国が沖縄その他の琉球諸島の軍事占領を続けるよう希望していること、これは、疑いなく、多いに私利に基づく希望であることが注目される。)
 本書P99では、「これが主として国益(self-interest)に基づいた希望であることは疑いない」と訳しているが、self-interestは、通常の訳では、国益の意味ではなくて、私利・私欲・利己心などの意味であるので、このままでは、著者の説は、誤訳もしくは曲解である。特別な理由があって、self-interestを「国益」と訳すならば、その理由を示す必要がある。

 サンフランシスコ条約で日本は独立し、沖縄はアメリカの統治となったが、その後、日本に復帰する。沖縄が、日本に復帰した理由について、著者は、サンフランシスコ条約の文言解釈に原因を求めているようだ。現実政治を見ていないのではないだろうか。沖縄が本土に復帰した理由は、いろいろあるかもしれないが、現地住民の意思を忘れることはできない。もっと言えば、占領統治下の反米運動が理由としてあげられる。著者の説明では、サンフランシスコ条約で沖縄と同様な扱いになった奄美群島が平和条約直後に本土復帰した理由が理解できないだろう。沖縄の返還も、現実政治戦略と住民統治の関連で実施されているのであって、条約の文言を学者が解釈した結果で返還されたのではない。

 尖閣問題は、第5章の23ページのみ。内容は、豊下楢彦/著・尖閣問題とは何か(岩波書店)の批判。豊下説が日本の尖閣問題政策に重要な役割を演じているならば、批判も価値があるものだろう。しかし、豊下説は一つの説に過ぎず、豊下氏の著者は、数ある尖閣問題の解説書の一つにすぎない。しかも、北方領土や他の領土問題の解説も多く、尖閣問題がそれほど詳しいわけでもない。著者は、豊下説を、日本外務省やそれに追随する御用学者説と同様としている(P166)。確かに、そうかもしれないが、それならば、日本外務省の説を批判すればいいのにと思ってしまう。日本外交において、豊下氏が、日本外務省よりも影響力を持っているならば、豊下説批判もうなづけるのだが。。。

クナシリ・メナシの戦い(ノッカマップ・イチャルパ)2014年09月25日

 
 1789年(寛政元年)、北海道東部地域を支配していた飛騨屋久兵衛の横暴に耐えかねた、アイヌが蜂起して、日本人71人を殺害した。このため、松前藩は鎮圧部隊を派遣、アイヌの首長が説得に当たり蜂起したアイヌ37人が投降した。松前藩兵は投降したアイヌ全員を根室市ノッカマップで殺害した。
 
 毎年9月に、犠牲者を慰霊するため、地元アイヌを中心に、ノッカマップで慰霊祭が行われる。これを、ノッカマップ・イチャルパという。初日には、アイヌの慰霊をして、翌日に、納沙布岬で日本人の慰霊をする。
 
 2014年9月20日、ノッカマップで行われた、アイヌ37人の慰霊祭に参加した。本当は見学をしようと思ったのだけれど、慰霊の儀式への参加を求められたので、まねをして、儀式に参加した。

クナシリ・メナシの戦い(ノッカマップ・イチャルパ)(カムイノミ)2014年09月28日

 1789年(寛政元年)、北海道東部地域を支配していた飛騨屋久兵衛の横暴に耐えかねた、アイヌが蜂起して、日本人71人を殺害した。このため、松前藩は鎮圧部隊を派遣、アイヌの首長が説得に当たり蜂起したアイヌ37人が投降した。松前藩兵は投降したアイヌ全員を根室市ノッカマップで殺害した。
 
 毎年9月に、犠牲者を慰霊するため、地元アイヌを中心に、ノッカマップで慰霊祭が行われる。これを、ノッカマップ・イチャルパという。初日には、アイヌの慰霊をして、翌日に、納沙布岬で日本人の慰霊をする。
 
 2014年9月20日、ノッカマップで行われた、アイヌ37人の慰霊祭に参加した。最初に、屋内でカムイノミがおこなわれ、その後、丘の上に移動して、イチャルパが行われた。写真は、カムイノミ。

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