本の紹介―北方世界の交流と変容 中世の北東アジアと日本列島2017年07月12日

    
天野哲也・臼杵勲・菊池俊彦/編『北方世界の交流と変容 中世の北東アジアと日本列島』 山川出版社(2006/8)
   
 シンポジウムの講演集。東北アジア・サハリン地域の考古学とこれら地域の歴史教育がテーマの論文が収録されている。 
   
 中世東北アジアと北海道・東北とは活発な交流が行われていたことが、近年、明らかになっている。このシンポジウムは、これら考古学上の成果の解説と、成果を日本の歴史教育にどのように反映させていくかが考察されている。
   
 靺鞨・渤海・金など、あまりなじみのない地域の歴史概要が記述されており、中世東北アジアの実情を理解するうえで有益だ。この本の中で半数を占める歴史教育に対する提言は「それはそうだよね」と同意できるけれど、興味は持てなかった。
   
 以下、参考のため、目次を記す。
   
第1部 北東アジア史のいま-研究と教科書の問題
 中世総合資料学から見た歴史教科書の問題点-概況と問題提起
 サンタンとスメレンクル-一九世紀の北方交易民の実像
第2部 環日本海北部の中世史料研究
 北東アジアの中世-靺鞨・女真の考古学
 史料からみた靺鞨・渤海・女真と日本列島
 金・元・明朝の北東アジア政策と日本列島
 アイヌ文化形成の諸問題-歴史教育におけるアイヌ文化の意味
 モンゴル帝国の真実-現地調査と最新の史料研究から
第3部 歴史教育の立場からみた北東アジアと日本
 日本史教育と北東アジア・北海道-日本史教育の立場から
 歴史教育者」教育・世界史教育からのコメント
 日本の歴史教育からみた「サハリンの歴史」
 高等学校世界史・日本史における北東アジア世界の教材化について

本の紹介―基地はなぜ沖縄に集中しているのか2017年07月15日


NHK取材班/著『基地はなぜ沖縄に集中しているのか』NHK出版 (2011/9)

 現在、在日米軍基地は、沖縄に集中しているが、かつてはそうではなかった。進駐軍が日本を占領すると、主に旧日本軍基地を米軍基地として使用したため、本土に米軍基地の多くが置かれた。朝鮮戦争に伴って、米軍基地の拡大が必要となると、新たな基地用地の提供が求められるなど、米軍基地の拡大が図られたが、各地で強い反対にあった。このうち、石川県内灘町の内灘闘争や、長野県軽井沢町から群馬県松井田町の浅間妙義演習地反対闘争などは、住民の抵抗で基地化をまぬがれた例として有名。

 群馬県安中市松井田町西野牧字恩賀には「妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑」が建てられている。場所は上信越道の碓井軽井沢インターを降りて、荻野屋前の交差点を右折後、高岩山登山道入り口方面の脇道に入ってすぐのところ。碑は車道から離れているのでわかりにくい。

 内灘闘争については、内灘町のホームページに解説がある。
内灘町役場ホームページ(2017/7/14閲覧)
 昭和24年から32年にかけて、現在の内灘砂丘の向粟崎地区から宮坂地区の海岸線がアメリカ軍の砲弾試射場に供用されることになりました。
 しかし、計画当初から内灘全村で接収反対運動が起こり、国への陳情も行われるなど、政治的な思惑もからんで全国的な運動へと展開して行きました。この闘争は文学や映画などでも取り上げられ、内灘の名を広く全国に知らしめる出来事となりました。政府は期限付きで試射場としての使用を許可しましたが、村を二分する反対運動の末、試射場は撤収され、騒ぎも収束していきました。現在、当時を偲ぶことが出来る監視棟の建物が内灘海岸浜茶屋軒のそばに、また着弾地観測棟の建物が権現森海岸に建っています。(参考:内灘闘争資料集/内灘闘争資料集刊行委員会より)

 本土で反基地闘争にあって、基地拡大に頓挫した米軍は沖縄に基地を集中させるようになっていった。本土の米軍基地が縮小される中、沖縄では米軍基地が拡大し、現在では米軍基地の3/4が沖縄に集中するようになった。

 本書では本土の基地が返還縮小される中、沖縄に基地が集中していく様を、沖縄返還以前と以後に分けて解説する。この部分は、全体の半分弱。そして、沖縄の米軍基地の目的を米軍への取材で明らかにする。さらに、民主党政権下の普天間問題について説明している。

 「妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑」は住民運動の勝利の記念碑なのだけれど、この勝利が沖縄県名護市のキャンプシュワブにつながってゆく。一つの勝利が負担の押し付け合いになっているようで悲しい。

妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑2017年07月16日

 現在、在日米軍基地は、沖縄に集中しているが、かつてはそうではなかった。進駐軍が日本を占領すると、主に旧日本軍基地を米軍基地として使用したため、本土に米軍基地の多くが置かれた。朝鮮戦争に伴って、米軍基地の拡大が必要となると、新たな基地用地の提供が求められるなど、米軍基地の拡大が図られたが、各地で強い反対にあった。長野県軽井沢町から群馬県松井田町の浅間妙義演習地反対闘争などは、住民の抵抗で基地化をまぬがれた例として有名。
       
 群馬県安中市松井田町西野牧字恩賀には「妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑」が建てられている。訪ねたときは、ススキに埋もれていた。
     
建立のいきさつが以下のように書かれている。
     
妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑
 一九五三年二月、米軍側から恩賀八風平に山岳訓練学校を設置し、妙義・浅間一帯の広範囲にわたる地域を米軍基地とすることを示してきた。当然、中心である恩賀、そして県全体に反対運動が広がっていった。保守革新を問わず県行政も加わっての、反対行動となった。しかし時間がたつにつれて妙義軍事基地反対共同闘争委員会並同右恩賀同志会に結集する県民の闘いとなっていった。分裂攻撃に負けず二年間、熾烈な戦いが展開せれていった。そして、日本の米軍事基地反対闘争に例を見ない勝利の結果を得たのである。
 この闘いは基地闘争のあり方にいろいろな教訓を与えるほど極めて重要な典型的なものであった。いま三十有余年を経て、この地に記念碑を建立し、これらの歴史をふりかえるよすがとするものである。
 一九八七年九月 
  文書 菊池定則
     
 碑が建てられている場所は上信越道の碓氷軽井沢インターを降りて、荻野屋前の交差点を右折後、高岩山登山道入り口方面の脇道に入ってすぐのところ。碑は車道から離れているのでわかりにくい。下の地図の赤丸印のところです。
     
 車道の道脇に指導標があるが、小さくて見づらい。
     
 「妙義米軍基地反対闘争勝利記念碑」は住民運動の勝利の記念碑なのだけれど、この勝利が沖縄県名護市のキャンプシュワブにつながってゆく。一つの勝利が負担の押し付け合いになっているようで悲しい。
     
 さらに、横川方面へと2kmほど県道92号線を進むと、縄文時代を中心とする遺物が出土した「千駄木遺跡」がある。



正確な表現とあいまいな表現2017年07月19日

2017/7/19の毎日新聞・経済プレミアに、ジャーナリスト・川井龍介氏の『文句をつけたくなる公的文書の圧倒的「わかりにくさ」』が掲載されている。
 昨年出版された「やさしい日本語」(庵功雄著、岩波新書)には、わかりにくい公的文書をわかりやすくした「公的文書の書き換え」の例がいくつか出ています。その一つが、「保育園の入園について」の「入園基準」を示した文書です。
 公的文書では、入園基準の一つが「昼間に居宅外で労働することを常態としている場合」と書かれていました。
 なんだか難しい感じがしますが、これは「昼、いつも外で働いている場合」と書き換えられています。なるほど、ずっとやさしく、わかりやすくなっています。
 えー! 驚いた。やさしいけれど、意味が全然違うではないか。「俺様の思い通りに解釈するんだぞ」とスゴメば同じ意味かもしれないけれど、ジャーナリストにスゴマレタラ嫌だ。
   「外で働いている」って、道路工事の人のことだろうか。多くの人は、「外」ではなくて屋内勤務だろう。「居宅外」と「外」では意味が全然違う。「いつも働いている」って、奴隷のことだろうか。たいていの人には休日があるので、いつも働いているわけではない。「労働することを常態」と「いつも働いている」では意味が全然違う。

本の紹介―ラングスドルフ日本紀行2017年07月20日

   
ゲオルク・ハインリヒ・フォン ラングスドルフ/著、山本秀峰/訳『ラングスドルフ日本紀行 クルーゼンシュテルン世界周航・レザーノフ遣日使節随行記 』露蘭堂(2016/08)
  
 幕末の1804年、レザーノフを隊長とする使節団が長崎に来航し、通商を求めた。この時、幕府は、レザーノフ一行を半年間、幽閉状態に置いた末、通商を拒否した。この時の航海や長崎滞在について、以下の書籍が出版されている。
 クルウゼンシュテルン/著、羽仁五郎/訳 『クルウゼンシュテルン日本紀行』 (駿南社) 昭和6年(復刻版が雄松堂書店より出版)
 レザーノフ/著、大島幹雄/訳『日本滞在日記―1804‐1805』(岩波文庫)
  
 ラングスドルフは医師・自然科学者として、この航海に同行した。本書は、ラングスドルフによる日本やアイヌの観察記。長崎の滞在は6か月の長きにわたったが、ほとんど幽閉状態だったため、日本の風俗や自然に対する記述は限られていて残念だ。日本で通商を拒否されたレザーノフ一行はその後、北海道・樺太に立ち寄った。アイヌとは自由に交流したため、アイヌの習俗の記述がある。
 一行のうち、フォボストフらはレザーノフと別れて、1806年10月22日、樺太を襲撃、アイヌたちのロシアへの加勢も手伝って、日本人を追い出した。さらに翌年には択捉島を襲撃した。サンクトペテルブルクへ帰ったフォボストフらは、ラングスドルフの家で会食をした帰りに、川に落ちて死亡した。本書には、この時のいきさつについても書かれている。

本の紹介 日常化された境界ー戦後の沖縄の記憶を旅する2017年07月21日

 
屋良朝博、野添文彬、山本章子/著『日常化された境界ー戦後の沖縄の記憶を旅する』 (ブックレット・ボーダーズ4) 北海道大学出版会 (2017/7)
   
 一味違う、沖縄観光ガイドブック。
 本書は沖縄の現状を旅行者が見学するためのガイドになっている。ただし、ビーチ遊び、グルメ、戦跡、首里城など、多くの観光ガイドに書かれていることは、本書にはない。沖縄米軍基地とその周辺、及び基地のために沖縄がどのようにゆがめられているのかを、普天間から北部演習場まで、南から北へと向かってガイドする。
 沖縄には在日米軍基地の74%が集中し、沖縄本島の18%を占める。沖縄米軍基地を普通の旅行者が見学しようとした時、どこから見るとよいのか、いくつかの主要な基地について書かれているので、沖縄米軍基地の現状を見たいと思っている人には、便利なガイドブックだろう。また、沖縄米軍基地の状況を知りたい人にも役に立つ。ただし、薄い本なので基地問題の詳しい内容はない。
   
 1953年、浅間・妙義地区に米軍訓練基地を作る計画があったが、住民闘争により基地を拒絶した。群馬県安中市松井田町西野牧字恩賀にこれを記念する碑が建てられている。群馬・長野県住民運動の勝利が沖縄県名護市のキャンプシュワブにつながってゆく。一つの勝利が負担の押し付け合いになっているようで悲しい。

本-サハリン南部の遺跡、サハリン南部の考古資料2017年07月22日

      
新岡武彦、宇田川洋/著 『サハリン南部の遺跡』北海道出版企画センター (1990/10)
     
宇田川洋/著『サハリン南部の考古資料』北海道出版企画センター (1992/12)
     
どちらの本も、樺太南部にある個々の遺跡の解説。この地域の古代史解説ではない。
『サハリン南部の遺跡』は358か所の遺跡それぞれの場所、発見、沿革などのデータを示している。
『サハリン南部の考古資料』はこれらの遺跡出土品の写真とその解説。

本の紹介―抗う高江の森2017年07月23日

           
山城博明/写真、伊波義安/解説『抗う高江の森』高文研 (2017/1)
    
米軍ヘリパッド(ヘリコプター着陸場)の建設でゆれる、沖縄県北部の東村・高江の写真集。
この付近には、ヤンバルクイナ・ノグチゲラのような鳥類、ヤンバルテナガコガネのような昆虫類をはじめとした、希少な固有種が生息する。本書は、これらの希少動植物の写真とともに、ヘリパッド建設の写真、反対運動の写真、機動隊の警備の写真などがカラーで掲載されている。見ごたえのある写真が並ぶ。

本の紹介―ドキュメント北方領土問題の内幕2017年07月24日

    
若宮啓文/著『ドキュメント北方領土問題の内幕: クレムリン・東京・ワシントン』 (筑摩選書) 筑摩書房 (2016/8/10)
    
1956年、日ソ共同宣言という名前の条約が成立して、日ソ間で国交が回復した。この条約の中で、平和条約締結後に、歯舞・色丹を日本にひき渡すことが決められた。しかし、その後60年以上たっても、いまだに平和条約は締結されていない。
    
 本書は、朝日新聞論説主幹を務めた若宮啓文による、日ソ共同宣言の交渉経緯の解説。
    
 これまでにも、以下のような図書で交渉の経緯が明らかにされていた。    
・松本俊一/著『モスクワにかける虹:日ソ国交回復秘録』
・久保田正明/著『クレムリンへの使節 北方領土交渉1955-1983』
    
 1992年にソ連が崩壊すると、これまで非公開だったソ連側の資料が公開されることにより、交渉の経緯はより明らかになった。本書では、これらの成果も取り入れられているようで、交渉の経緯解明の集大成ともいうべき内容になっている。このため、簡単に理解しようとする人には、ちょっと詳しすぎるだろう。

本の紹介―共謀罪の何が問題か2017年07月25日

       
高山佳奈子/著『共謀罪の何が問題か(岩波ブックレット)』 岩波書店 (2017/5)
       
刑法が専門の高山佳奈子・京都大学法科大学院教授による「テロ等準備罪」の問題点を指摘したブックレット。
       
 2017年6月15日、自民党・公明党・維新は国会審議を打ち切って「テロ等準備罪」を強行採決した。これまで「共謀罪」の名称で国会提出するも、再三にわたって廃案になっていたものを、「テロ等準備罪」に名称変更したものだったが、国会審議の中で、金田法相がまともに内容説明できないなど、欠陥をさらけ出した法案だった。もっとも、答弁の問題は、金田法相の能力面も否定できない。
 このように、法案の欠陥と法相の能力不足の中で、これ以上の審議すると、自民・公明党が国民の反感を買って、目前に控えた都議選に不利になるために、審議不十分なまま強行採決したものだった。しかし、この後行われた都議選で、自民党は歴史的敗北を喫し、安倍内閣支持率急落につながった。
       
 本書は、刑法学者による「テロ等準備罪」の問題点を指摘したもの。本書のタイトルは「共謀罪」となっている。これは「テロ等準備罪」がテロ行為の準備を処罰する法律ではなくて、共謀を処罰する法律のため、法律の問題点をわかりやすくするためだろう。
 「テロ等準備罪」は警察の運用によって、国民の人権を著しく阻害する恐れがあるけれど、実際にはどのような運用がなされるのかわからないので、具体的にどのような不利益があるのか、いまひとつはっきりしない。

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