本の紹介ーごまかさない仏教 仏・法・僧から問い直す2018年10月01日

  
佐々木閑、宮崎哲弥/著『ごまかさない仏教 仏・法・僧から問い直す』新潮社 (2017/11)
 
 二人の宗教学者による対談。初期仏教の姿をテーマとしている。対談形式は論旨が一貫しないことがあって読みにくくて好きではないです。
 
 第1章は釈迦の伝記の問題。第2章は初期仏教の教義の問題で、この部分が本書のメイン。第3章はサンガ(僧院)についての対談。
 
 本書のタイトルは「ごまかさない仏教」となっているが、要するの初期仏教の姿を明らかにすることを目的としている。日本の仏教は、釈迦の仏教とはかなり乖離しているので、そういうことをタイトルに込めたのだろう。
 第2章が本書のメインである初期仏教の教義について示す章で、「縁起」「苦」「無我」「無常」を扱っている。苦・無我・無常は三法印の「一切皆苦」「諸法無我」「諸行無常」のこと。

本の紹介ー仏教論争2018年10月02日

宮崎哲弥/著『仏教論争 「縁起」から本質を問う』筑摩書房 (2018/5)

初期仏教の思想のうち最も重要な『縁起』について、仏教研究でどのように解釈されてきたのかを説明するもの。
学術的な話題なので、真剣に読まないと理解できない。

本の紹介ー霊はあるか2018年10月03日

 
安斎育郎/著『霊はあるか 科学の視点から』 講談社 (2002/9)

科学者による霊の解説。

 第1章では、最初に、元・真言宗醍醐派本覚寺(明覚寺)による詐欺事件の概要を説明した後、いくつかの心霊詐欺事件を解説。
 第2章では、日本の仏教各宗派に、霊についての考えを調査した結果の説明。日本仏教の状況が分かって大変興味が持てる。霊の存在については、否定と肯定が拮抗する。これに対して霊障・祟りについては多くの宗派で否定的である。極楽浄土を心の在り方と教えることが宗旨の浄土系宗派や、心の修養を目的とする禅系宗派は、特に霊障に対して厳しい否定的見解が多い。
 第3章では過去の心霊写真などの心霊現象の多くで、インチキが露見したことを説明する。
 第4章、第5章では、著者の霊観が示される。科学者であるので、心霊現象や霊魂の存在に対して確定的な見解を示すことには否定的。
 第6章では、霊感商法詐欺に騙されないための心構えが示されている。一般的なことなので、あまり役に立たないかもしれない。

本の紹介ー新新宗教と宗教ブーム2018年10月04日

   
島薗進/著『新新宗教と宗教ブーム 』(1992/1)岩波ブックレット

 宗教学者・島薗進は、1970年前後から進展したスピリチュアルブームによって急速に発展した新興宗教を「新新宗教」と呼んでいる。本書は、新新宗教の説明。
 出版当時この本を読んだときは、今後新興宗教がさらに増えたら「新新新宗教」「新新新新宗教」と際限がなくなってしまうのではないだろうかと思った。ところが、この本が出版された数年後にオウム真理教が逮捕され、新興宗教への嫌悪感が高まったようで、新興宗教設立ブームは過ぎ去った。

 本書で「新新宗教」としている新興宗教は、エホバ・真如苑・阿含宗・真光・統一教会・GLA・法の華・オウム・コスモメイト・幸福の科学 などである。このうち、オウムは主だった者が死刑、法の華は教祖が懲役12年となった。
 オウムと法の華以外は有罪になったわけではないかもしれないが、あまり関わり合いを持ちたくないような気がする教団が多い。

本の紹介ー新興宗教2018年10月05日

横山真佳/著『新興宗教 政治動向を左右する巨大”党派” 』教育社 (1979/10)

毎日新聞の記者による新興宗教の解説本。出版が古いのと、現在では入手困難なので、今、読むメリットはあまりないと思う。

 幕末以降あるいは明治以降に誕生した宗教を「新興宗教」と呼んでいた。しかし、戦時中に新興宗教が邪教視されたことや、戦後になってから新興宗教教団の脱税などの犯罪が横行したことから、「新興宗教」の言葉には侮蔑的な意味が含まれるようになった。このため、新興宗教を研究する場合等は「新宗教」の言葉を使うことが一般的になっている。本書のタイトルは「新興宗教」が使われているが、本書出版の1970年代末では、すでにこの言葉はあまり使われなくなっていた。本書は新興宗教の解説書だが、特に侮蔑的な意味はなくニュートラルな立場で書かれている。

本書で取り上げられている新興宗教のうち仏教系のものは、「本門仏立宗」「霊友会と系統諸教団」「創価学会」「国柱会」「日本山妙法寺大僧伽」「解脱会」「孝道教団」「念法真教」「真如苑」「弁天宗」。
ただし、国柱会以下は名前と所在地等の基本情報のみ。

本の紹介―新興宗教はなぜ流行るか2018年10月06日

日高恒太朗/著『新興宗教はなぜ流行るか』(1992/9)新人物往来社

 新興宗教ビジネスの実情を解説する本。

 宗教学者・島薗進は新興宗教のうち1960年代から70年代以降盛んとなったスピリチュアルブームで拡大したものを「新新宗教」と名付けた。しかし、小さな新興宗教教団などはこのような分類が適当でないものも多い。著者はこのような分類には従わず、旧来の「新興宗教」の用語を使用している。このほうが、なじみが深く分かりやすいことは言うまでもない。

 本書では、最初に、新興宗教にはまった人を取り上げる。新興宗教としてはMiho、神慈秀明、真光、オウムなど。
 続いて、新興宗教ビジネスの仕掛人のはなしと、宗教法人売買の話がある。新興宗教を立教するときの内実を明らかにすることを目的としている。ここでは、有名どころの新興宗教教団の話は出てこない。
 続く章では、新興宗教教団が芸能人をどのように広告宣伝に使っているかを説明する。芸能人利用と言えば、なんといっても真如苑なので、この章の中心話題は真如苑である。芸能人とは関係ないが、教祖一家のセックススキャンダルについても詳しい。
 さらに、「神様人間百態」「メディアと宗教」の章がある。

本の紹介ーオウムの黙示録2018年10月07日

日高恒太朗/著『オウムの黙示録 新興宗教はなぜ流行るか』(1995/6)新人物往来社

この本は、1992年に出版された『新興宗教はなぜ流行るか』に、オウム事件を追記したもの。

本の紹介ー新興宗教ブームと女性2018年10月08日


いのうえせつこ/著『新興宗教ブームと女性』新評論 (1993/7)

 本書のタイトルは「新興宗教」。新興宗教の用語には侮蔑的な意味があるので、最近は「新宗教」ということが多い。

 本書は女性、特に主婦が新興宗教に取り込まれてゆく様態を取材に基づいて説明するもの。日本の新興宗教信者の7、8割は女性だそうだ。先日、半蔵門駅を降りたら、真如苑に大挙して訪れる人たちに出会ったが、9割が女性だった。中年・中高年が多かった。

 本書は、第1章で本覚寺詐欺事件にあった女性たちの話。本覚寺に入信した場合は、ほとんど詐欺被害にあっているので、本章は詐欺被害の話にもなっている。第2章から第4章は統一教会に入信した人たちの話。統一教会は霊感商法被害が有名だが、本書には詐欺被害の話題はあまりない。第5章は幸福の科学に入信した人の話。第6、7章はエホバ、実践倫理、コスモメイトに入信した女性の話と、女性が入信する社会背景を分析している。コスモメイトの話では、教祖の深見によるセクハラ事件に触れられている。

 本覚寺詐欺事件では、どういう理由で詐欺に引っかかったのか不思議だったが、本書によると、霊視商法の取材の中で会った主婦たちの多くは「生長の家」や「真如苑」などの新興宗教と呼ばれる信者たちだったそうだ(P32)。
 本覚寺詐欺の手口は、相談に訪れた人に対して、先祖の霊が苦しんでいる等の脅しをかけて、供養料など名目で多額の金銭をとったものである。真如苑では、先祖の霊が苦しんでいる等の脅しをかけて護摩焚きを進めているので、このような新興宗教信者が本覚寺詐欺に引っかかったのは理由があることだったのだろう。

本覚寺詐欺事件について、良くまとまっているので、関連部分を引用する。

 週門誌などで書かれている「霊視商法」とは、宗教法人「本覚寺」(西川義俊管長)が、新聞折り込みチラシで、悩みを持つ人を集めては「霊視鑑定」と称するものを行い、除霊しないと不幸になると脅して、多額の供養料などを取っているというものである。
 九二年九月二十日号の「サンデー毎日」によると、国民生活センターに寄せられた被害は約四百五十件、要求された額は合計で約四億五千五百万円にものぼるとしている。
 本覚寺の本山は茨城県久慈郡大子(だいご)町。首都圏八カ所にある道場は、「春光寺 千葉市」「実証寺 柏市」「法輪寺 東京・池袋」「昇雲寺 東京・恵比寿」「迎春寺 国立市」「明星寺 大宮市」「光明寺 横浜市神奈川区」「幸福寺 厚木市」
 この本覚寺は、雑誌・月間「住職」(九〇年十月号)などによると、同寺の金銭上のトラブルから殺人事件まで起こしている。
 八九年九月二十四日、本覚寺東京寺務所内で、元管理本部長の近江伸夫氏が、胸や腰など五ヵ所を刺されて死亡するという事件である。事件発生後十一カ月ぶりに、犯人が逮捕されたが、犯人四人は本覚寺内部の職員たち。犯行の動機は、本覚寺からの独立をめぐる金銭上のトラブルだった。八九年当時の本覚寺の収入高は九億一千万円を超えている。
 また、同年の四月、本覚寺は京都の真言宗醍醐派の総本山・醍醐寺の保証書を偽造、銀行家ら六億円の融資を受けていたことが明らかにされ、寺側も保証書偽造の事実を認めている。
 新興宗教ビジネスという言葉もささやかれるほどに、宗教法人の税制優遇措置をねらって、遊園地や不動産会社までもが競って宗教法人を名乗り、またバブル時代金儲けイコール宗教法人とまで言われてきた。この急成長を遂げている宗教法人"本覚寺"とはー。
 管長は西川義俊氏。宗教の世界に入る前は、健康食品や避妊具などの販売会社「㈱協和」を経営していたが、そのやり口はスキンー箱を四、五万円で売りつけるという暴利をむさぼるものだった。その後、地元の曹洞宗系の寺院とタイアップして、「水子供養奉賛会」と称し、木製の小さな水子菩薩像などを売るようになった。このとき、西川管長は、新聞の折り込みチラシを利用している。その後、八五年六月に口本仏教指導会を設立し、翌八六年には、本覚寺の前身である「実修学院」を千葉県柏市に開設している。仏壇やら仏像の販売をしながら、何んとしても宗教法人をとりたいと、真言宗醍醐寺にとり入り、末寺としての単立の宗教法人本覚寺を仕立て上げた。健康食品から水子供養へ。そして宗教法人へと移っていった背景を考えると、いつも売りつけられる側(買う側)が主婦だということが共通している。
 健康食品と言えば、どんなに高くても、つい買ってしまう主婦の心理。また、中絶経験を持たない主婦をさがす方がむずかしい状況をうまくつかんでの水子供養を商品にした西川管長は、ある意味で日本の主婦の感覚を巧みに利用した人物と言えよう。新興宗教の信者の七、八割が主婦で占められているという世界各国の中でも特異な日本の状況を西川館長は知っていたのかどうか……。
 前述の月刊「住職」や「サンデi毎日」などによると、各道場に電話をかけてくる主婦らを霊能教師とよばれる女性たちが待ち受けて、霊の障りなどを持ら出し、脅したりすかしたりして入信させる。入信というのは、先祖供養や水子供養などをさせることで、夫婦両家の供養なら百三十万円、それがうまくいくと、次から次へとさまざまな供養をすすめて金を出させる。保険を解約させたり、サラ金でお金を借りることをすすめたりもする。信者の多くは、家族に内緒で相談に来る人が多いため、表立ってのクレームをつけられない。この点を利用しての行為は、まさに霊視を売りものにした商法と名付けられてもしかたがないだろう。
 霊能教師の女性たちは、本覚寺で得度を受け、一ヵ月の特別研修を終えた入たちと言われているが、実際は、相談には来たがお金が払えない人(離婚、母子家庭など)がその役割を押しつけられ、寺側から与えられたマニュアルどおりに「霊視」をして、「供養献金」を強要しているのが実態である。また、霊能教師には月一千万円から三千万円程度の"売り上げ"がノルマとして課せられているということである。
 本覚寺が九二年九月に出したB4判四頁にわたる見開きのチラシ「雪視案内」によると、四面に「救いのための寺の運営と儀式の行事」と「女性修行者募集」が載っている。また、一面にある「宗教の役割」を読むと、本覚.寺の監視商法とはこれ如何に?という文章もある。
 「(略)宗教はお金がすべての物質主義の社会とは、ある意味で一線を通した立場に立っています。その宗教や神仏までも、金銭感覚だけではかろうとする現代社会の風潮に対しては、はっきりと対立する立場にあります(略)}と。
 本覚寺は、前述したように茨城県の本山と、東京、千葉、神奈川、埼玉の四都県に八カ所の寺院を持つ他に、財務、人事などの本部機能として東京寺務所がある。職員数は本部約七十人、全部で約三百人と言われている。
 九二年三月期の総収入額は約七十五億六千五百万円にものぼっている。この多くは、主婦たちの悩みをえさにしての霊視による供養料である。

 この霊視商法の多額な金額は、果たしてどこへ流れているのか。十月四日、朝日、毎日、読売、その他、地方紙といわれている新聞紙上にまで広告が出た。広告主は高野山真言宗総本山金剛峯寺。高野山奥の院命源寺とは関係ないという内容の謹告である。
 本覚寺は、高野山金剛峰寺の地続きに土地を購入。そこに供養塔を建立している。始めて訪れた人は、金剛峯寺の一寺と思い込んでしまう場所である。十月十五日には第一回の伽藍の落成式も行われた。
 本覚寺側は多額な供養料を要求するときは、「高野山に位はいなどを供養する本堂をつくるから」と言ったり、「高野山にお地蔵さんを建ててあげるから」と言って一体三百万円から一千万円ほどを出させている。
 高野山金剛峯寺としては、地名である高野山の名前を使うなとは言えないが、同一視される誤解が生じていることから、前記のような謹告となったわけである。
 しかL、それにしても、霊視商法による多額な金集めのターゲットになっている主婦たちは、どのような生き方の中ですがって、だまされているのだろうか。(P14~P20) 
 また、P24には浦和の高校教師夫妻の長男刺殺事件に本覚寺詐欺事件が関係しているとの記述があるが、いつの事件なのか書かれていないので、そのうち、新聞を調べてみようと思う。

真如苑美術館2018年10月09日

 
 最近、新興宗教に関する本の紹介が続いたので、今回はちょっと趣向を変えて真如苑美術館の紹介。
 真如苑とは、暴行傷害で執行猶予付き懲役になった伊藤真乗を教祖と仰ぐ仏教系の新興宗教。教祖は詐欺寺の本覚寺同様、醍醐寺で修業した「阿闍梨」とのことだ。詐欺寺の本覚寺と似ている点が多々あるが、おそらく本覚寺が真如苑をまねたのだろう。
 
 美術館は半蔵門駅の真如苑ビル(友心院)にある。真如苑は半蔵門駅出口とつながっているが、美術館はいったん外に出る。
 美術館には真如苑が10数億円で購入した伝・運慶作の大日如来像が展示されていて、ガラス越しながら間近で見ることができる。そのほか、いくつかのガンダーラ美術や、醍醐寺に在った不動明王像、仏画などがあるが、世界救世教のMOA美術館などに比べて、展示品が少なく、大日如来像以外はあまり高価なものは無いように思う。入館無料なので、半蔵門近辺に用事がある人はちょっと立ち寄ってみるとよいだろう。

本の紹介―仏教入門2018年10月10日

    
松尾剛次/著『仏教入門 (岩波ジュニア新書)』岩波書店 (1999/6)
   
 中学生・高校生向きに仏教の全体像を解説するための本。中高生向きの本であるため、ですます調で書かれている。難しい単語も少なく読みやすい。
 内容は、おおむね、日本仏教を中心とした仏教史の説明。
 第1章は仏教思想全般の概説。第2、第3章はインドや中国など、日本に仏教が伝来する以前の仏教の説明。第4章~第6章が日本の仏教史の説明。第4章が奈良・平安時代、第5章が鎌倉・室町時代、第6章が江戸時代で、第6章には明治以降現代の新興宗教についても若干触れられている。
 本書の内容は主に仏教史なので、世界史の教科書と日本史の教科書の仏教関連内容を詳しく書いたものと言ってよいだろう。歴史的事実や事項を知らないと正確な内容理解はできないので、本書のような歴史中心の記述は青少年にとって有益だ。しかし、思想・信仰の内容にあまり踏み込んでいないので、歴史好きの人以外には物足りなさを感じる。
 本書で物足りなさを感じた人は、岩波新書から出版されている渡辺照宏の名著「仏教」「日本の仏教」「お経の話」を薦めたい。

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