本の紹介-福島みずほ「憲法は誰のもの」2011年01月04日

福島みずほ/著 憲法は誰のもの (明石書店)2006.4.28



 自民党は、2003年の衆議院選挙で躍進すると、憲法改正論議が高まり、2005年10月、新憲法草案を発表した。自民党の新憲法草案は、国民の責任・義務を書き加えたもので、国民に教えを垂れている面が強い憲法草案だった。
 本書は、憲法の意義から説き起こし、自民党の新憲法草案を批判したもの。
 その後、自民党は議席を失い、憲法改正どころか、政権をも失ったので、2005年の自民党新憲法草案を論じる必要はないが、憲法の意義を再確認し、憲法のあるべき姿を理解する上で、本書は意義深いものである。

 学生のとき、一般教養の法学概論の最初の講義で、憲法の目的を学んだことがある。法律は国家を運営するために国家権力が国民に命令するもの、あるいは国家の運営方法をあらかじめ定めたもので、必要に応じて国家権力が改定することが出来るのもである。これに対して、憲法は特異な法律で、国民が国家権力に対して「これはしてはいけない」「これをしなさい」と命令するものである。国家が国民に義務を課す場合は、一般の法律で十分なので、憲法に規定するものではない、と習ったものである。このあと、法とは何か、法は誰が作るか、との話につながっていった。
 自民党の新憲法草案では、国民の責任・義務が大幅に書く加えられており、国家の責任については、法律で変更可能なようになっているところが多い。学生のときに一般教養の法学概論で学んだ憲法の目的とは異なっており、不可解に思った。


 本書の第1章では、この点を説明している。すなわち、憲法は、もともとイギリスのマグナカルタに源を発しており、これは、当時のジョン王の行動を規制するために、当時の貴族たちが突きつけたものだった。現在では、国家の行為を国民の側から規制するために存在する。その観点から見て、自民党の新憲法草案は憲法の目的を逸脱したものであるとの説明である。この説明は、学生のときの一般教養の法学概論の講義で習った内容を歴史的に解いたものであり、憲法の意義が分かりやすく書かれている。
 第2章以下に、自民党の新憲法草案の問題点を個別に指摘している。

 ところで、「法の下での平等」との建前に、疑いを持っていない人も多いと思うが、実際には、そのようなことはなく、国家権力や、それに近いエライ人がすると当然の行為であっても、一般人や、特に、権力に嫌われている人がすると、犯罪で逮捕懲役を食らうことは、珍しいことではない。
 イラクに自衛隊を派遣することに反対するビラを、分譲マンションに投函する目的で、マンション内に立ち入った人が、不法侵入で逮捕され、有罪判決が確定したことがある。
 もう、だいぶ前のことであるが、私の居住しているマンションに、自衛隊朝霞駐屯地の隊員募集ビラが無差別に投函されたことがあった。このとき、私は、ビラを無断投函しないように書いて、自衛隊朝霞駐屯地に転送したら、それ以降、無断投函はなくなった。
 自衛隊朝霞駐屯地が隊員募集のビラを配布するために、無断でマンションに立ち入る行為が不法侵入に問われたことはない。「イラク派遣反対」と「隊員募集」はどこが違うかと言えば、権力に反対するのか、権力の側にあるのか、ただ、それだけの違いである。

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