『放射線量』の考え方と使い方2014年06月26日


『わかりやすい 放射線物理学』多田順一郎/著 (1997/12)オーム社

に、『放射線量』の考え方と使い方について、分かりやすく書かれている。

放射線の量とは
 放射線は、人の五感によって捉えることができません。これは、私達の感覚が、磁場の存在を直接感知できないことと類似した状況です。もちろん、鉄粉やコイルを利用すれば、私達は、鉄粉が磁場から受ける力やコイルに誘導される電流を介して、磁場の状態を知ることができます。同様に、放射線を物質に作用させることによって、そこに生じる相互作用の種類と強さとから、放射線場の状態を間接的に知ることが可能なはずです。ここにいう放射線場の状態とは;
  ①どういう粒子(光子を含む)からなる放射線が、
  ②どういうエネルギー分布と、
  ③どういう方向分布を持って、
  ④単位時間にどれだけやって来ているか、
  ⑤さらに、①~④が時間的にどのように変化するか、
という状態を意味します。もし、ある空間領域内の任意の場所で、これらすべての量に関する情報が明らかであれば、我々は、その領域における放射線場の状態を完全に把握していると主張することができます。しかし、ある放射線場を表すのに、これら無数の情報を列挙することは、場が特別な対称性を持つ場合のような少数の例を除いてほとんど不可能でしょう。実用的な見地からすると、上に述べた複雑な放射線場の情報を、何かある一つの数値で代表させることができれば、大変に便利なはずです。私達が放射線場を記述するために用いるさまざまな"線量"は、こうした観点から、膨大な放射線場のパラメータを、一つの数値に集約させたものです。もちろん、この集約の方法は無数に考えられますから、私達の周りには、その目的に応じた方法で情報を集約したさまざまな"線量"(照射線量・カーマ・吸収線量など)が、共存する結果となりました。したがって、私達は、個々の"線量"が;
  ①どのような目的のために、
  ②どのような方法で放射線場の情報を集約し、
  ③結果として、放射線場のどのような特徴を記述する量になっている
かを、十分理解した上で、的確に区別して使用しなければなりません。(P173、P174)

計測線量
 計測線量(dosimetricquantity)は、放射線場の情報を一つの値に集約した俗に"線量"と呼ばれる量のうち、物理量であるものに相当します。放射線場とそれが相互作用する物体とに関するさまざまな情報をただ一つの数値に集約させる方法は無数にあり、それに対応して数多くの計測線量が考案されてきました。しかし、そのいずれの計測線量もある特定の事象に着目してつくられたものですから、その適用範囲は自ずから限定され、すべての現象について放射線の種類も物質の種類も問わず、同一の線量が同一の効果を表すような"万能の線量"などというものは存在するはずがありません。(P187)

線量当量
 放射線の単位と計測に関する国際委員会(ICRU)は、1962年に、放射線の種類の違いによる人体影響の相違を考慮した放射線防護のために用いる線量に、線量当量(H)という名称を与えました。その定義は、1986年若干の変更を加えられて、今日では以下のように規定されています。
 H=D・Q
 人体組織の吸収線量(D)に乗じられる線質係数は、上に示すように荷電粒子の水中における衝突阻止能の関数として与えられますが、"荷電粒子の水中における衝突阻止能"を測定その他の方法で決定することは容易ではありませんから、α粒子・重荷電粒子および速中性子(熱外中性子以上のエネルギーを持つものをすべて含む)に関しては20、陽子・中間子およびミューオンに関しては10、熱中性子に関しては4.6、そして光子や電子・陽電子に関しては1という実効値(Q)が便宜的に用いられています。
 線質係数には次元がありませんから、線量当量は吸収線量と同じ(J/kg)というSI単位を持ちます。そこで、吸収線量と区別するためシーベルト(Sv)という特別の名称が与えられています。
 線量当量を用いるときに注意すべきことは、線量当量が放射線による晩発障害(発がんや白内障、遺伝的影響等)のリスクを記述するための量であるという点です。したがって、放射線治療における投与線量を表すために用いることはもちろん、大量の線量を高い線量率で被曝したときに発生する急性障害(消化管障害・増血機能障害・皮膚障害など)のリスクを記述するために用いることも適切ではありません。また、線質係数を乗じた量であるという意味で、線量当量を含むすべての"放射線防護のための線量"は物理量ではなく、数値的な厳密さを追求すべきものではありません。(P207、P208)

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