本の紹介-仏菩薩の名前からわかる大乗仏典の成立2022年07月10日

 
田中公明/著『仏菩薩の名前からわかる大乗仏典の成立』春秋社 (2022/1)

 大乗仏教の起こりと、大乗経典の成立順を、「対告衆」の名前を基に、解明しようとする研究書。
 大乗仏典の多くは、初めの部分に、説法の参加者名簿が記されている。比丘・菩薩・天・優婆塞優婆夷の順が多い。これら参加者を対告衆と言う。本書は、対告衆の中の菩薩の名称を基に、大乗経典の成立順を推定する。菩薩の対告衆の中には、経典本文の中で大活躍するものもいれば、出だしの部分に名前が触れられている以外、経典に現れないものもいる。後者は、先行する大乗経典に名前が載っているので、それを拝借したものと考えて、経典成立順を推定している。また、初期大乗経典では、在家の菩薩が先で、出家の菩薩が後であるのに対して、中期以降は在家の菩薩がなくなることを以て、大乗経典は初期に於て、出家信者以外の中から成立したと推定している。
 大乗仏教は上座部系部派仏教僧侶の中から生まれたのだろうとの推定があったが、平川彰氏は出家者の周辺にいた法師(ダルマバーナカ)等によりつくられたとの説を唱えた。近年は、部派仏教僧侶の中から生まれたとする説が有力だそうだ。しかし、本書では、記載された対告衆の順番から、初期大乗経典は、僧侶ではなくて周辺から生まれたとしている。ただし、初期以降は、僧侶の中で作られたのであろうと推定している。
 本書は大乗仏教の起こりと経典の作成に関する研究なので、このような内容に関心のある者にとっては、興味が持てるものであるが、いろいろな大乗経典や対告衆の名称が出てくるので、ある程度、大乗経典を読んでいないと、とてもついて行ける内容ではない。また、経典に記載された対告衆の名称と順序から、著者のような推定は成り立つのだろうか。その点、疑問に感じた。

* * * * * *

<< 2022/07 >>
01 02
03 04 05 06 07 08 09
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

RSS