本の紹介-浅田次郎/著 終わらざる夏 ― 2011年07月09日
千島列島最北端の占守島では、終戦気の8月18日から、日ソ間で戦闘が行われた。本書は、この戦争に関連した小説で、上下2巻に分かれている。
終わらざる夏 上
終わらざる夏 下
ようやく、ざっと一通り読み終えたが、私には、つまらないだけの小説だった。
史実としてみたら、ずいぶんと事実と違うことが多い。日本人を称賛する思想で書かれているように感じられるが、もしそうだとしても、当時の価値観で称賛に値する日本兵の物語ならばともかく、現代日本人の価値観で称賛に値する日本人像を描いても、絵空事のように感じてしまう。
下巻の終りの方に、占守島に残留していた漁業会社の女性従業員を日本軍の努力で、全員、無事に北海道へ帰還させたとの美談があるが、史実は、ちょっと異なっている。
占守島・幌筵島には、漁業会社の女性従業員のほかに、従軍慰安婦が残されたが、これらの女性は漁業会社の独航船で北海道へ帰還している。(北千島の従軍慰安婦の多くは「少女のころ連れてこられ、いや応なしに日本兵の相手をさせられた」朝鮮人だったようだ。当時日本軍人だった大竹三郎氏の談話が、北海道新聞2005年2月6日に掲載されている。)
当時、占守島に居住していた別所二郎蔵氏によると、漁業会社は、これら女性たちを、北海道に帰還させようとしたが、日本軍の許可が下りなかったため、戦闘が始まってしまった。そのため、漁業会社は戦闘のさなかに、霧に乗じて女性たちを脱出させ、1艘を除いて帰還することができた。1艘は途中の中千島で座礁し、ソ連軍に救出された後、サハリン経由で、帰国したとのことである。
また、次の本の中には、漁業会社の船で帰国を果たした女性従業員の回想が記載されているが、この中では、日ソ戦の2日前に島を離れたと記載されている。
フレップの島遠く (平和への願いをこめて (11 樺太・千島引揚げ(北海道)編)) 創価学会婦人平和委員会/編 第三文明社 (1984/08)
占守島から、女性たちが脱出したときには、日本軍の協力もあっただろうが、日本軍の美談とすることは、ちょっと飛躍が大きいようだ。ただし、戦後、自衛隊の書いた、朝雲出版の戦史には、女性たちの脱出に際しての日本軍の協力が書かれているので、この小説では、朝雲出版の記述だけを使って、それを脚色したのだろう。
また、小説の中、特に下巻には、陸士主席卒の優秀な将校が出てくるが、小説の最後で、彼は、抑留地で自決したことになっている。
実際には、水津満少佐は陸士主席卒の秀才であったが、彼は、占守島で捕虜になりソ連に抑留され、日本に帰国後、東京世田谷の鉄工場の営業をしていたようだ。1年下の、陸士主席卒・中山平八郎は戦後、自衛隊東部方面総監になっているので、シベリア抑留者に対する日本社会の仕打ちは、厳しいものがあった。