本の紹介-福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇 ― 2023年09月19日

辻野弥生/著『福田村事件 -関東大震災・知られざる悲劇』五月書房新社 (2023/6)
関東大震災直後、多数の朝鮮人が殺された。本書は、この中で、千葉県野田市(旧・福田村)で起こった、日本人行商人虐殺事件を扱ったもの。本書は、最近、映画化されたため、多くの人の関心を集めている。
本書では、最初に関東大震災の様子と、それに引き続き起こった朝鮮人虐殺を取り上げる。朝鮮人虐殺は、朝鮮人が放火をしている等の根拠のないデマがきっかけだったが、このようなデマの流布に警察が関与している点の指摘がなされており、客観的で常識的な記述には好感が持てる。
福田村事件の話は、本の後半になる。関東大震災に出会った香川の行商人のうち、9人が朝鮮人と疑われて、福田村で惨殺された。9人のうち2人は子供で一人は妊婦だった。
殺害原因について、本書では、朝鮮人と間違われたとしているが、考察不足ではないだろうか。福田村自警団が朝鮮人と誤認して確保したことは間違いないとしても、被害者は自分たちは香川の行商人と主張しているのだから、もし、行商人の主張が信じられなくても、普通の心を持った人間ならば、警察に引き渡す程度のことをするだろう。ところが、福田村自警団は警察に引き渡すことを拒否した上で、子供を含む9人を虐殺した。これは、要するに、残虐な殺害をしたかったから、そのための口実が欲しかったのだろう。福田村村民には、下劣で残虐な劣等人種の血が流れていたと思える。
関東大震災直後、「朝鮮人が放火した」「朝鮮人が井戸に青酸カリを入れた」などの、流言蜚語があったため、これを信じた日本人が、朝鮮人犯罪を防止し、犯罪者を処罰するために、朝鮮人虐殺に及んだとする説がある。しかし、群馬県藤岡のように、自警団が警察署を襲って、保護されていた朝鮮人を虐殺した事例もあったことが知られているので、犯罪防止や犯罪者処罰が虐殺の目的だったとは思えない。もともと、人殺しがしたくて仕方なかった人が、混乱に乗じて、念願の虐殺を果たしたのではないだろうか。
実際、作家の志賀直哉は、震災直後に東京で、若者の以下の会話を聞いている。
『鮮人が裏へ廻ったってんで、直ぐ日本刀を以て追いかけるとそれが鮮人でねえんだ。然しこう云う時でもなけりゃあ、人間は斬れねえと思ったから、到頭やっちゃったよ。』
本書の内容に戻る。本書では、殺害された香川の行商人は被差別部落の人だったとの記載がある。もし、朝鮮人と誤認して殺害したのならば、部落民かどうかは関係ないことであり、本書の記述は、被災者を貶めるものとも言える。しかし、福田村の村民が人殺しをしたくて虐殺したのなら、自分たちよりも劣った人間であるとの理由を付けて殺したと考えられるので、被差別部落民だったとの本書の記述は、背景説明に有益だ。
本の紹介ー問われる宗教と“カルト” ― 2023年09月18日

島薗進、釈徹宗、若松英輔、櫻井義秀、川島堅二、小原克博/著『徹底討論 ! 問われる宗教と“カルト”』NHK出版 (2023/1)
2022年8月、安倍元総理が銃殺され、犯行動機が統一協会に対する恨みであることがわかると、統一協会問題が連日取り上げられた。こうした中、NHKでは宗教学者などを中心に、カルト問題を討論する番組を放送した。放送は1時間番組を2回にわたって10月に放送された。
本書は、この時の放送内容を書籍化したもの。放送されたもののほかに、出席者による数ページの解説がついている。放送は、合計2時間番組だったが、本だと1時間もあれば読み終わるだろうか。
著者のうち、島薗・櫻井両氏は宗教社会学者で、新宗教にも詳しい。釈氏は仏教学者。他の3名はキリスト教学者。
本書の関心の中心は統一協会問題であるが、広く、宗教と公共の関係を議論している。ただし、教義の内容に踏み込んだ話は少ない。これだけの宗教学者を集めたのだから、統一協会を含めた教義の内容に、もう少し、踏み込んだ議論をしてほしかったと感じたが、NHKの放送では無理ですよね。
本の紹介―第三次世界大戦はもう始まっている ― 2023年09月12日

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳『第三次世界大戦はもう始まっている』(2022/6)文春新書
著者はフランスの歴史学者
日本のテレビ、新聞における、ウクライナ・ロシア戦争の報道は、ウクライナの謀略情報や、アメリカの謀略機関・戦争研究所からの情報を垂れ流しにしている。このため、ウクライナが圧倒的善戦しているかのような、虚偽報道がなされている。戦争の原因も、善悪二元論に固執し、一方的にロシアが悪く、ゼレンスキーが絶対善であるかのような間違った報道がなされている。
本書は、客観的立場にたって、戦争の原因を解明するもの。NATOの責任を指摘する部分が多い。また、ウクライナ・ネオナチの記述もあるが、多くはない。ウクライナ政府による、ドンバス地域のロシア系住民弾圧の話はほとんどない。また、本書は、戦争開始後の早い時期に書かれたものなので、その後の、戦争の推移に関する記述はない。
現在、世界はロシア批判の西側諸国と、それに同調しないBRICS・アフリカ諸国に分かれている。著者は、これを、核家族・個人主義社会と、家父長的・権威主義的社会に分ける。日本とドイツは本来は家父長的社会だったが、敗戦により、個人主義社会に変貌させられた社会である。著者は人類学者であるため、このような視点を持つに至ったのだろう。興味が持てる見解だ。
本の紹介―「山上徹也」とは何者だったのか ― 2023年09月04日

鈴木エイト/著『「山上徹也」とは何者だったのか 』(2023/7)講談社α新書
鈴木エイトは自民党と統一教会の癒着関係を長年にわたって調査・取材してきたジャーナリスト。
鈴木エイトの前著『自民党の統一教会汚染2』には副題として『山上徹也からの伝言』とあったが、山上被告の話は少なかった。これに対して、本書は、山上被告の話がメイン。
2021年、安倍晋三は統一教会・韓鶴子を称賛するビデオメッセージを送った。鈴木エイトは、いくつかの新聞・雑誌などにこの事実を記載した。山上被告が安倍晋三を銃殺したきっかけとなったのが、この記事だったことはほぼ間違いない。このため、鈴木エイトには特に思うことがあるようだが、もし、彼の記事がなくても、安倍メッセージは新聞赤旗にも記載されていたので、結果は変わらなかったかもしれない。
安倍メッセージに対して、統一教会被害者弁護団は抗議文書を送ったが、安倍は受け取りを拒否した。山上被告が安部を殺害した直接動機が、韓鶴子を称賛する安倍のビデオメッセージだったのか、弁護団抗議文書を安倍が受け取り拒否したことだったのか、本書では分からない。もし、後者が原因ならば、言論では安倍を止めることが不可能と思った山上被告が、思いつめた末の犯行とも考えられる。
著者は山上被告の伯父にも何回か面会している。また、山上被告弁護士とも何回か面会し、山上被告に手紙を託している。このため、今のところ、本書が山上被告の犯行動機を知るうえで、最も重要な本であることは間違いない。しかし、著者にしても山上に直接面会しているわけではなく、また公判も始まっていない現在、それほど慌てて犯行動機を解明する必要があるのだろうかとも思う。
それから、山上容疑者は作家で統一教会支持者と言われている米本和広氏と、ネットの書き込みや手紙でやり取りをしていた、との報道を目にしたことがある。統一教会シンパの米本和広氏と、どういう理由で交流があったのか不思議だった。本書によると、山上容疑者が米本和広氏批判の投稿をしていたということのようだ。
戦勝記念日 ― 2023年09月03日

9月3日、ロシアでは、軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日。
アメリカでは9月2日が、Victory over Japan Day。
写真は、軍国主義日本に対する勝利に貢献した人に授与された記章。
本の紹介ー安倍晋三の正体 ― 2023年09月02日

適菜収/著『安倍晋三の正体』(2023/7)祥伝社新書
安倍晋三は近代日本史上、最も偏差値が低い大学出身の内閣総理大臣だろう。歴代総理大臣の中で、格段に頭が悪いことは間違いない。
本書は、このように頭が悪かった安倍晋三内閣が、いかに日本に害悪であったかを具体的に明らかにしている。ただし、すでによく知られたことが多い。
以下、各章のタイトルを記す
安倍晋三とは何だったのか
外交の安倍の実態
デタラメな経済政策
幼稚な政治観
嘘・デマの数々
バカ発言
安倍晋三関連事件
カルト、統一教会、反社、維新
歴史修正主義憲法破壊
本の紹介-日本解体論 ― 2023年08月24日

白井聡、望月衣塑子/著『日本解体論』(2022/8) 朝日新書
東京新聞記者の望月と政治学者の白井の対談。
二人はともに、日本社会の劣化を嘆いている人なので、対談の息はぴったり合っていて、読みやすい。
本書の内容は1章から5章までの大半が、日本の政治・日本社会・日本のマスコミ・日本の学界などが御用機関と化している状況を指摘するもの。
第6章はロシアウクライナ戦争に関する内容でだがページ数も少ない。著者の白井はソ連崩壊期にロシアに滞在していたようだが、彼の知識は古すぎに感じる。望月はロシア問題には詳しくないようだ。
本の紹介―問題はロシアより、むしろアメリカだ ― 2023年08月15日

エマニュエル・トッド、池上彰/著『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 朝日新書 (2023/6)
池上彰が質問してエマニュエルトッドが答える形での対談。池上は話の進行が上手なので、本は読みやすい。
ウクライナ戦争では、ゼレンスキーを一方的に正義として、プーチンを一方的に悪とする論調が、西側世界で支配的である。本書の中で、エマニュエルトッドはこのような風潮を批判して、事実を正しく理解することを主張し、池上もその考えに同調している。ウクライナ戦争が、アメリカの世界戦略の中で生じたことは明らかなので、著者の見解は正しく世界を理解しようとする人のは重要だ。
本書では、ウクライナ戦争にとどまらず、アメリカの没落や、西欧・アジアの家族の違いの言及もある。
エマニュエルトッドは米国に対して次のように言っている。
「アメリカは'悪'でもないけれど、いわゆる'完全な善'でもなくなっているということは確かだと思いますし、イラク戦争は思い返すと本当にひどかった戦争ですが、今はそれがヨーロッパで行われていると言えるわけです。(P125)」
イラク戦争は、イラクに核兵器があるとアメリカが嘘を言って始めた戦争で、ウクライナ戦争は、ゼレンスキーによるドンバス地域での虐殺・人権弾圧をアメリカが推進したことにより始まった戦争なので、両者は類似点がある。イラク戦争で、多数のイラク人を殺害することに成功したアメリカは、その後石油利権を手にした。ウクライナ戦争では、アメリカがウクライナの穀物利権を手に入れられる可能性は高くなさそうなので、その点では類似していない。
ウクライナ戦争は板ウになったら終結するのだろうか。この件について、かなり長引くと二人は予想している。
「池上:私は、このウクライナ戦争はこの先10年は続く「10年戦争」になると言っています。
トッド:私は5年だと思いますね。人口動態で見ると、ロシアの人口が最も減り始めるのが5年後であること、また第1次世界大戦、第2次肚界大戦ともに5年ほどで終わったということもあります。
池上:おそらく私が推測するに、プーチン大統領の頭のなかは第2次世界大戦中のi941年6月から45年5月にかけて戦った「独ソ戦」があると思います。このとき、ドイツの侵略を受けてまさに現在のウクライナの土地で大戦車戦が展開され、4年かかってドイッを追い出した。だから、少なくとも4年ぐらいは続くだろう、くらいのことはプーチン大統領は考えているのではないかなと思っています。(P176)」
本の紹介-創価学会 ― 2023年08月07日

櫻井義秀、猪瀬優理、粟津賢太/著『創価学会: 政治宗教の成功と隘路』法蔵館 (2023/4)
本書は、宗教社会学の立場で創価学界を研究した専門書で参考文献なども詳しい。創価学会と社会の関係を論じたものであって、宗教上の教義などを扱ったものではない。3人の著者が6章を執筆している。各著者の著述に、深い相互関連はない。
第1章で宗教社会学の概要と創価学会の簡単な歴史を示し、第2章で創価学会が拡大したきっかけとなった小樽問答・夕張事件を説明する。両事件は1950年代に北海道で起こったもので、創価学会の拡大につながる一方で、創価学会の独善性や創価学会が恐ろし新興宗教であることを世に知らしめることとなった。1960年代終わりから70年代初めにかけて、創価学会・公明党は出版妨害事件を起こし、それ以降、路線を変更し、独善性も薄れた。しかし、過去に池田大作が起こした小樽問答などを知っておくことは、現在の創価学会を理解する上で、忘れてはならないことだろう。
第3章から第5章は創価学会員のアンケート調査などを使って、選挙活動・学会活動など、現在の学会員の意識を明らかにしている。
かつての日本は、男は外で賃労働、女は家事との意識が多かった。そうした中で、婦人部員が家事を一部犠牲にすることで創価学会活動を担っていた。女性の社会進出が当たり前になってきた昨今、この点も曲がり角に来ているようだ。また、かつて野党として平和主義を唱えていた公明党が、与党になって久しい。こうした中、葛藤を抱える学会員もいるようだ。ただし、それが、公明党の得票にどれだけ影響しているのだろうか。
第6章は「成長=成功神話」の章題で、最初に日本の政治経済一般の問題を記載した後、創価学界の世俗化問題や、創価学会の社会との関わり合いの歴史を踏まえて、創価学会と公明党との関係を展望しているようだ。