本の紹介ートリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち2019年09月19日


加藤直樹/著『トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』 ころから株式会社 (2019/7)
  
 関東大震災のときに起こった朝鮮人虐殺は高校日本史教科書・山川出版詳説日本史には当然記載されているので、普通に、高校で日本史を履修した人には疑いのない事実だろう。また、中学日本史教科書にも記載されているので、中卒者や、偏差値の低い高校にしか入れなかった成績不振者でも、知っている人は多いだろう。
 しかし、近年、無知なネット右翼の中には、この史実が理解できない人も多いようで、関東大震災のときの朝鮮人虐殺はなかったと信じ込んでいた人もいたようだ。最近は、このようなトンデモ説を、あからさまに言う人は少なくなっているように思う。
  
 関東大震災の時の朝鮮人虐殺は明白な史実であり、この点について疑いを持つ近代日本史学者はいない。本書は最初に、朝鮮人虐殺が明白な史実であることを、資料を基に説明する。
 新しい歴史教科書をつくる会(西尾幹二創立)副会長や国家基本問題研究所(桜井よしこ代表)評議員を務めた工藤美代子(本名・加藤美代子)夫妻は関東大震災の時の朝鮮人虐殺はなかったとするトンデモ本を出版した。この本が、ネット右翼たちのバイブルとなっていたことがある。
 本書では、工藤美代子のトンデモ説は実は捏造であるとして、そのトリックの手口を明らかにしている。
 第一のトリックは、混乱していた震災直後の「朝鮮人暴動」記事を無批判に「事実」として掲げて「朝鮮人暴動」実在の証拠として示すことである。そして、新聞を含むそれ以降の記録によって震災直後の「暴動」記事の内容が否定されていることについては一切言及しないことである。『なかった』の全編にわたって繰り返されているのが、この手法だ。
 第二のトリックは、「朝鮮人暴動」が後に事実無根の流言として否定されていった理由を「政府の隠蔽」に求めながら、その唯一の証拠として、他人には検証不可能である工藤夫妻の亡父の証言なるものを掲げることである。しかも証言者の正体を「隠蔽」する。
 第三のトリックは、朝鮮人被殺者の推計にあたって、初歩的な数字の詐術を用いてこれを極少化することである。
 第四のトリックは、虐殺の実態を伝える手記から都合のいい部分だけを切り取って引用し、反対に「朝鮮人暴動」の証言に仕立てるものである。
 第五のトリックは、史料の引用にあたって、(略)と示すことなくこっそりと切り刻み、虐殺否定論にとって都合の悪いところを隠すことである。それをしかも「凡例」で居直っている点で、このトリックには出版社も加担している。
 第六のトリックは、朝鮮人のテロ計画の具体性を語る上での根拠として、重要な資料を参照元として示しつつ、しかし実際にはそこに書かれていないことを「参照」してみせることである。
 第七のトリックは、一般読者が知らないであろう事柄について意図的に虚偽の説明をすることである。ここでは在野の人による労作を「かなり公の刊行物」と偽っていることを一例として指摘した。
 「第一のトリック」「第四のトリック」は著者の言うようにトリックだろうか。小学校のときから、頭が悪くてまともに本が読めない人が、本の一部を自分に都合よく抜き出して理解することは珍しくない。著しく理解力のない人に共通する性向のようにも思える。
 「第二のトリック」は、精神異常による妄想癖にも見える。
 「第三のトリック」は、単に算数ができないだけではないか。
 このように考えると、工藤美代子のトンデモ説は知的能力が低く、若干精神異常がある人の妄想のように思える。

 いずれにしても、本書を読むと、歴史修正主義者(自分たちに都合よく歴史を捏造する人たち)の手口が分かる。 もっとも、工藤美代子ほど、低レベルで稚拙なトリックをそのまま使う人は、ネット右翼のおバカさんでも多くないかな。

本ー日本人の歴史認識と東京裁判2019年09月17日

  
 吉田裕/著『日本人の歴史認識と東京裁判』岩波ブックレット(2019.8)
  
 本書は、日本近現代史学者・吉田裕の講演録を基にしている。一般向けの講演なので、本書の内容も一般向け。
  
 東工大教授で作家で最後は自殺した江頭淳夫(江藤淳)は、戦後アメリカは占領統治のときに、日本人洗脳化プロジェクトを行い、この計画に基づいた様々な宣伝工作により日本人は洗脳されたと説いた。現在も同様な主張をする人たちがおり、米国の洗脳工作を東京裁判史観などと言っている。
  
 本書では、戦争末期のマッカーサーの戦略では、天皇や日本国民が悪いのではないこと、悪いのは日本軍であることを宣伝していた事が指摘される。さらに、この戦略は、東京裁判にも受け継がれ、米国と東京裁判被告側弁護士との間で天皇の責任が追及されないようにしていたことが指摘されている。このように、東京裁判は日米が共同して実施された面があり、アメリカが一方的に行ったわけではないことが示される。
 このほか、歴史修正主義者の問題点などの指摘もある。
  
 本書は、講演録がベースで、わかりやすい文章で、読みやすい。

本ー波濤を越えて2019年09月16日

  
佐藤雄二/著『波濤を越えて』文藝春秋 (2019/7)
  
 著者は海上保安大学校を卒業し、巡視船の通信士となる。その後、特殊警備隊基地長、第十管区海上保安本部長などを務め、海上保安庁長官を務めた。本書は、著者の回想録。尖閣警備の話などもある。

本の紹介―ネット右翼とは何か2019年09月14日

 
樋口直人、永吉希久、他/著『ネット右翼とは何か』青弓社 (2019/5)
 
 6人の社会学者による6編の論文。ただし、最終論文は、前5編の論文のまとめの要素がある。執筆者は准教授クラスの人が多い。
 
 本書はネット右翼を解明するもの。2編の論文は社会調査・統計調査によりネット右翼の実情を明らかにしている。最初の論文では、排外主義的傾向と政権親和性との傾向により、ネット右翼を分類し、このような人がどのような階級であるかを統計調査により解明している。2番目の論文では、在特会の桜井が選挙に立候補した時に、彼に投票した人の性向を統計調査している。日本のネット右翼の実情を示しているものとして興味深い。
 これらの論文によると、ネット右翼には情報処理産業に従事する者が多く、年代は30代40代に多い。欧米の右翼は低学歴・低賃金者が多いのに対して、日本のネット右翼は高学歴で賃金も比較的高いとの調査結果である。ただし、非常に面白い調査として、ネット右翼は自己肯定感が乏しく、自分を高学歴とか高賃金とは思っていないものが多いとのことだ。
 この調査結果の意味について、本書には何の説明もない。
 
 私は、長年・情報処理産業に身を置いたので、このような調査結果の意味が、なんとなくわかる気がする。
 公立小中学校のときは勉強ができた子で、高校は進学校に入り、そこで授業は出て単位はとったものの漫然と過ごし、二流大学の理系に入り、学生時代も漫然と過ごして、特に工学のスキルもなく、募集の多かった情報産業に就職した、こんな人が情報産業には結構多いのです。こういう人は、社会一般から見ると高学歴だけれど、職場で使用する数学に堪能ということもないので、職場の中では、二流大卒の低学歴者になってしまう。コミュニケーション力があるならば営業や総務・人事などに移って成功する人もあるだろうけれど、高校・大学と漫然と過ごし情報処理に入る人の多くにコミュニケーション力があるわけではないので、30代40代になると、なんとなく疎外感を強く持つのだろう。
 
 本書には、統計調査の2編の論文のほかには、以下のものが収められている。
 
 『ネット右翼の生活世界』のタイトルで、Facebookの投稿を調査して、ネット右翼がどのような人なのかを紹介している。「自営業者」「サブカルチャー」などであるが、どうも論文の内容が今一つ理解できなかった。
 ネット右翼は歴史関連の発信が多いのだけれど、歴史に対する関心から歴史修正主義や排外主義に至るのではなく、ネット右翼の活動に必要な動機の語彙として歴史が選択される、すなわち、相手をバッシングするために歴史が利用されるとの指摘は、ネット右翼の行動分析として考えさせられる。
 
 『ネット右翼と参加型文化』
 
 『ネット右翼と政治』では、ネット右翼がbotを活用して、主張を振りまいているさまを調べている。ネット右翼なる人たちは、言われているほど多くはなく、botの活用などで、勢力を誇示しているだけなのだろうか。
 
 『ネット右翼とフェミニズム』は全体のまとめを含む内容。

本の紹介―徴用工の真実2019年09月13日

 
早乙女勝元/著『徴用工の真実―強制連行から逃れて13年』新日本出版社 (2019/5)
 
 終戦前年の1944年8月に、中国から拉致されて、北海道の炭鉱で奴隷労働を強いられた中国人・劉連仁は、終戦直前の1945年7月末に炭鉱を脱走した。その後、日本が敗戦したことも知らずに、北海道の山の中を13年にわたって逃げていた。
 本書の前半は劉連仁の話。拉致、逃亡、発見、帰国、帰国後の生活などがしるされる。また、強制徴用に対する解説も含まれる。
 
 後半は3・1独立運動で日本に拷問の末殺された、いわゆる韓国のジャンヌダルク柳寛順の墓やモニュメント、記念館を訪ねた時の旅行記。旅行記というよりも、日本の侵略と韓国人の抵抗史といった方がよいかもしれない。
 景福宮の明成皇后殉国崇慕碑の写真がある。

本の紹介―歪む社会2019年09月11日

 
安田浩一、倉橋耕平/著『歪む社会 歴史修正主義の台頭と虚妄の愛国に抗う』 論創社 (2019/2)
 
 ジャーナリスト・安田浩一と社会学者・倉橋耕平の対談。
 対談ではなくて、それぞれが論文を書いてくれた方が、読みやすいと思うのですが。。。
 
 本書の内容は、近年、歴史修正主義、ヘイトスピーチがはびこった社会背景を解明するもの。ここで言う「歴史修正主義」とは、歴史の誤りを歴史学の立場から修正するものではなくて、自己に都合の良いように史実を捻じ曲げることをいう。
 
 本書の中で、ネット右翼は30代40代のIT技術者が多いとの指摘がある。本書には、その理由に対する説明は特にない。
 
 私は、長年・コンピュータソフト関連業界に身を置いたので、30代40代の情報処理技術者にネット右翼が多い理由が、なんとなくわかる気がする。
 20~30年前から、PC・ITが急速に進み、これらのソフト関連技術者が大量に必要となった。しかし、数学や情報処理の高度知識を持つものは少なく、能力の低い人を長時間低賃金労働で酷使することで、ソフト開発をこなしてきた。こういう人たちが30、40代になっても、高度情報処理技術を身に着けられるわけもなく、また管理者になる素養もなかった。こういう人たちが、ネット右翼に流れるのは、ある意味、仕方ないだろう。
 昔ならば「工員」と呼ばれるべき職種に就いて、そののち「職人」として優遇されることがあっただろうが、情報処理業界では、数学や情報処理の能力が乏しい人は、長期間業界に身を置いても、技術スキルは上がらない。工員・職人は同じものを作り続けることで技能が向上するが、コンピュータソフトは同じものを作ることはないので、長期間業界に身を置いても、技能が向上しないのです。

本の紹介ー「満洲」に渡った朝鮮人たち2019年09月04日

 
李光平・他/著『「満洲」に渡った朝鮮人たち』世織書房 (2019/6)
 
 戦前、中国東北部に渡った朝鮮人は多かった。このような朝鮮人がいかに苦労したのかを写真と文章で示した本。
 しかし、中国東北部に渡った朝鮮人には、日本軍の中国侵略の尻馬に乗って、中国人収奪の片棒を担いだものも多く、また、アヘン密売人の多くは朝鮮人だったことも知られているが、本書には、このような話はない。朝鮮人のなかには、日本の官憲になって、朝鮮人弾圧の先鋒を担ったものもあるが、そのような人への恨み言は書かれている。
 要するに、本書は朝鮮人の苦労話を写真で紹介するもの。
  
 中国に渡った朝鮮人の中には、戦争の末期に、日本軍に配属され、終戦後の9月15日までソ連と戦ったものもいたそうだ。日本では、終戦の日を8月15日としているが、日本軍は9月になっても戦闘を辞めなかったことが分かる。
 
 『一九二五年生まれの閔洪基は、同村の成学淵と李龍俊とともに、一九四五年八月初めに日本軍兵士となってハイラルまで行ってそこで別れた。五一五部隊に配属された閔は、満洲里の向かい側の中ソ国境線で九月一五日までソ連軍に抵抗した。大敗した日本軍は四方八方に散らばった。閔は、牡丹江で入隊した朝鮮人張潤植と一緒に逃げたが、非常に幸運なことに、中国人の助けで脚の怪我を治療して、家まで帰って来た。(P87)』

本の紹介ー日本近現代史を読む2019年09月03日

 
大日方純夫・他/著『日本近現代史を読む 増補改訂版』 新日本出版社(2019/5)
 
 幕末・明治維新から最近までの日本史教科書。見開き2ページにテーマの区切りがあるものが多く、読みやすい。近現代史に絞っているため、普通の高校教科書に比べ、この部分は詳しい。

本の紹介―暴走する日本軍兵士2019年08月28日

 
ダニ・オルバフ/著『暴走する日本軍兵士』朝日新聞出版(2019.7)
 
 著者はイスラエルの歴史学者で、専門は軍事史。原書は英語で、本書は日本語訳。
 日本軍が政治を無視して独走していった経緯を幕末から2・26事件まで、時代を追って説明する。一般向けの歴史解説書ではなくて、専門的な歴史研究書なので、内容は詳細で参考文献も多い。
 本書で著者は、日本軍の制度には3つのバグがあって、そのため軍部の暴走を許したとしている。3つのバグとは「あいまいな正当性」「一方通行の領土拡大」「終わりなき領土拡大の道」であるとする。軍部暴走の原因をこの3つに収斂させる見解には賛成できないが、軍部暴走の歴史が詳しく説明されており、日本近代史理解の上で大変参考になる。

本ー長崎奉行の歴史2019年08月20日

  
木村直樹/著『長崎奉行の歴史 苦悩する官僚エリート』角川学芸出版 (2016/7)
  
一般読者を対象とした歴史解説書。特にコメントすることはないのだけれど、読んだことを忘れないように書き留めておきます。

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