本の紹介-新仏教教団を学ぶ ― 2026年07月13日
島薗進、金澤豊/編『新仏教教団を学ぶ』法藏館(2026/1)
仏教系新興宗教の中には旧仏教と友好関係にあるものも多い。本書はこのような仏教系新興宗教の中から「孝道教団(天台宗系)」「立正佼成会(日蓮宗系)」「真如宛(真言宗系)」の3つの新興宗教を取り上げている。
本書は5章構成で、最初の章は宗教社会学者・島薗進による仏教系新興宗教の概説。2章から4章は、新興宗教の代表・幹部による各教団の説明。多くは、すでによく知られている内容なので、特に新味は感じられなかった。
第五章は、編集者と各教団の代表・幹部による対談。島薗進が質問して、3人が答える形となっている。
本書で取り上げている3つの新興宗教は、各宗信者の団体で 、現世利的傾向が強ようだ。また、本書で取り上げた3教団に限らないが、新興宗教一般に、信者による布教活動が行われ、この点が、普通の仏教寺院とは大きく異なる。
ところで、本書のタイトルでは「新仏教」となっているが、一般には「仏教系新興宗教」と呼ぶ人が多い。宗教社会学では「仏教系新宗教」ということが多い。新興宗教教団は悪いことをするものが多かったため、「新興宗教」という言葉には侮蔑的イメージが付いた。そこで、中立的立場で研究する場合に「新宗教」と言うようになった。ところが、新宗教教団は悪いことをしたり迷惑だったりと、社会的影響への内実は、あまり変わらないので、「新宗教」という言葉にも侮蔑的イメージが付いて来たようだ。このため、本書が対象としている孝道教団・立正佼成会・真如宛をまとめて新仏教と呼んだのだろうが、日本の新興宗教には、仏教と神道が混ざっており「新仏教」と言うにふさわしくないものが多い。このため、新仏教の言葉は日本の宗教を理解するうえで、あまりふさわしい言葉とは言えないように思う。
本-日本史はいかに物語られてきたか ― 2026年07月12日
河野有理/著『日本史はいかに物語られてきたか』新潮社(2026/5)
本書は、20名ほどの歴史学者・作家などにより、日本史がどのように語られてきたのか、歴史観を説明するもの。取り上げられている歴史学者や作家は全員が戦後の人。
私は、あまり歴史観に興味がないせいか、あまり興味が持てる内容ではなかった。
本の紹介-明治政府と日露関係 ― 2026年07月06日
醍醐龍馬/著『明治政府と日露関係: 樺太千島交換条約とその時代』有斐閣(2025/12)
1875年、明治政府はロシアとの間で「樺太千島交換条約」を締結した。
本書は、この条約を締結するに至った状況を詳述する研究書。著者の博士論文がベースとなっているようで、内容は高度で、この分野に対するそれなりの予備知識がないと読めないだろう。日ロ関係史の研究書としては、長谷川毅/著『北方領土問題と日露関係』 があるが、本書も同様に高度な内容のため、一般的啓蒙書のつもりで読むと歯が立たない。
1855年、日露和親条約だ締結されるも、樺太に対する国境は定めることができず、これまでのしきたり通りとされた。1867年には樺太仮規則が締結されたが、この時も国境を定めることができなかった。日本は、樺太全島領有や、中間の北緯50度線を境界とすることなどを望んでいたが、実際には樺太へのロシア勢力の進出は盛んだったにもかかわらず、日本の進出は遅々として進まなかった。
本書は、樺太仮規則以降の戊辰戦争等の日本の北方状況から説明し、樺太放棄反対派だった副島種臣から樺太放棄論者の黒田清隆へ交渉責任者が変わったことや、榎本武明のサンクトペテルブルグでの状況など、日本の状況が詳述されている。また、条約締結の背景としてマリア・ルス号事件のロシア皇帝による国際仲裁裁判と、長崎稲佐ロシア村の話がある。
本条約でロシアは幌筵島を含む得撫島以北の全千島を日本に引き渡した。本書にはロシアが譲歩した背景の説明なども書かれているが、日本の状況に比べてずっと少ない。
なお、学術論文のため、参考文献の掲載も詳しい。
本の紹介ー西洋の敗北と日本の選択 ― 2026年06月27日
エマニュエル・トッド/著『西洋の敗北と日本の選択』文春新書(2025.9)
著者は社会学者(人類学者)で、2024年に文芸春秋社から出版された『西洋の敗北』はロシア・ウクライナ戦争での欧米諸国の問題を明らかにしたことで、大きな話題となった。本書は、ロシア・ウクライナ戦争に対する直接の記述は減って、米国の退潮、西欧の退潮と、これに追随する日本の政治姿勢を明らかにしている。
2023年から2025年に文芸春秋に掲載された著者の論文や対談をまとめたもの。
本書は、前書『西洋の敗北』に比べ容易に読めるが、いくつかの論文等をまとめたもののため統一性に若干欠ける気がした。
本の紹介-なぜカルト宗教は生まれるのか ― 2026年06月20日
浅見定雄/著『なぜカルト宗教は生まれるのか』日本キリスト教団出版局(1997/3)
著者はユダヤ教・初期キリスト教の研究者として、また大学教授として、早くから統一教会のマインドコントロールや詐欺商法問題に取り組んできた。
本書は主に1995年ごろに書かれた論文をまとめたもの。カルト問題を扱っているが、20ページ程度の論文をまとめたものなので、本としての統一感は今一つ少ない。当時、オウム問題が社会の関心事だったため、本書もオウム問題に関する記述が多いが、統一教会にも触れられている。著者の本職はキリスト教学者なので、統一教会のインチキぶりには我慢ならないのだろう。
著者は現在もご健在のようである。長い間、著者が取り組んできた統一教会は、すでに解散命令が出されている。どんな気持ちでおられるのだろう。
本の紹介-写真が語るアイヌの近代 ― 2026年06月15日
大坂拓/著『写真が語るアイヌの近代―「見せる」「見られる」のはざま』新泉社(2025/3)
幕末に日本に写真術が入ってくると、アイヌの写真が撮られるようになる。本書は、主に、戦前にとられた噴火湾を中心とする地域におけるアイヌの写真をもとに、明治以降のアイヌの姿を説明するのも。写真自体の解説よりも、むしろ、明治以降のアイヌ史に主眼が置かれているように感じた。
アイヌの写真といえば、樺太アイヌや色丹アイヌのものも残されており、これらも興味深いものであるが、本書は主に噴火湾地域を対象としてるため、樺太アイヌなどは本書には含まれない。
本-唯識 ― 2026年06月13日
加藤朝胤/監修、船山徹・石垣明貴杞/著 『唯識 これだけは知りたい』法蔵館(2023/4)
本は全4章に前書きと後書きが付く。
4章のうちの3章が、それぞれ、インドの唯識の歴史、中国の唯識の歴史、日本の唯識の歴史。歴史を知ることも重要だから、唯識思想をある程度知っている人にとっては、ある意味重要な内容なのかもしれないが、あまり唯識思想になじみのない人にとっては、高校歴史教科書を暗記しているだけのようになってしまう感じがした。
第4章は基本用語で、①原子の存在否定 ②三性説 ③阿頼耶識 ④悟るための修行 ⑤仏の三身説 と5節の解説がある。これを読むと瑜伽行唯識派の思想の雰囲気がなんとなくわかるかもしれないが、物足りない気がした。
本の紹介ー描かれた蝦夷地・北海道イメージの500年 ― 2026年05月31日
濱口裕介/著『描かれた蝦夷地・北海道イメージの500年 地図で読む日本北辺史』(2025/9)山川出版社
本書の内容は、日本側から見た北海道の歴史の解説。本のタイトルだと、古地図の解説のようにも感じるが、古地図を使った歴史解説の書であり、北辺地図の変遷を解明するものではない。
本書は5章構成で、それぞれが、各時代に対応している。
第1章:桃山時代以前
第2章:江戸初期から中期
第3章:幕末から明治初期
第4章:明治から戦前
第5章:戦後
本書は、日本製古地図の写真が多く、文章も読みやすいので、日本側から見た北海道の歴史を知るうえで参考になる本だと思う。
本の紹介 ー それでも日本に原発は必要なのか ― 2026年05月04日
青木美希/著『それでも日本に原発は必要なのか? 潰される再生可能エネルギー』(2026/2)文春新書
著者は、朝日新聞社の社員らしい。
本の内容は原発に反対する立場から、原発の問題を明らかにするもの。原発問題に関心のある人には、特に目新しい内容は少ないようだが、事実が客観的に、わかりやすく書かれており一読の価値はある。
著者の所属する大手新聞社は、本書の出版に圧力をかけているようで、著者がこのまま社員でいられるのかどうか疑問とする向きもあるようだ。かつて、朝日新聞社はリベラルの論調だったが、安倍政権によって朝日新聞が批判されると、急に右傾化した。本書は文春新書からの出版。かつての朝日新聞社ならば、関連会社から出版されていたことだろう。
本の紹介-廃仏毀釈はなぜ起きたのか ― 2026年04月30日
栗林文夫/著『廃仏毀釈はなぜ起きたのか』山川出版社(2026/3)
著者は、鹿児島県の郷土史家。明治初期の廃仏毀釈は、各地方で濃淡があったが、その中で、鹿児島県は最も徹底的に廃仏毀釈が行われた。本書は、鹿児島県の廃仏毀釈を詳述している。一次資料の引用も多いが、本の文章はおおむね読みやすい。
幕末、薩摩藩は赤字財政を立て直すため、天保通宝の贋造に手を染めた。その時の中心人物が、市来四郎で、贋造天保通宝は1億枚にのぼったようだ。現在、天保通宝の中で、薩摩銭は本座銭に次いで安価に入手できる。天保通宝贋造には銅が必要であり、このため市来四郎は寺から梵鐘や仏具を強制徴収したと言われている。本書には琉球通宝の鋳造については書かれているが、膨大な天保薩摩銭の贋造については触れられていない。
本書では、廃仏毀釈の原因について次の1から9を挙げている。
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1 江戸時代には僧侶自身も宗門改の役人の改めを受け、その職能も他藩の僧侶より狭く、社会的地位もさほど高くなかった。
2 民衆のほとんどがかくれ念仏の信徒で、表面だけ各宗旨の檀那寺についていた。
3 寺請制度が薩摩藩にはなく、寺院と民衆との直接的関係が見いだしにくい 。
4 廃寺によって職を失った僧侶に食料を給与し、希望者は兵士・教員・巡査・官公吏に採用するな ど、その生活を保障したから。
5 鋳銭事業を契機とした梵鐘鋳つぶし論が、廃仏毀釈のハードルを低くした。 またこれより先、島津斉彬が梵鐘を集め置いたことは、後人に彼の遺志が廃仏にあったと思わせる効果があった。
6 薩摩藩の地理的位置が九州の最南端にあり、外からの情報が入りにくかった。
7 薩摩藩は当時、幕末の混乱した政局の真っ只中にあり、戊辰戦争を遂行する必要から、多額の金 銭が必要であったという経済的理由(途中省略)。まさに「背に腹は代えられない」ということである。
8 古くからいわれていることであるが、国学が流行するなどして、藩士らのなかに廃仏的世風が一定程度広がっていたこと。
9 市来四郎が談話で強調したのは、「世の形勢」「時勢」という言葉であった。いずれも「世のなかのありさま、世のなりゆき」のような意味で使用されている。もちろん、突然 廃仏的な世の形勢や時勢が生ずるのではなく、そのようになるには右の1から8までのいくつかが前提となってのことだと思われる。しかし、一度、世の形勢や時勢が動き出すとそれを止める ことはなかなか困難になる。
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1~4は廃仏毀釈がスムースに進んだ要因であって、廃仏毀釈の原因ではない。6は何を言っているのか私にはわからない。市来が強力に廃仏毀釈を推し進めたのは、5,7の経済的要因と考えるのが妥当だと思う。
著者は、鹿児島県の郷土史家。明治初期の廃仏毀釈は、各地方で濃淡があったが、その中で、鹿児島県は最も徹底的に廃仏毀釈が行われた。本書は、鹿児島県の廃仏毀釈を詳述している。一次資料の引用も多いが、本の文章はおおむね読みやすい。
幕末、薩摩藩は赤字財政を立て直すため、天保通宝の贋造に手を染めた。その時の中心人物が、市来四郎で、贋造天保通宝は1億枚にのぼったようだ。現在、天保通宝の中で、薩摩銭は本座銭に次いで安価に入手できる。天保通宝贋造には銅が必要であり、このため市来四郎は寺から梵鐘や仏具を強制徴収したと言われている。本書には琉球通宝の鋳造については書かれているが、膨大な天保薩摩銭の贋造については触れられていない。
本書では、廃仏毀釈の原因について次の1から9を挙げている。
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1 江戸時代には僧侶自身も宗門改の役人の改めを受け、その職能も他藩の僧侶より狭く、社会的地位もさほど高くなかった。
2 民衆のほとんどがかくれ念仏の信徒で、表面だけ各宗旨の檀那寺についていた。
3 寺請制度が薩摩藩にはなく、寺院と民衆との直接的関係が見いだしにくい 。
4 廃寺によって職を失った僧侶に食料を給与し、希望者は兵士・教員・巡査・官公吏に採用するな ど、その生活を保障したから。
5 鋳銭事業を契機とした梵鐘鋳つぶし論が、廃仏毀釈のハードルを低くした。 またこれより先、島津斉彬が梵鐘を集め置いたことは、後人に彼の遺志が廃仏にあったと思わせる効果があった。
6 薩摩藩の地理的位置が九州の最南端にあり、外からの情報が入りにくかった。
7 薩摩藩は当時、幕末の混乱した政局の真っ只中にあり、戊辰戦争を遂行する必要から、多額の金 銭が必要であったという経済的理由(途中省略)。まさに「背に腹は代えられない」ということである。
8 古くからいわれていることであるが、国学が流行するなどして、藩士らのなかに廃仏的世風が一定程度広がっていたこと。
9 市来四郎が談話で強調したのは、「世の形勢」「時勢」という言葉であった。いずれも「世のなかのありさま、世のなりゆき」のような意味で使用されている。もちろん、突然 廃仏的な世の形勢や時勢が生ずるのではなく、そのようになるには右の1から8までのいくつかが前提となってのことだと思われる。しかし、一度、世の形勢や時勢が動き出すとそれを止める ことはなかなか困難になる。
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1~4は廃仏毀釈がスムースに進んだ要因であって、廃仏毀釈の原因ではない。6は何を言っているのか私にはわからない。市来が強力に廃仏毀釈を推し進めたのは、5,7の経済的要因と考えるのが妥当だと思う。