本の紹介-誰が科学を殺すのか2019年12月10日

 
毎日新聞取材班/著『誰が科学を殺すのか 科学技術立国「崩壊」の衝撃』(2019/10)毎日新聞出版
 
毎日新聞連載記事の書籍化

本の紹介―ノモンハン責任なき戦い2019年12月05日

 
田中雄一/著『ノモンハン責任なき戦い』 講談社新書 (2019/8)
 
2018年8月15日に放送されたNHKスペシャルの新書本。
同じような内容の番組として、1998年8月に放映された『ドキュメント・ノモンハン事件~六〇年目の真実』があり、こちらは『ノモンハン隠された戦争』として書籍化されている。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2011/09/23/6110910
 
 本書は『ノモンハン隠された戦争』と比べ、作戦将校・辻政信に関する記述が詳しい。辻政信は国際政治の視野を全く欠いて、局地戦闘の勝利しか頭になくて、補給体制を含めた全体を見る目が全くなかったにもかかわらず、辻政信を中心とする関東軍の暴走を中央が押しとどめることもなく、敗戦に至った。辻政信は太平洋戦争では南方戦線の作戦立案にあたったが、補給を考える能力もないまま、局地戦の勝利にこだわり、兵力を分散させ、敗北に至ったのは、ノモンハンの失敗の繰り返しだった。
 
 辻政信は作戦課員として、太平洋戦争開戦にもかかわっている。太平洋戦争を開戦するか否かの会議で、勝利の見込みを尋ねられた辻は、「戦争というものは、勝ち目があるからやる、ないからやめるというばかりではない。・・・勝敗を度外視してで開戦に踏み切らなくてはならぬ。いや、勝利を信じて開戦を決断するのだ。(P198)」と主張して、日本を敗戦に引きずり込んでいる。
 辻政信こそ、日本陸軍の無責任で腐りきった象徴のような人だから、本書の記述が辻に多くのページを割くのは当然なのかもしれないが、そういう無責任な陸軍を放置していた、天皇・裕仁をトップとする政治の責任も重要なはずだ。

本の紹介ー華厳の思想2019年12月03日

 
鎌田茂雄/著『華厳の思想』講談社学術文庫(1988.5)
 
1983年に講談社から出版された本の文庫化。
この本は、10年以上前に購入し、読まずに書棚にあったものを、最近読みました。華厳とは華厳経あるいは華厳経を所依の経典とする華厳宗のこと。奈良・東大寺が華厳宗です。
 
 日本では、華厳宗は流行っていないけれど、韓国では結構メジャーなようです。中国では、華厳経を基に作られた円覚経という偽経が重視され、華厳経はあまり顧みられないようです。
 本書は、最初に、「日本仏教における華厳経の位置」を示した後、「華厳経の構成などを主体とした華厳経の説明」、「中国における華厳宗の成立」、「主に日本における華厳思想あるいは日本文化の中での華厳思想」、「韓国や日本での華厳経の発展」、について書かれている。
 華厳経の思想解説は少なく、日本文化と華厳経思想の関係や、日本の仏教者による華厳経理解などが中心になっている。また、最後の「日本での華厳経の発展」では明恵上人と華厳経の関連が詳しい。しかし、今では高山寺は華厳宗ではないので、明恵が好きな人以外には、どれだけ必要な知識だろうか。
 
 日本文化の中で華厳の位置を知るには、それなりの内容ではあるが、華厳経の思想自体の理解には、本書だけでは、遠く及ばないように感じる。

本の紹介ーネット右派の歴史社会学2019年11月24日

 
伊藤昌亮/著『ネット右派の歴史社会学』青弓社 (2019/8)
 
 500ページを超える大書。著者は、メディア論が専門の社会学者で、成蹊大学文学部教授。
 
 一時期社会を騒がせていた在特会のヘイトスピーチは、最近ではだいぶ減ってきたようだ。本書は、ネット右翼が起こった状況・嫌韓ヘイトスピーチになって行った状況・退潮していく状況を1990年代から現在まで、各時代区分ごとに一つの章を割り当て、歴史を追って詳述している。
 
 ネット右翼・保守にはいろいろな性向があるが、本書では、これらを以下の11に分類している。
 ・サブカル保守、バックラッシュ保守、ビジネス保守
 ・嫌韓、反リベラル市民、歴史修正主義、排外主義、反マスメディア
 ・規制右翼系、新右翼系、ネオナチ右翼
 
 各章ごとのタイトルを記す。
  
第1章 新保守論壇と嫌韓アジェンダ・・・1990年代前半まで
第2章 サブカル保守クラスタと反リベラル市民アジェンダ・・・1990年代半ばまで
第3章 バックラッシュ保守クラスタと歴史修正主義アジェンダ・・・1990年代後半まで
第4章 ネット右派論壇と保守系・右翼系の二つのセクター・・・1990年代後半まで
第5章 ネオナチ極右クラスタと排外主義アジェンダ・・・2000年前後まで
第6章 2ちゃんねる文化と反マスメディアアジェンダ・・・2000年代前半まで
第7章 ネット右派の顕在化・・・2000年代後半まで
第8章 ネット右派の広がりとビジネス保守クラスタ・・・2010年前後まで

本の紹介―樺太地上戦2019年11月21日

 
NHKスペシャル取材班/著『NHKスペシャル 戦争の真実シリーズ2 樺太地上戦 終戦後7日間の悲劇』KADOKAWA (2019/10)
 
 本書は、2017/8/14に放送された45分程度の番組「NHKスペシャル 樺太地上戦」の書籍版。番組はDVDで販売されている。
 この本は写真や図が多く、字が大きく行間も大きいので文章による情報量は少ない。

 8月15日の玉音放送があったのちも、ソ連や中国戦線では戦争が終結しなかった。樺太で、戦争が終結したのは8月22日である。
 本書は、8月15日以降、戦争が終結しなかった理由として、住民に竹やりなどで抵抗させて、時間稼ぎを図ったことを上げている。8月16日にソ連軍が恵須取に上陸してきたとき、ソ連軍は攻撃の意思を持っていなかったのに、現地日本軍に配属されたにわか日本軍人たちは、攻撃命令のもと、無抵抗のソ連兵を射撃した。これにより、ソ連軍の攻撃が開始された。(P38~P42)
 P51には大本営が「即時戦闘行為を中止すべし」と命令したのに対して、第5方面軍は「樺太を死守せよ」と正反対の命令を出したとしている。この記述は正しいのだろうか。大本営が8月16日に出した命令(大陸命1382号)では「但し停戦交渉成立に至る間敵の来攻に方りては止むを得さる自衛の為の戦闘行動は之を妨けす」とあるので、積極的な攻撃をするなというだけのことであり、第5方面軍の命令と趣旨に違いはない。なお、大本営が戦闘停止命令を出したのは8月22日の大陸命第1388号で、8月25日零時以降に戦闘を停止せよとのことだった。
 日本軍とソ連軍の間では停戦交渉が何度か行われている。しかし、第88師団参謀長・鈴木康の手記によると、8月20日のソ連との交渉で、無条件降伏・武装解除を勧告されたがこれを拒絶して交渉が決裂した(P96~P98)。日本が受諾したポツダム宣言には日本軍の無条件降伏が定められているにもかかわらず、これを拒絶している状況が明らかにされていて興味が持てる。
 このような状況が一転したのは、8月21日に満州の関東軍から戦闘停止命令があり、このため、22日午前に交渉した結果、停戦が成立し、樺太での戦争は終結した。(P122,P123)

本の紹介ーサカナとヤクザ2019年11月19日

 
鈴木智彦/著『サカナとヤクザ』小学館(2018.10)

 近所の市立図書館に蔵書が複数あったので、借りようとしたら半年以上待たされた。人気本なのかな。
  
 著者は、ヤクザ関係の記事が多いフリージャーナリスト。
 大規模密漁とそこに関与しているヤクザのルポ。6章に分けて、全国の密漁を記述。密漁の話が多く、ヤクザの話はあまり多くない。
 第3章は北海道のナマコ密猟のはなし。
 第5章は一番分量の多い章で、北方領土関連海域での根室の密猟のはなし。この章は、本田良一の本を参考にした記述が多い。
 
 この中で、そうだったのかと思った点。
 「北方領土は自国領土の為、適用法令が難しく、現在、公安当局は関税法と検疫法で取り締まっている」(『警察時報』昭和55年3月号にあるレポ戦の解説)(P187)・・・検疫法施行規則第一条、関税法施行令第九十四条では、北方領土を外国として扱っている。
 北方領土海域に日本の漁業法が適用されないか否かで争っていた北島敏は、大物レポ船主・石本登を受け継いだ甥の茂の兄で、傘下のレポ船主だった。(P197)
 根室市光洋町のしらかば保育園は、レポ船主の木村文雄が作った。(P206)

本の紹介―韓国・朝鮮植民地支配と日本の戦争2019年11月16日

 
赤旗編集局/編 『韓国・朝鮮植民地支配と日本の戦争』新日本出版社(2019.8)
 
本書は、新聞アカハタの記事をまとめたもの。
本の前半2/3は日韓関係で「3・1独立運動」「徴用工問題」「慰安婦問題」。
本の後半1/6は日中戦争や太平洋戦争、後半1/6は戦争に対する証言。

本の紹介―「徴用工問題」とは何か?2019年11月14日

 
戸塚悦郎/著『「徴用工問題」とは何か?』明石書店(2019.10)
 
 2018年11月末、韓国の最高裁判所は、戦前の韓国人徴用工の酷使に対して、三菱重工に賠償金を支払えとの判決を下した。日韓基本条約では、両国間にあった財産・権利及び利益並びに日韓両国及びその国民との請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなっていることが確認された。日本政府は、韓国の判決を日韓基本条約違反であるとして激しく反発し日韓の政治対立になった。
 
 本書は弁護士で国際人権法が専門の戸塚悦朗、元・龍谷大学教授による徴用工問題の解説。弁護士で法律学者の執筆なので、法律面での視点が中心となっている。
 山本晴太・他/著『徴用工裁判と日韓請求権協定』は日韓請求権協定に対する日本政府の過去の説明や、日本の裁判所の判断など、日本の法律解説が多かったが、本書は韓国裁判所の「判決の解説」「日本の裁判所の判断と異なった理由」「韓国裁判所がそのような判断に至った背景」など、韓国側判断の説明が多い。
 
 日韓基本条約・日韓請求権協定で、両国や国民の「財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題」が完全かつ最終的に解決されたことになった。現在、日本政府は、何もかもが解決されたように主張しているが、徴用工問題にしろ慰安婦問題にしろ、解決されたものとそうでないものとを、裁判や調停などで、個別具体的に分ける必要がある。何もかもが解決されたと考えるほど問題は単純ではない。本書では、韓国最高裁判所の判断として、最終的に解決されたのは日韓両国の財政的・民事的債務関係であり、強制動員慰謝料は含まれないと説明している。
 
 著者は国連人権NGOで活躍しているので、慰安婦問題や徴用工問題に対する国際評価の説明がある。これら問題の国際評価となると、日本の主張は孤立し、人道に反するものとして指弾される傾向にあるようだ。

本の紹介―徴用工裁判と日韓請求権協定2019年11月13日

 
山本晴太・他/著『徴用工裁判と日韓請求権協定』現代人文社(2019.9)
 
 2018年11月末、韓国の最高裁判所は、戦前の韓国人徴用工の酷使に対して、三菱重工に賠償金を支払えとの判決を下した。日韓基本条約では、両国間にあった財産・権利及び利益並びに日韓両国及びその国民との請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなっていることが確認された。日本政府は、韓国の判決を日韓基本条約違反であるとして激しく反発し日韓の政治対立になった。
 
 本書は東京弁護士会・第二東京弁護士会・福岡顕弁護士会・愛知県弁護士会に所属する6人の弁護士による共同執筆。弁護士の執筆なので、政府の過去の説明や、裁判所の判例など、法律の詳しい解説が本書の中心になっている。
 本の前半が解説で、後半は資料。資料の中には、韓国最高裁判所判決の日本語訳、日本最高裁判所判決、日韓の間の条約や共同声明などがある。『大韓民国等の財産権に関する措置法』はない。
 
 条約に「完全かつ最終的に解決された」と書かれているからと言って、日韓両国民のすべての権利が消失したと考えるのは、あまりに法律知識がなさすぎだ。このような解説が日本のマスコミを席巻している現状は情けない。本書を読めば、ことはそんなに単純ではないことがわかるはずだが、多くの日本国民は学習意欲が乏しいので、本書のような法律の解説書を読む人は少ないだろう。
  
 ところで、日本とソ連(ロシア)との間には、日ソ共同宣言により、日韓と同様に相互の請求権は放棄されている。
 『本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。』
 日本政府の見解では、ソ連に抑留された日本人のソ連・ロシアに対する請求権は消滅していない。また、ソ連の抑留を非難し道義的責任を追及する権利は当然に消滅していない。
 日韓の間でも同じことで、韓国人被害者が日本の加害企業に請求する権利が消滅していないことや、日本の残虐行為を非難し道義的責任を追及する権利は消滅していないことは、明らかだ。
 
 日本にある韓国人が日本の法律に基づいて、日本の企業に対して、日本の裁判所に賠償請求訴訟を起こすことを否定する見解は、日本には存在しない。損害を賠償する根拠となる法律は日本にないので、損害賠償請求が認められたことはないが、提訴自体が不法になるわけではない。
 では、韓国人が韓国に存在する日系企業に対して、韓国の法律に基づいて損害賠償提訴することは可能だろうか。普通に考えたら、当然に提訴可能であり、今回の韓国最高裁判所の判決は、韓国の法律に基づく損害賠償命令だった。三菱重工は韓国の法律が適用されることが嫌ならば、韓国で企業活動しなければよいのに。ところで、韓国人の原告が、韓国裁判所判決をもとに、フランスにある三菱重工の財産を差し押さえることができるだろうか。これは、フランスの裁判所が判断することなので、実際に裁判が実施されないことにはわからないが、韓国人原告勝訴の可能性は大いにあります。

本の紹介―歴史戦と思想戦2019年11月08日

 
山崎雅弘/著『歴史戦と思想戦』集英社新書(2019/5)
 
 著者は歴史著述業で、近現代戦史の著作が多い。
 
 近年、日本では、戦前の日本を史実を捻じ曲げて礼賛する人たちがおり、産経新聞などでは声高に大日本帝国礼賛が叫ばれる。このような人たちは「歴史修正主義者」と呼ばれる。
 本書は、従軍慰安婦問題や南京大虐殺をなかったことにしようとするこれらの歴史歪曲手法をあばき、このような主張は国際社会に全く受け入れられていない状況を説明する。
 
 歴史学者の研究やマスコミ報道の中に、その後誤りであったことが明らかになったものもある。従軍慰安婦問題や南京大虐殺報道の中にも、誤りが見つかったものもあるのは当然のことだ。誤りが見つかったことは誤りであるが、それ以外が誤りであることにはならないのは当たり前であるが、歴史修正主義者たちは、従軍慰安婦問題や南京大虐殺報道の中に、ごくわずかなのミスを見つけても、従軍慰安婦問題や南京大虐殺がなかったかのように事実を歪曲する。本書の第一章は、歴史修正主義者たちの、このような低レベルの手法を解明し、彼らの目的が歴史学とは無縁な「論破」にあることを明らかにしている。なお、本章に限らないが、本書ではケント・ギルバートの主張を批判する部分が多い。ケント・ギルバートの主張は、単なる日本ヨイショなので批判は当然だ。
 第一章と同様な内容は他書にも多く書かれているので、同様な内容を読んだことがある人も多いと思う。第二章は歴史修正主義者たちの言う「日本」とは何であるかを問題としている。縄文時代以来の日本列島の歴史なのか、大日本帝国の施政なのか、戦後の日本のことなのか、そういうことである。歴史修正主義者たちが、これらを混同して、大日本帝国の施政を批判することが、現代日本人全員を批判するかのように吹聴している実態を明らかにしている。当然のことであるが、ほとんどすべての日本人には大日本帝国の施政に責任はないだろう。
 第五章では、歴史修正主義者の主張が、海外で、まったく共感を得ていない実態を明らかにする。海外の多くの人にとって日本の過去の評価に関心はないだろう。関心があるのは、近代史学者で、こういう人たちには、歴史修正主義者達の歴史歪曲手法が受け入れられないのは当然のことだ。
 P240にこの点がはっきり記載されている。
 『過去の出来事について、その全体像を解明するために細部の事実関係を丁寧に検証していく「歴史研究」の方法論と、まず最初に「大日本帝国は悪くない」という「結論」を立て、それに合う「事実」だけを集め、それに合うように「事実」を歪曲する「歴史戦」のスタイルは、まったく対極に位置するものです。』

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