本の紹介-香害入門: 日用品に含まれる化学物質による新たな公害2024年03月19日

 
深谷桂子/著『香害入門: 日用品に含まれる化学物質による新たな公害』緑風出版 (2022/12)
 
 洗っただけで衣服に香りがついて、それが持続することを謳った洗剤がある。私は、こんな気持ちの悪いものは嫌いだが、特に女性に受けているようだ。臭いを付けることと、化粧とは近いものがあるので、女性に好まれるのだろう。
 衣服についた臭いが持続するのは、香料をマイクロカプセルに封じ込めているからであって、香料成分以外にマイクロカプセルも環境汚染につながる。
 本書は、過剰に香料を使うことに、警鐘を鳴らすもの。
 私も、女性のファンデーションの一部にアレルギーがあるようなので、臭いがきついのは嫌いだけれど、女性の厚化粧と、きつい臭いは、仕方のないことのように思う。

本-ウクライナ戦争とヨーロッパ2024年03月18日

 
細谷雄一/編『ウクライナ戦争とヨーロッパ』東京大学出版会 (2023/12)

今は読むことを薦めないが、こういう本があったことを忘れないために書き留めておく。

 ロシア・ウクライナ戦争がはじまると、TVに一部の学者が出演して、戦争の解説をしていたが、今となってみると、多くが誤りであることが明らかとなっている。解説陣には、東野篤子・廣瀬陽子などの名前が思い出される。
 本書は、2003年秋ごろまでの執筆のようだ。このころは、まだ、ウクライナの反転大攻勢があるかのごとき言説がまかり通っていた。これらの言説が、誤りであることがはっきりしてきた現在、本書を読むことにどれほどの意義があるのか疑問だ。
 もう少し、時間がたって、情報が整理された後の論文を読んだ方が良いような気がする。

 以下、章ごとの、執筆者と、タイトルを記す。
序(細谷雄一) ウクライナ戦争はヨーロッパをどう変えたのか
I(東野篤子) ウクライナ戦争が変えたヨーロッパ…ロシアによるウクライナ侵略がEU拡大に及ぼした変化
2(鶴岡路人) NATOはどう変わったのか…新たな対露・対中戦略
3(岡部みどり)ウクライナ「難民」危機とEU…難民保護のための国際協力は変わるのか?
4(小川浩之) ウクライナ戦争とイギリス…「三つの衝撃」の間の相互作用と国内政治との連関
5(宮下雄一郎)ロシア・ウクライナ戦争とフランス
6(板橋拓己 ドイツにとってのロシア・ウクライナ戦争…時代の転換をめぐって
7(廣瀬陽子) ウクライナ戦争とロシア人
8(合六 強) ロシア・ウクライナ戦争とウクライナの人々…世論調査から見る抵抗の意思
9(広瀬佳一) NATOの東翼の結束と分裂

本の紹介-南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々2024年03月16日

 
樋口英明/著『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々』旬報社 (2023/7)
 
読むことを薦めるわけではない。

 著者は、大飯原発の運転差し止め判決、高浜原発の運転差し止め仮処分決定をした元裁判官。
 本書の内容は、四国電力・伊方原発では、南海トラフ地震が起きても、最大181ガルの地震動しか来ないとの前提で、安全審査がなされているため、現実的でなく、安全とは言えないと説明している。181ガルとは、震度5強程度の為、これよりはるかに大きな地震は珍しくない。著者の指摘が事実ならば、伊方原発の安全審査には由々しき問題があることは明らかだ。
 著者は、元裁判官なので、普通に考えたら、証拠に基づく双方の主張を客観的に分析して、考察しているものと推測する人が多いだろう。しかし、本書P150で「ロシアがザポリージャ原発を攻撃目標とした事実です」と記載している。ザポリージャ原発攻撃に対しては、ロシアによるものとの見解と、ウクライナによるものとの見解があるが、戦争中の情報には、一般に謀略情報が多くて、真偽のほどは確定できないのが現状である。もし仮に、著者が、プーチンやゼレンスキーと頻繁に会合するる特別な外交官ならば、特別な情報チャンネルを持っている可能性もあるが、著者の経歴を見る限りそのような可能性は低い。結局、この部分に関しては、一方の謀略情報を真に受けて、自分に都合よく解釈して、結論をこねくり回しているだけの見解に感じる。
 だとすると、伊方原発の記述も、一方の謀略情報を真に受けて、自分に都合よく解釈している可能性が否定できないように感じる。著者の見解が事実なのかどうか、精査することなしに、本書を信じることは危険であると感じた。

本の紹介-ロシア・ウクライナ戦争 歴史・民族・政治から考える2024年03月13日

  
塩川伸明/編・著。他/著『ロシア・ウクライナ戦争 歴史・民族・政治から考える』東京堂出版 (2023/9)
 
 ロシア・ウクライナ戦争では、事実を理解せずに、ロシアを一方的に非難する言動がマスコミ等で横行していた。非難はともかく、「プーチンは癌で死にそうだ」「ロシアは弾薬が枯渇した」「ウクライナは2003年春以降、大攻勢をかけてクリミアを奪還する」などの、虚偽宣伝が、まことしやかに語られた。筑波大学・中村氏・東野氏、東大・小泉氏、慶応大・廣瀬氏、防衛研・兵頭氏などの名前が思い浮かぶ。
 
 こうした中、本書は、ウクライナ地域の歴史、ウクライナの政治、ウクライナにおけるナチスの評価など、客観的で正しい知識を得るために最適である。著者の一人、塩川伸明氏は旧ソ連地域の歴史・政治研究の大御所だけあって、他の執筆陣もしっかりしており、TVでいい加減な解説をしていた人たちとは大違い。 
 本書の各章のタイトルと著者を記す。
 
塩川伸明/著『第1章 総論―背景と展開』
松里公孝/著『第2章 ルーシの歴史とウクライナ』
大串敦/著『第3章 現代ウクライナの政治―脆弱な中央政府・強靭な地方政府』
浜由樹子/著『第4章 「歴史」をめぐる相克―ロシア・ウクライナ戦争の一側面』
遠藤誠治/著『第5章 自由主義的国際秩序とロシア・ウクライナ戦争―正義と邪悪の二分法を超えて』

本の紹介-分断と凋落の日本2024年02月27日

 
古賀茂明/著『分断と凋落の日本』講談社(2023/4)
 
 著者は元経済官僚。本書は、安倍政権下で、日本が停滞して、世界の発展から大きく取り残された状況について説明している。安倍政権全般について記載しているが、経済的観点が多い。本書の内容の多くは、すでによく知られたことと思われる。
 
 安倍晋三は成績優秀な家系のなかで、相当な落ちこぼれだった。こういうコンプレックスの塊みたいな人を国のトップに据えたのが誤りだったのだろう。

本の紹介-限界旅行者、タリバン政権のアフガニスタンへ行く2024年02月25日

  
指笛奏者/著『限界旅行者、タリバン政権のアフガニスタンへ行く』 リチェンジ (2023/9)
 
 2021年、アフガニスタンにタリバン政権が誕生すると、外国人の多くは出国した。日本人もすべてが出国して、一人もいなくなった。著者はタリバン支配のアフガニスタンに単身観光旅行した。本書はその時の記録。
 日本にはすごい人がいるもんですね。現在のアフガニスタンの様子がわかる素晴らしい旅行記です。でも、こういう内容は、新聞社などの報道機関が書くべきことではないのかなー。

本の紹介-般若心経は間違い?2024年02月21日

 
アルボムッレ・スマナサーラ/著『般若心経は間違い?』宝島社新書(2007/8)
 
 般若心経は260文字余りの短い経で、日本のお寺では浄土宗系などを除いて、頻繁に読まれている。葬儀の時などで読んだことのある人も多いだろう。
 般若心経の解説本は多いが、ほとんどは日本仏教の立場からの解説。本書は、上座部仏教の僧侶による解説なので、他の般若心経解説本とは一味異なる。また、般若心経解説書には、何を言っているのか分かりにくいものも多いが、本書の記述は明快で読みやすい。

 経の最初の部分「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空度一切苦厄 舎利子色不異空」までは、著者は同意しているが、この後の記述にはほとんど全く反対だ。そもそも、般若心経の後半は、おまじないの推奨なので、本来の仏教とは相いれない。上座部仏教が毛嫌いするのは当然だ。
 前半部分も、本書では手厳しい。日本では、頭で理解するのではなく「さとる」と教えることが多いが、著者が所属する上座部仏教は、論理による理解と修行の両方が重視されるため、経は理解しやすいことが当然視される。このため、何を言っているのか理屈で理解できない記述には否定的なのだろう。

 般若心経の評価は、以下の文章に簡潔にまとめられている。
 
 パーリ経典を読んで学ぶ人からみると、経典に値しないダラダラした作品で、欠点がたくさんあります。作者はただ適当に短くまとめてみようと思っただけで、そんなに真剣ではなかったようです。
 本人は「空」ということをわかっていないし、空の思想を理解してもいませんでした。そのことは、空を理解していたら使えない「na 無」という言葉を使ってしまっていることからもわかります。…この経典の作者はそれほど能力がなくて、何も立証せずにただ言葉を羅列したのです。
 おそらく『般若心経』は、もともと呪文を信仰している占い師、祈祷師のような人が書いたのでしょう。知識人のお坊さんが相手にしなかった、なんの立場もない祈祷師程度だと思います。呪文は誰でもありがたく信仰するので、書き写されて書き写されて、残っただけのことなのです。
 ということで結論です。『般若心経』は中身を勉強しなくてもいい経典です。そもそも中身がないし、論理的でもない。だから、意味がわからないことで困らなくてもいいのです。意味がわからないのは私たちの頭が悪いのではなくて、先生の頭が悪いからです。先生が私たちに教えるならば、「わかりやすく教えてくださいよ」と文句を言う権利が生徒たちにもあります。生徒たちが苦労して、できの悪い先生を守る必要はないのです。ですから『般若心経』がわからないのは、恥ずかしいことではありません。真剣に考えないことです。文化的な楽しみとして付き合うのが、害がなくて適切だと思います。(P102,103)

本-ブッダという男2024年02月15日

 
清水俊史/著『ブッダという男 初期仏典を読みとく』 筑摩新書 (2023/12)
 
読むことを薦めない
 
 初期仏教の概略を知るために読むのならば、この点に関して、それほどおかしなことが書かれているわけでもないので、読んでも損はないかもしれないが、それならば、他書の方が良い。
 
 少し古い本だと、
 ベック/著、渡辺照宏/訳『仏教』(岩波文庫)
 渡辺照宏『仏教』(岩波新書)
などの名著があり、また、最近の本だと、以下の本など、読みやすいものがたくさんある。
 馬場紀寿『初期仏教』(岩波新書)
 三枝充悳『仏教入門』(岩波新書)
 佐々木閑『仏教の誕生』(河出新書)
 
 さて、本書の場合は、著者がひねくれているのだろうか。本の帯には『誤謬と偏見を排し、その実像に迫る』とあるが、著者の思い込みが強い仏教論になっている。
 本書の前半では、P108の記述によると、『①ブッダは平和主義者であった、②ブッダは業と輪廻の存在を否定した、③ブッダは階級差別を否定し、平等思想を唱えた、④ブッダは女性差別を否定した、という四つのありがちな現代人ブッダ論を再検討し、そのいずれも歴史的文脈から外れることを明らかにしてきた。』とのことだ。
 著者は『ブッダは平和主義者であった』ことを否定している。著者は、平和主義者の定義を、絶対的に殺人者を嫌悪することと捉えているようだ。しかし、現実には、兵士もいるし、殺人の罪を犯した人もいる。殺人罪で服役している人に対して、宗教家が教戒師として、その後の生き方の相談に応じることは珍しくない。ブッダも宗教家なので、殺人についても、その後の心をどうするのかという、現実的指導を行っていたと推測され、著者の考える平和主義者の定義に従った行動をとることはなかっただろう。しかし、それは、ブッダが平和主義者でなかったとの根拠にはならない。他の②~④についても同様で、著者の勝手な定義からそれているので、そのような事実はなかったと強弁しているようで、まともな議論とは思えない。
 
 本書後半は、良く知られた初期仏教の解説なのだが、ここも、おかしなことが書かれている。明治以降になると、日本では、ブッダの教えはどのようなものっだったのか、考古学・文献学的な研究が行われている。このような研究成果に対して、著者は不満のようだ。
 『初期仏典に先入観なく向き合うことは不可能であり、そこからブッダの歴史的文脈を正確に読み出すことはきわめて困難である。(P116)』
 初期仏典になるべく先入観なく向き合い、そこから仏教の歴史的文脈を読みだすことは、私たち現代人にとって重要な研究だ。著者が、初めから放棄したいのならば、好きにすればよいことだが、他人の研究にケチを付けるのは、正しい態度ではない。
 P116に、あきれた記述がある。『仏弟子たちは、ブッダの生涯や事績を先入観なく羅列しようとしたのではなく、ブッダの偉大な先駆性を遺すために篤い信仰心を持ってこれを編纂した。』
 仏教は特許ではないのだから『先駆性』は必要ない。すべての宗教は、大なり小なり、それ以前の宗教や成立した時代・社会を反映しているもので、仏教も例外ではない。後代の弟子たちが残したものは、仏教のその社会における有用性であり、ブッダの教えも、その時代における有用性に価値があったものだ。このため、考古学・文献学的な研究が、ブッダや教団の教えの姿を解明する上で、有用であることは間違いない。

本の紹介-なぜ日本は原発を止められないのか?2024年01月18日

 
青木美希/著『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書) (2023/11) 
 
 日本の原発に対して警鐘を鳴らす本で、原発政策に対する、一般向けの啓蒙書。本の内容は、反原発の立場で、普通に書かれた本で、特に問題となるような記述はないように感じる。
 
 著者は朝日新聞社の社員。記者時代に、福島原発の手抜き除染に関する記事など、原発に否定的な論調の記事を書いたため、記事を書くことができない広報部員に左遷されたとの情報がある。 
 本書のあとがきが面白い。著者は、出版に際して新聞社に出版申請をしたところ、新聞社は出版を認めないとの処分を下した。さらに、新聞社は「本社の報道・取材領域にかかわる取材・執筆・出版」に関する社外活動に対して「編集部の確認(監修)」が必要との命令を下した。これでは、上層部の意向に反する情報を社会に提供することが不可能になり、記者としては自殺行為だ。
 このような経緯があって、著者は、社名を出さずに、個人として行った私的利益を目的としない行為として、新聞社と無関係に本書を出版した。
  
 朝日新聞社は政府の意向を忖度して、政権に都合の良い報道をする、御用新聞になり下がったのだろうか。私は、近年の朝日新聞の記事はひどすぎると感じていたが、本書のあとがきを読むと、朝日新聞に、日ごろ感じていたことが正しかったと得心した。

本の紹介-アフガニスタンの素顔 「文明の十字路」の肖像2024年01月11日

 
青木健太/著『アフガニスタンの素顔 「文明の十字路」の肖像』光文社 (2023/7)
 
 2021年8月、アフガニスタンに軍事介入していた米軍が撤退すると、アフガニスタンンの親米政権は、一日で崩壊し、反米のタリバンが政権を奪取した。
 本書は、この時以降のタリバン政権下のアフガニスタンの情勢についての記載がメイン。このほか、王政崩壊後のアフガニスタン現代史にも触れられている。

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