神社で拍手を打つな!2020年02月24日

 
島田裕巳/著『神社で拍手を打つな! 日本の「しきたり」のウソ・ホント』中央公論新社 (2019/11)
 
 ここ数十年前からだろうか、神社の参拝は二礼二拍手一礼が正式とされている。以前は二拍手合掌一礼が多かったと思っていたので、不思議な気がしていた。
 
 本書では、信者が二礼二拍手一礼をする参拝方式は、戦後になってから神社本庁が正式参拝として推奨しているものであって、古い伝統ではないと説明している。
 江戸時代は神仏混交だったので、神社のご神体が仏像であることは珍しくなく、この場合、神社参拝は念仏などになるのは当然のことだったので、信者が二礼二拍手一礼することが明治以降の新しい形式であることは、考えてみれば明らかだろう。
 
 このほか、本書では「初詣は鉄道会社の発明」「マイカーが生んだ墓参り」「結婚式に祝儀など持っていかなかった」「どう考えても無駄な半返し」「クリスマスはキリスト教の行事ではない」「ハロウインの起源は江戸時代の花見」と、昔からの行事・しきたりと考えられているものが、実はそうではない事が説明されている。
 
 本の文章は読みやすく、知らなかったことも多いのだけど、「だからどうなの?」と思える記述など、それほど興味持てないこともあった。

本の紹介―韓国徴用工裁判とは何か2020年02月21日

 
竹内康人/著『韓国徴用工裁判とは何か』岩波ブックレット(2020.1)
 
 2018年10月30日、韓国の最高裁では、戦時中の強制徴用に対して、新日鉄住金に損害賠償支払いを命ずる判決が確定した。この判決について、日本国内では「国際法違反」等々の批判が相次いだ。
 
 本書は戦時中の強制徴用の実態、徴用工の労働の実態を解説し、さらに、戦後、日韓の間で何がどのように解決されたのか、韓国の最高裁の判決がどのようなものであるのか、など、徴用工と韓国最高裁判決について、多角的な解説がなされている。ただし、本書はブックレットの性格上、一般読者向けの啓蒙書であるので、裁判の技術的問題など微妙な問題に対する解説はない。
 
 現在、日本政府・マスコミなどでは韓国最高裁判決が、明らかに、国際法違反であるかのように主張している。しかし、日本の裁判においても、三菱重工広島の2005年広島高裁では、日本政府が原告46人に一人120万円の損害賠償を命じる判決を出している(P30) のをはじめ、日本製鉄・2001年大阪地裁判決、三菱名古屋・2007年名古屋高裁判決では強制労働の事実が認定されている(P68)。日本の下級審でも、損害賠償請求を認める判決があるのだから、損害賠償認定の是非は裁判官によって判断が分かれるところであり、「明らかに国際法違反」などと単純なものではない。
 
 1965年の日韓請求権協定では、「財産・権利及び利益と請求権が完全かつ最終的に解決されたこととなる」とされている。日本政府の国会答弁では、放棄されたものは外交保護権であり、個人の請求権が放棄されたのではないとされている。この件に関して、本書では、小和田恒の以下の説明が記されており、日本政府の本音と建て前を考えるうえで参考になる。
 『原則は全部消滅させるのであるが、その中で消滅させることがそもそもおかしいものがある。理論的にいってどこまでのものを消滅させ、どこまでのものを生かしたらいいのかという問題と、政策的にいってどこまでのものを消滅させなければいけないのかという問題があった。そこで、請求権は放棄すると書き、説明として外交保護権の放棄であるということにした。(P44)』
 
 ところで、請求権裁判の管轄権は日本にあって韓国にないのか、日本にあるか否かにかかわらず韓国にもあるのか、両方の見解がある。国際法上、韓国に裁判権がないのならば、今回の韓国最高裁判決は国際法違反ということになるが、日本政府の説明や日本のマスコミ解説では、このように訴訟手続きの細かい議論は見かけない。本書は一般読者向けの啓蒙書であるため、このような訴訟手続きの細かい話はない。

本の紹介―気候危機2020年02月19日

  
山本良一/著『気候危機』岩波ブックレット (2020/1)
 
 スウェーデンの少女、グレタ・トゥンベリさんの地球温暖化対応を求める活動が世界の注目を集めている。
 本書は、地球温暖化の現状認識とグレタ・トゥンベリさんの活動、さらにはグレタさんの活動以降、世界各国の自治体や国家などが地区う温暖化対応の宣言を出している状況を説明している。本書の著者は東京大学先端科学技術研究センター教授を務めた人だが、地球温暖化の科学的解明に主眼が置かれているわけではない。
 薄い本にしては、若干引用が多くて少し読みにくい。

本-歴史認識と日韓「和解」への道2020年02月13日

 
戸塚悦朗/著『歴史認識と日韓「和解」への道 徴用工問題と韓国大法院判決を理解するために』 日本評論社 (2019/11/13)
 
読んだことを忘れないように記載します。
弁護士で龍谷大学教授を務めた戸塚悦朗氏の論文集。学術論文なので、素人の私には難しい。

本の紹介―古代寺院2020年02月06日

 
吉川真司/編・著 菱田哲郎、藤岡穣、海野聡、ブライアン・ロウ/著『古代寺院: 新たに見えてきた生活と文化 (シリーズ古代史をひらく)』岩波書店 (2019/12/5)
 
岩波書店による古代史シリーズの第三巻。
飛鳥時代から奈良時代の寺院と社会のかかわり、寺院の機能、寺院内での生活のようすなど、寺院の多様な実像を明らかにしている。
章題は以下の通り。
・古代寺院の生態
・遺跡から見た古代寺院の機能
・古代寺院の仏像
・寺院建築と古代社会
・古代寺院のネットワークと人々
 
古代史シリーズの第四巻は『渡来系移住民』

本の紹介―国境は誰のためにある?2020年01月30日

  
中山大将/著『国境は誰のためにある? 境界地域サハリン・樺太』清水書院 (2019/12)

 本書は樺太国境の変更と、それに関連した住民の問題を取り扱ったもの。
 樺太は、幕末以降、以下のように領有関係が目まぐるしく変わり、それに伴う住民の移動も起きている。

日露雑居→ロシア領→南北で日露が領有→一時、日本が北樺太を占領→南北で日ソが領有→ソ連領

 本書は100ページ強の薄い本ではあるが、大学の講義のような内容で、文献の記述も豊富なため、より高度な学習のための入門としても便利。
  
ちょっと興味が持てた記述
 日本では『山海経』が<樺太日本固有領土論>の根拠として挙げられることがありますが、その際に挙げられる一文は、実際には『山海経』には見当たりません。(P37)
 樺太について言えば、ソ連、特にサハリン現地の日本政府機関は日本人住民の<引揚げ>には消極的であったと言われています。そのりゆうとしては、ソ連人の移住が進む前に日本人の引揚げだけを先行して完遂させてしまえば、サハリンが一気に過疎地になってしまい、日本が残した各種工場設備やインフラの引き継ぎができなくなってしまうおそれがあったからと言われています。(P93)

本の紹介ー不平等ではなかった幕末の安政条約2020年01月28日

 
鈴木荘一、関良基、村上文樹/著『不平等ではなかった幕末の安政条約 関税障壁20%を認めたアメリカ・ハリスの善意』 勉誠出版 (2019/7)
 
日米修好通商条約、あるいは安政5条約は不平等条約であったと小中学校で習った記憶がある。
 実際には日本が課すことができる輸入関税は20%程度と、当時の国際社会では高率であったため、日本にとって有利な条約になっていた。現在でも、関税率は一方的に定めることができるわけではないので、日米修好通商条約で関税率が定められたことが、特に日本に不利益ということはなかった。
 日米修好通商条約では、日本で日本が米国から輸入するときと、日本で日本が米国へ輸出するときの関税が定められ、また、日本に滞在する米国人には領事裁判権があることが定められた。しかし、逆の場合の関税や、米国に滞在する日本人の領事裁判権は定められていない。このため、不平等との指摘も一理あるが、条約締結当時、日本が米国に輸出入する主体となることや、米国に滞在する日本人の存在など考えられなかったので、これらのことが条約に定められていないのは仕方ないだろう。当時、日本には近代的裁判制度がないので、米国人の領事裁判権が定められたのも当然だろう。
 日米修好通商条約では、日本に有利な関税率にすることに成功したが、その後、長州藩の下関戦争敗戦や尊王攘夷による開港延期などの影響で、幕府は改税約書の締結を余儀なくされ、この結果、関税率は日本に不利な5%となった。
 
 本書は、日米修好通商条約締結交渉や、ハリスの態度などの史実を示し、日米修好通商条約が決して日本に不利な条約ではなかったことと、その後の薩長などによる攘夷運動の結果、不利な条約を締結せざるを得なかった状況が説明されている。

本の紹介―韓国併合110年後の真実2020年01月22日

 
和田春樹/著『韓国併合110年後の真実 条約による併合という欺瞞』 (岩波ブックレット NO. 1014)(2019/12)
 
 110年前、日本が韓国を併合したのは不当・不法であるとの見解と、合法であるとの見解がある。韓国政府は不法説を、日本政府は合法説をとっているが、日本の研究者にも不法説は多い。
 本書は、不法説をとる歴史学者・和田春樹氏による、韓国併合の歴史解説。本書は、ブックレットの性質上、一般読者を対象としたものであって、歴史学上の研究論文ではない。
 
 近年、右翼的学者の中には併合の実態を知らぬままに、条約の形式があることをもって、合法であると説明する向きもある。歴史事実を知ることなしに、不法か合法かの結論だけで満足するのでは、あまりに脳がないので、本書によって、史実を知ったうえで、合法・不法の判断をすべきだ。

本の紹介ー学校に入り込むニセ科学2020年01月14日

 
左巻健男/著『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書)(2019/11)
 
 水にきれいな言葉をかけるときれいな結晶ができで、汚い言葉を帯びせると汚い結晶になると主張する、へんてこりんな偽科学がある。「水伝」というようだ。またEM菌と称する偽科学もある。真偽のほどは定かではないが、安倍首相や明恵夫人はこれらの偽科学信奉者と伝えられる。
 主に小学校教師らが授業の進め方などを自主研究する団体に「TOSS」がある。TOSSは偽科学と関係ないはずであるが、TOSSの主催者・向山洋一との関係で、教育指導に偽科学が入り込んでいる。

 本書では、これらの偽科学がTOSSを通じて、学校教育に入り込んでいる実態を説明している。
 水伝・EM菌・親学自体の説明もある。親学とは、元成長の家活動家で日本会議の高橋史郎氏の提唱する道徳教育論。

本の紹介―ロヒンギャ問題とは何か2019年12月21日

 
日下部尚徳、石川和雅、他/著『ロヒンギャ問題とは何か 難民になれない難民』明石書店 (2019/9)
 
 ロヒンギャとはミャンマー西部のラカイン州に住み、イスラム教を信仰し、ベンガル語を母語とするベンガル民族の人たち。19世紀の英国占領地時代や第二次大戦後の混乱期などに、バングラディシュのチッタゴンなどから移住してきた。また、1971年のバングラディシュ独立前後に、混乱を避けるためバングラディシュからやってきた人もロヒンギャに含まれる。

 戦後、インド・パキスタンがイギリスから独立した時に、ラカイン州はビルマ(現ミャンマー)に返還された。ミャンマーでは、イギリス占領統治以前に住んでいた人やその子孫をミャンマー人としているため、ロヒンギャにはミャンマー国籍が与えられていない。
 ロヒンギャは人種的にはインド・アーリア人系でベンガル語を母語としているので、バングラディシュの主要民族であるベンガル人と違いはないが、政治的理由で自分たちのことを「ロヒンギャ」と呼んでいる。ミャンマーでは、通常「ベンガリ」と呼ばれる。
 ラカイン州はかつては独立王国だったが18世紀にビルマに統合された。ラカイン州の主要民族は、独立王国の伝統をくむモンゴロイドで仏教徒のラカイン人(アラカン人)で、人種も宗教もミャンマーの主要民族であるビルマ人に近い。
 
 アフガニスタン戦争がおこると、パキスタンが西側支援の中心地となり、イスラム過激派の拠点となった。こうした中、バングラディシュ人やロヒンギャのイスラム過激派にはパキスタンやアフガニスタンなどでテロリストの訓練を受ける者があらわれる。アフガン戦争終結後、このようなイスラム教テロリストの中にはミャンマーでテロ活動を行う者が現れた。彼らは最初のうちはイスラム革命を目指していたが、次第にロヒンギャを取り込むようになっていった。こうして、ミャンマー西部ではテロ活動が盛んになると、ミャンマー軍が出動して鎮圧に乗り出したが、鎮圧の対象はロヒンギャに向けられたので、ロヒンギャは故郷のバングラディシュに難民となって移住した。
 
 ロヒンギャの惨状を見ると、国際社会は何とかしなければと思うのは当然であるが、だからと言って、ミャンマーの責任だけではないだろう。ロヒンギャはバングラディシュと言葉や宗教が同じで、ミャンマー語を母語としているわけではないことや、識字率が低くイスラム過激派に取り込まれやすいことなどを考えると、これら異質な人たちをミャンマーの社会が受け入れる余裕は少ない。人種や宗教や言語が同じバングラディシュが受け入れればよいようにも思うが、最貧国に彼らを受け入れる余裕もないだろう。
 また、ミャンマーがロヒンギャに対して国籍を与えていないことを批判する意見も多い。日本でも、日本で生まれた在日朝鮮人には日本国籍を与えるべきと考える人もいるが、キム将軍様に忠誠を誓う人が日本の高級官僚になるのは、やめてほしい。

 ここ数年、ロヒンギャ問題が新聞紙上に取り上げられることも多く、この問題で、スーチーさんが批判されていることも報道されている。また、難民キャンプを取材して、難民の悲惨な状況を報道する本はあるが、ロヒンギャとはどのような人で、問題の発生原因など、この問題を総合的に解説する本は少なかった。
 
 本書は18人による執筆で、ラカイン州の歴史から、近年のロヒンギャ問題発生原因となったロヒンギャのテロ組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」やテロ攻撃の説明、バングラディシュキャンプでの状況など、ロヒンギャ問題が総合的に記載されている。
 ロヒンギャ問題を考えるとき、現在の難民キャンプの状況だけで、ミャンマー政府を批判する見解が多いが、このような一面的な理解に陥ることなく、冷静に判断できるようになるためには、日本語のロヒンギャ問題の説明として本書が最良だと思う。

 なお、公安調査庁のインターネットページには、ロヒンギャ関連のテロ組織として、「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」のほか、「ロヒンギャ連帯機構(RSO)」「アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線(ARIF)」の説明がある。


ロヒンギャテロ組織の公安調査庁による説明抜粋

「ロヒンギャ連帯機構(RSO)」(RSO)
 1990年代には,ミャンマー・バングラデシュ国境地域で爆弾テロ,国軍に対する襲撃などを頻発。
 1990年代には,RSO戦闘員約100人がアフガニスタン・ホースト州の軍事キャンプで訓練を受けたとの指摘もある。バングラデシュ国内のイスラム過激組織と共闘していたとされる。
 現在,活動地域はバングラデシュの一部地域に限定され,ミャンマー国内には拠点を有していない。

「アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線(ARIF)」(ARIF)
 1986年,「ロヒンギャ連帯機構」(RSO)設立者の1人であるヌルル・イスラムが,同組織から脱退し,RSOの前身組織「ロヒンギャ愛国戦線」(RPF)残存メンバーらとともに設立

「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」
 2012年にミャンマー西部・ラカイン州で発生した仏教徒との衝突事件を機に設立された反政府武装組織。
 最高司令官アタ・ウッラー(パキスタン南部・カラチ生まれ,サウジアラビア育ち)とされる。なお,同組織については,サウジアラビア西部・マッカを拠点とするロヒンギャの「委員会」が監督しているとの指摘もある。
 ARSAは否定しているが,同組織は,政府に協力する地元住民や少数派ヒンズー教徒の処刑や虐殺にも関与した疑いが持たれている。

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