本-ウクライナ戦争とヨーロッパ2024年03月18日

 
細谷雄一/編『ウクライナ戦争とヨーロッパ』東京大学出版会 (2023/12)

今は読むことを薦めないが、こういう本があったことを忘れないために書き留めておく。

 ロシア・ウクライナ戦争がはじまると、TVに一部の学者が出演して、戦争の解説をしていたが、今となってみると、多くが誤りであることが明らかとなっている。解説陣には、東野篤子・廣瀬陽子などの名前が思い出される。
 本書は、2003年秋ごろまでの執筆のようだ。このころは、まだ、ウクライナの反転大攻勢があるかのごとき言説がまかり通っていた。これらの言説が、誤りであることがはっきりしてきた現在、本書を読むことにどれほどの意義があるのか疑問だ。
 もう少し、時間がたって、情報が整理された後の論文を読んだ方が良いような気がする。

 以下、章ごとの、執筆者と、タイトルを記す。
序(細谷雄一) ウクライナ戦争はヨーロッパをどう変えたのか
I(東野篤子) ウクライナ戦争が変えたヨーロッパ…ロシアによるウクライナ侵略がEU拡大に及ぼした変化
2(鶴岡路人) NATOはどう変わったのか…新たな対露・対中戦略
3(岡部みどり)ウクライナ「難民」危機とEU…難民保護のための国際協力は変わるのか?
4(小川浩之) ウクライナ戦争とイギリス…「三つの衝撃」の間の相互作用と国内政治との連関
5(宮下雄一郎)ロシア・ウクライナ戦争とフランス
6(板橋拓己 ドイツにとってのロシア・ウクライナ戦争…時代の転換をめぐって
7(廣瀬陽子) ウクライナ戦争とロシア人
8(合六 強) ロシア・ウクライナ戦争とウクライナの人々…世論調査から見る抵抗の意思
9(広瀬佳一) NATOの東翼の結束と分裂

本の紹介-ロシア・ウクライナ戦争 歴史・民族・政治から考える2024年03月13日

  
塩川伸明/編・著。他/著『ロシア・ウクライナ戦争 歴史・民族・政治から考える』東京堂出版 (2023/9)
 
 ロシア・ウクライナ戦争では、事実を理解せずに、ロシアを一方的に非難する言動がマスコミ等で横行していた。非難はともかく、「プーチンは癌で死にそうだ」「ロシアは弾薬が枯渇した」「ウクライナは2003年春以降、大攻勢をかけてクリミアを奪還する」などの、虚偽宣伝が、まことしやかに語られた。筑波大学・中村氏・東野氏、東大・小泉氏、慶応大・廣瀬氏、防衛研・兵頭氏などの名前が思い浮かぶ。
 
 こうした中、本書は、ウクライナ地域の歴史、ウクライナの政治、ウクライナにおけるナチスの評価など、客観的で正しい知識を得るために最適である。著者の一人、塩川伸明氏は旧ソ連地域の歴史・政治研究の大御所だけあって、他の執筆陣もしっかりしており、TVでいい加減な解説をしていた人たちとは大違い。 
 本書の各章のタイトルと著者を記す。
 
塩川伸明/著『第1章 総論―背景と展開』
松里公孝/著『第2章 ルーシの歴史とウクライナ』
大串敦/著『第3章 現代ウクライナの政治―脆弱な中央政府・強靭な地方政府』
浜由樹子/著『第4章 「歴史」をめぐる相克―ロシア・ウクライナ戦争の一側面』
遠藤誠治/著『第5章 自由主義的国際秩序とロシア・ウクライナ戦争―正義と邪悪の二分法を超えて』

イワノスケ 未解放2024年03月04日

 2月末に、ロシア軍の攻勢で、イワノスケが陥落したとの情報があった。しかし、その後、ウクライナ軍が盛り返したようだ。現在、支配地域は、両軍半々程度。アブデエフカ方面でも、ベルディチは両軍半々程度の支配と、3月に入って、ウクライナ軍が若干盛り返した。
 今年は、歴史的な暖冬だが、この地域でも、2月末ごろから、氷点下にならない日が続いた。このため、地面の状態が悪く、戦車などの機械戦力中心のロシア軍は機動力がそがれ、人海戦術のウクライナ軍が盛り返したものだ。今週後半は気温低下が予想されているので、ロシア軍が多少優勢になるだろう。しかし、この後、春季になると、地面は泥濘状態になり、両軍ともに進軍は停止する。戦闘再開は5月以降だ。この時までに、西側の大規模軍事援助がなければ、ウクライナの敗北は確定的。

イワノスケ陥落か2024年03月01日

 
 昨年5月、ロシア軍はバフムト(アルテモフスク)をウクライナから解放した。その後、ウクライナ軍はバフムトの西10㎞にあるチャソフヤールに2~3万の兵力を置いた。バフムトとチャソフヤールの中間地点がイワノスケで、ウクライナ軍はここを前線基地としていた。
 昨年末以降、全線にわたって、ロシア軍の圧力が強まり、2月17日にはアブテエフカが陥落し、その後、イワノスケでの戦闘が激化していた。現地時間、昨夜の段階で、イワノスケが陥落したとの情報と、南西部はまだウクライナ軍が支配しているとの情報がある。いずれにしても、ロシア軍による完全解放は時間の問題だろう。
 イワノスケが陥落すると、戦線はチャソフヤールに移る。ここは、南北に川が流れており、川にかかる4つの橋は、すでに落とされているとの情報があるため、チャソフヤールの解放は短期間では済まないだろう。しかし、チャソフヤールが陥落すると、もう、西側にはウクライナ軍の防衛拠点はない。

 2月17日にはアブテエフカが陥落すると、急遽ウクライナ軍はベルディチ・オルロフカ・トネンコエを結ぶラインに防衛線を引いた。しかし、現地時間2月29日夜の段階で、すべてロシア軍の支配に入っている模様。

ナワリヌイの死因2024年02月26日

 
 ウクライナ国防省の情報部門のトップ、ブダノフ情報総局長は25日、記者団に対し、ロシアの刑務所で今月、死亡した反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の死因について「がっかりさせるかもしれないが、われわれが知っていることは彼が血栓で死亡したということだ。確認されている」と述べました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240226/k10014370611000.html#anchor-01

さて、ブダノフ情報総局長は、この情報をどのようにして入手したのでしょう。

アヴデエフカ解放2024年02月18日

 ドネツクの北西にあるアヴデエフカ(アウディイウカ)はウクライナ・ネオナチの要塞になっていたが、2月17日、北部コークス工場を含めて、陥落した。北部コークス工場にロシア国旗を掲揚する動画が拡散してる。
 昨年5月にアルテモフクス(バフムト)が陥落して以来、ウクライナ最大の敗北。 
 ロシア軍は、昨年10月ごろから、アヴデエフカ掃討作戦を開始した。昨年来、暖冬傾向が続いていたが、今年1月下旬になると、寒波が襲来し、地面が凍結すると、ロシア軍は大攻勢に出た。暖冬に戻った、2月になっても、攻勢は続き、2月15日には、北部コークス工場を除いて、ほぼ解放した。ウクライナ軍最高司令官に就任したばかりのシルスキーは、2月17日にアヴデエフカの放棄を発表した。
 現在、ウクライナ軍はアヴデエフカの西5km近辺に防衛ラインを構築している模様。
 
 このほか、昨年5月に解放したアルティモフスク(バフムト)方面では、クロモボを完全制圧した後、西方に進軍し、現在はイヴァノフスケやボグダノフカ東部に進軍、チャソフヤールに迫る勢いにある。
 また、オリホフ方面では、昨年のウクライナ軍大攻勢により奪われたロボチネを再奪取する勢いである。ただし、この村にはあまり戦略的価値はないので、今後どうするのかは不明。
 ドネツク南西部のマリンカは、昨年5月以降解放済みであるが、昨年末以降、さらに西部に進軍している。
 
 チェチェンなど一部地域を除いて、ロシアでは伝統的に子供が少なく、青年の戦死が続くと、母親たちの反発が強くなり、政権は維持できなくなる。このため、厳冬期に地面が凍結して、戦車・戦闘車両の行動範囲が広がると、攻勢をかける。この時期は、兵器や弾薬の消耗戦により、兵員の死亡を少なくする。春になると泥濘期になるため、戦闘は停止する。春が終わって地面が乾いてくると、歩兵戦になるが、兵員の損失が大きいため、ロシアは防戦になる。
 ロシアの戦い方は、ナポレオン戦争・第二次大戦同様、冬の寒さを利用する。本来、ウクライナも同じ戦い方のはずだが、昨年、ウクライナは夏季に攻勢をかけ、多くの戦死者を出した。これは、兵力・弾薬に劣るウクライナとしては、兵士の命と引き換えに戦果を挙げる必要があったこと、および、ゼレンスキー大統領が選挙で再選される見込みがなく、国民の支持を考慮しなかったためである。

アヴデエフカ解放か2024年02月16日

 ドネツクの北西にあるアヴデエフカ(アウディイウカ)はウクライナ・ネオナチの要塞になっていたが、ロシア軍の攻撃により、北部コークス工場を除いて、事実上陥落した可能性がある。残るは、敗残兵の掃討。
 昨年5月にアルテモフクス(バフムト)が陥落して以来、ウクライナ最大の敗北。

プーチン インタビュー2024年02月13日

タッカー・カールソンのプーチン インタビューが世界中で話題になっている。
公開された動画は英語。日本語字幕を付けている親切な人がいる。
https://twitter.com/tonakai79780674/status/1755821082861605280?s=46&t=bppLDNcdmSlkMH5sJGuzXA
 
青山貞一氏の翻訳は以下に掲載されている。
https://eritokyo.jp/independent/Ukraines-war-situation-aow4561.htm

アヴデエフカ解放間近2024年02月05日

 ドネツクの北西にあるアヴデエフカ(アウディイウカ)はウクライナ・ネオナチの要塞になっていたが、ロシア軍の攻撃により陥落は時間の問題になっている。
 昨年5月にアルテモフクス(バフムト)が陥落して以来、ウクライナの最大の敗北が近い。

本の紹介-講義 ウクライナの歴史2023年10月29日

 
黛秋津 /編著、他/著『講義 ウクライナの歴史』山川出版社 (2023/9/4)
 
ウクライナの歴史書は、一般的なものでは、これまで、以下の本が出版されていた。
 黒川祐次/著 『物語ウクライナの歴史』中央公論新社(2002)
 伊東孝之・他/編『ポーランド・ウクライナ・バルト史』山川出版社(1998)
しかし、これらの本は、出版年の関係から、ソビエト崩壊以降の記述は少ない。
 
 本書は、ウクライナの歴史のうち、キエフルーシから現代まで、広い範囲を扱う。また、地域・国家の歴史の他に、ユダヤ問題、正教会の分裂、ロシア・ウクライナの歴史認識にも、各一章が割り当てられ、幅広いウクライナ史の観点から、ロシア・ウクライナ戦争を考える材料が提供されている。
 本書は11章に分かれ、それぞれ違った著者が担当している。このため、各専門的な立場での記述で良いともいえるのだけれど、筆者ごとの文体やニュアンスが異なり、少し読みにくい。
 最終章は防衛研究所・山崎博史氏の「ロシア・ウクライナ戦争と歴史的観点」の表題で、現在起こってる戦争を解説する。2023年3月の執筆。このころ、ウクライナ軍の春季大攻勢があるかのように宣伝されていたが、実際には、5月にはバフムトが陥落し、6月になってからウクライナ軍が攻勢をしかけたものの、ほとんど成果はなく、西側供与の装備も、あまり役に立たなかった。今になってみると、本章は、戦況分析能力が低い日本の軍事専門家にありがちな、貧弱な記述になってしまっていて、残念。

* * * * * *

<< 2024/03
01 02
03 04 05 06 07 08 09
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

RSS