本の紹介ー地震と虐殺 ― 2024年10月15日
安田浩一/著『地震と虐殺 1923-2024』中央公論新社 (2024/6)
関東大震災直後に起こった朝鮮人虐殺の話。598ページの大書で、かなり詳しい。
東京下町、千葉県、横浜、埼玉県、群馬県など、各地で発生した朝鮮人虐殺が取り上げられている。虐殺の話のほかに、このような史実を明らかにした人たちの研究の様子も詳しい。また、著者が関連する地域を尋ね歩いたルポも記されているが、若干、冗長な気がする。もっとも、記述に冗長さがなかったら、あまりにも重い話題なので、読んでいて疲れてしまいそうだ。
ところで、日本人は、なぜ、朝鮮人を虐殺したのだろう。一般には、朝鮮人が井戸に毒を入れているとか、日本人を襲っているとかのデマが流れて、それを信じた日本人自警団が虐殺に走ったと言われる。本書も、そうした記述がある。本書には、デマの発信源が、軍や警察だった事例も紹介されている。このほか、本書には、軍が自警団に朝鮮人を払い下げて、殺害させた例もある。
しかし、本書にも記載されている、福田村(現、千葉県野田市)の虐殺は、一行が鑑札を示して日本人であることを証明しても、殺害が行われている。さらに、この時は、幼児も犠牲になっている。幼児が毒を入れたり襲撃してくることなないので、朝鮮人を恐れて殺害したということではない。
本書P393には、朝鮮人来襲とデマを言い、住民が逃げた間に略奪を働く、不逞日本人の存在について記されている。
本書には書かれていないが、志賀直哉/著『関東大震災直後の朝鮮人と日本人』によると、志賀直哉は大手町あたりで若者の以下の会話を聞いている。
『「鮮人が裏へ廻ったってんで、直ぐ日本刀を以て追いかけるとそれが鮮人でねえんだ。然しこう云う時でもなけりゃあ、人間は斬れねえと思ったから、到頭やっちゃったよ。」二人は笑っている。』
関東大震災当時の朝鮮人虐殺の多くは、朝鮮人の犯罪抑止のためではなく、単に人殺しが好きな日本人が、混乱に乗じて人殺しをしたに過ぎないのだろう。日本人は人殺し好きな民族なのだろう。
それから、志賀直哉の本には群馬県安中市松井田駅での朝鮮人殺害の話がある。本書には、この話はない。
本の紹介-北朝鮮拉致問題の解決 ― 2024年07月04日
和田春樹/編著、田中均・蓮池透・有田芳生・福沢真由美/著『北朝鮮拉致問題の解決』岩波書店
岩波書店の単行本。編著者の和田春樹は、ロシア史・朝鮮史の研究者。
北朝鮮拉致問題は小泉内閣のときに生存者5人が帰国し、8人の死亡が伝えられた。これに対して、救う会主導の被害者家族会は全員の一括帰国を求めたため、日朝交渉は膠着し現在に至っている。救う会は北朝鮮に反対する右翼系団体で、メンバーには暴力団風のものもあった。北朝鮮から死亡の詳しい状況が伝えられていない者もあったので、被害者家族が、死亡を受け入れられない気持ちは理解できるが、それと外交は異なるだろう。事実、他に拉致被害者の生存がいることが伝えられたときに、救う会・家族会は、全員一括帰国を主張し、生存者の調査を辞めさせた。
拉致被害者のうち、横田めぐみさんは、死亡のいきさつが帰国した拉致被害者や、北朝鮮で結婚した夫の証言などで、かなり詳しく伝えられた。これによると、鬱病発症後に結婚したが、出産後再び産後鬱になり自殺したとのことだ。横田めぐみさんの遺骨の一部が、元夫からもたらされるも、科警研の鑑定では「DNAが検出されなかった」となり、別の鑑定では「別人のDNAが検出」となった。これに対して、細田官房長官(当時)は、「別人の骨」と断定した。「別人のDNAを検出」したとする大学助教は、その後、警視庁に栄転し、マスコミ取材を一切拒絶している。北朝鮮からもたらされた遺骨は、日本政府が抑えており、再鑑定がなされていない。
本書は、拉致の実態・拉致問題と日朝交渉、救う会と家族会、横田めぐみさんの問題など、拉致問題を事実に基づいて書かれており、拉致問題の全貌を知ることができる。右翼のプロパガンダを声高に唱えたいだけの人には、本書は適切ではない。
「めぐみへの誓い-奪還」なる劇・映画が上映されることがあるが、著者の蓮池透・有田芳生によれば、事実と異なり、北朝鮮をフィクションで批判する部分が入っているとのことだ。拉致問題を考える上で、事実は何かという点を正しく抑えることが肝心と思う。
本の紹介-北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実 ― 2023年09月27日
有田芳生/著『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』 (2022/6)集英社新書
今から20年ほど前、北朝鮮拉致被害者5名が帰国し、8名の死亡が報告された。日本政府は、5名から極秘にヒアリングを行い、拉致の状況、北朝鮮での生活の様子、他の拉致被害者など詳細な情報を得て、報告書にまとめたが、極秘となって公開されることはなかった。しかし、その後、内容は漏れ出ることになるが、日本政府は、内容を認めようとはしていない。
本書のメインはこの極秘文書の内容の話。著者は、この文書を入手しているようだ。拉致被害者の横田めぐみさんは、北朝鮮が病死したと伝えてきたが、両親は病気をしたことがない子だと言って病死を認めなかった。ところが、極秘報告書には、精神疾患で入院していたとの情報が複数の拉致被害者から得られており、北朝鮮の主張を補強する内容となっている。
その後、横田めぐみさんの元夫から遺骨がもたらされると、科警研と帝京大・吉井富夫講師により、DNA鑑定が行われた。科警研は、鑑定不能との結論を出した。しかし、このときまで火葬遺骨DNA鑑定の経験がなかった吉井氏は、横田めぐみさんと遺骨は別人との鑑定結果を出した。遺骨には、スポンジ状組織があり、そこに、他人の汗などが吸収されるため、吉井氏の鑑定は疑問がもたれるものであったが、日本政府はこれをもとに、横田めぐみさん死亡との北朝鮮の説はウソであると断定し、交渉は行き詰まった。吉井氏はその後、警視庁科捜研に就職し、この時の鑑定をコメントする機会を政府は失わさせた。なお、その後、鑑定精度も上がっており、再鑑定すれば新たな知見が得られるかもしれないが、日本政府は、怪しい吉井鑑定に固執して、めぐみさん死亡との北朝鮮主張を否定している。
本書著者は横田夫妻に何度も面会しており、夫妻が事実を知りたいと言っていたと、本書に記されている。夫妻の意図は、死んでいるか生きているのか、客観的事実を知りたいとの意味だろうか。それとも、生きていることを前提に、生きていることが真実であるとの情報だけが欲しく、死んだという情報は絶対に虚偽であるとの認識なのだろうか。横田夫妻は、めぐみさんの娘に、ウランバートルで会っているが、その後、会うことはない。会った時に、どのような情報がもたらされたのか。その情報が気に入らなかったのか。このあたりのいきさつは、本書を読んでも、わからなかった。
政府が認識していなかった拉致被害者二名の生存情報が北朝鮮からもたらされたことがある。しかし、日本政府の行動はなかった。本書には、この件も詳しい。
拉致問題が膠着した原因の一つに、「救う会」「家族会」の問題がある。本書では、このあたりの記述は少ない。
本の紹介-福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇 ― 2023年09月19日
辻野弥生/著『福田村事件 -関東大震災・知られざる悲劇』五月書房新社 (2023/6)
関東大震災直後、多数の朝鮮人が殺された。本書は、この中で、千葉県野田市(旧・福田村)で起こった、日本人行商人虐殺事件を扱ったもの。本書は、最近、映画化されたため、多くの人の関心を集めている。
本書では、最初に関東大震災の様子と、それに引き続き起こった朝鮮人虐殺を取り上げる。朝鮮人虐殺は、朝鮮人が放火をしている等の根拠のないデマがきっかけだったが、このようなデマの流布に警察が関与している点の指摘がなされており、客観的で常識的な記述には好感が持てる。
福田村事件の話は、本の後半になる。関東大震災に出会った香川の行商人のうち、9人が朝鮮人と疑われて、福田村で惨殺された。9人のうち2人は子供で一人は妊婦だった。
殺害原因について、本書では、朝鮮人と間違われたとしているが、考察不足ではないだろうか。福田村自警団が朝鮮人と誤認して確保したことは間違いないとしても、被害者は自分たちは香川の行商人と主張しているのだから、もし、行商人の主張が信じられなくても、普通の心を持った人間ならば、警察に引き渡す程度のことをするだろう。ところが、福田村自警団は警察に引き渡すことを拒否した上で、子供を含む9人を虐殺した。これは、要するに、残虐な殺害をしたかったから、そのための口実が欲しかったのだろう。福田村村民には、下劣で残虐な劣等人種の血が流れていたと思える。
関東大震災直後、「朝鮮人が放火した」「朝鮮人が井戸に青酸カリを入れた」などの、流言蜚語があったため、これを信じた日本人が、朝鮮人犯罪を防止し、犯罪者を処罰するために、朝鮮人虐殺に及んだとする説がある。しかし、群馬県藤岡のように、自警団が警察署を襲って、保護されていた朝鮮人を虐殺した事例もあったことが知られているので、犯罪防止や犯罪者処罰が虐殺の目的だったとは思えない。もともと、人殺しがしたくて仕方なかった人が、混乱に乗じて、念願の虐殺を果たしたのではないだろうか。
実際、作家の志賀直哉は、震災直後に東京で、若者の以下の会話を聞いている。
『鮮人が裏へ廻ったってんで、直ぐ日本刀を以て追いかけるとそれが鮮人でねえんだ。然しこう云う時でもなけりゃあ、人間は斬れねえと思ったから、到頭やっちゃったよ。』
本書の内容に戻る。本書では、殺害された香川の行商人は被差別部落の人だったとの記載がある。もし、朝鮮人と誤認して殺害したのならば、部落民かどうかは関係ないことであり、本書の記述は、被災者を貶めるものとも言える。しかし、福田村の村民が人殺しをしたくて虐殺したのなら、自分たちよりも劣った人間であるとの理由を付けて殺したと考えられるので、被差別部落民だったとの本書の記述は、背景説明に有益だ。
本の紹介-日朝交渉30年史 ― 2022年12月08日
和田春樹/著『日朝交渉30年史』ちくま新書(2022.9)
著者で歴史学者の和田春樹氏は日ソ、日ロ関係の泰斗。北朝鮮問題も詳しく、日朝関係に関する著書も多い。
本書は、1990年以降、最近までの日朝関係の解説。年代を1~6年ごとに、9つに区切って、各年代の日朝関係を記す。学者の執筆なので、内容は、客観的。
小泉内閣の時に、拉致問題が大きく進展し、国民の支持を得、その結果、日朝関係が進展するかと思われたことがあった。しかし、救う会を中心とした一部勢力の巻き返しにより、日朝関係は頓挫した。本書は、この時の経緯についても詳しい。
救う会は右翼・暴力団・統一教会などが活動に参加ないし関係が深いと指摘されることがあるが、本書にはその点の記述はない。
ところで、本書著者の和田春樹は、東大名誉教授で、救う会の西岡力はFラン大学の東京基督大の教授を務めていた。教授の思想傾向と、学生の能力に関係はないはずだが、左翼系は一流大教授が多く、右翼系はFラン大教授が多いのはどうしたことだろう。もっとも、和田春樹は東大卒で、西岡力はICU卒なので、本人同士の能力にも違いがあるのかもしれない。
著者で歴史学者の和田春樹氏は日ソ、日ロ関係の泰斗。北朝鮮問題も詳しく、日朝関係に関する著書も多い。
本書は、1990年以降、最近までの日朝関係の解説。年代を1~6年ごとに、9つに区切って、各年代の日朝関係を記す。学者の執筆なので、内容は、客観的。
小泉内閣の時に、拉致問題が大きく進展し、国民の支持を得、その結果、日朝関係が進展するかと思われたことがあった。しかし、救う会を中心とした一部勢力の巻き返しにより、日朝関係は頓挫した。本書は、この時の経緯についても詳しい。
救う会は右翼・暴力団・統一教会などが活動に参加ないし関係が深いと指摘されることがあるが、本書にはその点の記述はない。
ところで、本書著者の和田春樹は、東大名誉教授で、救う会の西岡力はFラン大学の東京基督大の教授を務めていた。教授の思想傾向と、学生の能力に関係はないはずだが、左翼系は一流大教授が多く、右翼系はFラン大教授が多いのはどうしたことだろう。もっとも、和田春樹は東大卒で、西岡力はICU卒なので、本人同士の能力にも違いがあるのかもしれない。
10月8日は閔妃暗殺事件の日 ― 2022年10月09日
朝鮮国王高宗の王后閔は、明治28年(1895)10月8日に日本公使三浦梧楼の指揮下の日本人壮士らに殺害された。
閔は国王の正妻であったため「后」が正しいが、日本公使三浦梧楼は殺人の後に、閔を妾の地位に貶め「妃」と呼んだ。このため、日本では「閔妃」の呼称が定着した。韓国では諡号により「明成皇后」と言う。
この事件は勃発した1895年の干支から、乙未事変とも言う。
〇閔妃暗殺は辞書などにどのように書かれているか
http://nippon.nation.jp/Takeshima/ETC/Binhi.html
〇大学入試・日本史に出題される閔妃暗殺事件
http://nippon.nation.jp/Takeshima/ETC/BinhiNyuushi.htm
閔は国王の正妻であったため「后」が正しいが、日本公使三浦梧楼は殺人の後に、閔を妾の地位に貶め「妃」と呼んだ。このため、日本では「閔妃」の呼称が定着した。韓国では諡号により「明成皇后」と言う。
この事件は勃発した1895年の干支から、乙未事変とも言う。
〇閔妃暗殺は辞書などにどのように書かれているか
http://nippon.nation.jp/Takeshima/ETC/Binhi.html
〇大学入試・日本史に出題される閔妃暗殺事件
http://nippon.nation.jp/Takeshima/ETC/BinhiNyuushi.htm
加耶 ― 2022年10月08日
加耶 ― 2022年10月07日
国立歴史民俗博物館では「加耶」展開催中。
加耶とは、およそ日本の古墳時代に、朝鮮半島南部に存在した国。加耶は単独の国家ではなくて、各地域ごとの政治勢力が弱い連合を作っていた。かつての日本の歴史教科書では、加耶を任那と称して、そこが大和朝廷の支配下にある「任那日本府」と説明していたが、これは、史実ではない。
加耶は鉄の生産と交易によって栄えた。
展示品は鉄・鉄製品・陶器・金の飾りなど。
本の紹介―霊感商法の勝共連合=統一協会 ― 2022年07月16日
日本共産党中央委員会出版局/編『霊感商法の勝共連合=統一協会』(1987/10)共産党ブックレット
35年前の出版。今更こんな本を紹介しても、読む機会はないと思う。
1970年代、統一教会の勧誘は、大きな社会問題にはなっていなかった。1980年代になると、統一教会の霊感商法が盛んになり、週刊誌等で霊感商法被害が報告されるようになった。統一教会は、岸信介のような右翼政治家や、笹川良一、児玉誉士夫のようなヤクザ系の人たちと一緒になって、勝共連合を組織しており、勝共連合・統一教会は一体となって右翼活動と霊感商法を推し進めた。
本書は、1987年に、共産党から出版されたもの。共産党なので、勝共連合と自民党政治家の癒着を取り上げた記述が多いが、当時の霊感商法の告発も重要なテーマとなっている。
統一教会の霊感商法は1990年代になると活発になる。私が利用している川口駅でも、統一教会の人が通行人を呼び止めて「手相を見てあげる」と言っては勧誘しようとしたり、ハンカチを売っていたりした。若い人に声をかけていたようだが、当時、若かった私も何回か声を掛けられたことがある。このころ、霊感商法は社会問題となってゆく。また、歌手の桜田淳子が統一教会の合同結婚式で結婚したと報じられると、社会の関心を集めた。
その後、統一教会への民事訴訟が各地で起こり、2000年代になると刑事事件も現れ、2009年には、警視庁が強制捜査を実施し、教団施設や関連会社が捜索され、幹部らが特定商取引法違反で有罪判決を受けた。
統一教会が日本社会で警戒されるようになってきた1997年、統一教会は名称変更を目論む。しかし、この時は文部科学省が名称変更を拒否した。安倍派の重鎮・下村博文が文部科学大臣に就任すると、2015年に、家庭連合への名称変更が認められ、以後は家庭連合の名前などを使って、霊感商法が継続した。
なお、日刊ゲンダイによると、下村博文は統一教会系企業から献金を受けている。
本書は1987年の出版であるが、これより前、1985年にジャーナリスト青木慧『パソコン追跡勝共連合』が汐文社から出版されている。1980年代に統一教会の霊感商法を告発した本は少ない。
本の紹介-韓国論の通説・俗説 ― 2022年02月23日
浅羽祐樹、木村幹、佐藤大介/著『徹底検証 韓国論の通説・俗説 日韓対立の感情vs.論理』中公新書ラクレ(2012/12)
日本では、韓国大統領・李明博を「親日派」と言われていた。ところが、経験末期に、彼は竹島に上陸した。このため、日本の一部では反日感情に訴えて人気回復を図るものと評価するものもいた。
本書は、この時期に出版されたもので、韓国専門家による執筆・対談。韓国内での、日本ファクターが低下しており、親日・反日で韓国を推し量ることが無意味であることを示している。本書には、竹島対立の話題もあるが、竹島問題を扱ったものではない。