本の紹介-原発のウソ2011年07月01日



原発のウソ 小出裕章/著 扶桑社 (2011/6/1)


 福島原発事故及び放射能原発の危険性に対して、原発反対の立場の原子力研究者により書かれた本。現在、広く読まれている。

 著者は、原発反対派の代表の一人。本書は、原発反対の立場で書かれているが、著者は原発の研究者なので、本の記述は、客観的事実がほとんど。

 福島原発事故に関して、事故の経緯、今後予測されること、放射線と放射能の解説と、人体への影響、原発の有用性宣伝の欺瞞、などが本書の内容であり、専門的な話はなく、一般大衆向けの解説書となっている。
 原発に対して、元々、ある程度の知識を持っていた者にとっては、ありふれた内容で、特に、新味はない。逆にいえば、この程度の内容を、多くの人は知らずに、原発に対して、何の疑問もなく、安全性や経済性の政府宣伝をこれまで信じ切っていたのだろうか。
 

 政府の定めた、放射能暫定基準を安全基準であるかのように誤解している人がいる。本書では、1章を割いて放射能の危険性について書かれている。一般的な概要ではあるが、簡潔にまとめられていて読みやすいので、放射能の安全性について疑問の人や、暫定基準を安全基準であると誤解している人には、基礎知識を得るうえで有用である。

本の紹介-原発と次世代エネルギーの未来がわかる本2011年07月02日



原発と次世代エネルギーの未来がわかる本 (洋泉社MOOK) 漆原次郎/著


 原発、放射能、太陽光発電、風力発電など、原発と自然エネルギー関連の話題を中心に、項目ごとにコンパクトに解説している。
 技術的な解説が多いので、最近のニュース等で、技術的内容が分からなかったときは、辞書的に利用すると便利だろう。各項目は、多くても4ページなので、深い内容の説明はない。

本の紹介-原発事故緊急対策マニュアル 放射能汚染から身を守るために2011年07月03日



原発事故緊急対策マニュアル 放射能汚染から身を守るために 
日本科学者会議福岡支部核問題研究委員会 (著)  合同出版 (2011/4/20)



福島原発事故後に、改定出版された。

原発が大事故を起こして、放射能が環境に放出されたときに、どのようにして身を守るか、マニュアル化している。ただし、基本的に、原発事故直後の対応方法なので、福島原発事故対応としては、今となっては、特に役に立たないかも知れない。
しかし、今後も、どこかの原発が大事故を起こす危険性があるので、事故対応方法を頭の片隅に置くことは有用だろう。

本の紹介-福島原発人災記 安全神話を騙った人々2011年07月04日



福島原発人災記――安全神話を騙った人々 川村湊/著 (著)   現代書館 (2011/4/25)

福島原発事故では、専門家諸氏により、事故を過小評価する言説が広く行われた。このような専門家は、どういう人で、これまで何をしてきた人なのか。本書は、この疑問に答えてくれる内容。

 世間一般では、原子力安全委員会委員長の斑目春樹先生が批判されているが、斑目先生が現職についたのは2010年4月で、その前は、鈴木篤之先生が委員長を勤めていた。
 鈴木先生が原子力安全委員・委員長を務めたのは2001年からであり、それ以前にも、政府の原子力安全関連委員を歴任している。本書では、特に、鈴木篤之先生を批判しているが、彼こそ、現在の、原子力安全の中心人物だった。

 多少、原子力安全にかかわったものとして、本書の主張には、理解できることが多い。鈴木先生にはお世話になったこともあるので、あまり強く批判する主張には、複雑な思いがあるけれど、本書の内容は、国民の立場から見たら、当然の主張だ。

 現在、国会では、自民党を中心に、菅おろしが活発である。しかし、菅おろしの面々をみると、原子力村から恩恵をこうむって来た人ではないか。国民の目をくらまして、原子力村を温存するために、菅おろしを強引に進めているようにも見える。もちろん、それだけではないだろうけれど、それにしても、菅おろしの面々は、かつて、危険な原発を安全と言いくるめて、原発を推進し、利益を上げてきていた事実に対して、何の反省も、説明もないのはどうしたことか。

 原子力村とは、政界・官界・産業界・学者が電力会社と一体となって、原子力を推し進め、彼らの利益を図ってきた状況を言う。私も、かつて、そういうところから、仕事をもらって、多少の利益を上げてきたのだから、原子力村の関係者だったことになるのだろう。

本の紹介-日本の国境問題2011年07月05日



日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905) 孫崎享 (著)

久しぶりに出版された、日本の領土問題を扱ったまともな本。

日本の領土問題を扱った本の多くは、日本政府の主張を焼き直して、自分勝手な意見を主張するものですが、この本はそうではなくて、まじめな歴史知識により、現実的な領土問題の解決を目指すものです。

領土問題では、日本に都合のよい歴史的事実だけを羅列して、都合の悪いことはひたすら無視するか、事実を捏造することが、日本では行われています。しかし、こんなことが、領土問題の解決につながらないことは明らかでしょう。

本書の著者は、長年、外交官として、外交問題にあたってきました。本書は、著者の経験と理性により、領土問題の解決方法の理念を示すものです。

本書に示された、歴史的事実は、必ずしも日本に都合の良いことばかりではなく、日本国民を偏狭なナショナリズムに扇動する勢力にとっては、受け入れがたいことかもしれません。しかし、史実は史実として、正しく認識しなくてはならない。北方領土・竹島・尖閣列島に関して、日本政府の主張しか知らない人は、本書を熟読して、冷静になって欲しいものです。
昨年秋、尖閣問題で日中が衝突したことがありましたが、この島々が日中外交では、どのような扱いになっているのか、簡潔にまとめられています。この部分だけでも、一読の価値があります。

本の紹介-お薦めしない本2冊2011年07月06日



誰がメドベージェフを不法入国させたのか-国賊たちの北方領土外交

 2010年11月、メドベージェフがロシア大統領として、最初に北方領土を訪問した。すでに半世紀以上ロシア人が居住し、ロシアの実効支配地域であり、軍隊も駐屯しているのだから、大統領の訪問は奇異なことではない。
 左側の本は、北方領土は日本の領土であると主張し、メドベージェフの訪問を批判するもの。このような論を立てること自体は、間違っていないが、それにしては、本書の内容は乏しすぎる。
 2007年に、産経新聞社から発行された『北方領土は泣いている 斎藤勉・内藤泰朗/編著』をもとに、メドベージェフの訪問を批判しする部分を追記したようだ。前書も、内容が貧弱だったが、本書は、貧弱な内容はそのままに、章立て等が、ごちゃごちゃして、かえって読みにくくなった。どちらかを読むとすれば、前書の方が、まだマシだろうか。
 いずれにしても、4島一括返還論以外は絶対だめであると主張し、最近の現実的解決を目指そうとする論調を攻撃しているものである。この論拠は、50年間使い古された日本に都合の良い一方的主張で、まったく新味は無い。しかも、類書に比べても、論証は緻密さを欠いている。
 日本政府外務省は、パンフレット『われらの北方領土』を発行し、希望者に無料配布しているが、この本には、外務省のパンフレットを適当につなぎ合わせて、あとは威勢のよいことを書いただけのような印象を受けた。
 もし、北方領土問題に関心があるのならば、外務省発行のパンフレットを無料でもらって読んだほうが、まともな知識が得られるだろう。



誰も見たことのない日本の領土 DVD (別冊宝島) (別冊宝島 1724 ノンフィクション)

 右の本は、DVD付きの雑誌。雑誌は、尖閣・竹島・北方領土・南鳥島・沖ノ鳥島の写真集で、DVDは同じ地域のビデオ画像。安価なこともあって、写真印刷は美しくない。DVDの方は、尖閣上陸、竹島上陸のビデオ映像などは、興味が持てる。北方領土は、静止画像をビデオに撮っただけの物が多く、内容が乏しい。
 雑誌の解説、DVDのナレーションは、領土問題の解説としては、政府のパンフレットの解説をずさんに編集し、著者のイイカゲンな解説を追加したただけのようであり、読聴する価値は、ほとんどないだろう。
 北方領土や竹島問題では、日本政府は国民向けパンフレットを発行しているので、そちらを読んだ方が良い。

原発被災者は、そう遠くない時期に戻れるかもしれない2011年07月07日

 
 セシウム137の半減期は30年なので、1/10になるには、100年必要であり、原発被災者は100年間は故郷に戻れないとの見解もある。チェルノブイリは、事故後25年経つけれど、被災者が戻れるメドは立たない。

 しかし、日本は、雨が多く、山が多いので、放射性セシウムは、雨で流れる。図は、飯館村役場の環境放射線強度。縦軸は対数メモリ。赤い線は、最近の減少傾向に対して近似的に直線を引いたもの。今は、およそ300日で半減しているようだ。このまま減衰すれば、2年後には年5ミリシーベルトになるだろう。また、4~5年後には、年1ミリシーベルト以下も期待できるようだ。
 2年後には、妊婦など一部の人を除いて、帰宅しても問題なくなり、4~5年後には、全員が帰宅し、安全に生活できようにも思える。降雨の状況によっては、さらに安全に帰宅できる時期が早まるかもしれないが、たまたま少雨続きで、思ったほど放射能が減らない可能性もあり、楽観はできない。

 ただし、現在、避難地域に指定されてても、汚染には地域差があるので、葛尾村や川内村の一部などのように、今月中旬にも、戻ることが可能になりそうな地域もあれば、浪江町赤宇木や飯館村長泥のように、しばらくは、様子を見なくてはならない地域もある。


注)放射性セシウムには、半減期30年のセシウム137と、半減期2年のセシウム134がある。現在、汚染地に存在する両者の割合を1:1として、環境からの半減期を300日とすると、セシウム137の環境からの半減期は1.01年となる。このため、現在、セシウムの環境からの半減期が300日でも、今後徐々に遅くなって、数年後には1.01年になると推察される。

本の紹介-浅田次郎/著 終わらざる夏2011年07月09日


 千島列島最北端の占守島では、終戦気の8月18日から、日ソ間で戦闘が行われた。本書は、この戦争に関連した小説で、上下2巻に分かれている。

終わらざる夏 上

終わらざる夏 下

 ようやく、ざっと一通り読み終えたが、私には、つまらないだけの小説だった。

 史実としてみたら、ずいぶんと事実と違うことが多い。日本人を称賛する思想で書かれているように感じられるが、もしそうだとしても、当時の価値観で称賛に値する日本兵の物語ならばともかく、現代日本人の価値観で称賛に値する日本人像を描いても、絵空事のように感じてしまう。

 下巻の終りの方に、占守島に残留していた漁業会社の女性従業員を日本軍の努力で、全員、無事に北海道へ帰還させたとの美談があるが、史実は、ちょっと異なっている。
 占守島・幌筵島には、漁業会社の女性従業員のほかに、従軍慰安婦が残されたが、これらの女性は漁業会社の独航船で北海道へ帰還している。(北千島の従軍慰安婦の多くは「少女のころ連れてこられ、いや応なしに日本兵の相手をさせられた」朝鮮人だったようだ。当時日本軍人だった大竹三郎氏の談話が、北海道新聞2005年2月6日に掲載されている。)

 当時、占守島に居住していた別所二郎蔵氏によると、漁業会社は、これら女性たちを、北海道に帰還させようとしたが、日本軍の許可が下りなかったため、戦闘が始まってしまった。そのため、漁業会社は戦闘のさなかに、霧に乗じて女性たちを脱出させ、1艘を除いて帰還することができた。1艘は途中の中千島で座礁し、ソ連軍に救出された後、サハリン経由で、帰国したとのことである。

 また、次の本の中には、漁業会社の船で帰国を果たした女性従業員の回想が記載されているが、この中では、日ソ戦の2日前に島を離れたと記載されている。
フレップの島遠く (平和への願いをこめて (11 樺太・千島引揚げ(北海道)編)) 創価学会婦人平和委員会/編 第三文明社 (1984/08)

 占守島から、女性たちが脱出したときには、日本軍の協力もあっただろうが、日本軍の美談とすることは、ちょっと飛躍が大きいようだ。ただし、戦後、自衛隊の書いた、朝雲出版の戦史には、女性たちの脱出に際しての日本軍の協力が書かれているので、この小説では、朝雲出版の記述だけを使って、それを脚色したのだろう。

 また、小説の中、特に下巻には、陸士主席卒の優秀な将校が出てくるが、小説の最後で、彼は、抑留地で自決したことになっている。
 実際には、水津満少佐は陸士主席卒の秀才であったが、彼は、占守島で捕虜になりソ連に抑留され、日本に帰国後、東京世田谷の鉄工場の営業をしていたようだ。1年下の、陸士主席卒・中山平八郎は戦後、自衛隊東部方面総監になっているので、シベリア抑留者に対する日本社会の仕打ちは、厳しいものがあった。

7月10日は「釣り人の日」2011年07月10日

ロシアでは、7月10日は「釣り人の日」。漁業関係者や趣味のフィッシャーマンなどの、お祝いの日だ。
http://japanese.ruvr.ru/2011/07/09/52991586.html

 北方領土近海では、日本船以外でも、密漁犯罪が後を絶たないとのうわさがある。日本船については、2010年1月に、北方近海で密漁がバレテ、ロシア国境警備隊に銃撃される事件が起こった。密漁船は、警備から逃げおおせたが、日本に寄港後、VMS(衛星位置通報システム)を故意に切断した犯罪行為が発覚し、その後、出港停止の処分を受けている。もっとも、羅臼漁協は、かねてから密漁の疑いが指摘されていたところで、たとえば、2008年06月27日の北海道新聞によると、漁協組合員が刺し網で秋サケを密漁している疑いがあるとして、根室の4つの買い受け人組合が、羅臼漁協に、密漁防止策を要望したとの記事がある。 

 密漁の手口は、日本船だけで行うものほか、ロシア船と共同で犯行を行う手口があるそうだ。
 一つは、ロシア船がカニを密漁し、公海上で、ひそかに日本船に引き渡し、日本の漁獲であるとして、日本の漁港に水揚げする手口。
 二つ目は、ロシア船が密漁し、日本の漁港に水揚げする手口だ。この場合は、ロシアの輸出許可証が必要になるが、偽造した許可証を使う。書類が偽装されているかどうかは、日本の税関当局がロシアに問い合わせれば、容易に発覚しそうなものだが、なぜか、見過ごされる。日本の輸入業者の介在がなければ、不可能な犯罪だろう。

 このほかにも、いろいろな手口があるだろうが、私が聞いたことがある噂は、この2つ。

 日本船の密漁を含めて、水揚げ段階で、きちんと検査をすれば、容易に発覚しそうであるが、なぜか見過ごされるらしい。
 偽造書類にしても、密漁水産物にしても、日本に有るので、ロシア警察当局は手出しができない。ロシア政府は、密漁に頭を悩まし、数年前には、プーチンが、生きたカニの輸出を禁止すると宣言したが、どうもうまく行かなかったようだ。

 今年2月4日の朝日新聞(asahi.com)によると、日ロ密漁防止協定が締結される。
http://www.asahi.com/international/update/0204/TKY201102040497.html
 この記事によると、『ロシアの漁業会社や漁船のリスト、漁獲割り当ての情報を日本側に提供することで、港で水揚げする際に密漁をチェックできる』、『韓国とは昨年、同様の協定を結んだことでカニなどの密漁は激減したが、日本の港で「合法化」する不法輸出が続いている』 とのことだ。

 既に協定は締結したのだろうか。もし、締結したとしたら、日本の通関当局は、まじめに取り締まるのだろうか。
 どうもよく分からないのは、協定がなくても、外交チャンネルを通して、ロシアの輸出許可証が真正品か偽造品か、容易に分かるはずで、もし、噂の通り、ロシア船の密漁が横行していたとするならば、日本の通関当局は何をしていたのだろうか。
 
 ロシア漁民にも、日本漁民にも、一部に悪い人がいるのは、当然のことだろう。犯罪は、行政当局が、摘発しなくてはならない。もし、日本の行政当局が、一部の噂の通り、犯罪を見逃しているとするならば、故意であるか、職務怠慢であるかを問わず、国際的非難は免れないだろう。漁業資源は、日本の物とか、ロシアの物とかいう以前に、地球の大切な宝物であり、全人類の財産なのだから、資源保護は、すべての国の義務であるはずだ。

本の紹介-原発事故残留汚染の危険性2011年07月11日


原発事故 残留汚染の危険性 武田邦彦/著 朝日新聞出版 (2011/4/20)

福島原発事故後、事故の解説と放射能の危険性を解説するために、急遽出版された。この本をしっかり読んで、放射能の危険性に対処した人は、ある程度、被曝を少なくすることに成功しただろうか。事故当時の政府やマスコミの無責任な安全宣言に振り回されないために、この本を読むことは、きわめて価値があった人もいるだろう。もし、まだ読んでいない人、特に、国の放射能暫定基準が、安全基準であるかのように誤解している人は、ぜひとも、このような本を読んで身を守ってほしいものだ。

福島原発事故が発生した時、多くの、原発研究者たちは、放射能が安全であるかのような、言説を振りまいていた。こうした中、著者の武田邦彦氏は、原発関係者に一人であるにもかかわらず、原発と放射能の危険性を強調していた。
武田邦彦氏は、もとは、核燃料の研究者で、現在は、大学教授。原子力安全委員会の委員を務めたこともある、原発関係者。その意味では、原発推進派に属するというべきだろう。

本書は、最初の1/3に福島原発事故の概要説明と原子力発電所の大まかな説明。次の1/3はこれまでの正負の原子力政策の批判。最後の1/3が放射能の危険性の説明。
最初と最後の部分には、同感であるが、中央の1/3には、必ずしも賛成できない。著者は事故の責任は第1義的に政府に有るとの考えであるが、原発を作り発電することは、東京電力の経営判断なのだから、東京電力が、事故の第1義的な責任を免れることはできないだろう。

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