本の紹介-日本軍慰安婦 ― 2025年08月19日

吉見義明/著『日本軍慰安婦』(2025/7)岩波新書
『従軍慰安婦(1995/4)岩波新書』の改定新版。
著者は、日本軍慰安婦制度は軍が主体となっていたことを日本に残る公文書等から明らかにし、この結果、著者の研究が河野談話に繋がった。初版出版当時は「従軍慰安婦」の用語が一般的だったが、軍関与が明らかにされると、右翼勢力からは言葉尻をつつくような議論がなされたため、本書はこのような低レベルな議論を避けるために、タイトルを従軍慰安婦から日本軍慰安婦に変えたのだと思う。
侵攻軍による地元女性へのレイプや残虐行為は、どこにでもあるが、シベリア出兵以降の日本軍人によるレイプ・残虐行為は特に激しかった。これは、日本民族が本来下劣民族であることが主たる要因なのか、あるいは、天皇の軍隊制度に原因があるのかわからないが、そういった視点での記述は本書にはない。本書の内容は、日本軍従軍慰安婦問題を史実に基づいて記載するもの。また、日本軍のレイプに対しては詳しくない。
初版が出た以降も、ネット右翼らによる従軍慰安婦否定言説は今なお盛んだが、こうした中、否定派の中で、一応まともな学者は秦郁彦だろう。しかし、本書P161では秦の「廃業の自由や外出の自由についていえば、看護師も一般兵士も同じように制限されていた、この点は、現在のサラリーマンも変わらない」との主張に反論し、秦が外出の自由や廃業の自由の意味を理解していないと説明している。そもそも、兵士や従軍看護師は法律によって勤務が義務付けられていたので、外出の自由や廃業の自由はなかったのに対して、現代のサラリーマンや従軍慰安婦は法律による勤務強制ではないので、比較にならない。また、廃業の自由などに関して、現代のサラリーマンと従軍慰安婦は全く異なっており、従軍慰安婦は中近世の遊郭のような状態だった。
ネット上では、従軍慰安婦は高額収入であったとの言説が散見される。P165以降、本書では、邦貨と軍票の貨幣価値に言及し、従軍慰安婦高額収入説を否定している。この問題に対するネット右翼の言説は無知に基づくもので検討の価値はないと思っていたが、本書では数ページにわたって詳しい説明を行っており、このあたりの知識が乏しい人にも、わかりやすい。
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