本の紹介-関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く2022年12月25日


新井勝紘/著『関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』新日本出版社 (2022/8)
 
 関東大震災の直後に、警察・日本軍・自警団は朝鮮人を虐殺した。
 本書は、当時描かれた関東大震災関連の絵画・絵巻のなかで、朝鮮人虐殺の様子が描かれたもの5点ほど取り上げ、描かれた状況や作者を分析している。これら絵画は写生であったり、見たことを記憶で書いたり、伝聞を書いたものがあったはず。このため、描かれたすべてが真実というわけではないだろうが、当時の様子を視覚的に理解する上で重要な記録だ。取り上げた絵画には、朝鮮人を虐殺している様子が生々しく描かれており、また、その場には、多くの日本人が喜んで見物しているさまが描かれている。当時、多くの日本人が、積極的にあるいは消極的に朝鮮人虐殺に加担した事実が理解できる。
 本書の著者は、国立歴史民俗博物館の助教授として、近現代展示に携わった。
 歴博の関東大震災の展示はどうなっているのだろう。歴博を見学してみたくなった。 

本の紹介-通州事件2022年12月23日


笠原十九司/著『通州事件』高文研 (2022/8)
 
 通州事件とは、日本の傀儡政権が起こした反乱事件。この事件については日本軍の責任が大きいが、日本ではこの事件を中国への敵愾心をあおりたてるように利用した。藤岡信勝・三浦小太郎・櫻井よしこ・百田尚樹ら右翼言論人やネット上で散見される通州事件の説明の多くは、事件の背景を知ることなしに、日本人が被害にあったことのみを取り上げて、中国への敵愾心をあおりたてるもの。無知による排外運動は好ましいものではない。
 
 本書は、日中近代史研究の第一人者による通州事件の説明。全体2/3の第一部は通州事件の背景と通州事件の歴史説明。残り1/3の第二部は『通州事件被害者姉妹の生き方』。
 歴史学者の執筆であり、事件の歴史的背景に対する記述が詳しい。記述は簡潔であるが、内容は高度で詳しいので、ある程度の予備知識がないと難しいと思う。
 
 以下、目次を記載する。

 
目次
  
はじめに-通州事件とは何だったのか
 通州事件とは
 通州事件を利用した政府・軍部の「憎しみ」の喚起
 通州事件の「憎しみの連鎖」を喚起しようとする人たち
 通州事件の「憎しみの連鎖を絶つ」被害者の姉妹
 通州事件はなぜ発生したのか-歴史的要因の解明
 
第一部 通州事件はなぜ発生したのか-歴史的要因と全貌の解明
  
序章 通州事件の歴史背景
 アヘン戦争と「禁煙運動」
 支那駐屯軍と関東軍の創設
 辛亥革命と中国の分裂
 中国の統一をめざした国民革命 
 国民革命に干渉した日本
 蒋介石による国民政府の軍事統一
 蒋介石の「安内攘外」政策による「剿共戦」
 
第1章 冀東保安隊はどのような軍隊だったのか
 張学良と干学忠
 関東軍の熱河作戦と東北軍
 塘沽停戦協定と河北特警隊
 梅津・何応欽協定と河北保安隊
 歴史的事件には「前史」がある
 
第2章 冀東防共自治政府と冀察政務委員会
 日本軍の華北分離工作の推進
 (1)華北の「第二の満州国化」構想
 (2)冀東防共自治政府の成立
 (3)冀察政務委員会の成立
 (4)宋哲元と張慶余・張硯田の密約
 一二・九学生運動の展開
 中華民族解放先鋒隊が広めた義勇軍行進曲
 
第3章 中国国民の怒り、怨嵯の的になった冀東政権
 冀東政権を利用した日本人の密輸貿易
 (1)冀東東密輸貿易
 (2)冀東密輸の経路 
 (3)外交問題となった冀東密輸
 (4)華北分離工作のための支那駐屯軍の増強
 (5)都市民衆の抗日民族運動
 (6)冀東密輸と「日本人と朝鮮人の浪人」
 日本人と朝鮮人のアヘン・麻薬の蟹造・密輸・密売
 (1)国民政府のアヘン・麻薬厳禁政策
 (2)国際連盟、麻薬密輸・密売の日本人、朝鮮人の厳罰を要請
 (3)中国人のアヘン・麻薬搬送、販売者の公開処刑
 (4)冀東政権下に日本人と朝鮮人の急増
 (5)冀東政権を利用した日本人、朝鮮人のアヘン・麻薬の密売
 冀東政権とアヘン・麻薬の製造と密売の構造
 (1)熱河省における生アヘンの生産
 (2)大連におけるヘロイン密造
 (3)アヘン・麻薬の密輸・密売の拠点となった天津日本租界
 (4)北平と天津へのアヘン・麻薬搬送の経路となった通州
 (5)「滅種亡国」のアヘン・麻薬の害毒
 
第4章 華北における抗日戦争気運の盛り上がり
 関東軍の内蒙古分離工作と緩遠事件
 綏遠軍支援運動の高揚
 蒋介石の「抗日戦準備」演説
 西安事件と東北軍
 西安事件解決の歓喜
 西安事件後の東北軍
 
第5章 通州事件の発生と全貌
 盧満橋事件と宋哲元の第二九軍
 (1)盧溝橋事件の「前史」
 (2)起こるべくして起こった盧溝橋事件
 (3)拡大派の「下剋上」による華北派兵決定
 (4)第二九軍の北平・天津地域における抗戦
 (5)「北支事変」の開始
 通州保安隊の反乱準備
 通州保安隊の反乱開始
 (1)事件前日
 (2)支那駐屯軍と保安隊の兵力
 通州事件の全貌
 (1)第一方面-翼東政府と通州特務機関、政府関係機関の襲撃
 (2)第二方面-通州日本軍守備隊の兵営をめぐる攻防
 (3)第三方面-日本人、朝鮮人居住区における虐殺、略奪
 通州保安隊反乱の終焉
 
第二部 憎しみの連鎖を絶つ - 通州事件被害者姉妹の生き方
 櫛渕久子さん・鈴木節子さん姉妹との出会い
  
(章のタイトルのみ記載し、項のタイトルは省略)
第1章 満州への移住と病院開設
第2章 通州事件に遭遇した鈴木家
第3章 戦争孤児"になった姉妹
第4章 憎しみの連鎖を絶つ
  
おわりに




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本の紹介-女たちのシベリア抑留2022年12月22日

 
小柳ちひろ/著『女たちのシベリア抑留』文春文庫 (2022/9)
 
 女性シベリア抑留者を扱ったもの。著者はドキュメントディレクター。本書は2019年に単行本で発行されたものの文庫版。
 本書では、中国東北部のジャムス市にあった陸軍病院の看護婦の話が多い。また、朝鮮で日本軍人相手の従軍慰安婦をしていたと思われる村上秋子の話もある。どちらも、しっかり取材をしているようで、この件については好感が持てる。
  
 第一章に、戦争末期に樺太真岡郵便電信局で九人の女性が集団自殺した事件について「自決していなければソ連軍の捕虜となっていたのだろうか」と記している。著書を書くならば少しは勉強したらどうだろうかとあきれた。
 真岡郵電局の集団自殺は、電信課12名のうち9名が自殺し3名が生還したものだった。自殺しなかった電信課の3名や郵便課職員・局長は普通に帰国を果たしている。ただし、生還した電信課3名の中には、帰国後「なぜ自殺しなかった」などと責められたものもいたようだ。このことは、文庫本でも書かれているので、普通に勉強意欲があるならば、容易に知ることができるはずだが。著者の不勉強ぶりには呆れる。
 
 シベリア抑留には降伏した日本軍人と犯罪受刑者があった。旧日本軍人には女性兵士はいなかったので、降伏日本軍人に女性がいたことに驚く人もいるかもしれないが、戦時中の軍事郵便を見ると、差出人が女性名のものは珍しくはないので、軍と行動を共にしている女性がいたことはよく知られたことだった。また、厚生労働省が公開しているシベリア抑留死者名簿には女性と思われる名前がある。
 本書P135にロシア人研究者の言葉、「ソ連側に女性を抑留するという意図はなかったと思います」が記載されている。この部分を読むと、シベリア抑留に女性が含まれないことが当初の方針だったように感じるが、当時のソ連では女性兵士は珍しいことではないので、戦争俘虜に女性を含めない予定があったとは考えられない。また、日本でもソ連でも、女性犯罪者は普通にあるが、女性は処罰しないとの方針があるとは考えられない。シベリア抑留に、女性を含めるとの明文規定がなかったとしても、女性を含めないとの方針があったとは、考えられないことだ。
 
 本書では、中国東北部のジャムス市にあった陸軍病院の看護婦の話が多い。彼女たちの多くは日本軍人と行動を共にしたのち、シベリア抑留となり、そこで、病院看護婦として勤務し、抑留日本軍人などの看護業務にあたった。帰国は早く、一番船で帰国したものもあった。
  
 このほか、朝鮮で日本軍人相手の従軍慰安婦をしていたと思われる村上秋子の話もある。秋子はソ連占領の朝鮮で反乱組織に加わり拳銃強奪を試みて、服役することとなった。北極圏のマガダンで服役したが、1956年日ソ国交回復の時帰国が許された。しかし、自ら帰国を拒否して現地にとどまり、ロシア人として生涯を終えた。

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本の紹介-731部隊と100部隊2022年12月09日

 
加藤哲郎、小河孝/著『731部隊と100部隊』花伝社 (2022/8)

 旧満州を占領した日本軍731部隊は、細菌戦のために、中国人などを使って人体実験(殺人実験)を実施した。このことは、1980年代、森村誠一/著『悪魔の飽食』により、広く知られることとなった。731部隊は、主に、人間の感染症を研究対象としたが、100部隊は主に家畜感染症を研究対象とした。
 本書は、政治学者と獣医学者の共同研究で、100部隊を中心とした細菌戦研究や科学者の戦争動員を明らかにしている。また、細菌戦研究に従事した科学者が、戦後、ワクチン開発や大学研究などで、現代医療体制につながっている状況に対する記述もある。
 731部隊が人体実験をしていたのは、よく知られたことであるが、100部隊でも人体実験が行われていたとの伝聞がある。この点について、本書では、関係者の証言が記載されている。

本の紹介-平頂山事件を考える2022年12月05日


井上久士/著『平頂山事件を考える』新日本出版社(2022.8)
 
 平頂山とは、中国東北部撫順市近郊の村の名称。
 1932年9月、中国東北部の撫順で、日本の支配に反対する人たちが、蜂起した。彼らの攻撃用の武器は棍棒で、このほか、防衛用に「お札」を持っていた。お札は、弾丸が当たらないとの迷信によるもの。この武装蜂起は、すぐに鎮圧されたが、日本軍は、蜂起の報復として、蜂起部隊が通過した、途中の部落である平頂山住民の皆殺しを図った。蜂起の翌日、平頂山の住民を、姦計により一か所に集め、一斉射撃し、虐殺した。この時殺された老若男女は2000~3000人。これは、全住民の殺戮を目論んだもので、一斉銃撃の後、死んでいない人を一人一人銃剣で刺殺した。しかし、殺し忘れた人も若干残ったので、事件は瞬く間に中国や世界に知られることとなった。
 
 本書は、歴史学者で平頂山虐殺事件研究の第一人者による執筆で、事件の詳細と日本軍のかかわりを明らかにする。また、日本軍独立守備隊第中隊長川上精一大尉が虐殺の首謀者であることを明らかにしている。かつて、東京理科大学中退の田辺敏雄なる人物は、川上大尉は虐殺に無関係であると主張した。田辺は川上大尉の親族であり、また歴史学者ではないので、川上の言い訳を集めて、自己の主張を組み立てたのかもしれないが、このような主張が日本の右翼勢力の中で賞賛されたことがある。本書では、田辺説を完全に否定している。
 本書は、平頂山事件の経緯と戦前の日本による隠蔽を明らかにすることを目的としているが、10ページほど、歴史修正主義者たちによる事件の矮小化を批判している。


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本の紹介-アイヌのことを考えながら北海道を歩いてみた2022年11月24日


カベルナリア吉田/著『アイヌのことを考えながら北海道を歩いてみた 失われたカムイ伝説とアイヌの歴史』ユサブル (2022/7)
 
 一味違う北海道旅行記。
 数年前、私も、アイヌのことを考えながら北海道を4回旅行した。最初の旅行は、電車で、函館。2回目は車で道東。3回目は車で北海道左回り一周。4回目は車で道南・道央・道東。私の旅行では、アイヌの存在は無視されていないにしても、あまり関心がもたれていない地域が多いと感じた。しかし、本書を読むと、先住民族としてのアイヌが観光宣伝や箱もの行政の口実に使われているようだ。ここ10年、日本の産業は停滞し、北海道の産業は寂れた。手っ取り早く景気回復のためには、観光宣伝施設を作り、観光客が満足するような展示をすることなのだろう。新たにウポポイが作られたので、そのうち見に行こうと思っていたが、本書を読んだら、その気が失せた。
 静内のシャクシャイン像が作り替えられていること、解説が変えられることが書かれているが、これは知らなかった。
 それから、著者は、かなり大食いの人なのだろうか。各所に、何を食べたのかが結構詳しく書かれているが、日本の普通の料理を食べた話をされても、あまり面白くない。 



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本の紹介ー先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか2022年10月25日

 
坂田美奈子/著『先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか』清水書院 (2018/8)
 
幕末期から明治にかけて、アイヌ・北海道は著しく変容した。本書は、この時代を中心にアイヌの歴史を記す。100ページ余りの薄い本なので、詳しい内容はない。

国立歴史民俗博物館2022年10月11日

 
国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)第一室(古代展示)では、縄文時代の人々の生活が、等身大人形で展示されている。写真は、黒曜石の尖頭器を壊してしまってガッカリしている少年。表情がリアル。

稲作は朝鮮半島から渡来した2022年10月10日

 
久しぶりに歴史民俗博物館を見学したら、第一室(古代展示)が大幅変更されていた。
日本へ、稲作はどこから渡来したのか、諸説あるものと思っていた。歴博では、朝鮮半島から渡来したと説明されている。朝鮮半島渡来が定説になったのだろうか。

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