本の紹介-ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて2012年06月25日


『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一/著 講談社(g2book) (2012/4/18)

 在特会(正式名称:在日特権を許さない市民の会)とは、ネット右翼の一つで、ネット上だけではなく、街頭でも活動し、汚い言葉で、在日韓国朝鮮人などに対して、罵声を浴びせている、到底右翼とは思えない集団。
 本書は、講談社の雑誌G2 Vol6,7に掲載された記事をもとに、大幅に加筆したもの。

 在特会の活動は、単なる弱い者いじめ・無意味な罵倒など、一般常識からも、到底容認できないものであるが、本書では、これらの行為を批判するのではなくて、客観的に事実を追う面が強く、在特会の街頭演説を聞いたことのある者にとっては、無批判すぎる印象を受けるかもしれない。しかし、在特会がネットの世界で、一定の支持を得ていることは事実であり、日本がこのような状況になってしまった理由を考える上で、本書は有用だ。
 在特会の活動で、重要な事件がいくつかあったが、その中でも特筆すべきは、京都事件だろう。京都朝鮮学校は長年に渡り、隣接する公園を運動場として使っていた。これに対して、在特会のメンバーが押し掛けて、サッカーゴールなどの設備を排除し、校門前にて抗議活動をおこなった。この事件で、在特会のメンバー数人が威力業務妨害等の罪で逮捕起訴され、執行猶予付きの懲役等の判決が下された。本書では、この事件の経緯について詳しく書かれている。市民の一人が、京都朝鮮学校の問題をネットに書いて、それに在特会が反応したとのことである。
 在特会のような不良がのさばる原因の一つに、市民社会に問題があるようだ。京都朝鮮学校が公園を使っていて困るのならば、市役所に言えば済むことだ。個人の訴えでは市役所が動いてくれないならば、町内会が市役所に対処を求めれば簡単に解決することだろう。それでもダメな場合は、地域の市会議員に対処を頼めば良い。市民が個人として地域から孤立している社会に、病根の一端があるのだろう。しかし、それにしても、不思議だ。公園を利用するのは、普通、子供だろう。子供がいるならば、子供繋がりで、親には地域社会があるはず。どうして、町内会、子供会、PTA等の地域社会を使って、市役所を動かさなかったのだろう。

 本書は、カルデロンさん事件にも触れている。不法滞在の外国人カルデロン一家に対して、両親は強制退去、子供は在留許可の処分が決まった。これに対して、在特会は子供の通う中学校に押し掛けて、子供に対して罵声を浴びせ続けた。この事件は、在特会の正体を如実に表わしている。在留許可の可否は行政処分であり、許可が下りた少女が在留することに何の問題もない。行政処分に不満があるならば、行政に対して訴訟を起こすなり、国会議員になって法律を変えるなりすることが、法治国家に暮らす国民の権利であり義務である。日本人としての基本的な行動がとれないで、単に少女をいじめる。これが、在特会の正体だ。

 かつて、学生の左翼運動が盛んだったころ、一流大学の多くの学生が、左翼運動をしていた。彼らは、読書をして、理論学習に熱心だった。当時も、右翼学生はいたけれど、彼らは、低偏差値大学の学生だった。言っていることも、単に馬鹿の一つ覚えよろしく「天皇陛下万歳」を叫んでいるように感じた。このため、『左翼=勉強ができる』『右翼=バカ』との印象を持っていたのだが、左翼・右翼の違いは、思想の違いであって、能力の違いではない。しかし、現実の右翼と左翼を比較すると、明らかに能力に違いがあって、不思議だった。
 今になって考えてみると、これは当時、左翼が盛んだったので、まともな学生の多くが流行の左翼になっており、国士舘大学にしか入れなかったような、低偏差値の学生は、左翼にも右翼にも付いて行けず、単に、バカの雄叫びを上げていたのだろう。これが、右翼っぽく聞こえたにすぎない。
 かつての右翼学生は、バカの雄叫びをあげているだけのようだったが、最近目にする、在特会の主張は、当時の右翼学生レベルにも達していない。実際に、中心メンバーの多くは、低偏差値の大学にも入れないような青年だ。
 ただし、能力が乏しい青年が、韓国人や中国人を排除しようとする気持ちは理解できる。現在、日本の企業は、無能な学生を採用する余裕がなくなっているので、無能な日本人青年は不採用にして、優秀な韓国・中国人を採用することも多い。これは、日本人が無能で、韓国・中国人が有能であると言うことではない。日本人にも、韓国・中国人にも有能な人材・無能な人材があるが、能力主義の社会では、日本人でも、無能なものは企業は採用しないのである。日本の社会が無能な人間を排除するようになり、さらに、地域社会でも人間関係が希薄になったため、彼らの行き場所が、ネット右翼以外になくなってしまったのだろう。

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