本の紹介ー無限の世界観<華厳>2020年05月07日

 
鎌田茂雄、上山春平/著『無限の世界観<華厳>』角川ソフィア文庫(1996.10)
 
 本書は1969年頃に出版された「仏教の思想」シリーズ第6巻の文庫版。
 「仏教の思想」シリーズは、インド仏教4巻、中国仏教4巻、日本仏教4巻の合計12巻構成で、仏教思想の全貌を明らかにしたもの。本書は中国仏教思想に該当する。
 
 華厳思想や華厳宗は「華厳経」を基本に置き、中国で作られた。華厳宗はその後、中国では発展せずに終わった。韓国に伝わった華厳宗は今でも盛んで、韓国仏教の主要な宗派の一つになっている。日本に伝わった華厳宗は、奈良時代には国の主要な宗派の一つだったが、いまでは東大寺を中心とした小さな宗教法人になっている。
 
 本書は3部構成で、第1部が仏教学者・鎌田茂雄の華厳思想解説。第3部は哲学者・上山春平による華厳経思想の解説。第2部は鎌田茂雄、上山春平、仏教学者・塚本善隆の三者鼎談。第1部が全体の半分を超える主要部分になっている。
 
 第1部は仏教学者・鎌田茂雄の華厳思想解説。中国における華厳思想・華厳宗の説明に主眼が置かれいる。老荘思想との関連にも触れられており、華厳宗にとどまらず、中国における仏教展開を考えるうえでも興味深い。
 講談社学術文庫から出版された『鎌田茂雄/著 華厳の思想』は華厳思想・華厳宗の歴史がメインだったが、本書第一部は思想がメインの記述となっている。
  
 第3部は哲学者・上山春平による華厳経思想の解説。西田幾多郎の哲学との関連で、華厳経の十地品や入法界品に現れる「三界唯心」思想などを解説する。西田哲学を知らない私にとっては、西田哲学との関連性の話は理解できなかった。なお、第3部には華厳経の構造についても触れられている。
 
 「華厳の滝」は有名なので、多くの人が「華厳」の名前は知っていると思うが、華厳経は法華経や阿弥陀経などに比べて、日本では馴染みが少ないだろう。しかし、天台宗の教相判釈では、五時の最初が「華厳時」であることからも、日本仏教においても重要な経典であることには違いない。また、本書では、禅宗と華厳思想の関連を指摘する記述がみられる。
 なお、華厳経の抄訳には、『木村清孝/著 華厳経(昭和61年)筑摩書房』がある。

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