本の紹介ーブッダは実在しない2018年10月28日

島田裕巳/著『ブッダは実在しない』角川新書 (2015/11)

 もう少し、内容がある本かと思ったのだけど、期待外れな本でした。

 著者の宗教学者・島田裕巳は、もともと新興宗教に好意的だったこともあり、オウム真理教事件のさなかにオウムを擁護する学者として、スポーツ新聞などで糾弾され、この結果、東京女子大学教授を辞職することになった。その後、スポーツ新聞等の糾弾は根拠のない噂話であったことが裁判で確定するが、失った教授ポストを回復することはなく、主に著述業を職業としている。本を売って生活費を稼ぐ必要があるためか、新書版の著書が多く、新規性に乏しい本や、大衆受けする内容の本、ちょっと興味を引きそうなタイトルの本などが多い。

 第一章では、明治以前の日本で、仏陀の伝記がどのように伝えられたかを解説する。まあ、要するに、荒唐無稽なおとぎ話なわけです。

 第二章では、明治以降、西洋の歴史学の知識が入ってから、特に現在、仏伝がどのように記されているかを考察している。
「仏教入門(岩波新書)三枝充悳/著」「仏典からみた仏教世界 (新アジア仏教史03インドⅢ)奈良康明・他/編」「原始仏典(筑摩書房1974)中村元/著」などを参考にして、仏伝の信ぴょう性に疑問を投げかけている。でも、冷静に考えたらこれは当たり前のことで、近代の偉人の伝記でも誇張した記述や悪いことを書かないなどということは普通に行われていることだ。仏伝は釈迦入滅後200年以上たって書かれたものなので、誇張のみならず荒唐無稽な話が混入するのは当然だろう。このような仏伝の中から、現実のブッダに近い姿を描くことが歴史学の使命のはずだ。

 第三章以降は、著者の独善と偏見が強くなる。仏伝やブッダの教えとして伝えられた内容が必ずしも真実ではないことを理由に、ブッダは実在しなかったと結論付けている。実在したのかしないのか確定できないとするならともかく、実在しないとする根拠は薄弱だ。
 ブッダの教えの基本である十二種縁起や四諦八正道について、魅力的に欠け、宗教思想として価値が低いとの評価を下し、浄土信仰のように誰もが実践できる信仰や、空の思想のように聞く人に衝撃を与える信仰を高く評価している。著者個人の見解として、信仰や思想の内容に優劣をつけるのは勝手であるが、誰もが実践できることや、衝撃を与えることが良いならば、いかがわしい新興宗教のほうが優れていることになるだろう。たとえば「私は霊能があって霊視ができる。あなたの先祖の霊が霊界で苦しんでいて、その祟りであなたは幸せになれない。先祖の霊を成仏させるためには高額のお布施を払いなさい」と言って、詐欺を働いたのは、真言宗醍醐派の本覚寺であった。この詐欺など、誰でも実践できて衝撃を与えるものであるが、こういうものは価値が低い。オウムの麻原の教えもまた、実践可能で衝撃を与えるものではあったが、全く評価できるものではない。

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