本の紹介―武器としての「資本論」2023年06月21日

 
白井聡/著『武器としての「資本論」』東洋経済新報社 (2020/4)
 
 著者は、著書も多く、SNSでの発言も多いので、著者の本を読んだり、発言を見聞きした人は多だろう。
 資本論入門書。資本論を明快に解説し、かつ、現代日本の問題を解明している。
 マルクスの資本論というと、共産主義の話のように思う人も多いだろう。若きマルクスは、資本主義を研究して、共産主義を主張した。しかし、ドイツから追われることになり、イギリスのエンゲルスのもとに滞在することになり、この時に、一層詳しく資本主義を研究し、その成果が資本論となった。このため、資本論は共産主義の話ではなくて、資本主義の詳しい分析である。いまから31年前ソ連が崩壊し、ソ連型社会主義は骨董品になったが、資本主義はその後、隆盛を極めているので、資本主義の分析は今日的課題である。
 
 本書は、14章に分かれ、資本論の解説と、現代日本社会の分析をしている。各章は関連性が強いので、最初から読むことが良いだろう。
 著者は、現代日本の過労死問題を資本論の「包摂」により説明した。著者の視点は、資本論の解説にあるのではなく、現代日本社会の問題に切り込むことに感じる。このため、資本主義の分析や資本論に、あまり興味がない人でも、本種は有益だ。ただし、欲を言えば、内容をもう少し精査して、新書版にしてほしかった。
 
 P212に「イノベーションによって生まれる剰余価値はたかが知れているのだ」との指摘がある。この指摘は恐ろしい。日本人は、このことに気が付いていないから、長時間低賃金労働の罠から抜け出せないのだろう。
 第12講は「階級闘争の理論と現実」。このなかで、著者は、新自由主義を資本家階級による労働者階級に向けた、階級闘争と指摘する。ソ連誕生によって、資本家階級は労働者階級の融和を図ってきた。ソ連が崩壊すると、逆コースが生まれたのだろう。これに対して、労働者階級には闘争力がない今、どうすれば良いのか。

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