本 ・・・ 日本の領土があぶない ― 2013年07月04日

「日本の領土があぶない」 矢野義昭/著 (2013/6) ぎょうせい
この本を購入した人は、損をした気がするだろう。お勧めしない本だが、読んだので忘れないように書いておく。
領土の一般論・尖閣・竹島・北方領土と、日本で問題になっている領土問題が一応理解できるような内容になっている。引用箇所は、枠で囲ってあり、区別しやすい。ところが、尖閣・竹島・北方領土に対しては、外務省のホームページのコピペ。これに、少しの解説があるだけ。この本を読むならば、外務省ホームページを見ても、たいした違いはない。買うだけ無駄。
もう少し具体的に書く。
第1章は、国際法における領土概念の説明。この章は、山本草二/著「国際法]を引用して若干の説明をつけている。ところが、著者の説明は我田引水の曲解が多い。
一例をあげると、P13に以下の記述がある。まず、山本草二の引用として『各国は、その国家領域についての土地制度を原則として自由に決定する権能を持つ』を示して、著者は『尖閣諸島が日本の固有の領土であるとするならば、日本政府はその上にどのような工作物を設置するにも他国の了解は必要としない』と書いている。山本草二は『原則として』と書いているように、『自由に決定する権能を持つ』ことは、絶対的に成り立つわけではないことを含意しているので、尖閣を日本の固有の領土であるとしても、自由に工作物を作れるか否かは、個別の検討が必要だ。
正しい知識を得るためには、この本の強引解釈を読むのではなく、山本草二/著「国際法」を、真面目に読む必要があるだろう。
第2章は竹島、第3章は尖閣。どちらも、外務省のホームページのコピペに、わずかな解説をしただけ。中韓の主張を掲げ、反論している部分もあるが、中韓の主張と著者が記載しているものは、著者がいい加減に推測したもので、中韓政府が、こんな単純な主張をしていることはない。もう少し、きちんと調べて書いたらよいのに。
第4章は北方領土。1/2強は、竹島・尖閣同様に、外務省のホームページのコピペに、わずかな解説をしただけ。ロシアの主張として掲げ、反論しているとする部分もあるが、著者が推測したもので、検討の価値はない。
このほか、第4章には「ソ連による占領、併合の無法性の証拠」の項などがある。1991年に出版された戸丸広安氏の著書を引用して、ソ連もウルップ以北を千島だと思っていたかのような記述をしている。確かに、戸丸の本は、水津満少佐の供述に従って、そのように書いている。ソ連崩壊後、旧ソ連の資料が公開されるにおよび、これら記述とは異なる事実が明らかになり、ボリス・スラビンスキーの著書も日本で出版されているのだから、新しい研究成果によって、検討しなおしてほしかった。それにしても、ソ連崩壊から20年以上たっているのに、この間、不勉強だったのだろうか。
なお、この問題については、以下に詳述しているので、参照ください。(以下の、「3.2.4 水津満の嘘? と日本の説明」のところです。)
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/Hoppou3.htm
また、第4章の「問われるべき米国の責任」の項も、現実政治の視点を欠いた、独りよがりな駄弁だ。
第5章、第6章は、「教訓と今後の対応」「領域を守るため国・自治体等のなすべきこと」。1章から4章までが、事実の説明で、5,6章が、結論になっている。ところが、第1章から第4章の内容が無いので、5,6章の結論も空疎に感じる。
色々と、あきれるところがあるが、一例を掲げる。
竹島問題の解決策として、P191には、以下の記述がある。
「日韓交流については、韓国からの旅行者の受け入れ制限、韓国からの要人訪問の禁止、各種交流事業の停止、在日韓国人にのみ認めている永住権の撤廃といった処置もとりうる。経済制裁、交流禁止は現在、北朝鮮に実施している処置でもあり、韓国に対しても実行可能である。我が国にはこれらのさまざまの非軍事的処置を実行する能力はある。」
あまりのバカさ加減に呆れ果てる。韓国との貿易でどれだけの日本人が生計を立てているのか、考えたことがあるのだろうか。日韓交流を停止すれば、韓国に痛手ではあるが、同時に日本国内にも計り知れない損害が生じる。その損害をどのようにして補填するのか、その具体策がなければ、制裁など実施不可能だ。