本の紹介―神々は真っ先に逃げ帰った2020年08月25日

 
アンドリュー・バーシェイ/著 富田武/訳『神々は真っ先に逃げ帰った 棄民棄兵とシベリア抑留』(2020.5)人文書院
 
 太平洋戦争末期、ソ連が対日参戦すると、満州の日本軍は、神社のご神体特訓高級幹部をいち早く日本に退避させた。また、満鉄も上級職員と家族をいち早く退避させたため、一般日本軍人や一般居留民は満州後に取り残され、通の死者を出した。さらに、生き残った日本軍人の多くはシベリア抑留されることとなった。
 本書のタイトルは、このような事実を示している。しかし、本書の内容は高級軍人たちが逃げ帰った原因を明らかにするものではなく、シベリア抑留の実態を解明する研究書。
 
 第一章(序章)、第二章はシベリア抑留の説明。一昔前の本のおおくは、シベリア抑留苦労談だったが、本書はそういう内容ではなく、シベリア抑留の原因や実態を解明している。
 
 第三章から第五章が本書のメインで3人の抑留体験者の体験を記す。
 第三章は画家・香月泰男のシベリア抑留体験。香月は早期に帰国したため、彼の抑留帰還は日本の旧軍組織利用した管理体制だった。このため、日本軍将校による日本兵に対する過重労働・食料削減・虐待など、旧日本軍の悪弊が横行していた。このため、香月のシベリア抑留体験は苦労話になっている。
 第四章は「極光のかげに」の著者・高杉一郎のシベリア抑留体験。ソ連は、シベリア抑留者に共産主義を植え付けて、帰国後、日本国内で共産主義者として活動する者を育てようとした。そのために、いわゆる民主化教育を行った。高杉は、この民主化教育の経験者。
 第五章は詩人・石原吉郎のシベリア抑留体験。石原は戦争俘虜ではなくて戦犯として最後期まで残された一人。
 3つの章では、それぞれ異なった時期に帰国した人の体験を調査しているので、シベリア抑留の時代ごとの変遷が何となく理解できるようになっている。しかし、所詮個人の体験なので、本当にこれで全体像を理解してよいのかという疑問は残る。シベリア抑留を知らない人が、概要を理解するのには有益だろう。
  
 第六章(終章)は新田次郎夫人で作家の「藤原てい」の引き揚げ体験の話。
 
 本書は翻訳なので、若干読みにくい気がする。また、日本の文学作品の引用が多く、本当に史実と理解してよいのか疑問も残る。

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