本の紹介―朝鮮戦争の正体2020年08月03日

 
孫崎享/著『朝鮮戦争の正体』祥伝社 (2020/7)
 
 元外交官・孫崎享氏の近著。孫崎氏の本と言えば創元社から出版された「戦後史の正体」が有名だが、本書は「日米開戦の正体」「日米開戦へのスパイ」同様、祥伝社からの出版になる。
 本書は、多数の文献からの引用が多いため、この時代の朝鮮半島の歴史や、それを取り巻く国際政治史に詳しくないと、読みにくい。
 
 本書、序章の扉にピカソの「朝鮮の虐殺」が記載されている。この絵は、朝鮮戦争でのアメリカ軍の蛮行を非難する目的でピカソが描いた絵で、2008年に東京六本木の新国立美術館で開催されたピカソ展に展示されていた。
 
 本書は序章のほか第一章から第五章まである。第一章は朝鮮戦争の発生原因などで、全体のまとめの感がある。朝鮮戦争は、北が一方的に南を攻めたとか、ソ蓮・中国が北朝鮮に侵攻させた等の言説を否定する。そして、朝鮮戦争は南北の内乱であると説明している。
 第二章は、終戦から朝鮮戦争に至る、朝鮮半島の政治史。58ページと多く、内容も詳しい。
 第三章は、朝鮮戦争の開始と経緯。軍事的な記述は少なく、政治に主眼が置かれている。
 第四章は、朝鮮戦争への日本の感よと警察予備隊の創設について。警察予備隊は自衛隊の前身であるので、日本が再軍備に至った経緯を知るためにも参考になる章だ。
 第五章は戦後の冷戦や現代アメリカの政治と朝鮮戦争の関連。26ページと少ない。

本の紹介ー高山寺の美術2020年08月12日

 土屋貴裕/編『高山寺の美術: 明恵上人と鳥獣戯画ゆかりの寺』吉川弘文館 (2020/3)

 京都・栂尾の高山寺は『鳥獣戯画』で有名。同時に、華厳宗の高僧・明恵上人高弁ゆかりの寺として有名。
現在、高山寺に伝わる国宝・重文には文書が多いが、美術品にも、国宝・重文が多数ある。
 
 本書は、博物館学芸員を中心とする博物館関係者7名の論文。このうち最初の一章は明恵と高山寺美術の関連に対する解説。他の6つの章はそれぞれの美術作品の解説だが、明恵との関連の解説が主となっており、美術品自体の説明は少ない。最後の一章は「鳥獣戯画」の解説で、この章のみ、明恵とは関係がない。
 要するに、美術作品の解説というよりも、明恵との関連の視点が多い。

本の紹介ー仏教、本当の教え2020年08月14日

 
植木雅俊/著「仏教、本当の教え」中公新書(2011/10)
 
 著者は大学で理学を専攻した後、仏教研究に転じ、中年になってからサンスクリット語を学んだ異色の仏教研究者。サンスクリット語から訳出した法華経・維摩経を上梓している。
 本書の内容は、インドの仏教・中国の仏教・日本の仏教の比較なのだろうか。そう言えなくもないし、そうでもない。
 
 第一章は「インド仏教の基本思想」。ここでは初期仏教(原始仏教)の平等思想を主に説明している。
 初期仏教がインドの仏教の一部であることは間違いないが、その後に起こった説一切有部や、大乗仏教などもインドの仏教に違いなく、それらすべてが平等思想ということもない。著者の言うインド仏教の特徴は、釈迦の教えの特徴、あるいは初期仏教の特徴である。
 
 第二章は「中国での漢訳と仏教受容」。サンスクリット語経典が中国語に訳されると、中国ではサンスクリット語経典は捨てられ、漢訳経典のみが信仰・研究の対象となった。そうした中で、仏教が変容していくわけで、本書にもそのことが書かれている。でも、そんなことは言われなくても、容易に想像できることだろう。また、本書には、具体的に細かいことが書かれているのは、著者の知識の高さを感じるが、そういう細かい知識は私には特にどうでもよい。
 岩波文庫から出版されている法華経では、岩本裕氏が漢訳法華経を「正しい教えの白蓮」と邦訳した。この点を、数ページにわたって批判している。「妙法蓮華経」とは、お経のタイトルなので、固有名詞のようなもので、翻訳する意味はあまりない。意味が正しい訳になっているのかを議論することが有意義とは思えず、読んでいて面倒になった。
 
 第三章は「漢訳仏典を通しての日本の仏教受容」。日本の仏教は漢訳によっている。各宗派ともに、漢字を手掛かりに勝手解釈・捏造解釈をして、自宗の優位性を主張したり、独自の教えを作ったりすることがあることは容易に想像できるだろう。
 本書では、このようなことを具体例を挙げて説明し、サンスクリット語仏典から離れている状況を指摘している。
 
 第四章は「日中印の文化比較」。特に興味が持てる記述はなかった。

新幹線ガラガラ2020年08月16日

盆休み最終日の8月16日に、軽井沢から新幹線に乗車した。8時ごろの便だが、自由席2号車は乗客ゼロ。
GoToトラベルは普及していないようだ。

天の川・・・MC Zenitar2020年08月17日

 
8月15日深夜、群馬長野県境の渋峠付近で撮影した天の川。
対角魚眼レンズMC ZenitarをEOS 6Dにつけて撮影。絞り開放(F2.8)、露光時間40秒、ISO4000。MC Zenitarはロシアのクラスゴルクス工場で製造されたレンズ。
画面上が南で下が北です。画面下にはカシオペアが写っています。カシオペアの右のぼけたのがアンドロメダ星雲。画面中央が夏の大三角。画面上は少し雲がかかっているけれど、上の際で明るく歪んだシミのようなのが木星です。画面周辺はコマ収差が大きい。

本の紹介―神々は真っ先に逃げ帰った2020年08月25日

 
アンドリュー・バーシェイ/著 富田武/訳『神々は真っ先に逃げ帰った 棄民棄兵とシベリア抑留』(2020.5)人文書院
 
 太平洋戦争末期、ソ連が対日参戦すると、満州の日本軍は、神社のご神体特訓高級幹部をいち早く日本に退避させた。また、満鉄も上級職員と家族をいち早く退避させたため、一般日本軍人や一般居留民は満州後に取り残され、通の死者を出した。さらに、生き残った日本軍人の多くはシベリア抑留されることとなった。
 本書のタイトルは、このような事実を示している。しかし、本書の内容は高級軍人たちが逃げ帰った原因を明らかにするものではなく、シベリア抑留の実態を解明する研究書。
 
 第一章(序章)、第二章はシベリア抑留の説明。一昔前の本のおおくは、シベリア抑留苦労談だったが、本書はそういう内容ではなく、シベリア抑留の原因や実態を解明している。
 
 第三章から第五章が本書のメインで3人の抑留体験者の体験を記す。
 第三章は画家・香月泰男のシベリア抑留体験。香月は早期に帰国したため、彼の抑留帰還は日本の旧軍組織利用した管理体制だった。このため、日本軍将校による日本兵に対する過重労働・食料削減・虐待など、旧日本軍の悪弊が横行していた。このため、香月のシベリア抑留体験は苦労話になっている。
 第四章は「極光のかげに」の著者・高杉一郎のシベリア抑留体験。ソ連は、シベリア抑留者に共産主義を植え付けて、帰国後、日本国内で共産主義者として活動する者を育てようとした。そのために、いわゆる民主化教育を行った。高杉は、この民主化教育の経験者。
 第五章は詩人・石原吉郎のシベリア抑留体験。石原は戦争俘虜ではなくて戦犯として最後期まで残された一人。
 3つの章では、それぞれ異なった時期に帰国した人の体験を調査しているので、シベリア抑留の時代ごとの変遷が何となく理解できるようになっている。しかし、所詮個人の体験なので、本当にこれで全体像を理解してよいのかという疑問は残る。シベリア抑留を知らない人が、概要を理解するのには有益だろう。
  
 第六章(終章)は新田次郎夫人で作家の「藤原てい」の引き揚げ体験の話。
 
 本書は翻訳なので、若干読みにくい気がする。また、日本の文学作品の引用が多く、本当に史実と理解してよいのか疑問も残る。

本の紹介―アイドル、やめました2020年08月27日

 
大木亜希子/著『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』宝島社 (2019/5)
 
 AKBグループの一つ、SDNのアイドルだった大木亜希子が、AKBグループのアイドルを辞めた後の、セカンドキャリアを取材したもの。
 
 AKB・SKEアイドルだった佐藤すみれ(すーめろ)以下、8名のアイドル時代の苦労や現在の仕事などを記す。現在、佐藤すみれはクリエーターだそうだ。佐藤すみれは総選挙で30位ぐらいになったこともあって、多少知られたアイドルだったが、それ以外の人は、アイドル時代も、一部の人しか知らないだろう。 
 文章は読みやすい。また、文字も大きく数時間で読み終える。いろいろな人に、いろいろな人生があって当たり前なので、私が、この本を読んで感じたことは「ああ、そうなんですか」程度のことでした。

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