トムラウシ遭難考(5)2009年07月29日

7月16日、北海道大雪山系トムラウシ山で、18人パーティーのうち8人が凍死する痛ましい事故がありました。情報が乏しい中、登山客の行動を中心に、思うところを書いてきました。

ガイドの対応について、いろいろと批判がありますが、ガイドの証言が伝えられていないので、ガイドの対応の適否については、ほとんど判断できません。

以下、ガイドの対応の適否の判断ができないことを承知の上で、あえて考えてみたいと思います。

①避難小屋を出発したことは適切だったか
 登山は安全の上にも安全を図るベキとの意見があります。スローガンとしては、そうだけれど、実際には、登山に危険は付きまとうので、安全を最大限に図るならば「登山はすべきではい」との結論になり、今回の遭難の検証には無意味な議論です。
 別の避難小屋に宿泊していた、他のツアー登山では、エスケープルートで下山したパーティーも有ります。これと比較して、適切ではないとの議論が有りますが、トムラウシではエスケープルートが無いのだから、今回の遭難の検証には無意味な議論です。
 避難小屋に停滞すべきだったかどうか、これは意見が分かれるところでしょう。でも、日本では、雨は普通に降るので、雨を理由に停滞すると、幾日も避難小屋に停滞することになります。縦走の場合、一般には、通常の風雨で出発することは、普通のことです。
 小屋を出発する時間を30分延期したとのことですが、これは、その間に身支度を整えるためです。登山の経験があるものならば、この時間に、ウエアーやパッキングを点検しますが、すべてあなた任せのツアー登山客は、そのようなことに思い至らなかったのかも知れない。山小屋でも、ほかの人が身支度を点検している重要な時間、オバチャンたちがベチャクチャしゃべっていることは珍しいことでは有りません。

②行動不能者が出る以前に対処できなかったのか
 この点が、一番重要です。おそらく、リーダーには大きな判断ミスがあったものと思われます。ただし、このときのリーダーは、死亡したガイドのようなので、判断の適否を検証することは難しい。3人のガイドの一人は先頭で道案内をする役目、もう一人は荷物運びの役目だったようなので、メンバーの状態を把握する立場には無かったでしょう。
 また、具合の悪くなった登山客は、早めにリーダーにそのことを伝えなかったのだろうか。この点も不思議ですが、死亡したので、検証は難しいでしょう。

③登山客が倒れた場所が2箇所になった問題
 比較的近い場所、2箇所にビバークすることになりました。救助の点で、ものすごくまずい対応です。一箇所にまとめるべきでした。
 でも、3人のガイドの力だけで、一箇所にまとめることは到底不可能です。他の登山客は手伝わなかったのか。山を愛するものの一人として、悲しくなります。

④行動可能な登山客10人を1時間留め置いたこと
 被害を拡大した主要な原因です。登山客たちは寒い中、衣服を余分に着ることも無く、寒さに震えて突っ立ていたのが、不思議です。幼稚園児ではないのだから、服を着なさいとガイドが指示しなくても、ガイドに落ち度は無いでしょう。「ゆっくりでも歩かせるべきだった」との指摘もあります。でもね、いい年した大人なのだから、じっとして冷えて困るのならば、ラジオ体操するなり何でも出来たはず。痴呆老人のパーティーではなかったはずです。

⑤行動可能な登山客10人+ガイド一人で下山したこと
 寒さで体調不良になった登山客も一緒に下山開始しています。体調不良になった登山客は、この場でビバークすべきでした。下山は無理であることをガイドに伝えなかったのだろうか。自分が体調不良になった場合、それを早めにリーダーに伝えることは、登山メンバーの義務です。どれだけ歩くのか、登山計画が全く頭に入っていなかったのでしょう。『山に連れて行ってもらう』との意識の登山者は非常に危険です。
 登山者の体調をガイドは確認していないと思いますが、ガイドの落ち度なのか、登山者が伝えるべき義務を怠ったのか、両方の責任のような気がするけれど、良く分りません。

⑥ガイドが先頭で下山したこと
 1人同行したガイドは、登山客に「救援要請しろ」と怒鳴られたためか、救援要請を急いだので、一行はチリジリになってしまう。
 これは、ものすごくまずい対応です。リーダーは常にパーティーの最後部に付くことが原則です。もし、下山を急いで緊急連絡するならば、誰かにリーダーを託すべきで、そうでないならば、誰かに緊急連絡を肩代わりさせるべきでした。それもできないならば、緊急連絡はあきらめるべきです。非常時には、全員の安全確保が先決で、救援要請は後回しにすべきです。でもね、今の日本は、ほとんど全員が「安全ボケ」しているので、救援要請さえすれば何とかなるだろうと、安易に思いがちです。
 緊急時のガイドの対応について、会社はきちんとした教育をしていたのだろうか。検証が待たれます。


補足(1):
 私、自身、登山をする立場から考えると、今回の遭難事件では、登山客の行動が信じられません。ニュース報道には、次のようなものも有ります。
 『大雪山系のトムラウシ山で中高年の男女8人が死亡した遭難事故で、今回のツアーに参加した登山者の一人はNHKの取材に対し、「観光旅行のつもりだったので山についての予備知識がなかった」と話しました。(7月19日NHKニュース)』
 『遭難者はいずれも本州からのツアー客だった。本州ではそれなりの経験があったとみられるが、北海道は夏でも気温が氷点下になることがある。専門家は本州と北海道の夏山に対する認識の違いが悲劇につながった可能性もあるとみている。(7月17日毎日新聞)』
 観光旅行のつもりで、大雪山系登山をしたら、遭難しても、当たり前のような気がします。本当に、そんな人がいるのかなー。また、本州の山でも3000m級になれば、夏でも気温が氷点下になることがあっても、おかしくないので、もし、報道されていることが事実ならば、完全に山をなめきった不良登山者です。

補足(2):
 前日の縦走で相当に疲労した登山者や、夜、良く眠れなかった登山者がいて、雨天の出発は無理だったとの一部報道もあるようです。でも、夜に眠れたかどうかや、出発時点に体調不良かどうかなどは、本人が申し出ないと、ガイドには分らないでしょう。一日の行動は分っているのだから、自分の体調で十分可能なのか無理なのか、自分で判断しなくてはならない。『どうしようもなくなったら、ほかの人が命がけで何とかしてくれるだろう』と考えて、体調不良をリーダーに申し出なかったとしたら、登山者として失格です。

補足(3):
 朝、避難小屋を出発した時刻を30分遅らせた理由を、旅行会社側は、雪渓上で強風にさらされないためと説明しています。そのような理由があったにせよ、登山者は、その間に雨具や着衣を点検する必要があることは言うまでも有りません。(2009.9.10)

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