トムラウシ遭難考(8)2009年11月04日

スタッフバッグ
 
 先日、九州の韓国岳で、小学生が低体温症で遭難死する痛ましい事故がありました。家族と離れて一人で登山していたところ、道に迷って沢に転落し、怪我で動けなくなり、寒波と降雨のために低体温になって死亡したものと見られています。この遭難事故の場合、低体温症となった原因は、このようにはっきりしています。

 2009年7月16日、北海道大雪山系トムラウシ山で、ツアー登山パーティー18人のうち、8人が遭難死亡する、痛ましい事故がありました。登山雑誌には、事故の特集がありますが、事故の詳細は明らかになっていません。
 この記事のタイトル『トムラウシ遭難考(8)』は、8月14日の記事の続きのつもりです。このBlogでは、8月16日以降も『トムラウシ遭難考』について書いていました。

 事故の概要をおさらいすると次の通り。
 ツアースタッフ3人+登山客15人のパーティーは、大雪山系を2泊3日の予定で縦走した。初日の天候は悪くはなかったけれど、2日目は雨の中、ヒサゴ沼避難小屋まで歩いた。縦走としては、やや軽めのコースで、ほぼコースタイム通りだった。3日目、早朝から雨だったが、トムラウシを巻いて、下山しようと出発した。稜線に出るまでの歩行時間は、ほぼコースタイム通りだったが、稜線に出てから北沼分岐まではコースタイムの2~3倍を費やした。ここで、幅2m深さ15cm~30cmの小さな流れを渡渉した際、女性客一人が行動不能になった。行動不能者にスタッフ一人が付き添ってビバーク、他の人たちは先に進んだ。しかし、少し行ったところで、さらに3名が行動不能になった。スタッフ1名と登山客1名が付き添ってビバークし、他の登山客と残りのスタッフ1名が下山した。下山した登山客10人のうち、2人2組の計4人は夜間のうちに自力で下山し、1人は翌朝捜索が開始された後に自力下山した。登山客1人と下山に付き添ったスタッフ一人はヘリで救助され、下山した登山客4人が亡くなった。北沼付近でビバークした登山客は二人がヘリで救助され、3人が亡くなった。北沼付近でビバークしたスタッフは、1人がヘリで救助され、1人が亡くなった。合計死亡者8人の大量遭難である。死亡原因は低体温症で、死亡した登山客7人全員が、下着まで濡れていたとの報道がある。

 多くの人の関心が失われている中、無関係の私が、これまで、この事件について、継続的に書いてきた理由は、一つには、なぜ、これほどまでに被害が拡大したのか、このパーティーは危機に直面したときに、全員が人命救助を優先させようとしたのだろうか、全員が人命救助を優先させれば、もっと被害を小さくすることが出来たのではないだろうか、そういった疑問があるためです。さらに、無事生還した人たちがマスコミに話していた内容やインターネットで公開された話の内容が、私の持っている登山の常識や、これまで遭難した人たちがマスコミ等に話していた内容と多きく異なっているように感じられたためです。特に、生還した登山客の一人である、戸田新介氏の意見には、賛同しかねるものがあります。

 多くの人は遭難した経験はないので、実際に遭難したときに、100%最良の行動が取れる事はないでしょう。運良く生還した人の最良でなかった点を検証して、今後に役立てられれば、それで十分だと思います。しかし、最良の行動でなかったにもかかわらず、『俺の行動は正しかったんだ!』との主張が横行してしまうと、今後の遭難事故では、同じ行動を取るべきであることになってしまい、将来に大きな禍根を残すことになりかねません。このような危惧が有るため、『俺の行動は正しかったんだ!』との主張に対しては、疑問を提起すべき、あるいは反論すべきことがあると思って、これまで書いていました。
 
 トムラウシで死亡した直接の原因は低体温症です。では、なぜ、低体温症になったのか、この一番肝心な点が分らない。無事生還した登山客の中には、ツアーガイドが衣服の着脱の指示をきちんとしなかったことや、行動不能者が出たときに、その場に停滞したことが、低体温症の原因であると言っている人もいるようです。低体温症になる前に、寒くなったら厚着をするという当たり前のことが出来なければ、登山どころか、通常の社会生活を送ることは困難でしょう。こういう人たちが、登山をして、『ガイドは客が寒いのかどうかを適切に判断して客の防寒処置をしろ』『登山者が寒くて困ったら、県警は命がけで助けに来い』などとの考えが一部の不良登山者に流布してしまったら、今後、遭難事故が多発する恐れがあります。さらに、登山中に停滞することがあるのは、当たり前です。

 知らず知らずに低体温症になることはなくて、その前に『寒い』と感じたはずです。痴呆老人ならばイザ知らず、普通の人ならば、寒くなったら着衣を増やして防寒する筈です。元々、装備不足だったのか、あるいは、防寒衣を濡らしてしまったのか。
 生存者に、着衣やシュラフを濡らしたとの証言が有ります。登山用雨具を着用しているならば、ずさんな着用方法でない限り、雨で内部がビッショリ濡れるとは、ちょっと考えられません。
 シュラフを買い物袋に入れていたと証言している登山客もいますが、それで濡らしたとしたら、あきれ果てます。シュラフを買い物袋に入れてザックにしまっても、特に悪いことは無いのですが、ザックの中で濡れないようなパッキング・ポジショニングすることが必要です。私は、衣類など濡れるといけないものは、ポリ袋を使うことが多いのですが、ポリ袋は破れやすく、開口部から浸水したらおしまいなので、濡れないようにパッキングには注意しています。

 写真は、モンベルのスタッフバッグ。簡易防水タイプです。これだと、正しく使えば、持ち運び中に衣類を濡らす危険は少なくなります。でも、完全防水ではないし、口の部分の閉じ方が独特なので、誤った使い方をしてはなりません。道具は持っているだけではなくて、正しい使い方が出来ないと、いけません。

 2009年7月のトムラウシ大量遭難の原因は不明ですが、ガイド協会調査委は11月末にも中間報告を公表する予定だそうです。中間報告を良く読んだ上で、もう一度考えてみようと思います。

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