本の紹介 〈日本國〉から来た日本人 ― 2014年01月19日

〈日本國〉から来た日本人 西牟田靖/著 (2013/12) 春秋社
戦前、日本の植民地だった地域に住んでいた人たちは、敗戦に伴って日本に引き揚げた。このような人たちが、苦労して引き揚げたことを回想した本は数多く出版されている。1990年から2010年ごろにかけて平和祈念事業特別基金が編纂した「海外引揚者が語り継ぐ労苦」「軍人軍属短期在職者が語り継ぐ労苦」「シベリア強制抑留者が語り継ぐ労苦」は、多くの関係者の体験談として、内容豊富である。しかし、戦前世代が高齢化して、最近は、新たな体験談も出版される機会は少なくなってきた。
本書は、朝鮮半島南部の鎮海に居住していた人たち、およそ20人に対し、戦前の鎮海での日本人の生活の様子や、戦争が深まっていく中での生活の変化、敗戦と引き揚げなどを、聞き取り取材して、それらをまとめたもの。
本の内容には、著者の考えも含まれるが、中心は、体験者の話を、特定の立場にとらわれることなく、読みやすくまとめている。特定地域の一部の人の証言なので、歴史の全体像をつかめるものではないが、個人の体験談をまとめたものなので、外地や引き揚げについて、雰囲気を知る上では有益な本だ。
平和祈念事業特別基金が編纂した本は、内容が豊富だが、体験者の手記なので読みにくい箇所が多いが、本書は、フリージャーナリストの記述で、読みやすく書かれている。
本書の著者は、取材内容に、なるべく手を加えず、そのままの内容を書いているようだ。体験後、すでに50年以上経過しているので、戦後になってから加わった知識のほうが、遥かに多いので、実際に体験したこと以外に、その後、頭の中で作った、あるいは本を読んで事実と思ったことも、実体験のように語られることも多い。このため、本人の実体験と、戦後の政治宣伝との区別がつきにくい。本来は、取材者が、証言内容を精査して、きちんとした裏づけを取るべきであるが、本書の記述を読むと、このような努力が十分に払われているのか疑問だ。
P223にソ連軍票を日本銀行や朝鮮銀行の円に交換したとの記述がある。ソ連軍票は日本人には交換できなかったとの話をどこかで読んだこともあるので、本書の記述が事実ならば、興味の持てるところだが、当時子供だった者のおぼろげな記憶ならば、信憑性は、心もとない。
ソ連支配地域関連の記述には、信憑性に疑問がある点が多々あるが、P217の「ソ連兵の乱暴狼藉は10月ごろを境に少なくなっていった。日本人から奪うものが何もなくなったからだ。」との記述はいただけない。乱暴狼藉が10月ごろから少なくなったことと、奪うものがなくなったことが事実だとしても、奪うものがなくなったことが主たる理由であるかどうかは検証が必要なことだ。ソ連軍が最初にやってきたころは、国軍だったが、その後、KGBが現れると、ソ連兵による不法行為は激減するので、KGBの影響を考える必要があることが多いのだが、本書では、この点には触れられていない。
ところで、この本のタイトルは、かぎ括弧と旧字があって、図書館の端末で検索しにい。