本の紹介ー犀の角たち ― 2018年10月15日

佐々木閑/著『犀の角たち』大蔵出版 (2006/7)
佐々木閑/著『科学するブッダ』角川学芸出版 (2013/10)
「科学するブッダ」は「犀の角たち」の文庫本。内容は同じ。
京都大学工学部出身の仏教学者・佐々木閑の著書。理系出身の仏教学者だけあって記述は論理的。
「犀の角」とは、もっとも古い仏教経典のスッタニパータに記載された独覚(ブッダに依存しないで一人で悟りを得る人)のたとえ。科学と仏教の類似性から、科学研究者など科学に携わる人のことを「犀の角たち」と表現したのだろうか。
本書は仏教の解説ではなくて、科学と初期仏教の類似性を解説するもの。キリスト教などと違って、外部に絶対神を置かずに、現実の観測によって因果関係により世界を認識するところに、科学と初期仏教に類似点があり、科学は物質世界を対象とし、仏教は精神世界を対象とする点で、両者は異なっている。
本書の第1章から第3章は、それぞれ「物理学」「進化論」「数学」の話。第4章で「初期仏教」の話がある。このため、内容の多くは仏教の話ではなく科学の話。
「物理学」の話は、大学理学部で学ぶ素粒子論の基礎程度の知識がないとついてゆけないと思う。
「進化論」の話は、ダーウィンの進化論の知識でついてゆけるのかと思って読んでいたら、木村資生の進化の中立説の話が出てきた。私は大学院学生だった時、専攻が確率論だったため、確率過程論の適用事例として集団遺伝学の特別講義を聞いたことがある。進化の中立説が妥当な結論であることを理解するためには、確率過程論の知識がないと難しいだろう。ただし、本書を理解するために、確率過程論の知識が必要とはいえない。進化の中立説については、以下の本が易しく詳しい。
『木村資生/著 生物進化を考える (岩波新書)(1988/4)』
「数学」の話は、大学理学部の教養程度の数学知識がないと読み進めるのは難しい。著者の説明が妥当か否かを判断するためには、数学の論理学の知識が必要のように感じたが、私はこの分野を勉強していないので良く分からない。
第4章は初期仏教の説明。初期仏教はバラモン教を否定するために誕生し、自分自身の努力で涅槃に入ることを目的とした宗教で、科学と同じく、外に神のような絶対者を措定しないところに特徴があった。
第5章は本書の本論とは異なり、大乗仏教が起こった状況の概説と大乗仏教が科学や初期仏教と異なり、外に絶対者を置くことに至った理由の説明。
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