本の紹介ー戦争と日本阿片史2019年06月09日

  
二反長半/著『戦争と日本阿片史』すばる書房(1977.8)
  
 著者の二反長半は絵本作家で、阿片王・二反長音蔵の息子。
 本書は、著者の手元に残された二反長音蔵の資料や、満州・蒙古で阿片官をしていた宮沢秋次氏の協力を得て、日本の国家ぐるみによる麻薬密売の実態と、二反長音蔵のケシ栽培ついて記載している。
  
 この本は1977年に出版されたもので、出版当時、日本が国を挙げて麻薬密売に手を染めていたことは、あまり知られていなかった。しかし、その後、江口圭一氏の本が岩波新書から出版されることなどにより、日本の阿片密売は広く知られることとなった。その後、倉橋正直氏の本も出版されている。
  
 二反長音蔵はケシの栽培家で、後藤新平の後押しの元、ケシ栽培の普及活動やケシの品種改良にも取り組んでいる。二反長音蔵が改良した品種・一貫種は、麻薬成分が多く、毒性が強いもので、阿片被害を拡大した。現在、東京都薬用植物園では、この一貫種を研究用に栽培している。一貫種は朝鮮半島で栽培を奨励したので、北朝鮮で栽培され密売されているとのうわさもある。
 本書には、音蔵が品種改良に取り組んでいたとの記述もあるが、この部分はあまり詳しくない。
  
 二反長音蔵は国策に従って、阿片製造を推し進めたのであるが、彼は外地でケシ栽培指導をしているので、外地で阿片が密売に使われ、阿片中毒患者を生み出していることはよく見知っていたはずだ。しかし、本書では、二反長音蔵は自身のケシは医療用と思っていたと、音蔵の擁護に終始している。息子の著述なので仕方ない面があるが、そうならば、音蔵が外地で栽培指導したケシのすべてが医療用であると考えた、根拠を書けばよいのに。
  
 いまでは、日本が、中国や満州にアヘンを密売し、毒禍を広げていたことは、良く知られるようになっている。本書には、中国・満州以外にも、シベリアに進出した日本人・朝鮮人がニコライエフスクを拠点した地域で、ケシ栽培、阿片製造、密売にかかわっていたことが記されている(P125-P126,P185-P187)。

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