本の紹介-原子力の精神史 <核>と日本の現在地 ― 2021年03月15日

山本昭宏/著『原子力の精神史 <核>と日本の現在地』集英社新書 (2021/2)
日本は唯一の被爆国として、核兵器に反対する意見が多いことになっている。同時に、アメリカの核の傘にあって、核兵器のおかげで平和が保たれているとの見解もある。さらに、福島以前は原子力発電を推し進めてきた経緯がある。
本書は、このような国民意識がどのようなものであり、どのように変遷してきたのかを解明するもの。報道のほかに文学を利用している。政府見解を追ったものではない。特に目新しいことは少ないかもしれないが、日本人の核エネルギーに対する意識が分かる。
以下の話は知らなかったので、ちょっと興味が持てた。(P111)
(理化学研究所のトップだった)物理学者の仁科芳雄は、一九四八年に次のように述べている。
寧ろ科学の画期的進歩により、更に威力の大きい原子爆弾またはこれに匹敵する武器をつくり、若し戦争が起つた場合には、廣島、長崎とは桁違いの大きな被害を生ずるということを世界に周知させるのである。・・・若し現在よりも比較にならぬ強力な原子爆弾ができたことを世界の民衆が熟知し、且つその威力を示す実験を見たならば、戦争廃棄の声は一斉に昂まるであろう。(『読売新聞』一九四八年八月一日)