本の紹介-北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実2023年09月27日

 
有田芳生/著『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』 (2022/6)集英社新書

 今から20年ほど前、北朝鮮拉致被害者5名が帰国し、8名の死亡が報告された。日本政府は、5名から極秘にヒアリングを行い、拉致の状況、北朝鮮での生活の様子、他の拉致被害者など詳細な情報を得て、報告書にまとめたが、極秘となって公開されることはなかった。しかし、その後、内容は漏れ出ることになるが、日本政府は、内容を認めようとはしていない。
 本書のメインはこの極秘文書の内容の話。著者は、この文書を入手しているようだ。拉致被害者の横田めぐみさんは、北朝鮮が病死したと伝えてきたが、両親は病気をしたことがない子だと言って病死を認めなかった。ところが、極秘報告書には、精神疾患で入院していたとの情報が複数の拉致被害者から得られており、北朝鮮の主張を補強する内容となっている。
 その後、横田めぐみさんの元夫から遺骨がもたらされると、科警研と帝京大・吉井富夫講師により、DNA鑑定が行われた。科警研は、鑑定不能との結論を出した。しかし、このときまで火葬遺骨DNA鑑定の経験がなかった吉井氏は、横田めぐみさんと遺骨は別人との鑑定結果を出した。遺骨には、スポンジ状組織があり、そこに、他人の汗などが吸収されるため、吉井氏の鑑定は疑問がもたれるものであったが、日本政府はこれをもとに、横田めぐみさん死亡との北朝鮮の説はウソであると断定し、交渉は行き詰まった。吉井氏はその後、警視庁科捜研に就職し、この時の鑑定をコメントする機会を政府は失わさせた。なお、その後、鑑定精度も上がっており、再鑑定すれば新たな知見が得られるかもしれないが、日本政府は、怪しい吉井鑑定に固執して、めぐみさん死亡との北朝鮮主張を否定している。
 本書著者は横田夫妻に何度も面会しており、夫妻が事実を知りたいと言っていたと、本書に記されている。夫妻の意図は、死んでいるか生きているのか、客観的事実を知りたいとの意味だろうか。それとも、生きていることを前提に、生きていることが真実であるとの情報だけが欲しく、死んだという情報は絶対に虚偽であるとの認識なのだろうか。横田夫妻は、めぐみさんの娘に、ウランバートルで会っているが、その後、会うことはない。会った時に、どのような情報がもたらされたのか。その情報が気に入らなかったのか。このあたりのいきさつは、本書を読んでも、わからなかった。
 政府が認識していなかった拉致被害者二名の生存情報が北朝鮮からもたらされたことがある。しかし、日本政府の行動はなかった。本書には、この件も詳しい。
 拉致問題が膠着した原因の一つに、「救う会」「家族会」の問題がある。本書では、このあたりの記述は少ない。

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