本の紹介 - 元島民が語る われらの北方四島 ソ連占領編2014年05月18日


元島民が語る われらの北方四島 ソ連占領編 (1988年3月)
 制作:北方ライブラリー制作委員会 委員長:木村汎

 古い本であり、販売されたものではないので、大きな図書館に蔵書がある程度で、一般には、ほとんど 見る機会はない。しかし、ソ連占領当時のようすを、旧島民の証言を元に、まとめた本なので、この問題 に関心のある者にとっては、欠かせない一冊。
 しかし、住民の証言は良いとして、タイトルや、編者の解説はいただけない。内容と異なることを平気で書いて 、事実でないことが、さも事実であるように書かれている箇所が散見される。
 タイトルでは「ソ連は、進駐当時、アメリカ兵はいないかと尋ねた」「日本人は北方4島から強制送還さ れた」となっているが、内容を読んでみると、決してそうとは言えない。

 制作委員会委員長の木村汎氏は、自身の著書のなかで、ソ連兵は決まって「アメリカ兵は上陸していないか」と 言ったと書いている。
『元島民が語るわれらの北方四島』も、証言している。北方四島の各々に上陸してきたソ連兵が真っ先に 日本人住民に尋ねた質問が、きまって「アメリカ兵は上陸していないか」という問いだった、と。  日露国境交渉史 中公新書(1993.9) P102,103 

 本書を読むと、木村汎氏の著述内容は、事実とかなり異なることがわかる。『元島民が語 るわれらの北方四島』から、木村汎氏が指摘する2箇所を見てみよう。
アメリカ兵の存在をしつこく尋ねる
 ソ連兵の進駐当時の様子を福井澄さん(釧路市在住)は、次のように話しています。・・・
 ソ連兵は口々に何か言うのですが、お互いに言葉が通じず閉口しました。しかし、よく聞き返しまし たところ、『日本の兵隊はいるか?とかアメリカ兵は上陸していないか』と言っているのでした。次に は、『占領の旗を揚げたい。何か赤い布はないか?』と言います。確か万国旗が神社にあったはずだと思い 、探しましたがありません。(P152,153)

アメリカ兵はいないか…  
 「ソ連軍が色丹島に上陸したのは二十年九月一日でした。上陸地点は斜古丹です。・・・ソ連軍が進駐 して来て最初に聞かれたことは、「アメリカ兵が島にいないか』ということです。
 当時、・・・島に残っていたのは武器もなく何等抵抗できない島民のみでした。言葉がまるで通じないということもあって、いきなり発砲されたりという事態も考えられ、大変不安でした。(P176,177 )

 どちらも、タイトルでは、アメリカ兵の存在を聞いたとなっているが、内容を読んでみると、元島民の証言では、言葉が通じず、ソ連兵の言っていることを推定した結果、「アメリカ兵はいないか」と聞いたと思ったのであった。本書には、元住民の証言がいくつも記載されているが、アメリカ兵云々の元住民証言は、この2箇所だけであって、木村汎氏の著書に書かれているように、『きまって、アメリカ兵は上陸していないか、という問いだった』事実はない。本書に記載されている、軍人の証言でも、アメ リカ兵云々の話は、日本軍特警隊員による、わずか1箇所である(P371)。
 本書のタイトルで、事実と異なる記述をしているが、木村汎氏の著書では、さらに輪をか けて、事実でないことを書いているようだ。

 「強制送還された日本人」の章も、いただけない。
強制送還された日本人
 北方四島からの日本人の強制引揚げは、ソ連側の方針で、昭和二十二年七月から実施されました。・・ ・
 この強制引揚げは、地域によって引揚げの月日に差があります。最も早かったのは、昭和二十二年七月 四日、二度目は同年九月下旬、四度目は二十三年十月上旬、二十四年七月下旬が最後と言われています。
 これら数度にわたる引揚げは、いずれもソ連側の事情による一方的な命令によるもので、日本人島民の 意志では全くありませんでした。ソ連軍占領下の島の生活を嫌い、日本への帰還を望んでいた島民は確か に多くいました。しかし、中には、祖先伝来の地を守り、住み馴れた島で平和に暮していきたいと強く願 っていた人も少なからずいたのです。
 ソ連軍は一方的に引揚げを通告し、日本人島民の任意の選択は一切認めないと言う強制的なものでした 。

 (このあと、具体的な証言が記される。)

 以上のように、元居住者たちは、北方の歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島から強制的に、わずかな身 廻品を持たされただけという裸同然の姿で、追い出された当時の悲惨な状況を切切と語っています。 (P398,399,419)

 初めの部分とまとめの部分だけを読むと、日本人が強制送還されたかのごとく感じるだろ う。しかし、住民証言など内容を読むと、まったく異なっていることが分かる。
 ソ連兵と結婚のため残留した女性の話や、引き揚げ順番を早くするため賄賂を使った話、残されると知って発狂した人の話などがあるが、残留希望が聞き入れられなかった人の話は、一件もない。
 さらに、P407の表には、推定残留者数202名、一般資料で確認できる残留者数12名と記されており、「歯舞一家8 名希望残留」との特記がある。

 以上のように、本書の旧島民の証言の部分は、十分に読む価値があるが、北方ライブラリー制作委員会・委員長木村汎によるものと思われる記述や、タイトルなどは、事実と異なる記述が多く、この部分には、読む価値はないだろう。

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