本の紹介ー仏教は宇宙をどう見たか2018年10月11日

   
佐々木閑/著『仏教は宇宙をどう見たか アビダルマ仏教の科学的世界観』 化学同人 (2013/2)
  
 初期仏教のうちの有力部派、説一切有部のアビダルマコーシャ(倶舎論)の解説。
 倶舎論は煩瑣哲学の代表であるが、その後の唯識や中観に対しても大きな影響を与え、大乗仏教の哲学を生む契機となった。このため、倶舎論を知ることは、仏教の正しい理解のために必要なことである。奈良仏教の倶舎宗は倶舎論研究を目的とした宗派。
  
 本書は倶舎論の解説本としては、現代人にとって一番理解しやすい。本書の著者は工学部出身の異色の仏教学者なので、科学的合理精神に基づく解説になっているためだろう。40年ほど前、倶舎論の解説本である、上村春平・他/著「存在の分析 アビダルマ」を読んだことがある。本書はこの本に比べはるかに読みやすい。ただし、本書の内容は倶舎論の解説のみで、成立の背景や仏教全体に対する位置の説明はない。
  
 内容は、倶舎論における「物質の認識」「心の認識」「時間の認識」「エネルギーの認識」「因果」の説明。物質とは物理学の物質とは異なって、物質と認識の関係で物質を理解する。心は、物質と認識と精神作用の関係である。このように、倶舎論における物と心の定義は西洋哲学の定義と異なるので混乱しやすいが、本書では丁寧に説明してあり、混乱なく読める。

MOA美術館2018年10月12日

先日は真如苑美術館を紹介したので今回はMOA美術館。
ここは岡田茂吉の世界救世教の美術館。真如苑美術館に比べ美術館も収蔵品もはるかに豪華。ただし、有料。
      
長いエスカレーターで山の上の美術館に行く途中も豪華。
      
目玉は、仁清の壺。国宝です。
      
黄金の茶室もあります。
      
こちらは、奈良時代の十一面観音。重要文化財です。
      
真如苑美術館は撮影禁止だったけれど、MOA美術館は撮影可。総じて言うと、真如苑美術館に比べすべてが上。 


本の紹介ーブッダ最期のことば2018年10月13日

 
佐々木閑/著『ブッダ最期のことば(NHK「100分de名著」ブックス )』NHK出版 (2016/6)

 仏陀の死の様子を著した「涅槃経」には、小乗のものと、大乗のものがある。本書は、小乗涅槃経のうち主にパーリ語経典をもとに涅槃経を解説するもの。
 涅槃経は仏陀が死ぬときの旅の物語の中に、僧侶への教え、大衆への教え、教団維持のための教えが示されている。本書では、このような涅槃経の教えを解説する。このため、本書は、単に涅槃経の解説にとどまらず、仏陀の教え全般の解説になっている。仏陀は超越的絶対者にすがるのではなくて、自分の心の修養を教えたことが明確に示されている。
 著者は京都大学工学部で化学工学を学んだ人なので、科学的合理的精神の持ち主のようで、本書の解説も論理的で読みやすい。
 終章に大乗涅槃経と小乗涅槃経の対比が述べられる。大乗涅槃経がブッダの教えから離れた状況も詳しい。

 小乗涅槃経の全訳としては、中村元/著「ブッダ最後の旅」が岩波文庫から出版されている。

松浦武四郎展(静嘉堂文庫美術館)2018年10月14日

    
 静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷)では、松浦武四郎展が12月9日まで開催中です。場所は、東急大井町線・二子玉川駅から徒歩20分程度と遠い。駐車場があるので車が便利です。
   
 松浦武四郎は北海道・樺太・千島の探検家として、あるいはアイヌの惨状を報告した人として、さらには北海道の名付け親として有名です。
 展覧会には蝦夷地探検の展示もあるけれど少数。武四郎は、晩年、鈴・古銭・玉をはじめ、いろいろな骨董収集をしたので、これらが展示品の中心となっており、武四郎の変人ぶりが分かります。

本の紹介ー犀の角たち2018年10月15日

   
佐々木閑/著『犀の角たち』大蔵出版 (2006/7)
佐々木閑/著『科学するブッダ』角川学芸出版 (2013/10)
   
「科学するブッダ」は「犀の角たち」の文庫本。内容は同じ。
   
 京都大学工学部出身の仏教学者・佐々木閑の著書。理系出身の仏教学者だけあって記述は論理的。
「犀の角」とは、もっとも古い仏教経典のスッタニパータに記載された独覚(ブッダに依存しないで一人で悟りを得る人)のたとえ。科学と仏教の類似性から、科学研究者など科学に携わる人のことを「犀の角たち」と表現したのだろうか。
   
 本書は仏教の解説ではなくて、科学と初期仏教の類似性を解説するもの。キリスト教などと違って、外部に絶対神を置かずに、現実の観測によって因果関係により世界を認識するところに、科学と初期仏教に類似点があり、科学は物質世界を対象とし、仏教は精神世界を対象とする点で、両者は異なっている。
   
 本書の第1章から第3章は、それぞれ「物理学」「進化論」「数学」の話。第4章で「初期仏教」の話がある。このため、内容の多くは仏教の話ではなく科学の話。
 「物理学」の話は、大学理学部で学ぶ素粒子論の基礎程度の知識がないとついてゆけないと思う。
 「進化論」の話は、ダーウィンの進化論の知識でついてゆけるのかと思って読んでいたら、木村資生の進化の中立説の話が出てきた。私は大学院学生だった時、専攻が確率論だったため、確率過程論の適用事例として集団遺伝学の特別講義を聞いたことがある。進化の中立説が妥当な結論であることを理解するためには、確率過程論の知識がないと難しいだろう。ただし、本書を理解するために、確率過程論の知識が必要とはいえない。進化の中立説については、以下の本が易しく詳しい。
  『木村資生/著 生物進化を考える (岩波新書)(1988/4)』
   
 「数学」の話は、大学理学部の教養程度の数学知識がないと読み進めるのは難しい。著者の説明が妥当か否かを判断するためには、数学の論理学の知識が必要のように感じたが、私はこの分野を勉強していないので良く分からない。
   
 第4章は初期仏教の説明。初期仏教はバラモン教を否定するために誕生し、自分自身の努力で涅槃に入ることを目的とした宗教で、科学と同じく、外に神のような絶対者を措定しないところに特徴があった。
   
 第5章は本書の本論とは異なり、大乗仏教が起こった状況の概説と大乗仏教が科学や初期仏教と異なり、外に絶対者を置くことに至った理由の説明。

本ー殉教の遺書・・・詐欺寺首謀者の弁明2018年10月16日

  
西川義俊/著『殉教の遺書』東宛社 (2001/1)
  
 700ページを超える大書。
 1986年、真言宗醍醐派の阿闍梨となった著者は、翌年、茨木県大子町に真言宗醍醐派・本覚寺を建立し、ここを拠点に大規模な霊視詐欺を行った。本書は、詐欺首謀者による弁明。著者の西川義俊には懲役6年が確定した。
 一審で懲役判決が出た後の、控訴趣意書の補充書が本書のメイン。本書に記載された内容は、有罪が確定した犯人の主張であり、判決ではほとんど退けられたものであるため、一般に言えば「虚偽」であるので、事実が書かれたものとして読むことはできない。なお、本書には付属資料として、一審判決書、控訴趣意書、検察による答弁書が掲載されている。
  
 西川義俊は真言宗醍醐寺で修業して阿闍梨になると、真言宗醍醐派の末寺として本覚寺を建立した。彼は宗教法人を持っておらず、個人で寺を作ることはできないので、醍醐派の末寺としたのだろう。常識的に考えたら、檀家もいない末寺を山の中に作ったところで、経営が成り立つはずはないので、寺を建てる理由に対して、醍醐寺が何も疑いを持たなかったとしたら驚きだ。醍醐寺は末寺ができて儲かることだけを考えていたのだろうか。まさか、詐欺を知っていて推進したわけではあるまい。
 その後、西川義俊は独立宗教法人を手に入れると本覚寺は醍醐派を離れた。醍醐派が破門したとか、けんか別れしたとか、そういうことではなくて、本覚寺の離脱に際して、醍醐派座主や宗務総長・仲田順和の祝辞があったことが、本書に示されている。本覚寺は醍醐派を離れた後も、詐欺僧侶の修行等で醍醐寺との関係は続いた。西川をはじめ全教師の僧籍は醍醐寺に残されたままだった(P365)。
 西川義俊は宗教法人・明覚寺を作り明覚寺グループで詐欺を続ける。一方、本覚寺が週刊誌等で「霊視詐欺」として批判されると、詐欺僧侶たちは本覚寺を放棄して明覚寺や関連寺院に移り、詐欺を繰り返した。
  
 一審判決では、西川被告や詐欺僧侶らは、「悩み事を解決する霊能などないのに、その霊能があるかのように装って、相談者に先祖の霊が取り付いており、供養料を支払ってこれらの霊を成仏させれば、悩み事が解決できる旨嘘を言って欺き、内金を受けとり、さらに後日、金を振り込ませた」ことが、詐欺と認定された。
 西川被告は霊能とは加持祈祷の能力のことで、明覚寺は醍醐山伝法学院を卒業して阿闍梨となったもの十五名、醍醐寺特別伝授会で四度加行を修し伝法灌頂にて阿闍梨となったもの約十五名、明覚寺で阿闍梨となったもの約二十五名の合計約五十五名の阿闍梨を要する宗教団体(P371)なので、霊能を有していると主張した。しかし、相談者には霊視的能力があるかのように装っていたとの理由で、西川被告の主張は退けられた。
  
 本覚寺・明覚寺の詐欺では、相談者から、その日のうちに金をとっているケースが多い。この点について、西川被告は、もともと祟っているのではないかと心配している人が相談に来ているので、供養を勧めたと主張している(P379)。「いのうえせつこ」の本によると、霊視商法の取材の中で会った主婦たちの多くは「生長の家」や「真如苑」などの新興宗教と呼ばれる信者たちだったとのことなので、西川被告のこの主張は事実なのかもしれない。
  
 ところで、西川被告は「当派の阿闍梨はすでに述べた如く、最低二年の厳しい修行をさせて伝法灌頂に入れているので、すぐに四度加行を形だけ修業して住職資格をとる者に比べて、ずっと質の高い者である」と書いており、阿闍梨になること自体はたやすいとの認識はあるのようだ。

社山(日光)2018年10月17日

ここ幾日か、仏教関係・新興宗教関係・霊能詐欺の本の紹介が続きました。

今回は、日光中禅寺湖南の社山から、西側の黒檜山方面を撮った写真。たおやかな尾根ですが道が荒れているところがあるらしい。
10月6日、台風一過の風が強い日に社山に登りました。阿世潟から登る人が多いのだけれど、半月山駐車場から半月山に登り、阿世潟峠に下り、社山に登りました。結構アップダウンがあって疲れたので、下山は阿世潟にしました。

日光2018年10月18日

   
写真は日光中禅寺湖南の半月山から阿世潟峠に下る途中からみた男体山と中禅寺湖

日光・社山から足尾方面2018年10月19日


日光・社山から足尾方面を望む

創価学会美術館(東京富士美術館) ロシア絵画展2018年10月20日

八王子の東京富士美術館(創価学会美術館)ではロシア絵画展が開催中です(12月24日まで)。
   
   
19世紀後半のロシア絵画が中心で、そのうち、アイヴァゾフスキーの第九の怒涛、イリヤ・レーピンのサトコなどが目玉。

 
  

美術館の場所は、創価大学のすぐそばです。



* * * * * *

<< 2018/10 >>
01 02 03 04 05 06
07 08 09 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

RSS