本-ブッダが説いた幸せな生き方2021年08月01日

 
今枝由郎/著『ブッダが説いた幸せな生き方』岩波新書 (2021/5)
 
本を読んだ感想を一言でいうと「これが岩波新書??」。
 前半は原始仏教の話題で、この時期の教団の人たちが幸せだったとしている。阿含経などの経典を読むと、確かにそういう雰囲気が分かるので、著者の記述には「まあそんなものだろうか」と思った。後半には「一切衆生悉有仏性」があげられ、これを使って、自説を展開しているところがあるが、「一切衆生悉有仏性」は大乗仏教のものでブッダの教えとは関係がない。
 この本は学術的な内容ではなくて、たくさんある仏教の教え(ブッダの教えとは限らない)の中から、自説に合うようにつまみ食いをして構成した、自己啓発本の類のように感じた。

本の紹介-Numbers Don't Lie2021年08月02日

  
バーツラフ・シュミル/著、 栗木さつき・他/訳『Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』NHK出版 (2021/3)
 
 統計データによって事実を理解することを目的とした本。類似の本に以下のものがある。
  ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング,他/著『ファクト・フルネス』
 『ファクト・フルネス』の方は、数字でデータを見て事実を知っているつもりになっていても、実際は違うことを指摘している。これは単に、新しい知識を得ようとしないスウェーデンの老人たちの知識では事実を誤認していることを示しているに過ぎないので、普通に時事問題の知識を得ている人には、読む価値はない本であると感じた。
 
 本書は『ファクト・フルネス』のような本とは違って、世界の様々な問題を、主に統計データを示して、現状はどうであるかを説明するもの。全7章、71項に分かれているので、興味がある部分だけ読めばよいように思う。ただし、項目が細かいので、深いことが書かれているわけではない。

コロナ感染者-年齢とともに感染者が少なくなるのはワクチンの効果なの?2021年08月05日

 
 高齢者のコロナ感染者は少なく、若年者の感染が多い。この原因として、高齢者にワクチン接種が進んでいるためと説明される。これは、本当なのだろうか。
 図は、8月5日、東京都の年代別コロナ感染者数。20代、30代、40代、50代、60代とほぼ直線的に減少している。20代から50代の感染者数があまり変化なく、60代以降で急激に下がっているならワクチン接種が原因と言えるだろうが、20代から60代までほぼ直線的に変化している事実を、ワクチン接種だけで説明することはできない。行動の違いが大きいのではないだろうか。

本の紹介-原発はなぜ危険か2021年08月12日

 
田中三彦/著『原発はなぜ危険か』 (1990/1)岩波新書
 
 本書は30年以上前に出版された岩波新書。
 著者は、元・原子力発電所設計関連に携わっていた技術者。福島第一発電所四号機の圧力容器には、安全性に問題があることを自身が設計に携わった経験から述べている。四号機圧力容器を作った時、何らかの理由で基準許容量を超える歪みが生じたため、クリープ変形を利用して、歪みを補正した。著者は、歪み補正の手法をコンピュータ解析により求めた技術者だった。
 クリープ変形を利用して、変形を補正したのだから、普通に考えれば、強度・特に経年劣化に問題があるはずだが、国は問題なしとした。
 
 福島第一発電所四号機は、東北大震災に伴う事故で、水蒸気爆発を起こし廃炉になった。福島原発事故から10年以上経過した今、この原子炉圧力容器が脆弱でもどうでもよいことだ。しかし、同様の事例は、ほかの原発でもあるかもしれない。そもそも、原子炉内の長期間経年劣化など、十分に解明された技術ではないはずだ。それなのに、政府は老朽化原発の運転期間延長を行っている。

盂蘭盆会2021年08月15日

 先日、曹洞宗の菩提寺にて盂蘭盆会の法要に参列した。盂蘭盆の由来について、住職が釈迦弟子のうちで神通第一の目連が、餓鬼道に落ちた母親を供養したことに由来しているとの説明をしていた。この話は盂蘭盆経にあるが、この経は中国で作られた偽経であることが分かっている。中国人は血縁関係を大切にする社会のため、親孝行が好きなので、こういう話が作られたのだろう。
 
 日本で盂蘭盆会が旧暦7月15日だったのは、曹洞宗・臨済宗の修行である夏安居の最終日だったため、この日、僧侶にふるまったことが由来の一つとされている。道教ではこの日が地獄の神様の誕生日である中元にあたるめ、これが日本に伝わったとの説もある。

本の紹介-宗教は嘘だらけ2021年08月16日

  
島田裕巳/著 『宗教は嘘だらけ 生きるしんどさを忘れるヒント』朝日新書(2021/6)
  
 著者の島田氏は、日本女子大教授を辞めた後、たくさんの著作を上梓するようになった。これらの著書の中には、読んで面白くないものも多いが、本書は、最近の著者の本の中では、興味が持てる内容に感じた。
 
 本の内容は、仏教・キリスト教・イスラム教などの主要宗教で、信者に対して嘘を言うなと教えているにもかかわらず、これら宗教では積極的に嘘をついているという話。2章から6章まで続くので、これが本書のメインテーマなのだろう。宗教の基礎知識がある人には平易な文章で読みやすいが、宗教を知らない人には、とっつきにくいかもしれない。第7章はカントの法哲学の話。第8第9章は全体のまとめのような章。
  宗教の嘘というと、新興宗教の詐欺・脱税などが思い浮かぶが、このような話はない。
  
 日本の仏教では法華経を所依の経典とする宗派が多い。法華経第二章では方便の名称で釈迦の嘘を肯定している。日本で法華経が盛んなのは、中国人僧の智顗と日本人僧・最澄、日蓮に起因している。
 著者は、智顗が無量儀経の「四十余年未顕真実」の記述・意味を曲解したことに触れたあと、以下のように評価している。『智顗は相当強引なやり方をとっている。それによって法華経こそ真実の教えが説かれており、それまでの教えは法華経に導くための方便の教えであったとされることになった。文字通り牽強付会であり、智顗は大噓をついたことになる。(P50,P51)』
 最澄についても、南都六宗に対抗する野心によって、天台宗に飛びついたとの見解を示している。智顗や最澄の言う通りならば、釈迦は40年間弟子たちに嘘の教えを説いたことになり、その間死んだ弟子はどうなるのか。そのことについては、智顗も最澄も日蓮も触れていない(P59)。

コロナ感染者-年齢とともに感染者が少なくなるのはワクチンの効果なの?2021年08月21日

 高齢者のコロナ感染者は少なく、若年者の感染が多い。この原因として、高齢者にワクチン接種が進んでいるためと説明される。これは、本当なのだろうか。
 図は、8月20日、東京都の年代別10万人当たりのコロナ感染者数。20代、30代、40代、50代、60代と順に減少している。20代から50代の感染者数があまり変化なく、60代以降で急激に下がっているならワクチン接種が原因と言えるだろうが、20代から60代まで順に変化している事実を、ワクチン接種だけで説明することはできない。行動の違いかウイルスの性質が大きいのではないだろうか。

コロナ感染者-年齢とともに感染者が少なくなるのはワクチンの効果なの? 補足2021年08月21日

「東京都の年代別10万人当たりコロナ感染者数」グラフの縦軸を対数目盛で書いた。さらに、赤線で直線を引いた。ワクチン接種には感染防止に一定の効果が推測されるが、それだけと考えるのは早計な感じがする。

本の紹介-いまこそ「社会主義」2021年08月22日

 
池上彰、的場昭弘/著『いまこそ「社会主義」』朝日新書(2020.12)
 
 経済学者の的場昭弘とジャーナリストの池上彰の対談。
 本の内容は、第一章:資本主義の限界、第二章:社会主義の挫折、第三章:国家主義の台頭、第四章:そして未来へ、の4つの章からなる。
 対談している二人は、社会主義に詳しいので、話がかみ合い、読みやすい。対談にしては、テーマがはっきりして読みやすい。書かれた内容について反対する点はないのだけれど、特に目新しい視点も少ないように感じた。資本主義と社会主義について気楽に考えるために読むには良い本だろう。

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