北方領土問題-週刊新潮の記事について2005年11月25日

現在発売中の、週刊新潮の記事に『プーチンも驚愕!?  露紙「プラウダ」が認めた「北方4島」は日本の領土』とあったので、どういうことか不思議に思いました。週刊新潮が問題としているのは、以下のことでした。

http://english.pravda.ru/main/18/90/363/16453_japan.html

この中に、次のようにあります。
Russians are taught that the Kurile Islands are the original Russian territory. This is correct to a certain extent only. The Central and Northern Kurile Islands used to be a part of the Russian Empire until 1871 when they were handed over to Japan. There are also Southern Kurile Islands (Shikotan, Kunashir, Iturup and Habomai) that were a part of Japan only till 1947. And these four territories are the stumbling block in the relations between Russia and Japan. On the Iturup Island a naval base was located in 1941 from where Admiral Nagumo started his squadron to bomb Pearl Harbor.
まあ、北方領土の歴史を正しく理解しなさいと言うことでしょう。

北方領土に関して、日本もロシアもあまり正確な知識が無いようです。週刊新潮の記事も、日本に都合良いように誤っています。たとえば、一例をあげると、週刊新潮には次のように書いてあります。

『ロシアが不法占領している北方領土問題で、戦後、初めて両国が合意したのは1956年の日ソ共同宣言である。この時「平和条約を結んだあと、歯舞・色丹両島を返還する」という文書が交わされた。』

まず、『歯舞・色丹両島を返還する』はウソで、『歯舞・色丹両島を引き渡す(ペレダーチ)』です。この文言は重要です。
第2に、『ロシアが不法占領している』について。昭和31年参議院外務委員会において、下田武三政府委員(条約局長)は『ソ連の引き続き占拠することが不法なりとは、これまた言えない筋合いであると思います』と説明しているので、『ロシアが不法占領している』と説明無しで書くのは誤りです。
また、『戦後、初めて両国が合意した』もずさんな記述です。1945年9月2日降伏文書に引き続き出された、一般命令第一号で、『千島の日本軍はソ連に降伏すべし』となっています。これが、戦後最初に日本・ソ連共に了解した文書です。(一般命令第一号は、トルーマン・スターリンが合意した文書を、GHQが日本に命令したのだから、日ソ間で直接合意したわけではないので、週刊新潮の記述は、誤りでは無いけれど、日本に都合良いような記述になっています。)


プラウダの記事には次のように書いてあります。
『択捉島には1941年海軍基地が設けられた。南雲提督の機動部隊が真珠湾の爆撃に出撃したのはここからである。』

この部分、週刊新潮の解説では、『真珠湾攻撃の立役者・南雲中将を引き合いに出すあたりも、妙に日本よりの書き方なのである』とあります。とんでもない誤りです。

日本ではカイロ宣言を持ち出して、北方領土の返還を主張します。日本側主張に反論するために、択捉島問題で真珠湾攻撃に言及することが、ソ連時代から行われてきました。

択捉島と真珠湾攻撃の関係は、カイロ宣言の冒頭部分と密接な関係が有ります。

三大同盟国ハ日本国ノ侵略ヲ制止シ且之ヲ罰スル為今次ノ戦争ヲ為シツツアルモノナリ 右同盟国ハ自国ノ為ニ何等ノ利得ヲモ欲求スルモノニ非ズ 又領土拡張ノ何等ノ念ヲモ有スルモノニ非ズ

日本では、この文章の前段を無視して、『領土拡張ノ何等ノ念ヲモ有スルモノニ非ズ(領土拡張の考えは無い)』を、『領土を拡張しない』と『念』の文字を読み落とす事が行われています。

プラウダの記事は、これまで、ソ連によって行われた解釈そのままです。『侵略ヲ制止シ且之ヲ罰スル為今次ノ戦争ヲ為シツツアルモノナリ(日本の侵略を制止し、日本を罰するために戦争を行っている)』となっているので、侵略の前進基地だった択捉島を日本の領土から省くことは、カイロ宣言と矛盾しない、との解釈です。


週刊新潮の記事は、北方領土問題に関して知識の乏しい人が、日本に都合よくプラウダの記事を解釈したものでしょう。
プラウダの記事には、「北方領土問題に関して知識の乏しい人が、ロシアに都合よく解釈してもしかたないよ」、との意図が感じられます。

北方領土問題の解決には、日ロ共に正しい理解が必要です。

コメント

_ えびす幸一 ― 2006年08月31日 09時17分41秒

屁理屈は誰でもいえます。4島は日本のものです。。
終戦間際、捕虜になしたロシアの行為を私は許しません。

_ cccpcamera ― 2006年08月31日 14時52分34秒

えびす幸一さま。政治の世界では理屈は、後からつけるものかもしれません。
 日本政府も、かつては二島返還を主張していましたが、このときは、SCAPIN-677が根拠になっていました。4島返還論に代わると、最初は、「南千島は千島に含まれない」との主張が第一に言われました。ところが、この根拠が、フランス語条約文の不完全な日本語訳を元にしているとの研究が現われると、4島返還論の根拠の中心は固有の領土論に移ってゆきます。固有の領土論は、元々、日本人向けに作られたものなので、諸外国ではあまり理解されません。「固有の領土」は英語では「inherent territories」です。あまり、米国を説得できるような単語ではありません。
 4島返還論の屁理屈も、外務官僚が中心になって作ったほうが、もう少しマシな屁理屈が作れるのではないだろうかと思うのですが。返還運動現場上がりの屁理屈は、どうも上手とは思えません。

>終戦間際、捕虜になしたロシアの行為を私は許しません
 お気持ちは良く分ります。多くの人は、自分達が行った犯罪はどんな凶悪なことだとしても、すぐ忘れ、英雄視したがるものです。それにたいして、自分達の受けた被害は、決して忘れまいとする傾向にあります。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

* * * * * *

<< 2005/11 >>
01 02 03 04 05
06 07 08 09 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

RSS