北方領土問題(その1・・・概要)2009年02月03日

今週末は北方領土の日なので、北方領土問題とは何かを簡単に説明します。

 北方領土問題とは、現在ロシアの実効支配中に有る、択捉島・国後島・色丹島・歯舞諸島を日本が自国の領土だとして返還を求めていることを言います。四島のうち、色丹・歯舞は、1956年の条約で、平和条約締結後に日本に引き渡すことで両国が合意しています。

 日本は、1951年のサンフランシスコ条約で、千島の領有を放棄しました。このため、日本政府は、一貫して、千島は日本の領土外との説明をしていますが、北方四島は千島に含まれないとの理由で、領土返還要求をしているものです。このため、日本の主張からすると、サンフランシスコ条約で放棄した千島の範囲の問題と言うことになります。


<千島(クーリール)とはどこか>

千島の範囲は、それぞれの定義により、異なります。

・条約
 幕末や明治初期に締結された、日露和親条約・樺太千島交換条約では、千島をウルップ以北と定義しているとの主張が有ります。
 ただし、樺太千島交換条約では、法的効力の無い日本語訳文の誤訳でそのようになっているので、条約正文のフランス語では千島をウルップ以北と定義していることは無いことが分っています。
 また、日露和親条約では、当時作られた、オランダ語・中国語・ロシア語・日本語のなかで、日本語だけが千島をウルップ以北と定義しているように読めるけれど、他の言語ではそのようになっておらず、ここでも日本語の誤訳であることが明らかになっています。ただし、誤訳であっても、条約正文の一つなので、有効な条文です。

・地理上の常識
 サンフランシスコ条約当時の地図では、ほとんどすべての地図で、択捉島は千島列島の範囲に含まれています。大抵の地図は、大雑把に見ると、北方四島は千島列島に含まれるように表示されています。歯舞・色丹は小さいので、どのような扱いなのか、よく分らない地図が多いのですが、色丹島が千島に含まれないような表示になっている地図は、おそらく存在しないと思います。これに対して、歯舞は千島列島に含まれないような表示になっていると読める地図は存在します。

・行政区域
 北方四島のうち、択捉島・国後島・色丹島は千島の国に属し、歯舞諸島は根室に所属しています。ただし、明治18年以前、色丹島は根室に属していました。
 昭和21年の逓信省令第16号では、外国郵便の範囲に「二、千島列島(珸瑤瑁諸島を含む)」と書かれており、千島列島には、択捉島・国後島・色丹島が明白に含まれています。

・GHQ
 GHQ指令(SCAPIN-677)では、択捉島・国後島は千島列島に含まれ、色丹・歯舞は含まれていません。

・米英の見解
 ①サンフランシスコ条約会議で、米代表ダレスは「千島列島という地理的名称が歯舞諸島を含むかどうかについて・・・歯舞を含まないというのが合衆国の見解であります」と説明しています。
 ②サンフランシスコ条約5年後に、日本政府の問い合わせに対して、米国は、日本の四島要求に好意的な回答をしました。しかし英国からは、好意的な回答は得られませんでした。

・固有の領土
 日本政府が四島要求の主張の中心に据えている主張です。
 北方四島は日本固有の領土なので、日本が放棄するはずは無く、このため、放棄した千島には含まれない、との説明のようです。

北方領土問題(その2・・・日本の立場)2009年02月03日

<1955年ごろまで>
 1951年にサンフランシスコ条約で、千島を放棄しました。この当時、日本政府は、放棄した千島に択捉・国後が含まれ、歯舞・色丹は含まれないと説明していました。このため、この時期の日本の領土要求は二島返還論です。

 歯舞・色丹が千島に含まれないとする根拠はいくつかあります。
①明治18年以前の行政区分では、歯舞・色丹は根室に所属している。
②歯舞・色丹は千島列島の島々と異なり、根室半島の延長である。
③GHQ指令SCAPIN-677で歯舞・色丹は千島とは別に記載されている。

 日本政府の国会答弁では、ヤルタ協定の千島には歯舞色丹を含まないとの根拠がSCAPIN-677であると言っていますが、サンフランシスコ条約の千島に歯舞・色丹が含まれない根拠を明確に説明していません。ただし、①②のほかに、米国に説明したところ米国もその線で理解してくれた、との説明がなされています。


<1956年以降>
 1956年2月11日、衆議院外務委員会で、森下政府委員から、四島返還論の立場が明確に示されました。ただし、このときから四島返還論になったのではなくて、既に四島返還論になっていたものを国会で明確にしたのが2月11日でした。

 根拠として、次の点が説明されています。
①サンフランシスコ条約は千島の範囲を決定していない
②国後、択捉の両島は常に日本の領土であったので、返還は当然である
③日本国民は連合国が領土拡大を求めていないことを信じて疑わないので、日本固有の領土たる南千島をソ連が自国領土であると主張することは、日本国民一人として納得し得ない
④南千島は水産資源の宝庫で日本人の生業に欠くべからざる島である

 このように、1956年の森下答弁以降、北方領土要求の根拠は、法的立場から、国民心情・経済的利益に移っています。

(つづく)

北方領土問題(その3・・・ロシアの立場)2009年02月03日

 1946年1月末、GHQ指令で、日本が正式に千島の施政権を中止させられると、ソ連は、直後に自国の領土へ編入しました。このとき以降、ソ連・ロシアの国内法上、千島はソ連・ロシアの領土になっています。そして、歯舞を含む全千島はロシアの正当な領土であると一貫して主張しています。
 
 1956年、日ソ共同宣言が締結され、ソ連は、日本国の要望および日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意しました。

 ロシア政府は、「引き渡す」となっているため、引き渡す前は、ロシアが正当に領有していることが前提になっていると解釈しています。日本政府は、「引き渡す」は単なる物理的移転を意味しているに過ぎず、領有の正否には触れられていないと解釈しています。将来、日本に歯舞・色丹が返還されることになった場合、ロシアがこれまでの領有が正当であることを日本が認めることを条件にする可能性があります。
 こうなったとき、日本はどうするのだろう。不当であると主張して、返還をさらに先延ばしにするのか、現実的利益を求めるのか、難しい政治判断が求められることになります。逆にいうと、現在ロシアが領有していることを不法占拠のことばで、日本国民に植え付けておくことは、歯舞・色丹の返還を阻止し、日本に領土が決して返還されないために、きわめて有効な手段です。

(つづく)

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