本の紹介-増補 南京事件論争史2019年04月18日

 
笠原十九司/著『増補 南京事件論争史』(2018.12)平凡社
 
 2007年に出版された本の増補改訂版。
 2007年は「南京虐殺がなかった」とする説の破綻がほぼ確定的となった年だった。「南京虐殺なかった」説を唱える人は、匿名の怪しい人、神主、ギャグマンガ家など、歴史学者でない人たちが多かった。そうした中、亜細亜大学教授・東中野修道は「南京虐殺なかった」説を唱える歴史学者として脚光を浴びていた。しかし、東中野修道の南京事件研究にたいして、名誉棄損であるとの訴えがなされ、2007年に下された判決では「学問研究の成果というに値しないと言って過言ではない」との理由で、東中野修道に損害賠償支払いが命じられた。
 亜細亜大学教授・東中野修道の「南京虐殺なかった」説の手法は、彼の嫌う資料の中に、少しでも疑問点があると、それを誇張して、すべての資料が虚偽であるかのように吹聴し、彼の妄想が真実であるとの主張をするものだった。本書においても同様な指摘がなされている(P245)。また本書に指摘はないが、東中野修道の説は写真の検証に対する無知が露呈するなど、致命的な欠陥が明らかになり、東中野修道説は破綻した。
 
 本書は2007年に出版された本に加えて、それ以降の状況が加筆されている。第7章「2007年」から第9章「2010年代後半」まで、ページ数にして74ページになる。
 
 「南京虐殺なかった」説の破綻が歴史学上は明白になった後、2007年以降は、自民党政府、特に安倍政権による、強引な政治介入の時代になった。南京大虐殺をモチーフとした映画を上映禁止としたり、教科書検定で政治介入するなど、政治主導による南京虐殺否定論がすすめられている。
 さらに、日中両国政府主導で実施された、北岡伸一・東大名誉教授らを中心とした日中歴史共同研究の成果の中で、日中共に南京虐殺を史実として認定されると、これを無視する態度をとるなど、明白となった史実を無視する傾向が続いている。
 このような右翼・自民党に対して、南京事件の真相解明の研究も進んでいる状況が示されている。
 なお、東中野修道が南京事件論争から退場した後、立命館大学名誉教授・北村稔が「なかった」派の論客となったと思っていたのだが、彼の言説も否定されたようだ。現在は、評論家の阿羅健一が論客のようだ。歴史学研究として南京虐殺が認定された後でも、評論ならば妄想でも何でもありなので、評論家ではちょっね。
 
 p325~p330に南京事件否定派が通州事件へシフトしているとの記述がある。通州事件とは、日本の傀儡政権に雇われた中国人が反乱を起こして、麻薬密売関係者等、日本人・朝鮮人を殺害した事件であるが、大日本帝国政府は、歴史全体を見ることなしに「中国人が日本人を殺した」として、敵愾心を煽り立てるのに利用した。
  
 日本軍は阿片を中国に密売して戦費を調達していたため、害毒の大きいケシの新種改良が行われた。現在、東京都薬用植物園では、このケシを見ることができる。美しい花で、一見の価値があります。5月中旬が見ごろです。
 
 
旧版については、以下に感想を書きました。
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2008/01/06/2548242
 
通州事件については以下に解説を書きました
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/07/29/8928254
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2018/08/06/8934331
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2006/09/10/518422
 
東京都薬用植物園のケシの花の写真はこちら
http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2010/05/16/

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