本の紹介ー仏教抹殺2019年03月03日

  
鵜飼秀徳/著『仏教抹殺』文藝春秋 (2018/12)

著者は浄土宗の僧侶でジャーナリスト。
本書は、明治前後の廃仏毀釈の調査・解説。ジャーナリストの文章なので読みやすい。
鹿児島では神仏分離令以前に激しい廃仏毀釈が行われた。これは、藩主が通貨偽造のために金属を調達するためだった。松本では藩主が新政府へアピールするために過度な廃仏毀釈が行われたものだった。
 本書では、激しい廃仏毀釈が行われた、鹿児島・宮崎・松本・隠岐・佐渡・伊勢や、貴重な文化遺産が失われた奈良興福寺など各地の廃仏毀釈の様相を調査して、廃仏毀釈の原因を明らかにしている。

本の紹介ー大砲からみた幕末・明治 近代化と鋳造技術2019年03月04日

  
中江秀雄/著『大砲からみた幕末・明治 近代化と鋳造技術』 法政大学出版局 (2016/9)
  
 ペリー来航で大砲の威力を思い知った幕府や各藩は大砲の鋳造に走る。しかし、砂鉄を原料としたタタラ製鉄で鋼を作っていた日本の伝統製鉄では粘りのある銑鉄を作ることはできず、まともな大砲は作れなかった。唯一の例外は埼玉県川口市の鋳物師が甑を使用して鋳鉄製の大砲製造に成功した。現在、この場所には復元した大砲が置かれている。場所は、川口郵便局の南側に少し入った工場内。
  
 本書では、幕末以降の日本の製鉄の歴史のほか、製鉄技術の解説が詳しい。また、各章ごとに参考文献が詳しい。ただし、著者は一般向けの図書執筆には慣れていないようで、文章が若干読みにくい。
  
 ところで、幕末に下田に来航したロシア・ディアナ号の大砲が靖国神社と横須賀三笠公園に展示されている。この点に関して、以下の記述がある。
 「靖国神社の大砲にはイギリス王室のヴィクトリア女王の紋章が鋳出しで明確に読み取れ、イギリス製の艦船蟠龍丸の備砲ではないかと、推察されている。横須賀の三笠記念館の大砲には紋章がなく、ディアナ号の大砲であるとの明確な証拠はつかめていないが、筆者はこちらがディアナ号の大砲と考えている。」(P38)

本の紹介―偶然の輝き2019年03月11日

池田信行/著『偶然の輝き ブラウン運動を巡る2000年』岩波書店(2018/12)

 確率微分方程式の教科書と言えば、かつては、伊藤清のTata大学のレクチャーノートや、渡辺信三/著『確率微分方程式 (数理解析とその周辺 (9))産業図書 (1975/08)』があった。1980年代に、池田信行と渡辺信三の共著で『Stochastic Differential Equations and Diffusion Processes』が出版されると、標準的な教科書として使われ、今でも最良の教科書だろう。
 本書は池田信行教授による一般向けの確率論講義。ただし、ごく普通の人を対象としたものではなく、高校数学教師や理工学系の研究者など、一定の数学知識がある人を対象としたもの。
 内容は確率論や確率過程論の歴史的展開の解説に主眼が置かれている。確率論以外の数学系の学生・数学関係者などが、「へー、確率論てそういうものなの」とさわりを理解するため読み物として、あるいは確率論研究者が歴史小説を読むような軽い気持ちで読むのには向いているけれど、どれだけ読む人がいるのだろう。

本の紹介―東アジア仏教史2019年03月15日

   
石井公成/著『東アジア仏教史』岩波新書(2019.2)
  
 内容は、中国、日本、朝鮮、ベトナムの仏教史。なかでも、中国仏教史の話が多い。
 岩波新書なので、一般向けに平易な文章で書かれている。しかし、経典の名前が多くて難解である。詳細を書こうとしたらこのようになるのだろうけれど、もう少し、仏教史の流れの概略でよかったのではないかと思う。
 経典の名前を出されても、多数の経典を読んだことがある人は、一般人には少ないだろう。ただし、経典名が豊富なので、これからこれら地域の仏教を研究しようとしている人には有益な本だろう。

 中国では仏教伝来以降、盛んに偽経が作られ、これらが仏の教えとして日本にも伝来している。多数の偽経が作られた中国の社会的背景なども説明されており、日本の仏教を理解するうえでも有益な本だろう。
 とはいえ、私の仏教知識では、本書を十分に理解するのは難しい。

本―開国と幕末改革 日本の歴史182019年03月18日

 
井上勝生/著『開国と幕末改革 日本の歴史18』(2009/12)講談社学術文庫
 
 19世紀初めごろから王政復古までの日本の歴史。
 外圧と政変の時代だったため、その関連の記述も多いが、経済・文化の発展や民衆史についても詳しい。 
 序章でアイヌ、蝦夷地の話がなされるので、本文にもこの話題が詳しいのかと思ったら、特に何もなかった。

本―昭和史講義2019年03月19日

  
筒井清忠/編『昭和史講義』(2015/7)ちくま新書
  
特におすすめ本ではないが、読んだことを忘れないように書き留めておく。
  
 第一次大戦後のワシントン海軍軍縮条約から、GHQによる占領まで、おおむね昭和の時代の前半に対する日本史を詳述。本編15章にわたって、その分野の専門家が記述している。各章の末尾には参考文献が詳しい。
 15名の著者は「帝京大学教授」「防衛省防衛研究所研究員」など。
  
 各分野の専門家の著述なので、現在の歴史学の成果なのだろう。文章は読みにくいわけではないが、各章ごとに違う人が書いているためか、読みやすくない。

本の紹介―裁かれた戦争犯罪 イギリスの対日戦犯裁判2019年03月20日

  
林博史/著『裁かれた戦争犯罪 イギリスの対日戦犯裁判』(2014/10) 岩波人文書セレクション
  
 本書は1998年に出版された本の新版。
 この本が出版されるまで、日本では、BC級戦犯の話は戦犯の主張のみが紹介されることがほとんどだった。「俺は悪くない」「日本は悪くない」そんな証言になるのに決まっていた。
 そのような状況の中、本書は、イギリスにおける日本軍人のBC級裁判の記録を調査して、原告側の言い分、被告側の言い分、証人の証言、判決を公平に検討することにより、日本の戦争犯罪を明白にしている。
 「日本人は立派だ」と根拠なく思いたい人や、事実を捏造したい人にとって、本書は不満かもしれないが、史実は史実として学問の成果として正しい知識を持つことは必要だろう。
 本書は、イギリスに裁かれた日本軍人のBC級戦犯の話であるが、以下の本ではもう少し幅広くBC級戦犯を扱っている。
 林博史/著『BC級戦犯裁判 (岩波新書) 2005/6』

本-アイヌ民族抵抗史2019年03月21日


新谷行/著『アイヌ民族抵抗史』河出書房新社 (2015/5)
 
本書は1970年代に出版された本の復刻版
 
著者は、和人であるが、アイヌ部落のそばで育ち、アイヌの悲惨な状況を目の当たりに育ってきたようだ。
 
 本書の内容は、シャクシャインの乱やクナシリメナシの戦いなど、アイヌが和人に抵抗してきた歴史を扱っている。本書が出版される以前は、アイヌの歴史に対する関心は乏しく参考文献も少なかったので、アイヌの歴史を明らかにした点で、本書には歴史的な価値がある。しかし、本書に書かれた内容がそのまま史実かと言うとそういうことではなく、著者の主観によるフィクションや史実とは言えない伝承がかなり混ざっている。
 本書以降、アイヌ史への関心が高まり、いろいろな本が出版されているので、アイヌ史を理解する目的としては、本書は必要ないだろう。

本の紹介ー解剖 加計学園問題2019年03月22日

 
朝日新聞加計学園問題取材班/著『解剖 加計学園問題』岩波書店 (2018/12)
  
大変読みやすく、この問題の経緯がよくまとめられている。ただし、朝日新聞で既報の内容が多いので、朝日新聞を購読している人には、特に新味は感じられない。

本ー21世紀の戦争と平和2019年03月23日


孫崎享/著『21世紀の戦争と平和』徳間書店 (2016/6)

 高校生など、若い人に向けて書いているように感じる。
 著者は、元外交官で、国際問題の解決には外交の重要性が持論。安倍政権のタカ派的言動は外交交渉よりも力で押し通す面があるため、安倍政権の方針には否定的だ。また、アメリカ従属の日本外交にも否定的。

* * * * * *

<< 2019/03 >>
01 02
03 04 05 06 07 08 09
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

RSS