トムラウシ山遭難考(18)―遭難の原因と責任 ― 2010年07月14日
2009年7月16日、北海道大雪山系トムラウシ山で、高齢者ツアー登山パーティーの大量遭難事故があった。事故原因について、各方面でいろいろと検討されている。この中で、いちばん詳細な検討がなされているのは、トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」で、今年の3月初めに作成・公開されている。(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)
当Blogでも、本遭難事故について多少の言及し、これまでの検討で、以下の3点を明らかにした。
①気象条件:
遭難当日は、強風・低温ではあるが、大雪山系や北アルプス、富士山などでは珍しくない気象条件だった。同様な気象条件で、多くの登山者が、普通に登山している。また、この程度の風雨下での待機・休息は、日本の夏山では普通に行われている。
②防寒用着衣:
強風が体温低下に及ぼす影響は、防寒用着衣に大きく関係する。一般に、普通の風で問題ない防寒着衣であるならば、強風でも、それほど低体温症になることはないと考えられる。しかし、着衣不良の場合、強風は低体温症の主要原因になりうる。
③防水・防風用着衣
ゴアテックスの雨具は、耐水・防風性能に優れているので、生地を通した漏水や風の侵入は考えられないが、着衣不良の場合は、濡れや風の侵入が起こる。着衣が濡れた場合は急激に体温を奪われる。
以上の観点で、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」を見ると、『風雨下での長い待機が低体温症を発症した(P61)』とまことしやかなことが書かれている。トムラウシ遭難当時の天候は、気温5℃、風速20m程度なのだから、これは、気温5℃のときに時速72kmでバイクに乗っている状況と類似している。まともな着衣ならば、低体温症になるような気象状況でないことは、常識的にも容易にわかるだろう。
「トムラウシ山遭難事故調査報告書」では、遭難原因に対して『体温を下げる最大の要因は「風の強さ」にある(P61)』としているため、『中止またはビバークが最適(P61)』との結論を出し、さらに、この見解に基づいて、ガイドが当日登山を決定した責任に言及し、さらに、『ガイドのスキルアップとガイド組織の見直し(P44,45)』を提言している。しかし、当時、この山域として珍しい気象状況ではなく、同様の気象状況で普通に登山がおこなわれているので、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言は、類似の遭難事故防止のための提言として適切とは言えない。
注意
トムラウシ遭難の多くの検証では、風の影響を風速1mあたり‐1℃とする極めて簡易な手法を使用している。これは、おおむね裸体の状態の推定法であるが、風の影響は着衣に顕著に依存するので、実際に着衣がある場合の推定としては、著しく正確さを欠く。このため、着衣を考慮した伝熱計算を行う必要がある。
人間の形は複雑で、着衣も重ね着をしていること、体の部位により着衣が異なることなど、複雑な要因が多い。しかし、複雑な状況を取り込んだ計算は難しいので、簡単な計算手法として、断熱材で被覆された等温円柱の熱伝達の理論から、着衣の影響を考慮した。
本来は、遭難者の着衣や形状を考慮して、より詳細な伝熱解析を行う必要がある。このような計算は、コンピュータを使えば容易にできるが、専用ソフトが必要なことと、計算技術が必要なことがあって、一般には計算サービス会社に計算を委託するが、それなりの費用が必要となる。
私の計算は、単純すぎるので、より詳細な計算が必要であると思う人は、ぜひとも、詳細な計算を行っていただきたい。
もう少しコメントすると、本職がコンピュータ数値解析で、かなり昔に、六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物の伝熱解析に携わったこともあり、一般の人よりも、伝熱解析については、詳しいつもりです。現在は、樹脂の流動解析を行っており、液体や固体の伝熱解析が多いのですが、気体による冷却解析も多少、行っています。今回の簡易計算は、人体を円柱として着衣を均一の断熱材に置き換えました。これまでの経験と勘でそれほど違わないように思います。
トムラウシ山遭難事故の直接の原因は「低体温症」であるが、低体温症に至った原因は、以下の3点に分けられる。
a)気象条件
b)不十分な着衣
c)登山技術の問題
a)「気象条件」について:
この山域では珍しくない天候ではあるが、好天とは言えない天候だったので、登山経験が乏しい者にとっては、多少過酷な状況だったのかもしれない。
b)「不十分な着衣」について:
当然のことであるが、着衣が不十分、あるいは不良な着用の場合は、低体温症になりうる。
今回、遭難パーティー登山者の着衣がどのようなものだったのか、また、ザックにどのような防寒具を持っていたのか、明らかになっていないので詳しいことはわからない。
可能性としては「①防寒具を持っていなかった」「②持っていたけれど濡らすなどして使えなかった」「③持っていたけれど使わなかったために低体温症になった」の3つが考えられる。
同日、同コースを登山して1名が低体温症になった別パーティーの話では、低体温症になった登山者は、ザックにダウンジャケットを持っていたにもかかわらずそれを使用せずに低体温症になり、ダウンジャケットを着用して低体温症が治ったとのことであるので、今回の遭難パーティーも「防寒具を持っていたけれど使わなかったために低体温症になった」のかもしれない。
c)「登山技術の問題」について:
低体温症は疲労凍死と言われていたことがある。疲労が低体温症に何らかの関係があるのかもしれない。今回の遭難パーティーは通称ロックガーデンの通過で、何度も転倒している者もおり、相当な疲労をした可能性がある。
また、北沼の水があふれて登山道が一部水没していたために、深さ数十センチ、幅2mを渡渉する必要があった。このような場合、思い切って渡ると大したことないのだが、おっかなびっくり時間をかけて渡ると、冷たい水で体温を奪われる。今回の遭難パーティーは渡渉後に異常をきたしたものが多いので、何らかの関係があるのかもしれない。
次に、今回の遭難の責任について。
遭難の原因は単一ではない。それぞれの原因によって、責任の所在も異なる。
a)気象条件
特別に尋常でない気象条件で起こった災害の場合は、誰も予見不可能なので、不可抗力である。
今回の遭難は、この山域としては、毎年、何回か起こっている気象条件なので、この程度の気象条件を予見できなかったら、添乗員や道案内人の過失である。もし、遭難の原因が気象条件にあるのだとしたら、ガイドとしての欠陥であり、刑事上の責任も免れないだろう。また、もし、遭難の原因が気象条件にあるのだとしたら、著しく能力の劣った者をガイドとして雇った旅行会社側にも、過失責任の可能性がある。
添乗員には旅行業法に基づき旅程を守る義務が課されているので、正当な理由なく、日程を変更したり行程を短縮することは許されていません。旅行会社から日程を守るように指導されていることもあって、添乗員には日程を変更したくない気持ちがあるそうです。このため、旅行会社に縛られている添乗員の地位が遭難につながるとの意見もありますが、今回の遭難では、添乗員やガイドには気象条件等による旅行の危険性の認識がないので、今回の遭難には旅行会社との力関係の問題は無関係です。
今回の遭難では、ガイドは何の躊躇もなく小屋を出発しており、尾根に出て風が強いことが分かった後も、そのまま登山を続行している。当時の気候では、登山に支障がないと思っていたのだろう。
b)不十分な着衣
防寒のための衣料は、登山客が用意することになっていたので、登山客は自分の所有物である防寒具を所持していた。登山客の所有物であるので、その管理や着用は登山客にゆだねられている。もし、「持っていたけれど濡らすなどして使えなかった」「持っていたけれど使わなかったために低体温症になった」などが遭難の原因ならば、その責任は登山客自身にあることになるだろう。
遭難事故から無事生還した登山客の中には、ガイドが着衣の指示をしなかったために、薄着の登山客が低体温症になったと、ガイドの過失であるかのような言説がありました。しかし、防寒着衣は登山客の所有物なので、着脱は登山客の意志で行われ、ガイドに指図する権利はありません。このため、「ガイドが着衣の指示をしなかったために、薄着の登山客が低体温症になった」のならば、登山客の責任でしょう。ただし、自分で衣服の着脱管理ができない痴呆老人がツアー客の場合は、ツアー会社側は、痴呆老人に対して衣服の着脱介護の必要があります。
c)登山技術の問題
たとえツアー登山であっても、自分の足で歩かなくてはならないのだから、登山に十分な体力・技術が必要であることは明らかだ。しかし、今回の遭難と登山技術がどのように関係しているのか分からないので、何とも言えない。
d)低体温症
今回の遭難の直接の原因は「低体温症」であるが、低体温症に関して、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」に次の記述がある。
『今回の生存者の中で明らかに低温体温症になったと思われる者の発症および進行が、同一ではなかったということは特記しておきたい。疲労度、体表面積、体重、体力などの個体差による違いがあるにしても、山で起こり得る偶発性低体温症の症状の出現、進行度に関しては、教科書を塗り替える必要があると思われた。(P61)』
低体温症について医学界でも解明されていないとしたならば、ガイドや登山客に「症状の出現、進行度」に対する知識がなかったとしても、仕方がないだろう。低体温症の発症や発症後の手当てに対して、一般に言われる処置を施しているならば、ガイドたちには、過失責任はない。
当Blogでも、本遭難事故について多少の言及し、これまでの検討で、以下の3点を明らかにした。
①気象条件:
遭難当日は、強風・低温ではあるが、大雪山系や北アルプス、富士山などでは珍しくない気象条件だった。同様な気象条件で、多くの登山者が、普通に登山している。また、この程度の風雨下での待機・休息は、日本の夏山では普通に行われている。
②防寒用着衣:
強風が体温低下に及ぼす影響は、防寒用着衣に大きく関係する。一般に、普通の風で問題ない防寒着衣であるならば、強風でも、それほど低体温症になることはないと考えられる。しかし、着衣不良の場合、強風は低体温症の主要原因になりうる。
③防水・防風用着衣
ゴアテックスの雨具は、耐水・防風性能に優れているので、生地を通した漏水や風の侵入は考えられないが、着衣不良の場合は、濡れや風の侵入が起こる。着衣が濡れた場合は急激に体温を奪われる。
以上の観点で、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」を見ると、『風雨下での長い待機が低体温症を発症した(P61)』とまことしやかなことが書かれている。トムラウシ遭難当時の天候は、気温5℃、風速20m程度なのだから、これは、気温5℃のときに時速72kmでバイクに乗っている状況と類似している。まともな着衣ならば、低体温症になるような気象状況でないことは、常識的にも容易にわかるだろう。
「トムラウシ山遭難事故調査報告書」では、遭難原因に対して『体温を下げる最大の要因は「風の強さ」にある(P61)』としているため、『中止またはビバークが最適(P61)』との結論を出し、さらに、この見解に基づいて、ガイドが当日登山を決定した責任に言及し、さらに、『ガイドのスキルアップとガイド組織の見直し(P44,45)』を提言している。しかし、当時、この山域として珍しい気象状況ではなく、同様の気象状況で普通に登山がおこなわれているので、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言は、類似の遭難事故防止のための提言として適切とは言えない。
注意
トムラウシ遭難の多くの検証では、風の影響を風速1mあたり‐1℃とする極めて簡易な手法を使用している。これは、おおむね裸体の状態の推定法であるが、風の影響は着衣に顕著に依存するので、実際に着衣がある場合の推定としては、著しく正確さを欠く。このため、着衣を考慮した伝熱計算を行う必要がある。
人間の形は複雑で、着衣も重ね着をしていること、体の部位により着衣が異なることなど、複雑な要因が多い。しかし、複雑な状況を取り込んだ計算は難しいので、簡単な計算手法として、断熱材で被覆された等温円柱の熱伝達の理論から、着衣の影響を考慮した。
本来は、遭難者の着衣や形状を考慮して、より詳細な伝熱解析を行う必要がある。このような計算は、コンピュータを使えば容易にできるが、専用ソフトが必要なことと、計算技術が必要なことがあって、一般には計算サービス会社に計算を委託するが、それなりの費用が必要となる。
私の計算は、単純すぎるので、より詳細な計算が必要であると思う人は、ぜひとも、詳細な計算を行っていただきたい。
もう少しコメントすると、本職がコンピュータ数値解析で、かなり昔に、六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物の伝熱解析に携わったこともあり、一般の人よりも、伝熱解析については、詳しいつもりです。現在は、樹脂の流動解析を行っており、液体や固体の伝熱解析が多いのですが、気体による冷却解析も多少、行っています。今回の簡易計算は、人体を円柱として着衣を均一の断熱材に置き換えました。これまでの経験と勘でそれほど違わないように思います。
トムラウシ山遭難事故の直接の原因は「低体温症」であるが、低体温症に至った原因は、以下の3点に分けられる。
a)気象条件
b)不十分な着衣
c)登山技術の問題
a)「気象条件」について:
この山域では珍しくない天候ではあるが、好天とは言えない天候だったので、登山経験が乏しい者にとっては、多少過酷な状況だったのかもしれない。
b)「不十分な着衣」について:
当然のことであるが、着衣が不十分、あるいは不良な着用の場合は、低体温症になりうる。
今回、遭難パーティー登山者の着衣がどのようなものだったのか、また、ザックにどのような防寒具を持っていたのか、明らかになっていないので詳しいことはわからない。
可能性としては「①防寒具を持っていなかった」「②持っていたけれど濡らすなどして使えなかった」「③持っていたけれど使わなかったために低体温症になった」の3つが考えられる。
同日、同コースを登山して1名が低体温症になった別パーティーの話では、低体温症になった登山者は、ザックにダウンジャケットを持っていたにもかかわらずそれを使用せずに低体温症になり、ダウンジャケットを着用して低体温症が治ったとのことであるので、今回の遭難パーティーも「防寒具を持っていたけれど使わなかったために低体温症になった」のかもしれない。
c)「登山技術の問題」について:
低体温症は疲労凍死と言われていたことがある。疲労が低体温症に何らかの関係があるのかもしれない。今回の遭難パーティーは通称ロックガーデンの通過で、何度も転倒している者もおり、相当な疲労をした可能性がある。
また、北沼の水があふれて登山道が一部水没していたために、深さ数十センチ、幅2mを渡渉する必要があった。このような場合、思い切って渡ると大したことないのだが、おっかなびっくり時間をかけて渡ると、冷たい水で体温を奪われる。今回の遭難パーティーは渡渉後に異常をきたしたものが多いので、何らかの関係があるのかもしれない。
次に、今回の遭難の責任について。
遭難の原因は単一ではない。それぞれの原因によって、責任の所在も異なる。
a)気象条件
特別に尋常でない気象条件で起こった災害の場合は、誰も予見不可能なので、不可抗力である。
今回の遭難は、この山域としては、毎年、何回か起こっている気象条件なので、この程度の気象条件を予見できなかったら、添乗員や道案内人の過失である。もし、遭難の原因が気象条件にあるのだとしたら、ガイドとしての欠陥であり、刑事上の責任も免れないだろう。また、もし、遭難の原因が気象条件にあるのだとしたら、著しく能力の劣った者をガイドとして雇った旅行会社側にも、過失責任の可能性がある。
添乗員には旅行業法に基づき旅程を守る義務が課されているので、正当な理由なく、日程を変更したり行程を短縮することは許されていません。旅行会社から日程を守るように指導されていることもあって、添乗員には日程を変更したくない気持ちがあるそうです。このため、旅行会社に縛られている添乗員の地位が遭難につながるとの意見もありますが、今回の遭難では、添乗員やガイドには気象条件等による旅行の危険性の認識がないので、今回の遭難には旅行会社との力関係の問題は無関係です。
今回の遭難では、ガイドは何の躊躇もなく小屋を出発しており、尾根に出て風が強いことが分かった後も、そのまま登山を続行している。当時の気候では、登山に支障がないと思っていたのだろう。
b)不十分な着衣
防寒のための衣料は、登山客が用意することになっていたので、登山客は自分の所有物である防寒具を所持していた。登山客の所有物であるので、その管理や着用は登山客にゆだねられている。もし、「持っていたけれど濡らすなどして使えなかった」「持っていたけれど使わなかったために低体温症になった」などが遭難の原因ならば、その責任は登山客自身にあることになるだろう。
遭難事故から無事生還した登山客の中には、ガイドが着衣の指示をしなかったために、薄着の登山客が低体温症になったと、ガイドの過失であるかのような言説がありました。しかし、防寒着衣は登山客の所有物なので、着脱は登山客の意志で行われ、ガイドに指図する権利はありません。このため、「ガイドが着衣の指示をしなかったために、薄着の登山客が低体温症になった」のならば、登山客の責任でしょう。ただし、自分で衣服の着脱管理ができない痴呆老人がツアー客の場合は、ツアー会社側は、痴呆老人に対して衣服の着脱介護の必要があります。
c)登山技術の問題
たとえツアー登山であっても、自分の足で歩かなくてはならないのだから、登山に十分な体力・技術が必要であることは明らかだ。しかし、今回の遭難と登山技術がどのように関係しているのか分からないので、何とも言えない。
d)低体温症
今回の遭難の直接の原因は「低体温症」であるが、低体温症に関して、「トムラウシ山遭難事故調査報告書」に次の記述がある。
『今回の生存者の中で明らかに低温体温症になったと思われる者の発症および進行が、同一ではなかったということは特記しておきたい。疲労度、体表面積、体重、体力などの個体差による違いがあるにしても、山で起こり得る偶発性低体温症の症状の出現、進行度に関しては、教科書を塗り替える必要があると思われた。(P61)』
低体温症について医学界でも解明されていないとしたならば、ガイドや登山客に「症状の出現、進行度」に対する知識がなかったとしても、仕方がないだろう。低体温症の発症や発症後の手当てに対して、一般に言われる処置を施しているならば、ガイドたちには、過失責任はない。
トムラウシ山遭難考(19)―遭難の原因 ― 2010年07月15日
2009年7月16日、北海道大雪山系トムラウシ山で、高齢者ツアー登山パーティーの大量遭難事故があった。事故原因について、各方面でいろいろと検討されている。
本Blogでは遭難原因として考えられる要素には以下の3つがあることを指摘した。
a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術の問題
このうち、当時の気象条件は、この山域では珍しくない天候であったことが明らかになっているが、それ以外の、着衣や登山技術については、必ずしも明らかになっていない。
山と渓谷2010年2月号に、最初の遭難現場となった北沼周辺の様子について以下の記述がある。
2010年2月27日に神戸で「トムラウシ遭難事故を考える シンポジウム」が開かれた。このなかで、日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構の青山千彰氏は、次の主張をしているが、待機中の健康管理は、メンバーの常識と思うが、そうではないとの考えもあるのだろうか。
言葉ではこうなるのだけれど、待機中に寒ければ、誰だって服を着て、防寒すると思うのだけれど。どうして着なかったのでしょう。防寒着を持っていなかったのかなー。濡らして使えなかったのかなー。寒さに気付かないうちに低体温症になったのかなー。どうしても、このところが分からないのです。どなた様かご存知でしたら教えてください。
ただし、この記述は良く読むと、非常に奇妙で重要な内容を含んでいる。風が強いところで待機する場合、普通の人は、身体が少し弱そうな人の風よけになるなど、他の人に多少の配慮をするだろうから、風の影響はそれほど大きくなかったはずである。長時間の待機が低体温症の原因ならば、風とはまた違った要因があったのだろうか。それとも、登山メンバーは極端に自己中心的だったために、身体が弱そうな人に配慮することがなかったのだろうか。
それから細かいことであるが、同じシンポジウムで、船木上総(苫小牧東病院副院長)氏の低体温症に対する説明には、誤りがある。単なる、ミスライティングと思われるが、誤解のないように。
本Blogでは遭難原因として考えられる要素には以下の3つがあることを指摘した。
a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術の問題
このうち、当時の気象条件は、この山域では珍しくない天候であったことが明らかになっているが、それ以外の、着衣や登山技術については、必ずしも明らかになっていない。
山と渓谷2010年2月号に、最初の遭難現場となった北沼周辺の様子について以下の記述がある。
北沼周辺 北沼からは水が溢れ出し、沢のようになっていた。川幅は約2mほどで、流れの真ん中に多田ガイドが立ち、渡る人をサポートした。幅2mの流れを渡るのに、普通は5秒もあれば十分だろう。十数人が渡るのに、1~2分ぐらいか。ところが、証言者の前田さんは「待っていたのでは、いつになるかわからない」ため、自分で渡ったと言っている。なぜ、ここで時間がかかったのだろう。女子高生だったら、冷たい水に入った瞬間に「つめたーい、こんなのわたれないー、きゃー、たすけてー」と大騒ぎをして、可愛い子ぶって、周りの関心を誘おうとすることもあるだろうけれど。北沼の水は冷たかったはずで、渡渉に時間を費やして、水中に長時間いたら、低体温症になることもあるだろう。低体温症の発症は、わずか2mの流れの渡渉に時間を費やしたことと、関係がありそうだ。
「ガイドさんの手を借りて渡らせてもらうのを、皆さん待っていた。それを待っていたのでは、いつになるかわからないし、ものすごく体が冷えるので、自分で流れの中にじゃぶじゃぶ入っていって渡ってしまった」(前田)
・・・
その後、どうにか全員が流れを渡り終えたが、行動を再開しようとしたときにアクシデントが勃発する。女性客(68歳)が低体温症で動けなくなってしまったのだ。3人のガイドがその介抱にあたっている間、ほかの参加者は吹きさらしの場所でずっと待機させられていた。その間にほかの女性客(62歳)が嘔吐し、続けて意味不明の奇声を発し始めた。(山と渓谷2010年2月号P174)
2010年2月27日に神戸で「トムラウシ遭難事故を考える シンポジウム」が開かれた。このなかで、日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構の青山千彰氏は、次の主張をしているが、待機中の健康管理は、メンバーの常識と思うが、そうではないとの考えもあるのだろうか。
トムラウシ事故後、参加者を評して「依存度が高過ぎる、最終的に自己責任が基本となる認識が不足していたのでは?」との声が良く聞かれた。しかし、この声は「低体温症の原因となった長時間の待機中、ガイドからの指示が全く出されなかった際も、自己責任で乗り切るべきであった」と言いたいのであろうか。主催者側に、あまりにも都合の良い論理のような気がする。(シンポジウム資料)登山は歩くものだけれど、休息することも、食事をすることもとある。停滞時には発熱が減り、若干寒くなる。こういう場合は、少し厚着をしたり、体操したりして寒さを防ぐ。登山でなくても、当たり前のことではないか。もし、防寒具はツアー側で用意することになっているならば、ガイドは休息・待機の時には防寒具を与えないといけないけれど、今回のツアー登山では防寒具はツアー客が持ってゆくことになっていたので、ツアー客は自分の防寒具を使用すべきだった。
言葉ではこうなるのだけれど、待機中に寒ければ、誰だって服を着て、防寒すると思うのだけれど。どうして着なかったのでしょう。防寒着を持っていなかったのかなー。濡らして使えなかったのかなー。寒さに気付かないうちに低体温症になったのかなー。どうしても、このところが分からないのです。どなた様かご存知でしたら教えてください。
ただし、この記述は良く読むと、非常に奇妙で重要な内容を含んでいる。風が強いところで待機する場合、普通の人は、身体が少し弱そうな人の風よけになるなど、他の人に多少の配慮をするだろうから、風の影響はそれほど大きくなかったはずである。長時間の待機が低体温症の原因ならば、風とはまた違った要因があったのだろうか。それとも、登山メンバーは極端に自己中心的だったために、身体が弱そうな人に配慮することがなかったのだろうか。
それから細かいことであるが、同じシンポジウムで、船木上総(苫小牧東病院副院長)氏の低体温症に対する説明には、誤りがある。単なる、ミスライティングと思われるが、誤解のないように。
対流対流には、空気の流れが遅い層流と、空気の流れが速い乱流があるが、表面温度一定の場合、層流の熱の喪失は風速の1/3乗に比例し、乱流では0.8乗に比例する。人体の場合はたとえ裸体であっても皮下脂肪などの断熱材があるので、乱流伝熱であっても、せいぜい0.5乗程度だろう。
風がある場合⇒対流が生じる
対流は温度差と空気の動く速度によってきまる
熱の喪失量 風速の2乗に大体比例(シンポジウム資料)
トムラウシ山遭難考(20)―携帯電話 ― 2010年07月16日
2009年7月16日、トムラウシ山で高齢者ツアー登山の大量遭難事故がありました。あれから、ちょうど一年。
事故当初、現場からは携帯電話が通じるにもかかわらず、救助要請がなされなかったとの報道がありましたが、その後の調べで、携帯電話は通じなかったことが確認されています。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている。(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)
この中に、携帯電話について、信じがたい記述がある。
携帯電話が通じた日があったからと言って、別な日に通じるかと言うと、そういうものでもないでしょう。電波の減衰状況は空気水蒸気量に依存し、遠くまで伝わるかどうかは、水蒸気密度や温度の鉛直方向分布に依存するので、携帯電話の電波状況を見極めることは一般に困難です。
登山では『以前大丈夫だったから今回も大丈夫だろう』との安易な判断が一番いけない。
もし、携帯電話を使うのならば、携帯電話会社に圏内かどうか尋ねる必要があります。
事故を起こしたアミューズトラベルの「トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言を受けての取り組みでは、この点、もう少しまともに検討しています。(http://www.amuse-travel.co.jp/torikumi.htm)
事故当初、現場からは携帯電話が通じるにもかかわらず、救助要請がなされなかったとの報道がありましたが、その後の調べで、携帯電話は通じなかったことが確認されています。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている。(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)
この中に、携帯電話について、信じがたい記述がある。
南沼周辺は広い大地でキャンプ場があり、木造の簡易トイレもある。我々はここから東京へ携帯電話をかけてみたが、明瞭に話すことができた。救助要請はここから可能だったのでは? …
このコースを歩いてみて感じたことは、次のとおりである。…⑤危急時の連絡方法を知っておく必要がある(携帯電話の通じる場所を事前にチェックしておく、など)。(金田正樹・記)(P32,33)
携帯電話が通じた日があったからと言って、別な日に通じるかと言うと、そういうものでもないでしょう。電波の減衰状況は空気水蒸気量に依存し、遠くまで伝わるかどうかは、水蒸気密度や温度の鉛直方向分布に依存するので、携帯電話の電波状況を見極めることは一般に困難です。
登山では『以前大丈夫だったから今回も大丈夫だろう』との安易な判断が一番いけない。
もし、携帯電話を使うのならば、携帯電話会社に圏内かどうか尋ねる必要があります。
事故を起こしたアミューズトラベルの「トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言を受けての取り組みでは、この点、もう少しまともに検討しています。(http://www.amuse-travel.co.jp/torikumi.htm)
テント泊ツアーでは「衛星電話」を携行させ連絡体制を確立し、ラジオを携行させます。でも、こういうことって、本来は、携帯電話会社が啓蒙すべきことです。
・・・
また、ほとんどのツアー登山では、通常数時間~半日程度、携帯電話(衛星電話を含む)が通じないリスクがあることを参加者にご理解いただくように啓蒙して参ります。
トムラウシ山遭難考-気象遭難なのでしょうか? ― 2010年07月19日
2009年7月16日、トムラウシ山で高齢者ツアー登山の大量遭難事故がありました。遭難原因は、低温・強風・少雨の天候のため低体温症を起こして凍死したものです。
当時の気温は5℃~8℃程度で、風速20m/sの強風が吹き荒れていました。この天候がどれくらいすごいものかを、夏の富士山と比較してみます。(出典は理科年表1994年版)
富士山の風速(1965年~1990年の平均)
最大風速10m/s以上の日数 7月 20.4日、8月 17.2日
最大風速15m/s以上の日数 7月 10.8日、8月 8.8日
最大風速29m/s以上の日数 7月 0.3日、8月 1.2日
富士山の最大風速(1932年~1992年)
5月 56.7m/s 6月 57.9m/s
7月 55.9m/s 8月 62.3m/s
富士山の気温(1965年~1990年の平均)
平均気温5℃以上の日数 7月 13.0日、8月 22.3日
平均気温5℃未満の日数 7月 18.0日、8月 8.7日
最低気温0℃未満の日数 7月 4.6日、8月 1.3日
富士山の最低気温(1932年~1992年)
7月 -6.9℃ 8月 -4.3℃
以上のデータから、トムラウシ山遭難時の気候は、富士山では特に珍しくないことが分かります。おそらく、北アルプスの真夏にも、普通に起こっている気象条件です。
北海道大雪山系の登山者は少ないけれど、北アルプスや富士山の登山者は多いので、トムラウシ山遭難と類似の気象条件で低体温症を発症するとなると、たいへんな遭難者数になる恐れがあります。トムラウシ山の遭難が気象条件が原因であるならば、北アルプスや富士山での、入山禁止を含めた、遭難防止対策が急務です。登山者の装備不良が原因だったとするならば、装備に対する啓蒙活動が必要です。
注意)
首都圏JR京葉線は風速25m/sで運休になります。2009年度は、25m/s以上の強風が約70回観測され、運行中止は10回、延べ約40時間に上りました。また、風速20m/s以上だと徐行運転になります。
当時の気温は5℃~8℃程度で、風速20m/sの強風が吹き荒れていました。この天候がどれくらいすごいものかを、夏の富士山と比較してみます。(出典は理科年表1994年版)
富士山の風速(1965年~1990年の平均)
最大風速10m/s以上の日数 7月 20.4日、8月 17.2日
最大風速15m/s以上の日数 7月 10.8日、8月 8.8日
最大風速29m/s以上の日数 7月 0.3日、8月 1.2日
富士山の最大風速(1932年~1992年)
5月 56.7m/s 6月 57.9m/s
7月 55.9m/s 8月 62.3m/s
富士山の気温(1965年~1990年の平均)
平均気温5℃以上の日数 7月 13.0日、8月 22.3日
平均気温5℃未満の日数 7月 18.0日、8月 8.7日
最低気温0℃未満の日数 7月 4.6日、8月 1.3日
富士山の最低気温(1932年~1992年)
7月 -6.9℃ 8月 -4.3℃
以上のデータから、トムラウシ山遭難時の気候は、富士山では特に珍しくないことが分かります。おそらく、北アルプスの真夏にも、普通に起こっている気象条件です。
北海道大雪山系の登山者は少ないけれど、北アルプスや富士山の登山者は多いので、トムラウシ山遭難と類似の気象条件で低体温症を発症するとなると、たいへんな遭難者数になる恐れがあります。トムラウシ山の遭難が気象条件が原因であるならば、北アルプスや富士山での、入山禁止を含めた、遭難防止対策が急務です。登山者の装備不良が原因だったとするならば、装備に対する啓蒙活動が必要です。
注意)
首都圏JR京葉線は風速25m/sで運休になります。2009年度は、25m/s以上の強風が約70回観測され、運行中止は10回、延べ約40時間に上りました。また、風速20m/s以上だと徐行運転になります。
トムラウシ山遭難考(21)-まとめ1 ― 2010年07月20日
2009年7月16日、トムラウシ山で高齢者ツアー登山の大量遭難事故があった。登山客15人、ツアースタッフ3人のパーティーのうち8人が低体温症で凍死した未曽有の大惨事だった。
行動途中に、歩けなくなった人が出たら、ガイド1人とともにそこに残して、他のものはそのまま行動。このくりかえしで3人のガイドがいなくなると、他のものは、歩けなくなったものを残して、先に進む。多数の死者を出しながら、生存者が、三々五々、下山してくるのが不思議でならなかった。
事故当時、次のようなことが言われた。
『ガイドらの携帯電話が通じる状態だったにもかかわらず、救助要請がないままツアーが続行されていた』
『防風雨の中、登山を強行した』
『全員が下着までずぶ濡れになった』
『当時は、体感温度マイナス15度だった』
これらの情報は、常識と反しており、かなり怪しいと思ったが、その後の調べで、以下のことが明らかになっている。
①携帯電話は圏外で通じなかった。
②当時の天候は強風・少雨で、この山域や北アルプスなどでは、特に珍いものではなかった。
③全員が下着までずぶ濡れになった事実はなく、低体温症になり、その後生還した者は濡れていなかったこと証言している。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。この報告書によれば、”体感温度マイナス15度”とは、裸体のときの状況であって、実際に着衣がある場合はこれとは異なる事が分かる。しかし、報告書には、実際の着衣をもとに、どの程度の体感温度になっていたのかの検討はなされていない。
このため、本Blogでは、簡易モデルを使って、着衣がある場合の体感温度の検討をした。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2010/07/08/5205609 )
その結果、『当時の気温、通常の風速(5m/sec)で低体温症にならないような十分な着衣をしていれば、強風(20m/sec)でも1時間程度で低体温症になることはないが、着衣不良・着衣不十分の場合、強風は低体温症の決定的要因になる』ことを確認した。すなわち、強風が低体温症の主要因との判断は誤りであり、着衣との関連が重要であることを確認した。
本遭難における低体温症の原因は以下の3つの複合要因と思われる。
a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術・体力の問題
ただし、遭難者の実際の装備・着衣が明らかになっていないので、詳しいことは分からない。
遭難当時のトムラウシ山と同様な気象条件は、北アルプスや富士山でも、ひと夏に数日は起こっているはずであるが、多くの登山者は問題なく登山している。しかし、一部には装備不良や技術・体力不足の登山者もいると思われる。こういう人も、北アルプスや富士山では山小屋が多いので、遭難に至らずに済んでいるのだろう。
注意)遭難当時のトムラウシ山の気候は、北アルプスや富士山の夏でもそれほど珍しい気候ではないけれど、平地の夏ではありえない寒さです。東京の真冬の一番寒い時に匹敵するほどなので、夏の低山や好天の北アルプスをイメージしていたら、とんでもないことになります。
以下、続きを後日書きます
行動途中に、歩けなくなった人が出たら、ガイド1人とともにそこに残して、他のものはそのまま行動。このくりかえしで3人のガイドがいなくなると、他のものは、歩けなくなったものを残して、先に進む。多数の死者を出しながら、生存者が、三々五々、下山してくるのが不思議でならなかった。
事故当時、次のようなことが言われた。
『ガイドらの携帯電話が通じる状態だったにもかかわらず、救助要請がないままツアーが続行されていた』
『防風雨の中、登山を強行した』
『全員が下着までずぶ濡れになった』
『当時は、体感温度マイナス15度だった』
これらの情報は、常識と反しており、かなり怪しいと思ったが、その後の調べで、以下のことが明らかになっている。
①携帯電話は圏外で通じなかった。
②当時の天候は強風・少雨で、この山域や北アルプスなどでは、特に珍いものではなかった。
③全員が下着までずぶ濡れになった事実はなく、低体温症になり、その後生還した者は濡れていなかったこと証言している。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。この報告書によれば、”体感温度マイナス15度”とは、裸体のときの状況であって、実際に着衣がある場合はこれとは異なる事が分かる。しかし、報告書には、実際の着衣をもとに、どの程度の体感温度になっていたのかの検討はなされていない。
このため、本Blogでは、簡易モデルを使って、着衣がある場合の体感温度の検討をした。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2010/07/08/5205609 )
その結果、『当時の気温、通常の風速(5m/sec)で低体温症にならないような十分な着衣をしていれば、強風(20m/sec)でも1時間程度で低体温症になることはないが、着衣不良・着衣不十分の場合、強風は低体温症の決定的要因になる』ことを確認した。すなわち、強風が低体温症の主要因との判断は誤りであり、着衣との関連が重要であることを確認した。
本遭難における低体温症の原因は以下の3つの複合要因と思われる。
a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術・体力の問題
ただし、遭難者の実際の装備・着衣が明らかになっていないので、詳しいことは分からない。
遭難当時のトムラウシ山と同様な気象条件は、北アルプスや富士山でも、ひと夏に数日は起こっているはずであるが、多くの登山者は問題なく登山している。しかし、一部には装備不良や技術・体力不足の登山者もいると思われる。こういう人も、北アルプスや富士山では山小屋が多いので、遭難に至らずに済んでいるのだろう。
注意)遭難当時のトムラウシ山の気候は、北アルプスや富士山の夏でもそれほど珍しい気候ではないけれど、平地の夏ではありえない寒さです。東京の真冬の一番寒い時に匹敵するほどなので、夏の低山や好天の北アルプスをイメージしていたら、とんでもないことになります。
以下、続きを後日書きます
トムラウシ山遭難考(21)-まとめ2 ― 2010年07月21日
前の記事で、本遭難における低体温症の原因は『a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術・体力の問題』3つの複合要因と思われると書いた。気象条件以外、詳しいことが分かっていないので、これら3つがどのように関連して、低体温症になったのか、良く分からない。
朝日新聞の記事に、ちょっと気になる記述がある。
ところで、『トムラウシ山遭難事故調査報告書』"遭難事故パーティ行動概要" には、救助体制に対する反省点が書かれている。
これまでの山岳遭難の常識からすれば、生還して健康な者が捜索に積極的に協力することは当然だったので、捜索側は情報をあえて収集しなかったのだろう。しかし、動作もノロノロのガイドCの様子を見ているはずの男性客C(65歳)は、なぜ、捜索に積極的に協力しなかったのか!
自力下山した戸田氏(男性客Cと同一人物か?)は次のように説明している。
以下、続きを後日書きます
朝日新聞の記事に、ちょっと気になる記述がある。
生存者の証言では、前日も雨の中を16キロ歩いた一行は、ヒサゴ沼避難小屋で衣服がぬれたまま眠るなど疲れ果てていた。・・・昨年のツアーと同じ2泊3日で四十数キロを縦走するコースをたどる登山…に参加した苫小牧東病院の船木上総・副院長は、…メンバーの体温を定期的に測り、天候がよくても疲れなどで体温が低下することを確認した。(2010年7月17日朝日新聞 …は文章を省略したこと、イタリックは追記を示す)疲労は低体温症の原因になるようだ。この文章の言わんとすることは、遭難した人たちが疲れ果てたまま登山をして、低体温症になったということだろうか。登山で縦走すれば疲れるのは当たり前で、疲れをとるために休息する。遭難した一行は、ヒサゴ沼避難小屋で宿泊したのだから、翌朝には疲れは取れていなくてはならない。夜寝ても疲れが取れないのだとしたならば、そういう人は、縦走などしてはならないし、どうしても縦走する場合は、あまり疲れないように、一日の行程を短くする必要がある。ツアー登山に参加した高齢者たちは、各日の行動時間をあらかじめ知っていたので、疲れが取れるかどうか、判断できたはずであるのに、漫然と無理なツアー登山に参加したのだろうか。
ところで、『トムラウシ山遭難事故調査報告書』"遭難事故パーティ行動概要" には、救助体制に対する反省点が書かれている。
前トム平下部 7月16日17時21分この事故は、遭難場所が分かっていたので、遭難救助は迅速にできたはずなのに、捜索開始から6 時間以上もかかったのは、問題である。幸い、ガイドCは一命を取り留めたが、天候次第では絶命していた恐れもある。下山した男性客C(65歳)らの捜索協力がなされていたら遭難地点の確定が迅速に進んだろうに、残念である。
ガイドC(38 歳)の反応は朦朧としており、動作ものろのろだった。一生懸命携帯電話の番号を打つが、さっぱりつながらない。それを見た男性客C(65歳)も叱咤しながら下りていった。
7月17日10時44分
前トム平下部のハイマツの中で倒れていたガイドC(38歳)が登山者に発見され、110番通報される。のちヘリで収容されたが、捜索開始から6 時間以上もかかっている。無事下山した参加者から的確、迅速に情報を収集しておれば遭難地点が確定でき、もっと早く収容できたのではなかろうか。
これまでの山岳遭難の常識からすれば、生還して健康な者が捜索に積極的に協力することは当然だったので、捜索側は情報をあえて収集しなかったのだろう。しかし、動作もノロノロのガイドCの様子を見ているはずの男性客C(65歳)は、なぜ、捜索に積極的に協力しなかったのか!
自力下山した戸田氏(男性客Cと同一人物か?)は次のように説明している。
彼(松本ガイド)は2人が去ってからハイマツ帯にもぐりこみ、翌朝の救援隊を避け最後の行方不明者となり、そのご道の近くに移動して登山客に見つけてもらったのです。救援隊にみつかるのはさけたかったというわけです。じぶんのすいそくですよ。(http://d.hatena.ne.jp/swan_slab/20090806/Survivor)こんな推測をするようでは、捜索への協力を期待することは難しい。なお、『トムラウシ山遭難事故調査報告書』によると、ガイドCは血液検査の結果、低体温症で危険な状態だったことが判明しており、「救援隊に見つかるのは避けたかった」という戸田氏の推測は誤りであることが医学的に確認されている。
以下、続きを後日書きます
トムラウシ山遭難考―松本証言 ― 2010年07月23日
読売新聞に、『「見切り発車だった」…トムラウシ遭難のガイド』との見出しで、以下の記事がある。
『山と渓谷8月号』のインタビュー記事を見ると、遭難被害を拡大した最大の原因は、松本の資質にあるような気がする。旅行会社は「責任ある判断ができる添乗員」「まともなガイド」のほかに、「命令されない限り、まともな行動ができない人」をポーターとして付けたのだろうか。松本がポーターや、サポートをしている限り問題なかったが、添乗員とガイドの2人が遭難者介護で行動できなくなると、松本が登山客を連れて下山することになり、彼の対応のまずさから、パーティーが分裂し、さらに4名の死者を出すことにつながった。
松本証言を読むと『この男に引率は無理』と感じる。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」では、ガイドに対して「広範にわたる登山の知識や技術を、体系的に、実戦的に学び、全体のレベルアップを図る必要がある」としている。しかし、いくら教えても、もともとレベルアップが不可能な人もいる。そういう人はガイドに採用すべきではないとの考えもあるだろうが、ツアー登山には、単なるポーター役の人も必要なので、ツアー登山リーダーにふさわしくない者をスタッフに加えることも有り得るだろう。なお、ツアースタッフ全員がツアー登山リーダーにふさわしい者でなくてはならないと考えるならば、旅行業法を改定して、資格取得を義務付けるべきである。
松本が無能だとしても、登山客の中にも、適切な判断ができるものはいなかったのだろうか。ツアー客に、適切な判断をするべき法的義務はないだろうが、もし、適切な判断をしていれば、被害をもっと少なくすることができたはずで、残念である。無事生還を果たしたツアー客の中には「自分の行動は正しかった」との主張をを繰り返す者がいる。登山は自然を相手にするものなので、いついかなる場合に緊急事態が生じないとも限らない。このようなときには、登山者自身が正しい判断をして、危機を脱することができたほうが良いし、その気持ちが全くない者には、登山は危険である。『客は適切な判断などする必要はない』と思っている人には、登山は止めてほしい。
北海道の大雪山系・トムラウシ山(2141メートル)で東京の旅行会社「アミューズトラベル」が企画した縦走ツアーの参加者ら8人が死亡した遭難事故で、生還した男性ガイド(39)が、雑誌のインタビューに対し、悪天候の中でツアーを続行した判断について「見切り発車だった」と証言していることがわかった。(YOMIURI ONLINE 2010年7月23日09時43分)これは、7月15日に発売された『山と渓谷8月号』に掲載されたインタビュー記事に基づいているが、なぜ今頃、1週間前の雑誌の記事を新聞が載せるのだろう。証言しているトムラウシ遭難のガイドとは、ポーター役の松本である。
『山と渓谷8月号』のインタビュー記事を見ると、遭難被害を拡大した最大の原因は、松本の資質にあるような気がする。旅行会社は「責任ある判断ができる添乗員」「まともなガイド」のほかに、「命令されない限り、まともな行動ができない人」をポーターとして付けたのだろうか。松本がポーターや、サポートをしている限り問題なかったが、添乗員とガイドの2人が遭難者介護で行動できなくなると、松本が登山客を連れて下山することになり、彼の対応のまずさから、パーティーが分裂し、さらに4名の死者を出すことにつながった。
松本証言を読むと『この男に引率は無理』と感じる。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」では、ガイドに対して「広範にわたる登山の知識や技術を、体系的に、実戦的に学び、全体のレベルアップを図る必要がある」としている。しかし、いくら教えても、もともとレベルアップが不可能な人もいる。そういう人はガイドに採用すべきではないとの考えもあるだろうが、ツアー登山には、単なるポーター役の人も必要なので、ツアー登山リーダーにふさわしくない者をスタッフに加えることも有り得るだろう。なお、ツアースタッフ全員がツアー登山リーダーにふさわしい者でなくてはならないと考えるならば、旅行業法を改定して、資格取得を義務付けるべきである。
松本が無能だとしても、登山客の中にも、適切な判断ができるものはいなかったのだろうか。ツアー客に、適切な判断をするべき法的義務はないだろうが、もし、適切な判断をしていれば、被害をもっと少なくすることができたはずで、残念である。無事生還を果たしたツアー客の中には「自分の行動は正しかった」との主張をを繰り返す者がいる。登山は自然を相手にするものなので、いついかなる場合に緊急事態が生じないとも限らない。このようなときには、登山者自身が正しい判断をして、危機を脱することができたほうが良いし、その気持ちが全くない者には、登山は危険である。『客は適切な判断などする必要はない』と思っている人には、登山は止めてほしい。
トムラウシ山遭難考―実況見分 ― 2010年07月27日
昨年7月に大雪山系トムラウシ山で中高年ツアー登山パーティーの大量遭難事故がありました。本日、生還登山客を含めた、実況見分が行われました。ツアー会社の刑事責任を明らかにして有罪に持ち込むことは、なかなか難しいと思われますが、ガイドだけではなく、ツアー会社(アミューズ社)の刑事責任を明らかにしてほしいものです。
これだけ大きな事故だったのだから、原因が1つと言うことはなく、ガイドや登山客だけではなくて、アミューズ社にも問題があったと思います。もっとも、『アミューズ社は完全に正しい、他が悪い、皆がアミューズ社と同じことをやっていいんだ』と、主張する人はいないようです。当たり前ですよね。
生還した登山客には、『登山客は完全に正しい、他が悪い、皆がトムラウシ遭難の登山客と同じことをやっていいんだ』と思えるような主張があって、不思議です。刑事責任、民事責任はともかく、トムラウシ遭難の登山客と同じような結末になることだけは絶対に避けるべきなので、そうしたの観点から、登山客に問題があったことは確かです。
ところで、登山シーズン真っ盛りですが、アミューズ社の高齢者ツアー登山も相変わらず盛況です。参加している高齢登山客は、アミューズ社には問題なかったと思っているのか、すでに対策がなされているので問題ないと思っているのか。
これだけ大きな事故だったのだから、原因が1つと言うことはなく、ガイドや登山客だけではなくて、アミューズ社にも問題があったと思います。もっとも、『アミューズ社は完全に正しい、他が悪い、皆がアミューズ社と同じことをやっていいんだ』と、主張する人はいないようです。当たり前ですよね。
生還した登山客には、『登山客は完全に正しい、他が悪い、皆がトムラウシ遭難の登山客と同じことをやっていいんだ』と思えるような主張があって、不思議です。刑事責任、民事責任はともかく、トムラウシ遭難の登山客と同じような結末になることだけは絶対に避けるべきなので、そうしたの観点から、登山客に問題があったことは確かです。
ところで、登山シーズン真っ盛りですが、アミューズ社の高齢者ツアー登山も相変わらず盛況です。参加している高齢登山客は、アミューズ社には問題なかったと思っているのか、すでに対策がなされているので問題ないと思っているのか。
トムラウシ山遭難考(21)-まとめ3 ― 2010年07月28日
2009年7月16日、トムラウシ山で高齢者ツアー登山の大量遭難事故があった。登山客15人、ツアースタッフ3人のパーティーのうち8人が低体温症で凍死した未曽有の大惨事だった。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。
報告書は、低体温症の症状を詳しく解説し、さらに当日の気象条件、パーティーの状況、遭難に至った経緯を検証している。また、遭難の検証に基づき、遭難防止のための提言を行っている。報告書によると、遭難の直接的原因は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフ(以下、スタッフ)の判断ミスによる「気象遭難」であり、このため、遭難防止のためには、ガイドの教育が必要であるとしている。この報告書は、手馴れた人が書いたようで、遭難事故の「経緯」「原因と分析」「対策提言」が、矛盾なく書かれている。
報告書の趣旨を大雑把に書くと次のようになる。
①遭難原因は低体温症である。
②当時の気象は気温5℃風速20m/secの悪天候であったが、この山系や北アルプスでは年に数回起こっている気象条件だった。
③低体温症に至った最大の要因は強風である。
④ガイドは天候を無視して出発し、強風であるにもかかわらず行動を中止せず、さらに強風のもとで登山客を長時間待たせた。
⑤このため、本遭難事故は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフの判断ミスによる「気象遭難」と言える。
⑥ガイドの教育・レベルアップが重要である。
①は正しいだろう。②は気象庁の過去の気象データなどを検討すると、正しいようだ。④は事故当時から報道されていることなので問題ないだろう。①~④が事実ならば、⑤の結論は当然であり、⑥も当然に正しい。
『低体温症に至った最大の要因は強風である』と言えるのだろうか。気温5℃風速20m/sは、気温5℃の中を時速72kmで走行しているバイクの寒さと同じなので、普通は低体温症など絶対にならない。これは、まともな着衣をしているからであって、たとえば全裸で寒い中バイクに乗ったら凍死するだろう。
強風と着衣の関係は本Blogで検討した。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2010/07/08/5205609 )
「低体温症に至った最大の要因を強風」とするのは誤りで、気象条件・着衣・体力技術力の複合要因で低体温症に至ったのである。しかし、報告書では、もっとも肝心な遭難者の着衣について検討されていない。
予想された寒さであるにもかかわらず、防寒具の所持をツアー会社が指示しなかったのだとすると、ツアー会社の過失かもしれない。また、体力不足・装備品の利用技術不足の登山客を漫然と募集したのだとしたならば、これも、ツアー会社の過失であり、応募したツアー客にも責任の一端があることになる。
報告書では、もっとも肝心な遭難者の着衣についてなにも検討されていない。もし、着衣について検討したならば、ツアー会社やツアー登山会全体の責任問題を指摘する必要が生じただろう。
報告書では遭難者の着衣や所持していた防寒衣料について検討されていない。検討できなかったために、『低体温症に至った最大の要因は強風である』との誤った結論を出して、『遭難事故は一義的にはリーダー・ガイドの判断ミス』との判断をして、ツアー会社の責任を和らげてしまったのだろうか。それとも、ツアー会社の責任追及をかわすために、事故責任をガイドに押し付けて、その結論を出すために、故意に遭難者の着衣の検討を欠落させたのだろうか。
以下、続きを後日書きます
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。
報告書は、低体温症の症状を詳しく解説し、さらに当日の気象条件、パーティーの状況、遭難に至った経緯を検証している。また、遭難の検証に基づき、遭難防止のための提言を行っている。報告書によると、遭難の直接的原因は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフ(以下、スタッフ)の判断ミスによる「気象遭難」であり、このため、遭難防止のためには、ガイドの教育が必要であるとしている。この報告書は、手馴れた人が書いたようで、遭難事故の「経緯」「原因と分析」「対策提言」が、矛盾なく書かれている。
報告書の趣旨を大雑把に書くと次のようになる。
①遭難原因は低体温症である。
②当時の気象は気温5℃風速20m/secの悪天候であったが、この山系や北アルプスでは年に数回起こっている気象条件だった。
③低体温症に至った最大の要因は強風である。
④ガイドは天候を無視して出発し、強風であるにもかかわらず行動を中止せず、さらに強風のもとで登山客を長時間待たせた。
⑤このため、本遭難事故は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフの判断ミスによる「気象遭難」と言える。
⑥ガイドの教育・レベルアップが重要である。
①は正しいだろう。②は気象庁の過去の気象データなどを検討すると、正しいようだ。④は事故当時から報道されていることなので問題ないだろう。①~④が事実ならば、⑤の結論は当然であり、⑥も当然に正しい。
『低体温症に至った最大の要因は強風である』と言えるのだろうか。気温5℃風速20m/sは、気温5℃の中を時速72kmで走行しているバイクの寒さと同じなので、普通は低体温症など絶対にならない。これは、まともな着衣をしているからであって、たとえば全裸で寒い中バイクに乗ったら凍死するだろう。
強風と着衣の関係は本Blogで検討した。(http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2010/07/08/5205609 )
「低体温症に至った最大の要因を強風」とするのは誤りで、気象条件・着衣・体力技術力の複合要因で低体温症に至ったのである。しかし、報告書では、もっとも肝心な遭難者の着衣について検討されていない。
予想された寒さであるにもかかわらず、防寒具の所持をツアー会社が指示しなかったのだとすると、ツアー会社の過失かもしれない。また、体力不足・装備品の利用技術不足の登山客を漫然と募集したのだとしたならば、これも、ツアー会社の過失であり、応募したツアー客にも責任の一端があることになる。
報告書では、もっとも肝心な遭難者の着衣についてなにも検討されていない。もし、着衣について検討したならば、ツアー会社やツアー登山会全体の責任問題を指摘する必要が生じただろう。
報告書では遭難者の着衣や所持していた防寒衣料について検討されていない。検討できなかったために、『低体温症に至った最大の要因は強風である』との誤った結論を出して、『遭難事故は一義的にはリーダー・ガイドの判断ミス』との判断をして、ツアー会社の責任を和らげてしまったのだろうか。それとも、ツアー会社の責任追及をかわすために、事故責任をガイドに押し付けて、その結論を出すために、故意に遭難者の着衣の検討を欠落させたのだろうか。
以下、続きを後日書きます
トムラウシ山遭難考(21)-まとめ4 ― 2010年07月29日
2009年7月16日、トムラウシ山で高齢者ツアー登山の大量遭難事故があった。登山客15人、ツアースタッフ3人のパーティーのうち8人が低体温症で凍死した未曽有の大惨事だった。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。
報告書では『本遭難事故は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフの判断ミスによる「気象遭難」と言えるだろう』としているが、実際には、気象条件だけではなく、着衣の状態や体力・登山技術が密接に関係している。報告書は「強風を最大の要因」としたため、ガイドの責任を強調し、ガイドの対応が考察の中心になっている。実際には、旅行会社・登山客の問題も考慮しなくてはならないが、報告書の考察では、これらは2次的である。
報告書には、旅行会社・登山客の問題が十分に検討されていないという問題はあるが、ガイドの問題は詳しく検討されている。
以下、報告書の記述を中心にガイドの対応と、遭難防止のためのガイド対策を考えてみたい。
1.天候判断
ガイドや添乗員は天候判断をして行動を決定する必要がある。悪天候で危険な場合は小屋やテントにとどまらなくてはならない。また、途中、行動不能な悪天候に見舞われた場合は、ビバークするなり、戻るなどして安全を確保しなくてはならない。
ここまでは、誰も異存はないだろう。しかし、こう言ったらどうだろうか。
『天候が悪いかどうかの基準はないので、結果的に遭難した場合は「ガイドは行動すべきではなかった」とガイドの責任を追及し、行動しなかった場合は「ガイドは行動すべきだった」と後からガイドを批判する。』
天候判断の基準を設けることなく『天候判断して行動を決定する』としたら、事故時の責任転嫁の言い逃れにしかならない。
天候判断は必要なので、行動を中止すべき天候の基準をマニュアル化すべきであり、ツアー登山事故をなくすためには、ツアー登山ガイド行動指針マニュアルを作成・整備しなくてはならない。
報告書では、風速20m/sを低体温症に至った主要因としている。もし、この報告書が正しいならば、安全を考えて、風速15m/s以上の場合、ツアー登山は行動してはならない。すなわち、ツアー登山ガイド行動指針マニュアルには、『風速15m/s以上の強風のときは行動してはならない』と明記する必要がある。
この記述がシニカルであると感じた人も多いでしょう。山で風速15m/s以上は珍しいことではないので、「風速15m/s以上の強風のときは行動してはならない」のならば、実質的にツアー登山禁止に近いことになります。
2.参加者の健康チェック
報告書には『ガイドや添乗員は参加者の体調や体力、精神状態などの詳しいチェックの必要がある』『日々のルーティンとして、参加者のコンディション(経験、体力、疲労度、体調など)をどれだけ把握していたか』と、参加者の健康チェックの必要性が説かれている。
口先の言葉では、この点に異存はないだろう。しかし『健康状態の詳細なチェック』とは具体的に何をするのか、報告書には書かれていない。そもそも、健康状態の詳細なチェックは医師による健康診断以外に不可能であり、医師以外のものが行うことは医師法により禁止されている。このため、参加者の健康チェックと言っても、ガイドにできることは、「具合の悪い人は申し出てください」と寝る前に参加者に言うぐらいのことしかできないと思うがどうだろう。いずれにしても、健康チェックとは具体的に何をすることなのかをマニュアルに記載しなければ、遭難防止の役に立たない。
3.体調不良者対応
報告書には、参加者の健康チェックの必要性が説かれているが、体調不良者が出た時の対応については、書かれていない。チェックしても何もしないならば、チェックの意味はないので、体調不良者対応方法を定めておく必要だある。もちろん、体調不良の内容は千差万別だろうから、現場の臨機応変対応も必要となるが、基本的なところはあらかじめマニュアル化する必要がある。
医師・薬剤師でなければ、医薬品を処方することはできないので、ガイドの対応については、法的側面を含めた検討が必要となる。ガイドの自己研鑚で出来ることではない。
4.低体温症発症時の対応
トムラウシ山遭難事故では北沼分岐で最初に低体温症を発症した時の対応が、被害を拡大した可能性がある。このため、どのような対応をするべきであるのかを明確にする必要がある。
報告書には、北沼分岐で一部の者がビバークしたことを「岩がゴロゴロした遮蔽物が何もない場所で、プロのガイドがビバーク・サイトとして選ぶ場所ではない(P30)」と批判しているようだが、他のものがビバークしなかったことは「すでに体力を非常に消耗していた北沼分岐においては、それ以上体力を消耗しないように、直ちにビバークすべきだったことになる(P70)」と批判している。全く矛盾した記述で、これでは類似事態が生じたときに、どうすればよいのか分からない。
低体温症の対応は、教科書的には次のようになっている。
「中程度の低体温症になった場合は、お湯を飲ませるとか着衣を増やすなどして体を温めることが必要だ。低体温症の人を急激に動かすと不整脈が起こって死に至ることがあるので、激しく動かしたり、手足をさすったり、自分で歩かせてはならない。」
北沼分岐で低体温症を発症したものが現れた時、添乗員の処置は、通常言われている低体温症の対処だった。
ところが、これが遭難拡大の原因になっているようなので、低体温症が起こった時の対処は考え直さなくてはならない。報告書には「低体温症の症状の出現、進行度に関しては、教科書を塗り替える必要があると思われた(P61)」とも書かれており、登山医学の重要な検討課題である。
5.ガイド自身の体調管理
報告書では「ガイドは業務に際して、決して参加者より先に消耗してはいけない」としている。一般論ではそういうことになるだろうが、顧客に歩行困難者が出たら、サポートをしなくてはならないので、ガイドは大きく消耗する可能性がある。トムラウシ山遭難ではロックガーデンで体調不良者があらわれ、最初は他の登山客がサポートしていたが、そのままではサポートしていた登山客が消耗してしまうので、その後、ガイド(添乗員)がサポートすることになった。責任感の強いガイドだったのだろう。一般に責任感の強い者は、自分自身を顧みることなく顧客の安全のために必死になってしまう傾向がある。
「ガイドは業務に際して、決して参加者より先に消耗してはいけない」とするならば、どのような場合に顧客のための行動を控えるべきなのか、特に、どのような場合に顧客を見殺しにするのか、マニュアルに明記する必要がある。
6.パーティの形成
報告書に以下の記述がある。
『リーダーはまず、自分の集団としてパーティを形成すべきである。まとまったパーティにできるか、〝にわか寄せ集めパーティ〟のまま進むかは、リーダー次第である。』
にわか寄せ集め爺さんの塊を、たちどころに、自分の集団としてパーティに形成出来る方法があるならば、ぜひとも教えていただきたいものだ。その技術を学校教育で生かすことができれば「荒れる学校」「非行少年」「無気力学生」の問題など、今すぐに完全に解決できる。
いずれにしても、業界で十分検討して、「自分の集団としてパーティを形成」するための方策をマニュアル化すべきである。
7.ガイドのスキルアップ
報告書に以下の記述がある。
『何を措いても、ツアー登山ガイドのスキルアップが喫緊の課題であると、ガイドおよびガイド組織全体で認識し、行動に移してもらいたいものである。』
『ガイド協会はツアー登山旅行会社や旅程管理者を所管する省庁、組織と協力して、そのカテゴリーに属するガイドの職能基準や安全管理基準について明確化し、研修や資格審査などの方法を検討すべきである。』
スキルアップやそのための研修が必要であるという主張は良いとしても、研修のためには研修のテキストが必要であり、そのためにも『ツアー登山ガイド行動指針マニュアル』の作成・整備が必要である。大自然を相手にするのだから、マニュアル通りにはゆかないとの主張もあるだろう。しかし、マニュアルに記載して、一律に守らせることもあり、ガイドの最低限の行動は、マニュアルで担保すべきである。マニュアル通りに行動すれば、最低限度の安全は確保できるようにしなくてはならない。
マニュアルで決められない事態への対処能力を身につけるために、ガイドは実地で経験をつもことが一番良いことであるが、低体温症で遭難した場合など、ほとんどのガイドは一生体験することはないだろう。それどころか、遭難経験を積んだガイドなど、あまり、いないものである。
このような事態に対する能力を養うためには、事例紹介マニュアルを作成する必要がある。
ツアー登山における遭難事故防止のためには、マニュアルの整備が必要であることを強調した。
以上で、『トムラウシ山遭難考のまとめ』を終了する。
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会よる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が、今年の3月初めに作成・公開されている(http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf) 。
報告書では『本遭難事故は、一義的にはリーダーをはじめガイド・スタッフの判断ミスによる「気象遭難」と言えるだろう』としているが、実際には、気象条件だけではなく、着衣の状態や体力・登山技術が密接に関係している。報告書は「強風を最大の要因」としたため、ガイドの責任を強調し、ガイドの対応が考察の中心になっている。実際には、旅行会社・登山客の問題も考慮しなくてはならないが、報告書の考察では、これらは2次的である。
報告書には、旅行会社・登山客の問題が十分に検討されていないという問題はあるが、ガイドの問題は詳しく検討されている。
以下、報告書の記述を中心にガイドの対応と、遭難防止のためのガイド対策を考えてみたい。
1.天候判断
ガイドや添乗員は天候判断をして行動を決定する必要がある。悪天候で危険な場合は小屋やテントにとどまらなくてはならない。また、途中、行動不能な悪天候に見舞われた場合は、ビバークするなり、戻るなどして安全を確保しなくてはならない。
ここまでは、誰も異存はないだろう。しかし、こう言ったらどうだろうか。
『天候が悪いかどうかの基準はないので、結果的に遭難した場合は「ガイドは行動すべきではなかった」とガイドの責任を追及し、行動しなかった場合は「ガイドは行動すべきだった」と後からガイドを批判する。』
天候判断の基準を設けることなく『天候判断して行動を決定する』としたら、事故時の責任転嫁の言い逃れにしかならない。
天候判断は必要なので、行動を中止すべき天候の基準をマニュアル化すべきであり、ツアー登山事故をなくすためには、ツアー登山ガイド行動指針マニュアルを作成・整備しなくてはならない。
報告書では、風速20m/sを低体温症に至った主要因としている。もし、この報告書が正しいならば、安全を考えて、風速15m/s以上の場合、ツアー登山は行動してはならない。すなわち、ツアー登山ガイド行動指針マニュアルには、『風速15m/s以上の強風のときは行動してはならない』と明記する必要がある。
この記述がシニカルであると感じた人も多いでしょう。山で風速15m/s以上は珍しいことではないので、「風速15m/s以上の強風のときは行動してはならない」のならば、実質的にツアー登山禁止に近いことになります。
2.参加者の健康チェック
報告書には『ガイドや添乗員は参加者の体調や体力、精神状態などの詳しいチェックの必要がある』『日々のルーティンとして、参加者のコンディション(経験、体力、疲労度、体調など)をどれだけ把握していたか』と、参加者の健康チェックの必要性が説かれている。
口先の言葉では、この点に異存はないだろう。しかし『健康状態の詳細なチェック』とは具体的に何をするのか、報告書には書かれていない。そもそも、健康状態の詳細なチェックは医師による健康診断以外に不可能であり、医師以外のものが行うことは医師法により禁止されている。このため、参加者の健康チェックと言っても、ガイドにできることは、「具合の悪い人は申し出てください」と寝る前に参加者に言うぐらいのことしかできないと思うがどうだろう。いずれにしても、健康チェックとは具体的に何をすることなのかをマニュアルに記載しなければ、遭難防止の役に立たない。
3.体調不良者対応
報告書には、参加者の健康チェックの必要性が説かれているが、体調不良者が出た時の対応については、書かれていない。チェックしても何もしないならば、チェックの意味はないので、体調不良者対応方法を定めておく必要だある。もちろん、体調不良の内容は千差万別だろうから、現場の臨機応変対応も必要となるが、基本的なところはあらかじめマニュアル化する必要がある。
医師・薬剤師でなければ、医薬品を処方することはできないので、ガイドの対応については、法的側面を含めた検討が必要となる。ガイドの自己研鑚で出来ることではない。
4.低体温症発症時の対応
トムラウシ山遭難事故では北沼分岐で最初に低体温症を発症した時の対応が、被害を拡大した可能性がある。このため、どのような対応をするべきであるのかを明確にする必要がある。
報告書には、北沼分岐で一部の者がビバークしたことを「岩がゴロゴロした遮蔽物が何もない場所で、プロのガイドがビバーク・サイトとして選ぶ場所ではない(P30)」と批判しているようだが、他のものがビバークしなかったことは「すでに体力を非常に消耗していた北沼分岐においては、それ以上体力を消耗しないように、直ちにビバークすべきだったことになる(P70)」と批判している。全く矛盾した記述で、これでは類似事態が生じたときに、どうすればよいのか分からない。
低体温症の対応は、教科書的には次のようになっている。
「中程度の低体温症になった場合は、お湯を飲ませるとか着衣を増やすなどして体を温めることが必要だ。低体温症の人を急激に動かすと不整脈が起こって死に至ることがあるので、激しく動かしたり、手足をさすったり、自分で歩かせてはならない。」
北沼分岐で低体温症を発症したものが現れた時、添乗員の処置は、通常言われている低体温症の対処だった。
ところが、これが遭難拡大の原因になっているようなので、低体温症が起こった時の対処は考え直さなくてはならない。報告書には「低体温症の症状の出現、進行度に関しては、教科書を塗り替える必要があると思われた(P61)」とも書かれており、登山医学の重要な検討課題である。
5.ガイド自身の体調管理
報告書では「ガイドは業務に際して、決して参加者より先に消耗してはいけない」としている。一般論ではそういうことになるだろうが、顧客に歩行困難者が出たら、サポートをしなくてはならないので、ガイドは大きく消耗する可能性がある。トムラウシ山遭難ではロックガーデンで体調不良者があらわれ、最初は他の登山客がサポートしていたが、そのままではサポートしていた登山客が消耗してしまうので、その後、ガイド(添乗員)がサポートすることになった。責任感の強いガイドだったのだろう。一般に責任感の強い者は、自分自身を顧みることなく顧客の安全のために必死になってしまう傾向がある。
「ガイドは業務に際して、決して参加者より先に消耗してはいけない」とするならば、どのような場合に顧客のための行動を控えるべきなのか、特に、どのような場合に顧客を見殺しにするのか、マニュアルに明記する必要がある。
6.パーティの形成
報告書に以下の記述がある。
『リーダーはまず、自分の集団としてパーティを形成すべきである。まとまったパーティにできるか、〝にわか寄せ集めパーティ〟のまま進むかは、リーダー次第である。』
にわか寄せ集め爺さんの塊を、たちどころに、自分の集団としてパーティに形成出来る方法があるならば、ぜひとも教えていただきたいものだ。その技術を学校教育で生かすことができれば「荒れる学校」「非行少年」「無気力学生」の問題など、今すぐに完全に解決できる。
いずれにしても、業界で十分検討して、「自分の集団としてパーティを形成」するための方策をマニュアル化すべきである。
7.ガイドのスキルアップ
報告書に以下の記述がある。
『何を措いても、ツアー登山ガイドのスキルアップが喫緊の課題であると、ガイドおよびガイド組織全体で認識し、行動に移してもらいたいものである。』
『ガイド協会はツアー登山旅行会社や旅程管理者を所管する省庁、組織と協力して、そのカテゴリーに属するガイドの職能基準や安全管理基準について明確化し、研修や資格審査などの方法を検討すべきである。』
スキルアップやそのための研修が必要であるという主張は良いとしても、研修のためには研修のテキストが必要であり、そのためにも『ツアー登山ガイド行動指針マニュアル』の作成・整備が必要である。大自然を相手にするのだから、マニュアル通りにはゆかないとの主張もあるだろう。しかし、マニュアルに記載して、一律に守らせることもあり、ガイドの最低限の行動は、マニュアルで担保すべきである。マニュアル通りに行動すれば、最低限度の安全は確保できるようにしなくてはならない。
マニュアルで決められない事態への対処能力を身につけるために、ガイドは実地で経験をつもことが一番良いことであるが、低体温症で遭難した場合など、ほとんどのガイドは一生体験することはないだろう。それどころか、遭難経験を積んだガイドなど、あまり、いないものである。
このような事態に対する能力を養うためには、事例紹介マニュアルを作成する必要がある。
ツアー登山における遭難事故防止のためには、マニュアルの整備が必要であることを強調した。
以上で、『トムラウシ山遭難考のまとめ』を終了する。