本の紹介 台湾海峡紛争と尖閣諸島問題2013年06月15日


『台湾海峡紛争と尖閣諸島問題: 米華相互防衛条約 参戦条項にみるアメリカ軍』 毛利一/著 (2013/3/25) 彩流社

 現在、日中韓の領土紛争となっている尖閣諸島は、日米安保条約の適用対象地であるので、軍事衝突が起こったら、直ちに米軍が参戦するかのような錯覚を持っている人がいる。実際にはどうなるのか。
 本書では、過去の類似の例として、1958年ごろの台湾海峡紛争と米華相互防衛条約の歴史を詳述し、当時、アメリカ軍は参戦せず、軍事援助と後方支援に終始した事実を指摘している。
 本書は、尖閣問題を解明するものではないが、過去の歴史を振り返ることは、現在の尖閣問題の対応を考える上で、参考になるだろう。

本の紹介 2冊2013年06月16日

特に勧めるわけではないけれど、一応書いておきます。
   
  
『百七通の軍事郵便』山口ひとえ/著  (2007/7/1) 文芸社
 

 
 著者の父親が太平洋戦争中の外地(マライ・フィリピン・南方・ビルマなど)から送った軍事郵便の文面を
そのまま記載している。昭和十六年から、昭和20年までであるが、最後に出された軍事郵便は昭和20年2月。そ
の後、戦線は厳しくなり敗戦にいたるわけだが、この期間の郵便はない。著者の父親は、復員したそうである
が、終戦後の復員なのか、終戦以前の復員なのかも書かれていない。
  
 南方戦線では、終戦後、連合国の俘虜となり、強制労働に従事したものも多い。ハーグ条約の規定では、戦争俘虜に
は、俘虜郵便を差し出す権利が与えられているが、連合国俘虜には条約上の俘虜の権利が与えられなかった場
合もある。さらに、俘虜郵便の代わりに、被武装解除軍人郵便を差し出したケースもある。
 本書は、終戦前の2月に終了しているため、このような話はない。
  
  
『突撃!貧乏ライター戦記 ルポ・メルトダウンから尖閣、生活保護まで』 岸川真/著 (2013/5/10) 宝島社
(宝島社新書)

  
 いろいろなことの取材記。もう少し対象を絞って、取材を重ねるなり、調査するなりして、もっとしっかり
したものにしたほうが良かったように思う。

本の紹介―山陰地方の歴史が語る 竹島問題2013年06月18日

 
『山陰地方の歴史が語る 竹島問題』杉原隆/著 (2010.9) 杉原隆・自費出版
 
 島根県のWeb竹島研究所に連載された「杉原通信」を書籍化したもの。内容はすべてインターネットに公開されている。
 著者は、高等学校の社会科教諭を務めたのち、平成17年に島根県が作ったWeb竹島問題研究所に参加した。現在、副所長を務める。
 
 本書は、純粋な研究成果・歴史解説ではなく、山陰地方の文書を中心に、竹島が日本の領土であることを広報するため、日本に都合のよい歴史・解釈がなされているようだ。しかし、嘘を書いているわけではないので、歴史理解の一助にはなる。なお、竹島が日本領であることを強く主張するものではない。
 本書は、30章に分かれ、おおむね時代に沿って、竹島関連の歴史が書かれているが、章分けが多いため、話が発散して読みにくい。広報誌に書いたときは、分量の関係から、細切れになるのは仕方がないが、書籍にするときは、編集しなおしたほうが良かったのではないか。写真はすべてモノクロ。Webで公開されているものはカラーなので、本を読むよりは、Webを見たほうが良いかもしれない。
 
 歴史には世界史的視点が必要であるが、本書では、山陰の歴史という狭い範囲でしか、歴史を考えられないためだろうか、著者独特の偏狭的記述がみられる。
 第4回では、1696年(元禄9年)に、幕府が、日本人の竹島渡海を禁止した件に関して、『大谷家由緒實記』の次の記述を紹介している。
 「安龍福、朴於屯を我々が連行したこと等で朝鮮国王が立腹しておられるので、幕府は竹島が日本領であることを証文をとって朝鮮国王に認めさせた上で、この島をしばらく朝鮮側にお預けになった。」
 歴史研究として、いくらなんでも、どうかと思う。『大谷家由緒實記』とは、要するに個人の日記のようなもので、こういう記述には、ホラ話が多く、歴史資料として盲信するわけにはいかない。幕府の渡海禁止命令は公文書が知られているのだから、信憑性が高い資料を参照すべきだ。そうすれば、「幕府は竹島が日本領であることを証文をとって」との記述が、史実なのか、漁民の無知によるホラ話なのかが、わかるだろう。
 
 安龍福に関連して、第9回(ネットでは第6回)にも、わけのわからないことを書いている。
 安が2度目に来日した時の様子を、『粛宗実録』では、竹島、松島で漁をしていた日本の漁師たちを追いかけながら来日したとある。これにたいして、著者は、「この年の初め、幕府が渡海を禁止し…た中で、5月に日本人が竹島、松島で漁をしていたことは考えられず」としている。禁止しているので、日本人が竹島、松島で漁をしていたとは考えられないとの意図だろう。これだけならばよいのだが、その直後に、「渡海禁止が命じられて以降の竹島渡海はどうなったでしょうか。…その後も熟知した海路を、竹島まではともかく松島(現在の竹島)あたりまで出漁した可能性はあります」としているのは、どうしたことだろう。その後も出漁した可能性があると考えるならば、これは、幕府が渡海を禁止後の出漁になる。
 安が2度目に来日した時には、出漁禁止後だったので出漁した可能性はないとしながら、その後の出漁禁止期間には出漁した可能性があるとするならば、自己矛盾ではないか。
 
 第16回(日露戦争と竹島)の記述は、この程度の人の記述なので、そう書くだろうと予想した通りのことを書いている。
 日本は、竹島を日露戦争のさなかに領有している。それより前の平和時には、周辺各国の思惑を考えて、領有を見送った経緯がある。尖閣もこれと同じで、平和時には領有を見送り、日清戦争勃発やむなしとの判断ができると、急遽領有している。
 では、竹島や、尖閣は戦争追行のために領有したのか。
 著者は、戦争とは無関係に、中井養三郎がアシカ漁をするために領有しかのごとき記述だ。その根拠として、領有したのが、バルチック艦隊出港以前であることを挙げているが、バカバカしくて話にならない。領土の領有は、国際政治への影響が大きいので、いろいろなことを総合的に判断するものだ。日本政府は、いくらなんでも、国際政治音痴の間抜けではないので、領有は総合的判断だっただろう。バルチック艦隊と無関係だとしても、日露戦争と無関係と単純に判断するのは、いくらなんでも、知恵がなさすぎだ。
 いい加減に歴史を書く人に共通している点として、自分に都合のよい原因をとりあげ、それ以外を捨て去ることにより、自分に都合のよいストーリーをでっちあげるが、こういう記述は読む価値がない。
 
 戦後の記述でも、おかしなことを書いている。
 
 第26回では「講和条約が成立すれば、それによって日本の領土処分が決まります。また占領が終了し、連合国最高司令官の覚書も終了します。そこで、竹島が最終的にどうなったかが問題です。・・・こうして、竹島は、従前どおり日本の領土であることが確定しました。」と書かれている。
 講和条約では、日本が放棄する領土が定められているので、それ以外は日本の領土であることが確定したとの考えだろう。このような考えが、日本で行われていたことは事実である。しかし、尖閣も竹島同様、日本が放棄した領土に含まれないが、米国は、尖閣が日本の領土であるとの見解を示していない。この本が出版された2010年には、このような米国見解は広く知られていたので、ちょっと賢い中学生ならば知っているはずだ。それにもかかわらず、単純に「竹島は、従前どおり日本の領土であることが確定しました」と臆面もなく書いてしまう神経は、いったいどうしたことだろう。
 
 第30回も、不正確な記述で、事実を覆い隠そうとしているように思える。
 少年が竹島は人間のものなのですか、と質問した話を紹介して、以下の記述をしている。
 「私はこの少年に教えてあげたいことがあると思うようになりました。国家とは何か、領土とは何か、国と人間の関係といったことです。国家は目に見えない漠然としたものに見えますが、人・国民を守り、領土・領域を保護し、主権・政府を維持しています。また、それぞれの国家は他の国家との関係を国際連合憲章等の国際法を順守することで維持し、国際社会の中に存在しています。たとえば、国際法には領土の取得に関するルールがあります。また、国連海洋法条約は、海に面した国は、その沿岸から12海里(1海里は1852メートル)の「領海」や200海里の範囲を排他的経済水域として、それぞれの国の権利が生じる水域と規定しています。」 
 不正確であり、かつ、国際政治の視点を書いた、偏狭な地域ナショナリズムとしか言いようがない。国連海洋法条約で、「200海里の範囲を排他的経済水域」としているというのは、嘘である。事実は、「排他的経済水域は200海里を超えることができない」のであって、各国の事情・周辺各国との調整により、排他的経済水域を設けないことや、狭めることには、何ら問題ない。
 竹島は日韓両国で領有権争いがある岩島であるので、排他的経済水域を決める基線から除外することも可能である。いずれにしても、一方の主張のみを押し通すのではなく、両国が平和的・外交的手段で、領土問題を解決することが、国際社会では必要なことだ。
 それにしても、まともな教育者の書くことなのかなー。

北海道はロシアの領土2013年06月20日

昨日(2013.6.19)、Другой Россииなる団体の青年たちが、モスクワの日本大使館前で抗議活動をしました。このときの動画が、YouTubeにあります。
http://www.youtube.com/watch?v=Px46qR-hSyI
 
また、モスクワの日本大使館前で、騒ぎを起こした団体のホームページです。
http://drugros.ru/
 
騒ぎの写真はこちら
http://drugros.ru/galeries/3498.html
 
北海道はロシアの領土って、言ってる。
http://drugros.ru/news/3497.html

毎時7マイクロシーベルト2013年06月22日

 
今日(2013.6.22)の朝日新聞一面トップは、チェルノブイリ原発。
『石棺内部にある4号機の制御室、手持ちの放射線測定器は毎時7マイクロシーベルトを指す』との一文がある。
 
 写真は、昨年5月に、浪江町津島の津島診療所庭で計測した放射線濃度、毎時7.5マイクロシーベルト。石棺内部にある4号機の制御室と同じ。
 今年の4月から、浪江町津島は一般立ち入りが禁止されています。

本の紹介 北方領土をとりもどす2013年06月23日

 
『日本固有の領土 北方領土をとりもどす 北方領土問題がわかるQ&A』 日本会議事業センター/編 明成社 (2013/03)
 
 56ページの薄い本。
 本の表題から、北方領土を取り戻す対策を示しているのかと思ったら、そういうことはなくて、日本に都合の良いことを一方的に主張するだけのもの。こんなことでは、国際社会を説得できないどころか、北方領土問題を学習したものにとっては、ばかばかしい、虚言に過ぎない。
 多くの記述では、この本を読むよりは、外務省が無料で配布しているパンフレット『われらの北方領土』を読んだほうが優れている。
 
 現在行われている北方領土返還運動の多くは、四島返還を主張するものであるが、現実の外交的解決はでは、100%日本の主張が満たされることはない。このため、北方領土返還要求は、日ソ国交回復以来、完全に膠着着状態に陥ってから55年がたっている。本書のように、一方的に日本に都合の良い勝手解釈で日本の正当性を主張しても、解決策がなければ、領土問題解決には、何の役にも立たないだろう。

本の紹介 『竹島/独島問題の平和的な解決をめざして』2013年06月28日


『竹島/独島問題の平和的な解決をめざして』子どもと教科書全国ネット21/著 (2010/12) つなん出版

 現在、竹島問題を学校教育で教えることになっているが、ほとんどの学校では、日本政府の主張のみを教えている。本書は、このような教育が果たして正しいのかとの観点から出発して、竹島問題をどのように教育するべきかと問題に主眼が置かれているようである。ただし、本書の内容は教育の方法論よりも、むしろ竹島問題の歴史的経緯や解決方法の提言にページ数を割いている。 ただし、81ページの薄い本なので、竹島問題の詳しい内容が書かれているものではない。

 竹島問題は、日韓両国の領土問題であるため、お互いの政府が自国に都合のよう主張を繰り広げているが、本書では、日本人と韓国人の研究者の解説を載せることにより、なるべく中立的立場での問題解明を試みているようで好感が持てる。もっとも、本書を執筆している人は、それぞれ自国政府の主張にとらわれることなく、中立的観点の人達なので、各執筆者の論が大きく異なっているわけではない。
 竹島の歴史的経緯は、池内敏教授の解説。池内教授の竹島研究は、まとまった本が出版されており、日韓どちらの主張にも偏ってはいない内容だが、記述には疑問点も多々ある。
 http://cccpcamera.asablo.jp/blog/2013/01/31/6707376
 本書の池内教授の執筆分も同様な疑問を感じる。

 領土問題は、一方の主張のみを教え込むことで解決するものではない。冷静に事実を考え、冷静な対処を図る上で、教育関係者はもとより、竹島問題に関心のある人には、一読の価値はあるだろう。

本の紹介 知られざる日露の二百年2013年06月30日


『知られざる日露の二百年』アレクセイ・A・キリチェンコ/著, 川村秀/編, 名越陽子/訳 (2013/3/6) 現代思潮新社

 著者は元KGB第二総局員で日本担当。第二総局はソ連国内で防諜・公安を担当する部署で、東西冷戦時代に日本大使館やソ連進出日本企業のスパイ活動や、犯罪行為を防止する役割が与えられていた。日本大使館などが重要なスパイ活動を行っていたり、重要な機密情報を扱っていたことは少ないので、KGB内における著者の役割は、大きなものではなかっただろう。なお、ソ連国外で活動する部署は第一総局であり、こちらには、きわめて有能な人材が充てられていた。

 著者は旧ソ連の資料に接する機会がある程度あったようで、そのような視点から書かれていると思える記述もあり、日ソ関係の歴史を解明する上で、一応の参考になる本だろう。しかし、資料に基づく記述なのか、単なる思い込みのよるものなのか判然とせず、本書の記述をそのまま事実と受け止めることは出来ない。
 ソ連崩壊後、多くのソ連人は生活に窮し、国外で職を得る人たちも多かった。ソ連の大学教授が日本の大学教授ポストを得て、年収が100倍以上になったケースも珍しくない。日本で仕事をしたい人は、日本での就職に都合の良いような就職活動を行うわけで、本書の著者もそのような視点で、日ソ関係史を書いているのではないかとも思える記述が多い。それから、もともと歴史研究者ではなく、特に日本の歴史にもソ連の歴史にも詳しいわけではないので、本書が正確な歴史を記述しているとは思えない。

 このような歴史研究上の他にも、常識で考えれば分かりそうな、いい加減な記述も、散見される。
   P74には、次の記述がある。ちょっと長いが、全文を掲載する。
朝鮮人の二度目の強制移住  内務人民委員部管理部長の三等人民委員G・S・リュシコフはとてつもない空想話を作り上げた。  彼はロシア秘密警察の重要人物N・I・エジョブにたいして、沿海州とアムール川流域における日本の活動基盤をなくさせるために、満洲と国境を接するソ連領土からすべての朝鮮人を中央アジアとカザフスタンへ即刻移住させるという天才的アイデアを持ち込んだのだ。これほどばかげた提案はないだろう。なぜなら朝鮮人は一九一〇年に日本に祖国を併合されたため、いうまでもなく日本を敵としていたからだ。しかしクレムリンは作り話を実話に変えることには抜きんでていた。日本人に侮辱された朝鮮人を遠ざけておけば安心だろうと考えたスターリンは、寛大にもこの提案を許可した。
   確かに、著者の言うとおり、朝鮮は日本に併合されたので、日本を敵と思い、日本に敵対した朝鮮人がいたことは間違いないが、日本に好意的で、日本の方針に協力することで自分の利益を図った朝鮮人がいたこともまた事実である。日本に協力的な朝鮮人を排除しようとするのは戦略として当然のことだ。

 P152の記述は、どうしたことだろう。著者は、ソ連・ロシアの標準的な歴史教科書を学んでいないのだろうか。それとも、知っていながら、日本人はどうせバカだろうからいい加減なことを書いても分からないだろうと思って、書いたのだろうか。
 戦争末期にソ連が日ソ中立条約を破棄して宣戦布告・参戦したことに、次のように書かれている。
ソ連(ロシア)の研究者たちは、この条約破棄を国際法的に合法であると証明しようとしている。しかし条約規定によりこの条約は一九四六年四月二十五日まであと一年間は有効であるという事実を彼らは完全に無視している。
 対日参戦時には、日ソ中立条約の残存期間だった。このため、ソ連は抜かりなく、米国から、参戦は国際法上合法であるとの公文書を得た後に参戦を決定している。また、国際法廷である極東国際軍事裁判所の判決でも、ソ連の参戦が国際法上合法であるとの判断が確定しているので、いまさら日本に都合の良いいい加減な主張をしても、日本で就職が有利になる以外に、何の効果もないだろう。日本では、米国公文書や裁判所の判決に注意する人はほとんどおらず、条約を日本に都合良い一方的解釈をすることが多いが、ソ連・ロシアでは、この問題については、連合国見解や国際司法判断など権威ある解釈を引用することが多いので、著者がこのことを知らないはずはないと思うのだが。よほど、勉強不足なのだろうか。

P157~P166に、「広島の子供たち」と「イワノフのコップ」の項がある。アルコールで放射能予防が出来るとの説明をしているが、このような考えは、今のところ都市伝説であり、考慮する意味は乏しく、歴史書には必要のない記述だろう。

 著者は、日本人シベリア抑留俘虜問題にかかわっていた経歴がある。このため、日本人捕虜問題の知識が多少あるのだろうかと思いきや、「第七章 ロシアにおける日本人捕虜」でいきなり、知識の浅薄さを白状するような記述があってがっかりした。
 日本の降伏文書調印(一九四五年九月二日)以前にスターリンは一九四五年六月二十六日付ポーツマス宣言第九項を著しく違反した。第九項では「日本軍は武装解除後、平和な労働生活をおくれるよう帰国を許可される」と述べられている。すべての戦勝国はこの項目を守り、武装解除後の日本軍捕虜を、戦争中に罪を犯した者を除き帰国させた。ソ連だけがポーツマス宣言第九項を無視した。五十二万人以上の旧日本軍人が欺隔的な方法〔トウキョウ・ダモイ(東京へ帰る)と偽った〕で一九四五年九月-十月に強制的にソ連領内に移送され、主にシベリアと極東に置かれたソ連内務省の軍事捕虜及び抑留者用管理総本部の収容所に入れられた。
 ずさんな知識だ。南方戦線で、イギリス軍は投降日本軍人を「被武装解除軍人」として、強制労働に使役している。戦争俘虜ではないので、ジュネーブ条約に定められた俘虜の権利も認められなかったため、旧日本軍人は、屈辱的な仕事(糞尿の処理)や屈辱的扱い(口をあけて英軍人の小便を飲む)をされたものもあった。ソ連は、日本軍人を俘虜として扱ったので、国際法に認められた労働をさせていたが、屈辱的扱いはされず、無料で郵便を出す権利や病気治療の権利などが認められていた。
 それにしても、著者は、イギリス占領地の「被武装解除軍人」を知らないのだろうか。
 著者は、日本人シベリア俘虜問題にかかわってきており、KGB資料の公表などに一定の役割を果たしてきた。このような著者の業績は評価すべきであるが、著者の記述を単純に事実と考えるわけにはいかないだろう。

 北方領土問題では興味ある記述がある(P208)。
北方領土返還に最も強く反対しているのは、矛盾しているようだが、日本の漁師たちだ。現在極東ロシア海域は四つもの(!)機関(国境警備隊、漁業委員会、漁業管理局、農業省)が管轄している。一方でロシアの密漁者たちは国境警備機関に「料金を支払って黙認」してもらい、勝手に海産物を捨て値で日本に供給している。他方日本の漁師たちのために千島の経済水域ではロシアの機関がだれも夢想だにしなかったような最恵国待遇をつくりあげた。そのため日本の漁師はこう考える。  「もしロシアが突然北方領土を返したらどうなるのか?目ざとい日本の機関が早速監督しだすだろう。税金だって取るだろうし、わいろは取り締まるだろう。日本の民族の誇りなどどうでもいいさ。領土などいらない。大事なのは魚とコンブがあればいいんだ」。
 こういう漁師がいることは否定できないが、多くの漁師は返還されて日本の海になったほうが漁業がしやすくなるので、返還を望んでいる。2島でも良いからすぐに返還して欲しいとの考えと、4島でなければだめだとの主張があるかもしれないが、返還に本気で反対している漁師は少ないだろう。
 著者自身が漁師の真意を調査したとは考えられないので、日本の誰かから、いい加減な入れ知恵を、精査することなく、単純に信じ込んでしまったのだろうか。


 本書の記述には、いろいろと問題点もあるが、日露関係史を研究する参考書のひとつとしての意義は多いにあるだろう。

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