トムラウシ山遭難考(19)―遭難の原因2010年07月15日

 2009年7月16日、北海道大雪山系トムラウシ山で、高齢者ツアー登山パーティーの大量遭難事故があった。事故原因について、各方面でいろいろと検討されている。

 本Blogでは遭難原因として考えられる要素には以下の3つがあることを指摘した。
   a)気象条件 b)不十分な着衣 c)登山技術の問題
 このうち、当時の気象条件は、この山域では珍しくない天候であったことが明らかになっているが、それ以外の、着衣や登山技術については、必ずしも明らかになっていない。

山と渓谷2010年2月号に、最初の遭難現場となった北沼周辺の様子について以下の記述がある。
北沼周辺  北沼からは水が溢れ出し、沢のようになっていた。川幅は約2mほどで、流れの真ん中に多田ガイドが立ち、渡る人をサポートした。
「ガイドさんの手を借りて渡らせてもらうのを、皆さん待っていた。それを待っていたのでは、いつになるかわからないし、ものすごく体が冷えるので、自分で流れの中にじゃぶじゃぶ入っていって渡ってしまった」(前田)
・・・
 その後、どうにか全員が流れを渡り終えたが、行動を再開しようとしたときにアクシデントが勃発する。女性客(68歳)が低体温症で動けなくなってしまったのだ。3人のガイドがその介抱にあたっている間、ほかの参加者は吹きさらしの場所でずっと待機させられていた。その間にほかの女性客(62歳)が嘔吐し、続けて意味不明の奇声を発し始めた。(山と渓谷2010年2月号P174)
 幅2mの流れを渡るのに、普通は5秒もあれば十分だろう。十数人が渡るのに、1~2分ぐらいか。ところが、証言者の前田さんは「待っていたのでは、いつになるかわからない」ため、自分で渡ったと言っている。なぜ、ここで時間がかかったのだろう。女子高生だったら、冷たい水に入った瞬間に「つめたーい、こんなのわたれないー、きゃー、たすけてー」と大騒ぎをして、可愛い子ぶって、周りの関心を誘おうとすることもあるだろうけれど。北沼の水は冷たかったはずで、渡渉に時間を費やして、水中に長時間いたら、低体温症になることもあるだろう。低体温症の発症は、わずか2mの流れの渡渉に時間を費やしたことと、関係がありそうだ。



 2010年2月27日に神戸で「トムラウシ遭難事故を考える シンポジウム」が開かれた。このなかで、日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構の青山千彰氏は、次の主張をしているが、待機中の健康管理は、メンバーの常識と思うが、そうではないとの考えもあるのだろうか。
トムラウシ事故後、参加者を評して「依存度が高過ぎる、最終的に自己責任が基本となる認識が不足していたのでは?」との声が良く聞かれた。しかし、この声は「低体温症の原因となった長時間の待機中、ガイドからの指示が全く出されなかった際も、自己責任で乗り切るべきであった」と言いたいのであろうか。主催者側に、あまりにも都合の良い論理のような気がする。(シンポジウム資料)
 登山は歩くものだけれど、休息することも、食事をすることもとある。停滞時には発熱が減り、若干寒くなる。こういう場合は、少し厚着をしたり、体操したりして寒さを防ぐ。登山でなくても、当たり前のことではないか。もし、防寒具はツアー側で用意することになっているならば、ガイドは休息・待機の時には防寒具を与えないといけないけれど、今回のツアー登山では防寒具はツアー客が持ってゆくことになっていたので、ツアー客は自分の防寒具を使用すべきだった。
 言葉ではこうなるのだけれど、待機中に寒ければ、誰だって服を着て、防寒すると思うのだけれど。どうして着なかったのでしょう。防寒着を持っていなかったのかなー。濡らして使えなかったのかなー。寒さに気付かないうちに低体温症になったのかなー。どうしても、このところが分からないのです。どなた様かご存知でしたら教えてください。
 ただし、この記述は良く読むと、非常に奇妙で重要な内容を含んでいる。風が強いところで待機する場合、普通の人は、身体が少し弱そうな人の風よけになるなど、他の人に多少の配慮をするだろうから、風の影響はそれほど大きくなかったはずである。長時間の待機が低体温症の原因ならば、風とはまた違った要因があったのだろうか。それとも、登山メンバーは極端に自己中心的だったために、身体が弱そうな人に配慮することがなかったのだろうか。


 それから細かいことであるが、同じシンポジウムで、船木上総(苫小牧東病院副院長)氏の低体温症に対する説明には、誤りがある。単なる、ミスライティングと思われるが、誤解のないように。
対流 
風がある場合⇒対流が生じる
 対流は温度差と空気の動く速度によってきまる
 熱の喪失量 風速の2乗に大体比例(シンポジウム資料)
 対流には、空気の流れが遅い層流と、空気の流れが速い乱流があるが、表面温度一定の場合、層流の熱の喪失は風速の1/3乗に比例し、乱流では0.8乗に比例する。人体の場合はたとえ裸体であっても皮下脂肪などの断熱材があるので、乱流伝熱であっても、せいぜい0.5乗程度だろう。

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